13-07.動員の開始
冬の王都は、貴族たちの社交シーズンらしい。
それはともかく、クラン『アスタリスク』の後ろ盾として名義を借りているコンステラリス伯爵家よりご依頼があった。
要約すれば、『武術系や魔術系のスキルオーブ、ない?』。
以前のご依頼は王家に連なる【剣聖】誕生につながり、貴族社会に『とある噂』がじんわり広まった。
そのせいで、伯爵家に『仲介』『斡旋』『拝み倒し』の話が来るらしい。
「【剣聖】や【聖騎士】みたいな大物でなくていい、というお話なんですが」
「子ども用に取り置いていたとか言って出しちまえば?」
処分に困ってるブツ、あります。
レアリティで言えばSSRの一つ上、EXRことエクストラレアってところかなの武術系と魔術系、あわせて7点をご提示。
ついでに、ハイパーレア程度の品だが、指輪だったりペンダントだったりの魔術の焦点具5点もどうでしょう?
相場の2割増し、金貨1860枚ですべてお買い上げいただいた。
☆
「だからっ! なんでっ! こういうパーフェクトなブチュをお出ししてくるんだよ、あいつらは!」
噛んだ。
コンステラリス伯爵様、お顔を真っ赤に染められている。
しかし老齢の執事も慣れたもの。伯爵様に反応せずにハーブティを淹れ、そっとお手元に配した。
立ち上る芳醇な香りを胸いっぱいに吸い込んで、伯爵様は大きく息を吐き、いつの間にか立ち上がっていた腰を下ろした。
「……子のために用意していたものを、取り上げるような形になってしまったな」
「聞くところによると、ご縁者様は新規の土地開発の許可を受けており、お上の御意向は永代騎士爵として封じるとか。現状、資金はいくらあっても困るものではないかと存じます」
「で、あるか」
仮にも血縁、クランの後ろ盾の名義料に年額金貨50枚はやりすぎたと反省もしているが、依頼料に上乗せで還元しておりそれはいい。
一度決めたモノは、下手に下げられないのだ。
アレが許されるなら、ウチはどうなんだ、コノ案件は、とキリがなくなるので。
ともあれ、領地騎士への後押しくらいはしてやろうと、心の隅に留めおく伯爵様であらせられました。
☆
どこかの伯爵様が叫んでいた頃、クラン『アスタリスク』では春恒例のお誕生日おめでとうの会を開いていた。
「祝福の儀も無事すんでおめでとー。さぁ、今年も元気にやっていきましょー」
「「おー」」
ジュスティーヌの掛け声に、子どもたちも元気に応える。
この春は、ユイの第一子とオルレアの第一子が祝福の儀に臨み、それぞれ母親と同じ【光魔術】と【俊敏】の加護を得ている。
「やっぱ、血統ってあるのかな」
「あると、言われているのよねぇ」
加護が確定したので、学院本科の選択も絞られる。
秋までに、手すきのママ・パパ集団による追い込み教育が施されることは確定的に明らかだ。
☆
雪解けを待って、開発案件も再始動となる。
拠点2か所にヨッシー倉庫より一戸建てを放出、腰を据えられるねぐらを確保した。
以降しばらくは、とにかく木を伐る。獣を狩る。
動ける範囲を確保、拡大していくフェーズだ。
もちろん、対外的におカネを使っている姿を見せることも欠かせない。
そのため、2か所の拠点に井戸を掘ってもらう。
井戸掘り組合所属のマルチェラビュート親方の出番だ。
「任せとけ」
人足の動員もかける。
大工組合所属のマルドゥーク親方に頼んでおけば間違いない。
「おう、いくらでも集めてやるぜ」
「それと、親方には人足長屋っていうか宿舎も建ててほしいんだ」
「それこそ任せとけ!」
大人数を寝泊まりさせるとなると、炊事場とおトイレもいる。
左官組合所属のマーレダック親方が頬をかいた。
「水場周りはまあ、ウチで。かまどもいつものとこに」
雑貨品のうち生活木工は、マルク親方の子で跡を継いだマクダネル親方に発注。
正確には家具木工なので、食器類なんかはまた別の職分なのだが、作れなくはないし、ソッチにツテを通すこともできる。
「ウチで作ってアッチに卸すなんてこともしてるからな。持ちつ持たれつってことさ」
実はなんの親方なのか知らないけれど、いつのころからか親方衆会合に参加しているマイグランス親方とマルフィ親方もにこにこしている。
そんな親方たちへの心付けというか各種手数料に、設備などの初期投資が総額金貨40枚。
動員した100人近い人足労賃は、現場カントク代なんかもコミで金貨50枚。
なお飯炊き女に関しては逆にリベート提案で営業がやってきたので、人足を統括するマルドゥーク親方に投げておいた。
拠点ごとに50人近い人間を食わせていくために、商業組合に相談して食料の配送も手配。
初期投資に含まれる食器類以外の雑貨品は人足各自の財布からと、出張行商人さんは御用聞きの役割も兼ねている。
「ゆくゆくは、新しい販路に育ってくださるとうれしいですなあ」
これが金貨30枚。
「そういえば、害獣駆除ってどうしよう」
「それこそ、探索者組合でいいんじゃない?」
組合の汗かきおじさんに聞いてみたら、請け負ってますとのこと。
まあね、探索者と狩人は似て非なるものではあるけれど、互いにコンバートできないというものでもない。
ダンジョンには一攫千金の夢はある。だけど、危険も相応。
探索者を引退して狩人になる。そういう人生ルートだってある。
2か所に1パーティずつで金貨15枚。組合の取り分込みでこのお値段だ。
ほかこまごまと、大雑把に金貨5枚分くらい。
もろもろひっくるめまして、春季の支出、金貨で140枚となりました。
「いやー、土地開発にはカネがかかりますなあ」
「マジそれな」
愚痴っぽい雑談聞かされた汗かきおじさんの嘆息に、いかにも大変なんだぜといったていで返す。
でも、14人で分担すると、一人頭金貨10枚しか支出していないんだ。
この日の付き人のアドルフとフィアフは後ろでだんまり、何とも言えない顔をしているが、組合口座から金貨50枚を引き出している。
たくさん出費してますって外観のあるうちに手元に現金を移しておくよう、転生三人組からメンバーに指示が出ているのだ。
☆
夏至祭週の祝福の儀では、アドルフ・リーリアの第一子が【剣術】の加護を得た。
探索科に進むという。騎士科はちょっと、だそうだ。
いずれにせよ、追い込み教育だ。
また、ユイの母もとうとうお針子を引退、セバス・ユイ家の同居人となった。
目がもう無理という話だったので、老眼ならメガネでもと思ったが、白く濁っており白内障のようだった。
夫を失ったセバスの母エレノーラとよくお茶をしている。
☆
開発予定地への侵入口である東拠点側は周辺を広げるように伐採。
南拠点側からは北端まで貫通を目指し、方位磁針にそって作業用林道を作成する。
できるだけ直線の棒道で、南北線ができたら、次は東西線を引いて、大地にグリッドを描く予定。
実用街道は、確認できた地形を踏まえてからとなる。
三人組がおらずともメンバーが交代で、神殺しのチェインソーを収納の腕輪に納め、魔法鞄に食料等を詰め、2週間程度の現場出張。
現場監督はいるが、発注者の監視のあるなしはやはり大きい。自ら先頭に立って作業する姿を見せられては文句も言えない。
そして、お土産に持っていく甘味の威力も、また大きい。
伐採した木はとりあえずの貯木場に運搬して乾燥中。
「炭焼きと製材を任せられる人材、いないかな」
「大工だけど製材もできる、親方株のあてのないのがいるぞ」
「炭焼きは、まあ、ツテをさぐってみますわ」
親方衆は頼りになるなあ。
炭焼きと製材の職人は、2つの拠点それぞれに、家族込みでの移住になる。
食料等は行商人さんの配達に追加で、お賃金も一般人足より色を付けるカタチ。
また、職人たちの住まいは開発が進めば逐次移転する予定で、都度十分なものを親方衆に依頼。
「使い捨てってわけじゃなく、中継拠点的に作業や寝泊りできるもんに転用してくカタチな」
「そうなると、大き目に建てとくべきなんだろうが、割高になっちまうぜ?」
「カネですむならかまへんかまへん」
「へへっ、そうこなくっちゃな」
諸々ひっくるめると、夏季の支出は金貨100枚を超えた。
こんな出費を、単独で2年3年と続けたら、そりゃあお家も傾くだろう。
☆
ダンジョン関連では、春は1回ダイブ。
夏は三人組だけ2回ダイブで、ほかのメンバーは交代でダンジョンや開発案件現地へ出張。
効率化は、発想の転換によるブレイクスルーがない限り、これ以上は無理だろうというところまで突き詰めた。
「パーティの人数を削る?」
「6人でもいけることはわかっているが、余力がなあ」
「殲滅力の減少で交戦長引くようでは本末転倒ですし」
探索者界隈では、持ち込める物資の量と余力の勘案で6人パーティが主流なのだが、クラン『アスタリスク』では前者については無視できる。
そのうえで、さらに余力を持たせているのは、旧14号パーティ時代から一貫して変わらない安全重視の方針だ。
転生三人組にはレベル停滞の傾向が見られたが、なんとか90に到達。
ウィスタリアの90を筆頭にオルレアの87まで、なるべくそろえようとメンバー間も調整中。
春・夏のオークションには25点出品、金貨1220枚。
特記すべきレアもんとはご縁がなかった。




