3-08.あちこち情報交換
探索科をはじめとするいくつかの科や特定のカリキュラム履修者は、卒院要件として一定の霊格レベルに達することが求められる。
そのための手段として学院生たちはダンジョンに潜り、数多の失敗の上にあみだされたのが学院パーティという制度になる。
特に1年次では出会いの機会創出を意図したランダムくじ引きベースの編成が行われ、メンバー相互の理解を強制的に促す。
明言はされていないが、各人の持つ情報、認識のズレを補正させあうことも目的に入っているのだろう。
学院に在籍できた時点で、ある程度の教養を修めたいわば上澄み層とはいえ、事前の準備や出身に拠る予備知識の多寡はどうしてもある。
「いい時間だし、今日のところはこれで解散にしないか?」
「そうね。根を詰めてもいいことないだろうし、ユイにも消化の時間をあげないと」
「あぅあぅ」
ユイちゃんはおバカの子ではないのです。
ただちょっと、状況と情報に流されていっぱいいっぱいなだけなのです。
ラッドたち14号パーティの初顔合わせでは、初回ならではの問題があらわになったこともあり、具体的なダンジョン・アタックに関する打ち合わせまでは行えなかった。
脱線のせいとも言い切れない。
むしろ、特定の一名を心情的にほぐすためにあえて脱線させたとも言える。
翌日に、また打ち合わせを約束して解散した。
☆
時計があれば午後4時ころ。
日の出・日の入りを基準に生活が組み立てられている社会で、秋季の夕飯と言えばこのくらいの時間になる。
探索科寮の食堂で、オルガは怒りの咆哮をあげていた。
「『なんだ男か』ってよぉ、悪いか男で! 俺は花の名前じゃなくて組織指導者でオルガなんだっつーのよ!」
「お、そうだったのか。いじらなくてよかったー」
「いやさ、人様の名前をバカにするって、それ一番やっちゃあいけないことだろ」
常にあけすけな物言いの、裏を返せば裏のない兄貴肌ゆえか、オルガの周りには入寮以降に親しくなった友人たちが席を取っている。
「騎士科がそんなに偉いのか!」
「そうだそうだー」
「あいつらリーダー面してうざいんだよな」
他科への悪口に賛同、便乗する周囲が気勢をあげる。
騎士科は、いわば士官教育を行い、リーダーになるための人材を育成する場。
戦闘系のギフトを得た、出自の上でも自意識の上でも、人の上に立つことを当然と思う者が多く集う場だ。
そして、強さは偉さ。
シンプルな理屈はシンプルな故にシンプルに納得しやすい。
探索科と比べてしまうと、騎士科在籍者の毛並みといいますかご出身が、一般論として少々ハイグレードよりなわけでして。
だからこそ、探索科生としては面白くないという背景もある。
「やーい、ハズレひいてんでやんの」
「だっせーぜオルガ」
筋肉質のアズクルと特徴のないグラムはオルガの肩をたたきながらゲラゲラ笑った。
「名前擦られた程度でキレてるようじゃあ、ビッグな男になれないぜ」
「うちの騎士様はまだ騎士じゃないけど、俺っちのようなバカでもバカにしないできたお方だったぞ」
「んだこらぁ、いくらおめぇらでも容赦しねーぞ」
一緒にやると決めているなら、編成箱に入れる名前札をひもでまとめること。
事前説明を聞き逃し、見事に三人ばらけたオルガたちは、それぞれのパーティであんなことあったこんなことあったと、どつきあいながら情報交換が成立している。
いやむしろ、出会いと経験を考えるならば、コネコネ・ツテツテいうのならば、転生組こそばらけるべきだった?
やるなら初回でもある今回でしたが、クソみたいなパーティでクソみたいな目にあうのは御免ということで却下されています。
注意が必要な人物の噂は、今日のオルガの叫びのように勝手に耳に入ってくるだろうという判断である。
「うちは、見えている地雷だったな」
「『父親は貴族』で『平民落ち確定』って言ってる娘さんで『護衛兼監視付き』だぜ」
「本人はいたって善良そうだし、順当に育てば、美人になるんじゃないかなあ」
テーブルに両肘をつき、ゲンドウポーズを決めるセバス。
「ほほう、お試しで組む分には問題ないんだな?」
「おっぱいソムリエ様のお言葉だぞ、将来のおっぱい美人は確定とみていいぞ」
「おっぱい美人……だが地雷……」
ざわっ……ざわっ……。
探索科にも女子はいる。
だが、圧倒的多数を占める男子にとって、おっぱいの話題は避けられない吸引力を発揮する。
探索科寮、夕べの情報交換は熱く、そして深く進行していく。
☆
偉い人のありがたいお話から始まった第一週。
クラス分けをしてオリエンテーションや団体行動訓練、学院パーティ編成活動の他に、履修登録の参考にと、必須単位の担当講師が各クラスを周り、短時間の授業を行っている。
来週からは、履修登録をした生徒側がそれぞれの講師の教室に行くことになる。
開講予定/開講中の講座は事務棟の掲示板でチェック。
週1授業を4週間ひとまとめの1節で、理解確認があって、合格なら1単位という流れ。
同じ日や別の曜日にリピート開講があっても、登録しているもの、1単位分だけ有効。
講師によっては登録外受講を見て見ぬふりしてくれることもあるが、単位は認定しない。
教育者として熱心な若人は好みだが、それはそれとしてということだ。
ともあれ授業開始前に教室にいること、授業中に立ち歩いたり私語をしたりしないこと等々。
そんなこんなの説明中でも、言って聞くなら苦労はないわけで、お試し授業は、学ぶ姿勢を文字通りに叩き込むところから始まった。
「自分、前世で体罰反対派だったが、撤回せざるを得んなあ」
「暴力は、抵抗する気力を奪う支配の手段だから、イメージ悪いんですがねえ」
「前提が成立してないんだもん、叩くしかねーわ」
IQ的な問題で会話が成立しないから殴って従わせる、ではなく、とにもかくにも静かに話を聞けという習慣づけ、しつけの範疇。
「必須単位はそれほど多くないんだが、ダンジョンに潜ることを考えると時間がなあ」
「必須外も取りたい講義多いですし、まじめにやっても3年で履修しきれるかは難しいところですね」
最低年限の3年で出ていく気のない三人であっても、興味を惹かれる必須外単位を考えると時間的な余裕がない。
「どっかで決め打ちも必要だろう」
学院パーティ編成の関係で、編成発表のある週の頭の光の曜日と、反省会のある闇の曜日は、1年次は講義を受けられない。
決め打ちできるのでそこはいい。
週間時間割表を書いてみて、残る平日4日で履修とダンジョン活動と、正解のないパズルを組んでいく。
「今週中にまとまるかな、これ」
「失敗前提で無理目に詰め込んどくかあ?」
☆
「つうわけで、俺の学費は学院休業の週と、各週末の休みの日で帳尻合わせるつもりなんだが、どう思う」
「あぅあぅ」
「ああほら、またキャパを超えちゃってる」
14号パーティの6人は、本日分のお試し授業が済んだ昼過ぎに、昨日と同じく探索科寮の食堂で再集合した。
ダンジョン・アタックに関する前提として、履修と日程の都合を確認するが、まだ決めかねているのが全員の本音。
今週中に履修登録を提出しないと来週からの講義を受講できないので余裕はないのだが、コレという決め手に欠ける状態でもある。
閑話的に探索者としての活動、学費稼ぎをネタふりしたところでユイのオーバーフローが発生した。
今回の原因はもっぱら感情面。
聞けば、ユイも潤沢な資金に恵まれているとは言い難いらしい。
「お母さんは出すって言っているけど、毎季、最低でも正銀貨2枚は必要だって」
季毎の魔術科の学費が正銀貨1枚で、一般寮の寮費がクオルタ銀貨2枚。あとは雑費や生活費。
正銀貨2枚はクオルタ銀貨で8枚なので、単純に探索科の2~4倍となる。
仮にユイの母の収入がそこそこの職人同等とすると、稼ぎの半分以上を娘の教育にぶち込むと思えばいいだろう。
一応、学院では学費援助制度、いわゆる奨学金ローンも用意しているのだが、暗黙の前提として貴族科、騎士科、探索科が除外されるのはまあいいとして。
①身元がはっきりしており、②性向素直な者で、③成績優秀者に限り、④返済終了までの労働拘束あり。
なお、利子がっつり付き。
ぶっちゃけ、転生三人組にとっては、借金にはめこんでこき使うこと前提の制度としか見えないのだ。
でもしょうがないよね。投資にはリターンが必要なのだから。
「ダンジョンで稼げるなら、わたしも稼がないと」
「すまん。期待しているところ悪いんだが、このパーティでの稼ぎはないと思ってくれ」
気を取り直したユイがこぶしを固めたが、ラッドが水を差すというかとどめを刺す。
「あぅあぅ」
現実は非情である。




