4-07.学院パーティ編成・4回目
第九週の頭、4回目の学院パーティ編成発表日。
「話はゴートから聞いている。ラッド、貴様をリーダーと認める」
14号パーティの今回のお客様はドゥーレン・リメル、もしゃっとしたもみあげが特徴の少年である。
アクヤ領のほど近くに領地を持つリメル男爵家の三男で、3回目で組んだゴートと同じ官吏科で学んでいる。
内政官になるためだそうだ。
「しょせんは三男だ。家で持っている従士爵くらいは貰えるかもしれんが、それも卒院すればの話。このパーティでは指示に従うさ」
「自分、学がないからよくわからんだのが、口調はこれでいいのか?」
「持って回った言い回しで探索者ができるのかよ。指示命令は直際に、だ。貴様の普段通りの口調で構わん」
ちなみにドゥーレンの言う「貴様」は、「俺と貴様の仲ではないか」程度の親愛表現二人称。
さすがに敬語ではないが、見下しや敵対的なニュアンスはない。
今回はヤヴァイ級のモンスターハウスに遭遇することもなく、転生三人組にとっては平穏ないつもの1泊2日狩りとなった。
ユイやクリス、マリエルも慣れつつあるが、初体験のドゥーレンは疲労困憊を隠せない。
「無理だ。1回2回で盗める技術じゃない。下手に真似ても大けがか死ぬ」
「ヴィオラさんとジュスティーヌ様も似たようなことを言ってましたねえ?」
ユイちゃんは、おバカの子ではないのです。
記憶力もいいほうの、素直ないい子なのです。
パーティの反省会では、あの時の動きはどういう意味があったのかとか、マップを広げてどうしてこっちではなくこっちの経路で進んだのだとか。
貪欲に質問をくりかえすドゥーレン少年に、他メンバーはいささか閉口気味になってしまう。
日がだいぶ傾き、寮で食事ができなくなると、ラッドがリーダー権限で打ち切りを宣言。
将来、リメル家に仕官する気になったときは俺に言えとの社交辞令を残して去った後、誰からともなく息が漏れた。
ドゥーレンの人品が悪いわけではない。
むしろれっきとした貴族家の子にもかかわらず、ざっくばらんで付き合いやすい男だった。
ただただ、熱意というか勢いに気疲れしたのだ。
ユイいわく。
「いかつい人でしたけど、意外に紳士でしたよ?」
10~11歳でいかついと言われてしまう、もみあげの自己主張の強さよ。
☆
今回の狩りで、ユイとセバスの霊格レベルがあがった。
ユイが参加したのは学院パーティの初回、中休みの2泊3日狩り、3回目、4回目。
それぞれでユイが倒した魔物の数は、推計で約30+200強+130強+100強。
「レベル1から2に上がるのに必要な霊格量、コウモリ500匹分くらいぽいな」
「だとすると、クリスとマリエルも次か、その次で上がるか」
クリスとマリエルは2回目、3回目、4回目に参加。
いずれでも本気の1泊2日狩りをこなし、推計330強の魔物を倒している。
「自分たちは推定1000匹。単純に倍。デバフ率5割かあ」
倒した魔物から得る霊格は、例えば距離が近い方が吸収量が多いのでは等の条件、もしくは個人差があるのではとも言われている。
転生三人組はこの個人差、誤差をデバフの言い訳にするつもりだったのだが。
「ダブルスコアを誤差とは言えないよなあ」
同じメンバーで狩りをしていれば、明らかにレベルの上りがおかしいことがバレてしまう。
かといって、じゃあメンバーを追放してまで隠すことかとなると、それも違うんじゃないかと。
「悩ましい……」
☆
第十週・闇の曜日のクラス反省会の冒頭、講師たちから今期1年次で死亡事案が発生したことを告げられた。
場所は第一層のかなり奥より。
死亡したのは騎士科1人、探索科2人。
拠点キャンプ場を目指して移動中だった高年次パーティがコウモリの群れに遭遇。
幹線なのに尋常じゃないと周辺を索敵し、個別の遺体を発見。
学院章が確認できたため、予定をキャンセルし遺体を回収して撤退。
大量のコウモリと遭遇し、いわゆる引きずり行為を起こしながら逃げたと考えられる。
「全身をかき裂かれ、ついばまれてのショック死、あるいは出血死と判断された」
なお他3人のメンバーはこの日、「拠点まで行くとは聞いていない」「日帰りの予定だったので準備もない」と、途中でパーティ活動を打ち切って帰還している。
事情聴取の結果、事件性は否定された。
わざと死地に追いやったわけでも、意見を言わなかったわけでもないからだ。
また、これとは別に、秋季を通して探索科で3人の行方不明者が出ていると知らされる。
「来週・再来週は季末休業で、このクラスにもダンジョンアタックを計画していた者がいると思う」
「繰り返しになるが、ダンジョンは甘くない。今一度、心に刻んでおくことだ」
衝撃のニュースに、各パーティの事例報告や反省はいまいち盛り上がらなかった。
うすうす噂もあった行方不明者はともかく、死亡事案の原因はいくつか考えられるが、話が発展しない。
生き残りを責めるのは筋違いだし、死者に鞭うつのもなという空気。
「ケイブバットごときでも、数に襲われれば対処できないのか」
「それは前回報告されてたろ。聞いてなかったのか」
大空洞に大量のコウモリがたまっていたという話は、前回ラッドが報告済みだ。
拠点キャンプ場まで進出しての1泊狩りの成功事例も、各科で報告されている。
今回の事案にも、少なからぬ影響を与えているとは考えられてしまう。
転生三人組にクラス内から視線が集まった。
「微妙に居心地が悪い」
「あ、すまん。責めてるわけじゃないんだ……」
予定時間を大幅に残し、反省会は終了した。
☆
死亡事案の発生は、当事者の在籍していた騎士科でも告知され、強い衝撃をもたらした。
「突然すいません。相談……話をお願いします」
「ジュスティーヌ様?」
探索科寮の食堂の片隅、いつものテーブルでお茶をすすりながら事案を消化中だった転生三人組は、思いつめた表情のジュスティーヌに声をかけられた。
いつもセットのヴィオラは、まだ魔術科の反省会が終わっていないそうだ。
あるいは、死者の出ていない魔術科だからこそ活発な議論になっているのかもしれない。
三人が食堂に居たのは、昼過ぎに固定メンバーで休業中の予定を話し合うため。
「とりあえず席にどうぞ。お茶はいまご用意いたしますので」
「すいません」
シリアルバー(チョコ味)はクリスたちの深読み事例があったので控え、安定と実績の手羽先をお茶うけに。
「あ、これ美味しいですよね~。買いたいのに、どこにも見当たらないんです」
「まあ、そういうものだからな」
手羽先効果か、一拍置いたことが良かったのか、相談を打ち明ける。
故人は普段の言動からも強引で独善の気があり、かつ、必要な状況判断力や対応力が足りていなかったことが原因なのは明白。
以前、分配の件など強引なパーティ運営に疑問符をつけられたジャークスも、顔を青ざめてうつむいてしまったという。
だが、これらの批判はすべてジュスティーヌ自身にも跳ね返る。
自分はいつになったら拠点宿泊狩りを問題なくこなすことができるのだろうか、と。
「そういうことであれば、僕たちよりも経験者の話を聞くべきかと」
「聞ける相手には聞きました」
騎士科内の講座で同席した際や、寮でも同室者や食事時など機会があれば。
だが、ジュスティーヌが先輩方から引き出せた情報は乏しい。
第一層で経験を積め。
第二層からは日帰りではなく、最低でも1泊狩り。
固定パーティで、2泊3日なりの日程を組んで、レベル2以降の早い段階で、入念な準備をし、ときには逃げる勇気。
「貴族の悪癖というのでしょうか。本当に大切な情報は、なかなか教えていただけないのです」
「そうだな。今聞いただけでも、そもそもの第一層でのレベル上げにまったく触れられていないな」
「……はい。経験で身につけるものだ、としか」
転生三人組が異常なのだが、自覚がないので質が悪い。
学院パーティ編成で気の合うメンバーを探し、パーティ運営の経験、ダンジョン奥へ踏み込めるだけの力とノウハウを身につける。
2年次に入る前後に、集めたメンバーとともに拠点キャンプ場での宿泊を前提とした狩りを行えるようになる。
それが本来の姿、段取りなのだ。
地道な段階を踏む過程で知識を集め経験によって身につけるノウハウ、判断基準、気配察知などがキモなので、口頭でいくら教えたところでできるものではない。
先輩方はそれを理解しているので、意地悪でも何でもなく、経験を積めとしか言いようがない。
狩りの方法論や類型に関しては、遠出狩りに拠点1泊狩りと、それ完成形だよね?というものをジュスティーヌ自身が口にしている。
なにを教えろというのか、となる。
ぶっちゃけ、下積み部分をぜーんぶすっ飛ばして、1年次の冒頭で転生三人組の狩りを体験してしまったのが、ジュスティーヌやマックスたちの不幸かもしれない。
「うーん。僕の兄も騎士科ですので、踏み込んだ生の声を聞くというのはどうでしょうか」
「ええ……はい。そうですね。よろしくお願いします」
季末休業はじめの帰省時にベンジャミン兄さんにアポイントメントを取り、火の曜日にジュスティーヌに連絡ということにした。




