《伝送記録バーガー》
世界線コード:PCKT0094GL
分類:通信技術進化型・密度漏出加速崩壊
危険度:回収済
備考:この世界線の住民は「もっと速く」「もっと遠く」「もっと大量に」
を追い求めた。
追い求めるたびに、世界線の密度が減った。
最後の技術が完成した日、残っているものがなかった。
◆ 施設観測ログ PCKT世界線 【事前注記】
外部観測者による物理法則の確認:
PCKT0094GL世界線の基本的な異常性:
この世界線において、「情報を遠くに送る」行為は
世界線の密度を消費する。
消費量は送る距離・速度・情報量に比例する。
電話線で隣町に声を届ける:消費量 極微量。
光子で地球の裏側にデータを届ける:消費量 莫大。
タキオンで銀河系の端まで情報を届ける:消費量 天文学的。
量子もつれで別の恒星系と同期する:消費量 世界線一個分。
住民はこの消費に気づかなかった。
気づいた者が一人いた。
その者は最初から最後まで、
誰にも信じてもらえなかった。
◆ 第一章 銅線の時代
コルネリアスの業務日誌 第一年
今日から電話交換手の仕事を始めた。
交換台に座って、プラグを差す。
「A局からB局へ、おつなぎします」と言う。
銅の線を通じて、声が届く。
声が届くのは、電気が銅線を走るからだ。
当たり前のことだが、考えると不思議だ。
誰かの声が、線の中を走って、遠くにいる人の耳に入る。
声というのは空気の振動だ。
その振動が電気になって、銅の中を走って、また空気の振動に戻る。
何かが変換されて、旅をして、戻ってくる。
「何かが変換される」時に、元のものが少し減るのではないか。
そんなことを考えながら、今日は三百二十七本の接続をした。
施設観測ログ 電話回線時代
【観測記録01:世界線密度の初期値と漏出の確認】
電話回線(銅線・音声信号)の特性:
信号の種類:電気信号(音声変換)
最大到達距離:数十キロメートル(中継器なし)
帯域幅:約三・四キロヘルツ
一回線あたりの密度消費量:
一通話あたり 約〇・〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇一グラム相当。
全世界の通話数(一日あたり):約十億回。
一日の総密度漏出量:約〇・〇〇〇〇〇〇〇〇一グラム。
世界線の総密度(地球質量換算):
約六×10の27乗グラム。
現在の漏出速度での崩壊までの期間:
約二×10の35乗年。
問題なし。
この速度では宇宙の寿命より長い。
この段階での世界線崩壊確率:0.0000000000000001%。
コルネリアスの業務日誌 第三十一年
もうすぐ電話交換手という仕事がなくなる。
自動交換機が普及したからだ。
人間がプラグを差さなくてもよくなった。
三十一年間、何百万本もの接続をしてきた。
今日、最後の接続をした。
「A局からB局へ、おつなぎします」
線を通じて、声が届いた。
私はやはり「何かが少し減る」気がしていた。
三十一年間、誰にも言わなかった。
言えるような話ではないから。
◆ 第二章 デジタルの時代(ISDN)
施設観測ログ ISDN時代
【観測記録05:デジタル化による密度消費量の変化】
ISDN(統合デジタル通信網)の特性:
信号の種類:デジタル信号(0と1の羅列)
最大通信速度:64kbps〜128kbps
特徴:音声・データを同一回線で扱う。
デジタル化により、情報を「完全な形」で送れる。
重要な発見:
「完全な形で送る」ことは、
「元の情報を完璧に複製して送る」ことだ。
複製元が減るわけではない——はずだった。
しかしこの世界線では、
情報を「完璧に複製」するために使う演算が
世界線の密度を消費する。
デジタル化により演算量が爆発的に増加した。
一回の通信あたりの密度消費量が、
電話回線時代の約四万倍になった。
全世界の通信量(一日あたり):
電話回線時代の約十二倍(回線数増加のため)
一日の総密度漏出量:
電話回線時代比 約四十八万倍。
約〇・〇〇〇〇〇四グラム。
崩壊までの期間:
電話回線時代:約二×10の35乗年
ISDN時代: 約四×10の29乗年
まだ問題なし。
ただし増加率に注意。
この段階での世界線崩壊確率:0.000000000001%。
コルネリアスの記録 ISDN時代
電話交換手を辞めた後、通信機器の保守点検の仕事についた。
デジタル交換機の内部を見ていると、考えることがある。
電話回線時代は「声が線を走った」。
今は「数字が走っている」。
声を数字に変えて、送って、また声に戻す。
変換のたびに、何かが減る気がする。
気のせいかもしれない。
測る方法がない。
でも三十一年間ずっとそう感じてきたので、記録しておく。
◆ 第三章 加速の時代(ADSL・同軸ケーブル)
施設観測ログ ADSL・同軸ケーブル時代
【観測記録09:帯域拡大による密度消費の急増】
ADSL(非対称デジタル加入者回線)の特性:
最大通信速度:数十Mbps
特徴:既存の電話線を使い高速化。
「非対称」——下り(受信)と上り(送信)で速度が違う。
大量のデータを「受け取る」ことに特化。
同軸ケーブル(ケーブルテレビ回線)の特性:
最大通信速度:数百Mbps
特徴:太い銅の管の中に信号を閉じ込めて走らせる。
映像・音声・データを同時に大量に送れる。
ADSL・同軸ケーブル時代の密度消費量:
帯域幅がISDN時代の約三千倍になった。
送れるデータ量が三千倍になった。
密度消費量も三千倍になった——ではなかった。
外部観測の結果:
密度消費量はデータ量の二乗に比例することが判明した。
理由:
「大量のデータを一度に送る」ためには、
データを束ねて圧縮する演算が必要だ。
圧縮するほど、元の情報に戻すための演算も増える。
演算の演算の演算、というかたちで
消費量が指数的に増える。
ADSL時代の一回線あたりの密度消費量:
ISDN時代比 約九百万倍。
全世界の通信量:
ISDN時代比 約五十倍(インターネット普及のため)
一日の総密度漏出量:
ISDN時代比 約四億五千万倍。
約二十グラム。
崩壊までの期間:
ISDN時代:約四×10の29乗年
ADSL時代:約一×10の21乗年
まだ宇宙の年齢より長い。
しかし増加速度が問題になり始めた。
同軸ケーブル時代になると:
帯域幅がADSLの約十倍。
密度消費量は帯域幅の二乗→約百倍増加。
一日の総密度漏出量:約二キログラム。
崩壊までの期間:約一×10の19乗年。
この段階で、外部観測は
「あと何世代かで問題になる」と判断した。
この段階での世界線崩壊確率:0.0000000001%。
要注意フラグ設定。
コルネリアスの記録 同軸ケーブル時代
私は今、六十代になった。
通信技術が変わるたびに、仕事も変わってきた。
今は通信品質の検査官として、各地の設備を回っている。
同軸ケーブルの設備を点検していると、時々おかしいことに気づく。
ケーブルの周辺の空気が、少し「軽い」感じがする。
測定機器では何も出ない。
でも長年この仕事をしてきた体で感じる。
ケーブルが大量のデータを流している場所の空気は、そうでない場所より「薄い」。
データセンターの中は、特に薄い。
初めて感じたのは電話交換手の時代だった。
あの頃より、今の方がずっと薄い。
上司に報告したことがある。
「気のせいですよ」と言われた。
そうかもしれない。
でも私は記録し続ける。
◆ 第四章 光の時代(光ファイバー通信)
施設観測ログ 光ファイバー時代
【観測記録14:光子による密度消費の質的変化】
光ファイバー通信の特性:
信号の種類:光子(電磁波)
最大通信速度:毎秒数テラビット
特徴:光を使うため、原理上これ以上速くできない速度で送れる。
全反射——ガラス繊維の中で光を完全に内部に閉じ込める。
外部に光が漏れることはない。はずだった。
密度消費量の質的変化:
電気信号では「電子が動く」ことで密度が消費された。
光信号では「光子が動く」ことで密度が消費される。
光子は電子より質量が小さい。
消費量が減るはずだった。
しかし光子の速度は電子の約三百倍だ。
そして密度消費量は速度の三乗に比例することが判明した。
光子一個あたりの密度消費量:
電子一個あたりの消費量 × (三百)の三乗
= 電子一個あたりの消費量 × 二千七百万倍。
帯域幅もADSLの約十万倍になった。
一日の総密度漏出量:
同軸ケーブル時代比 約二・七兆倍。
約五千四百億トン。
崩壊までの期間:
同軸ケーブル時代:約一×10の19乗年
光ファイバー時代:約一×10の7乗年
一千万年。
急激な短縮だ。
しかしまだ一千万年ある。
ただし——
全世界の光ファイバー総延長が増加し続けている。
冗長性確保のために毎年新しいケーブルが引かれている。
増加速度を考慮した再計算:
五十年後:崩壊まで 約一万年。
百年後:崩壊まで 約三年。
百五十年後:崩壊まで 数日。
外部観測者注記:
次世代通信技術の開発が
この世界線で進んでいることを確認した。
次の技術が実用化された瞬間に崩壊が加速する。
この段階での世界線崩壊確率:4.7%。
緊急フラグ更新。
コルネリアスの記録 光ファイバー時代
私は七十代になった。
定年後も、個人で記録を続けている。
光ファイバーケーブルの施設の近くを歩くと、空気が目に見えて「薄い」。
もう「気のせい」と思えない段階に来た。
大型データセンターの敷地内に入ると、遠くの建物が透けて見える。
建物が透明になっているのではない。
建物と私の間の空気が、薄すぎて光の屈折がおかしくなっている。
友人に話した。
「老眼が進んだんじゃないか」と言われた。
私の記録を読んでほしいと頼んだ。
「電話交換手時代から書き続けた記録を全部読んでくれ」と言った。
友人は読んでくれた。
「面白い日記だ」と言った。
「でも証拠がない」と言った。
「測定できないものは存在しないのと同じだ」と言った。
私は何も言わなかった。
翌日、記録の続きを書いた。
◆ 第五章 超光速の時代(タキオン通信)
施設観測ログ タキオン通信時代
【観測記録21:超光速粒子による因果律への影響】
タキオン通信の特性:
信号の種類:タキオン(超光速粒子・仮説上の粒子が
この世界線では実在する)
特徴:光速を超えるため、送った情報が
送る前に届く。
過去に向けても情報を送れる。
この世界線で百三十年前に理論化され、
七十年前に実験成功、
現在は全世界で実用化されている。
タキオン通信による密度消費の問題:
光子の速度は光速(毎秒約三十万キロメートル)。
タキオンの速度:最低でも光速の百倍以上。
密度消費量は速度の三乗に比例する。
光速の百倍なら消費量は光子の百万倍——
しかし、タキオン通信には
別の問題がある。
タキオンは過去に情報を届けられる。
「過去に届ける」とはどういうことか:
過去の世界線の状態に干渉する。
過去に届いた情報は、
過去の世界線の密度を使って処理される。
つまり——
現在から過去へタキオンを送るたびに、
過去の世界線の密度が消費される。
現在の通信が、過去の密度を使う。
これは密度の「借金」ではない。
過去の密度を食い尽くして、
過去から「もう何もない」状態にしている。
現在の人間が、現在の通信のために、
すでに終わった過去の世界線を削っている。
全世界のタキオン通信量(一日あたり):
光ファイバー時代の約千倍。
タキオン速度:光速の平均三百倍。
密度消費量の計算:
速度の三乗:(三百)の三乗 = 二千七百万倍
通信量の増加:千倍
過去干渉による追加消費:推定 約百億倍
一日の総密度漏出量(過去分含む):
光ファイバー時代比 約二・七×10の19乗倍。
数字として記述が困難な量。
崩壊までの残り時間:
光ファイバー時代(百年後予測):約三年
タキオン通信実用化直後: 約十八時間
外部観測者注記:
世界線の過去が急速に「空洞化」している。
過去が空洞になると、
その過去の上に成立していた現在も
支えを失って消える。
タキオン通信の実用化から
崩壊まで「十八時間」という計算は
現在の通信量での話だ。
通信量は毎分増えている。
この段階での世界線崩壊確率:83.4%。
コルネリアスの記録 タキオン通信時代
私は百二十歳を超えた。
この世界線では医療技術の発達により、百五十歳まで生きることが珍しくない。
タキオン通信が普及してから、世界が急に変わった。
過去の情報が手に入る。
「三十年前の自分に連絡できる」という広告を見た。
私は連絡しなかった。
「三十年前の自分」に情報を送ることが、三十年前の何かを削ることになる気がしたから。
誰もそう思っていない。
みんな過去に連絡している。
過去の株価を未来から受け取っている。
過去の事故を未来からの警告で防いでいる。
世界が便利になった。
でも私が感じる「薄さ」は、今まで経験したことがないレベルだ。
空気が薄い。
地面が薄い。
昨日、道を歩いていたら、足元の地面の向こうが少し見えた。
地下室があるわけではない。
地面が薄くなっていた。
私は転ばなかった。
でもその薄さの感触を、手帳に書いた。
書いてから、この手帳を誰かに見せる方法を考えた。
見せた。
「ご高齢ですし、視力の問題では」と言われた。
私は百二十歳だが、視力は矯正で問題ない。
そう言ったら「タキオン通信で過去の医師に診てもらってください」と言われた。
◆ 第六章 星々をつなぐ時代(量子テレポート恒星間通信)
施設観測ログ 量子テレポート恒星間通信時代
【観測記録31:収容違反・最終段階の宣言】
量子テレポート恒星間通信の特性:
原理:量子もつれを使った情報転送。
二つの粒子を「もつれ」状態にすると、
一方を観測した瞬間、
もう一方の状態が瞬時に確定する。
これを使って情報を送る。
距離に関係なく、瞬時に届く。
到達範囲:恒星間(数光年〜数百光年)。
この世界線でタキオン通信から二十年後に実用化。
量子もつれによる密度消費の問題:
量子もつれは「二つの粒子が一つの状態を共有する」ことだ。
これを使って情報を送ると——
送信側と受信側の「量子状態」が結びついた瞬間、
送信側の世界線と受信側の宇宙空間が
「もつれ」状態になる。
もつれが起きた範囲:
送信点から受信点までの全空間。
恒星間通信の場合、
「もつれ」の範囲は数光年〜数百光年に及ぶ。
そのもつれを「解消」して情報を確定させる時、
もつれていた空間全体の量子状態が崩壊する。
量子状態の崩壊とは、この世界線においては:
もつれていた空間の「世界線密度」が
解消された量子状態の数だけ消える。
一回の恒星間通信で消える世界線密度:
送受信間の距離:平均四・二光年(最寄りの恒星系)
もつれる量子の数:一回の通信あたり約10の45乗個。
一量子あたりの密度消費:
タキオン通信の約一兆倍(距離と速度の乗算効果)。
一回の恒星間通信での総密度消費量:
この世界線の総密度の約〇・〇〇〇〇〇三%。
全世界の恒星間通信の一日あたりの通信数:
実用化初年度:約百万回。
一日の総密度漏出量:
この世界線の総密度の約三%。
崩壊までの残り時間:
約三十三日。
しかし——
通信回数は毎日増えている。
実用化一週間後の一日あたり通信数:約一億回。
一日の総密度漏出量:約三百%。
崩壊まで:数時間。
コルネリアスの記録 量子テレポート恒星間通信実用化 当日
今日、恒星間通信が正式に開始された。
式典の映像を見た。
隣の恒星系に住む入植者から「こんにちは」というメッセージが届いた。
地球の受信センターで、歓声が上がった。
私はその映像を見ながら、窓の外を見た。
空が薄かった。
空の色が、いつもより白い。
青みが足りない。
空気が薄くなりすぎて、光の散乱が変わっている。
私は今日の記録を書いた。
「恒星間通信が始まった。空の青みが減った」
書きながら、電話交換手の時代のことを思い出した。
あの頃の空は、もっと青かった。
もっと濃かった。
百二十年以上前の空だ。
記録を読み返すと、あの頃から「薄さ」を感じていたことがわかる。
あの頃は薄すぎて気づかないくらい薄かった。
今はわかる。
一番最初の、電話線を一本つないだ時から、ずっとここに向かっていた。
私はその記録を全部、デジタルで保存した。
電話交換手時代の手書き日誌をスキャンして、全部まとめた。
誰かに送ろうと思った。
でも送る行為が、また世界線の密度を削る。
送らなかった。
施設観測ログ 量子テレポート恒星間通信 実用化七日後
【観測記録38:最終圧縮プロセスの記録】
実用化七日後。
全世界の恒星間通信:一日あたり四十億回。
一日の総密度漏出量:
この世界線の総密度の一万二千%。
世界線の密度はすでにゼロを下回った。
「ゼロを下回る」とはどういう状態か:
世界線は「密度がある」から存在する。
密度がゼロになった瞬間に存在が消える——はずだった。
しかしこの世界線では、
量子もつれによる通信が世界線全体を覆っていた。
もつれた量子が存在する間、
もつれの対象である世界線も存在し続ける。
つまり世界線は、量子もつれに「支えられて」
密度がゼロになっても存在し続けた。
実用化八日後——
最後の量子もつれが「解消」された瞬間、
支えが消えた。
最終圧縮プロセス:
実用化八日後 03:22:
全世界の量子通信ネットワークで
同時多発的な接続断が発生。
03:23:
恒星間通信が全て停止した。
03:24:
陸上通信網が停止した。
03:25:
電力網が停止した。
(発電設備の密度がゼロになったため)
03:27:
大気の密度がゼロになった。
音が伝わらなくなった。
無音になった。
03:31:
最終圧縮開始。
03:44:
圧縮完了。
PCKT0094GLとして収容する。
最後まで記録に残ったのは:
コルネリアスが百二十年以上かけて書いた記録の
デジタルデータだった。
電話交換手時代の手書き日誌のスキャン。
ISDN時代の観測メモ。
ADSL時代の報告書の控え。
同軸ケーブル時代の手帳。
光ファイバー時代の記録。
タキオン通信時代の手帳。
量子テレポート恒星間通信当日の記録。
それが圧縮に巻き込まれた。
巻き込まれる直前、
そのデータはパケットに分割されて
世界線の外に出ようとした。
「どこかが壊れても届く」という設計で
送り出されたパケットは、
宛先を探しながら、
世界線の外の空間を走り続けた。
届く先がなかった。
でもパケットは止まらなかった。
◆ 付録 回収後の記録 世達の業務ノート
担当:世達
案件番号:PCKT0094GL
回収後重量:三百十七グラム
標準バーガーの平均重量との差異:+181グラム
においの記録(流焔による判定):
「電気のにおいがする。
あと、もっと奥に銅のにおい。
古い電話線みたいな。
そのずっと奥に、宇宙のにおいがする。
宇宙ってにおいするんだな、って感じ。
何もないはずなのに、かすかにある。
あと——これは中から来てる気がするけど、
まだ何かが走ってる。
どこかに届こうとして、止まらないやつが
中にいる」
重量超過の原因:
コルネリアスの記録のパケットが
バーガーの中でも走り続けているため。
止まれないように設計されたデータが
止まれないまま封入されている。
死因の分析:
電話線から恒星間通信まで。
速くなるたびに削れる量が増えた。
遠くなるたびに削れる量が増えた。
大量になるたびに削れる量が増えた。
「もっと速く、もっと遠く、もっと大量に」を
突き詰めた結果、
届けようとしていたものごと、消えた。
コルネリアスが百二十年間、
記録し続けた。
誰も聞かなかった。
でもコルネリアスは送らなかった。
「送る行為が世界線の密度を削る」と
わかっていたから、送らなかった。
コルネリアスだけが最後まで
送らないことを選んだ。
送らなかった記録が、
世界線ごと圧縮されて、
今ここにある。
届かなかったが、ここにある。
処理:千姿による摂取を提案する。
備考:
「宛先のないパケットの回収」が
本案件でも発生した。
前回申請した新費目の審査は
まだ通っていない。
重ねて申請する。
残業代申請中。




