3-07.実質合コン
ユイことユイコニア嬢は、代々の魔術士家系でも知識階層出身でもない、加護で光魔術をポン付けされた一般通過魔術士である。
つまり、貴族やその近侍の階層出身と思われるジュスティーヌおよびヴィオラことヴィオレットとは、持ち得る知識も常識も異なっていたのだった。
まして転生三人組とは。
ユイへのレクチャーは、同じ魔術科の女子ということもありもっぱらヴィオラが進め、時にジュスティーヌと野郎組が補足や合いの手を入れた。
少々時間はかかったが、学院に来ている理由など、自分の現状や立ち位置に一定の理解と納得はできたようだった。
「ありがとうございます、ヴィオラさん。魔術科でもお願いします。お願いします」
「同じ魔術科だし、フォローできるところはするけど、あたしだって自分優先なんだからね」
属性が違うんだからと、言葉や態度はそっけないが、拒んではいない。
「ふふ。ヴィオラはお姉さんですからね」
「全員同い年でしょうが」
特に理由がない限り、10歳の【祝福の儀】で授かった加護を踏まえて将来選択を行う。
セバスの兄のベンジャミンのように、秋生まれでほぼ1年近く編入を待つケースもあるが、それにしたって秋季・新年度開始時点では10歳。
「そういえば獣耳の人は気持ち早熟なんでしたっけ」
「そうらしいけど、実感はないわねえ」
ただ耳の人を基準とした場合、傾向として獣耳の人はやや早熟で気持ち寿命が短く、肉体的能力が高めとされているが、ぶっちゃけ個人差で片付く話でもある。
ヴィオラが目を落とした胸部は、慎ましやかであった。
ネコ科と思わしき耳と尻尾を有するヴィオラだが、獣人という種ではない。
ただ耳の人同士でも獣耳の子が産まれる場合もあるし、獣耳の人同士でも獣耳の子が産まれるとは限らない。
ついでに、どの獣の耳なのかも完全に個人別で、親子でまったく異なることも珍しくない。
出生時点での比率でいうと、ただ耳の人95%に対し、獣耳の人5%くらい。
長耳の人など1%に満たないマイノリティである。
遺伝的資質がそろったときに発現する形質とまでは解明されていないが、いずれも人は人であるとして、王国では公的な差別・区別の対象にはされていない。
ただし、ただ耳の人同士で獣耳の子が産まれた場合など、お気持ちの上での問題は生じる。
養護院育ちのヨッシーにとって獣耳の人は珍しくないが、ラッドやセバスだとあんまり見ないよね、くらいの感覚。
☆
ダンジョンに挑む探索者パーティでの女性の地位は悪くはない。
確かに、一般的に筋力・体力といった面で男性に見劣りすることは事実だろう。
だが、霊格レベルと加護がすべてをひっくり返す。
例として、【忍び足】を授かったグラム君と【剣術】を授かった何某女子さんであったら、戦力として選ばれるのが後者になることは理解できるだろう。
まして10歳程度での男女差は、むしろ女子のほうが身体的成長が進んでいるまである。
「生理は来ているから、ソッチの話もしとかないといけないのよね」
しかし生理は、避け得ぬ女性特有の問題として存在する。
もう少し歳が進めば、今度は性の対象問題なり妊娠・子育てで引退します問題なりも出てくる。
「今回の期間中だと三週目があやしい感じになるの。だからできれば今週来週でダンジョンアタックのノルマこなしておきたいのよ」
「三週目をまるっと?」
「安定してないのよ。そこまで重くはないから我慢はできるけれど、なるべく無理したくはないわ」
「あの、わがままとはとらないであげてくださいね」
ジュスティーヌのフォローに、ユイも頷きを繰り返している。
いまはまだでも、女の子には身近な話だからだ。
学院パーティ編成でも、生理ならアタック不参加も仕方ないねというのが公式見解。
「それはそれで仲間外れっぽいだろ」
「俺としては、『仲間だから』で無理させられるよりはマシだと思うけどな」
10歳頃から活動開始という、学院パーティならではの問題だ。
もうすこし年上で生理周期が安定すればスケジュールが立てやすくなるし、そもそも学院側でパーティ編成を行わないので期間内のノルマとして潜る必要もなくなる。
学外だと、季の日数の半分も潜れば上等な探索者稼業、女性が1~2人なら予定日周辺を休みにすることで対応できる。
また、戦力の安定性に問題ありとわかっているのだから、10人くらいの人的プールから、都度動ける人間で実働部隊を編成することもできる。
もう少し突っ込んだ話をすると、一般探索者に占める女性の割合は小さい。
農村出や貧民出で、女性でも探索者をやるしかなかったケースは、最初の数年を乗り切っても、その多くが比較的早い時期に出来婚的引退を迫られる。
引退後が安泰かは知らない。
性犯罪もなくなりはしないが、同時に見境なしに腰を振るようでは淘汰される。
ダンジョンはそこまで甘くない。
☆
「そういえば」
生理に関して三週目のスケジュールがどうこうを妥結中にジュスティーヌが言い出した。
「学院パーティからお付き合い、結婚に至るという話もあると聞きましたが、どうでしょう、私たちってどんな感じですか?」
「ジュスティーヌ様?」
何を言い出すんだコイツと目で語る自称護衛役のヴィオラと対照的に、急に目が輝きだしたユイ。
「コイバナが嫌いな女子はいません」
「ですですよねぇ」
転生三人組は引き気味であった。
「セバス、パス」
「うーん、キラーパス」
「いやだって、俺って浮気して借金だけ押し付けていく女に引っかかるかもしれないじゃんか」
「二度目の正直って言うじゃん? 言わない? そうだろうさ畜生め!」
小声でささやきあうが、埒はあかない。
長い、長~い息を吐いて、セバスは顔を上げた。
「えーではユイ嬢。なんか、胸が大きくなりそうな気配を感じました。潜在的パワーはジュスティーヌさんにも匹敵するかもしれません。こっちのヨッシー、胸おっきいのが好みなのでカップリングどうでしょう」
「え、えー」
戸惑いつつもどこか嬉しそうな悲鳴をあげるユイを横目に、ジュスティーヌは自分の胸に手をやった。今は慎ましきその胸は潜在的パワーに満ちているかもしれない。
「でもって、ほっとくと悪い男に騙されるか、悪くない男なんだけど今一歩踏み込めないままひたすら入れ込んだあげくWSS(私が先に好きだったのに)しそうな臭いがします」
「待って。どんな臭い!? ねえ、わたしどんな臭いしてるの!?」
勢いあまって立ち上がったユイを横目に、ジュスティーヌは手首の匂いを嗅いでいる。
「あー、たしかにちょっと、どんくさいっていうか……」
「ヴィオラまで!?」
改めて腕を組み、目をつぶってみるジュスティーヌ。
「僕の見るところ、ヨッシーもユイもパートナーはしっかり手綱握ってくれる人がいいんだけど、支配したがる相手だと一気に破滅するだろうし」
「ああ……」
「割れ鍋に綴じ蓋的な安定感を期待したい、というところでどうでしょうか」
「ふむ」
ゲンドウポーズのジュスティーヌ。
話題を振った張本人だし、一番ノリノリでいるのかもしれない。
「ふむじゃないです! ヨッシーさんの是非はともかく、コイバナってこういうのじゃないですよね!」
「胸、大きくなるんだ」
ジト目で睨むヴィオラから、あわてて腕を組んで胸をまもるユイ。
「続いてのジュスティーヌさんとヴィオラ嬢は……」
「さあ言っちゃってください。わたしだけ臭うとか騙されるとか、こんなのあんまりです」
あぅあぅ言っていたころに比べると隔世の感がある、などと評する他人はともかく、ユイは本来の調子が出てきただけ。
学院だのダンジョンだのパーティだので、どれだけテンパっていたかということで。
「見えている地雷すぎて突っ込めないわ。僕にだって怖いものはある」
父親は貴族な平民落ち確定といいつつ監視役を称する護衛付き娘組。ヤヴァイですね。
学院だって、それこそ王都にもあるだろうにわざわざ遠く離れたアクヤの街に来る事情? ヤヴァイですね。
「そんなのありですかー!」
「ああ、うん。そうね、あたしたちって地雷よね。でもそれ、言っちゃうんだ」
土属性の中等魔術【地雷】とは、設置型トラップで、雷撃状のスパイクを打ち出すことからその名がついている。
「うーん、私は怖くないのに。じゃあせめて、セバスさんとラッドさんの好みは聞かせてください」
そうね、ジュスティーヌさん本人は怖くないんだよね。困ったことに。
セバスは口の中で言葉を飲み込んだ。
「ラッドって、顔はあんまり気にしないですよね」
「体型もじゃね?」
「おまえらなあ、自分だって外面は見るが、気持ちが合うかどうかが大事ってだけだろ」
「う、うーん。言ってることは良いこと風なんですが」
ユイは力なく腰を下ろし、ジュスティーヌは再びのゲンドウポーズで「続けて」などと言っている。
「僕は面食い。でもって『しょうがないなぁ』で好き勝手やらせてくれる人が好み?」
「そうか、そうか。君はそういうやつだったな」
「すまない。友がこういうヤツで本当にすまない」
オープンにさらけ出すことが、攻防一体の手段となることもある。
ヴィオラは数時間ぶり本日二度目の天を仰いだ。




