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魔王の場合


 そこは城だった。

 城壁を幾重も張り巡らせ、見る者を圧倒させる。



 ――だが、普通の城とは違う点が幾つか。



 一つはおとぎ話に出てくるようなキラキラしい純白の城ではなく、純黒の城だということ。

 もう一つは、ここには白馬に乗った王子さまではなく、恐ろしいドラゴンに乗った魔王さまが住んでいるということ。


 そんな世界の外れに図々しくもドカンと建てられている魔城の中は今、大混乱の渦となっていた。



「魔王さまはどこにおられる!」

「我々も捜しましたが執務室にはみえませんでした」

「談話室にも」

「あぁああ、この一大事に一体どこへ!」



 次々と部下の怪物たちの報告を聞くが、どれもこれも「おりません」。

 半狂乱になって鮮やかな紅髪を振り乱すこの城No.2に周りの怪物もオロオロする。


 ことの発端は数週間前。

 『魔王討伐隊』なるものが人間たちの間で結成され、この城に向かっているという情報がきたときだった。

 それを聞いた魔物たちは人間たちを血祭りに上げる気満々で、着々と準備をし始めた。


 が、魔王だけは違った。


 その情報を聞いても危機感を全く感じさせない無表情で「……そう」とだけ応えた魔王。

 城の誰もが、魔王の度胸を讃えた。あの方は人間ごときがどうにかなる相手ではない、と。


 だが今の状況はどうだ。

 あと少しで討伐隊が来るというのに、肝心な魔王が城のどこを捜しても見つからない。

 そのことに下っぱの魔物たちの間から、不安の声が上がる。



「魔王さま……もしかしてお逃げに」

「んなわけあるかぁああ! 絶対違う! きっと皆の士気を上げるために一人ハッスルしてらっしゃるんだ。もしくは灼熱のマグマで滝壺修行を」


(そんな魔王さまイヤだ……!)



 紅髪の側近が言う言葉にその場にいたほとんどの魔物が否定したとき、バサバサと羽ばたく音と共に魔物が舞い降りる。



「ドラゴン舎に魔王さまが書いたと思われるメモがありました!」

「読め!」

「はっ! 『前略チアンくんへ。

 いきなり消えたら皆がパニック状態に陥るのは目に見えてるので、このような手紙を残しました。

 さて、そろそろ人間の方々との決戦が近いようですが、黒竜が散歩に行きたいようなので辞退します。突然ごめんなさい』…………だ、そうです」


「魔王さまを捜せぇえええ!」



 手紙の宛名、チアンの心の底から吐き出された叫びは、城中に響き渡った。



 悲しいことに、今はいない魔王に届くことはないが。



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