13-03.永遠の別れ
春分祭週恒例のお誕生日おめでとうの会では、着座したままのジュスティーヌがおなかをさすりながら開会の挨拶を述べた。
「目指せ人生50年で25歳、節目の歳です。もう半分なのか、まだ半分なのか。とにかくみんなで元気にやってきましょー」
「「おー」」
女子組のほとんどが出産を控えているため、気持ち控えめ。
元気すぎる子どもたちは、男衆にウィスタリアとリーリアが相手をすることで、妊婦の負担を軽減する。
☆
改めて、この春には7人の出産が予定されている。
ユイ、マリエル、ジュスティーヌ、ヴィオラ、オルレア、ジャルマリス、プリムローズ、それぞれ四人目の子となる。
また、ウィスタリアが稼働メンバーに復帰する。
冬季の後半は野郎6人だけで特段の問題は起きなかったが、余力が生じるのはいいことだ。
ダンジョンへは、出産予定日の合間を見計らって1回だけダイブを行うこととしたが、キャンセルも視野に入れてある。
「効率化のキモは島にあり!」
「地竜島は1ダイブ1回が限界なのか、リポップを見極めたいところだ」
カニ島とワニ島への襲撃は行きかえりの往復でできるのではないかとルートを引いてみて、そこを軸に海洋部の出現ポイントを押さえるようにあーだーこうだ。
もちろん、大王イカは外せない。
「今回のルートだと期待上の最大で、島11回、海がイカ1回のタコ4回込みで28遭遇」
「島・海あわせて39戦闘か。16日間だから、1日2ないし3戦闘が目標になるな」
島部は上陸時のイソギンチャクから島主までの連戦ひっくるめて1戦闘扱い。カニ小島とワニ中島なら半日かからず制圧できる。
復帰戦のウィスタリアは少々不安げに首をかしげたが、夫のクリスが大丈夫大丈夫となだめている。
「勝ちパターンにハメれば問題ないって」
「海の上なら、移動中がほぼ休憩にあてられるし」
マッピングの成果として、魔物の出現ポイントがわかってしまえば、それ以外の領域は比較的平和とみなせる。
当直組が交戦エリアまで船を動かしている間、他のメンバーは十分に休息をとれるのだ。
なお、この意欲的な経路設定の事後評価は、100点満点で70点から80点。
島しょ部は、まあなんとかなった。
初の地竜撃破、新たなるドラゴンスレイヤーとなったウィスタリアが、「まあ、みなさんのやることですありますし」とあきらめ顔だった程度。
ちなみに、携帯式ロケットランチャーよりも小銃装着式のグレネードランチャーの方がお好みらしい。重さの問題で。
海洋部は、クラゲ群が海流にのってどこかに行ってしまったり、想定外エリアで遭遇したり。
リポップ間隔の問題か、タコや大海蛇と期待通りに出会えなかったあたりが減点対象である。
☆
それぞれの出産も無事に済み、産婦と新生児の世話をはじめ幼児たちの相手もこなし、寝不足になりがちな春季の終わり。
クラン『アスタリスク』に訃報が舞い込んだ。
マックスの率いるクラン『終末の角笛の護り手』、その主力パーティ『鋼の咆哮』メンバーのグラムが死んだ。
『特徴のないのが特徴』なグラムは、パーティでは斥候役をこなしていた。
冬季生まれの享年25歳。
「第八層、不意の、アイアンゴーレムの一撃でした」
「そうか……」
訃報の使者の一人、ジョゼフにヨッシーは短くこたえた。
ほかにオルガとアズクルにカールが使者。ジョゼフとヨッシー含めて、全員が養護院の出身者になる。
クランの付き合いでの連絡というよりは、同胞、友人としての報告なんだろう。
セバスが同じく養護院出身のフィアフやオルレア、ジャルマリスを呼びに行っている間に、ラッドが代表として弔意を述べた。
「この度は、突然の不幸、お悔やみを申し上げる」
「俺らは、探索者やってるんだ! これまでが、運良かっただけだ」
アズクルは鍛え抜かれた筋肉を物悲し気にふるわせ、養護院三人衆を率いていたオルガは肩を落とす。
「覚悟はしてたはず。なんだがなぁ……」
探索者をやっていれば、大けがや死去も当然にありうる。
これまでにも団員を失ったことはあったそうだが、今回はオルガたちにとっていわば身内を失ったわけで悲しみの色が深い。
☆
世知辛い話だが、いわゆる墓地にも種類がある。
アクヤの街から出てやや北西にある共同墓地は神殿の管理地であり、平民向けの霊園となっている。
その墓地で行われたグラムの葬儀には、クラン『アスタリスク』のメンバーも、産後間もないユイも入れて14人全員が参列した。
弔問客側にそろいの礼服で並んでいるため、他者の目をひいている。
「子ども出す前だと着れませんでしたね」
「そのときは、誠に遺憾ながら欠席でしょう」
「そもそも、出産直前に葬儀に出ろとは言われないわ」
葬儀の場でもこっそりと姦しい女子勢はともかく、ヨッシーは嘆息した。
「こんなことのために、服作ったんじゃないんだけどな」
「だが、おかげで礼を失さずにすんでる」
クラン『アスタリスク』のメンバーは、稼ぎの還元として、結構なお値段のする礼服を数年に一度は作りなおしている。
マックスやオルガのように、代官様主催の社交会に出席の機会がある者はともかく、『終末の角笛の護り手』側は、幹部級にもラフな恰好が目立つ。
むろん、探索者なんてそんなものと言われればそう。
アズクルは、卒院の際に作らされた礼服を大急ぎで手直ししようとしたらしいが、体型そのものが成長しているからねえ。
諦めて、すぐに用意できるそれなりの品を着用。それでも団員の中で浮いてしまっているくらいだ。
「ほら、私語してないで構えて。ティナが待ってる」
「……抜刀っ、捧げ~剣!」
ジュスティーヌの号令に合わせ、抜刀した剣を垂直に掲げ、刃面を顔の中心に向け、鍔の部分を口の高さに保持する。
事前練習もあり、武に生きる者への敬礼としてカタチになっていた。
☆
喪主をつとめたマックスの締めの挨拶をもって葬儀は終了。
『終末の角笛の護り手』の団員たちは、宿舎で精進落とし的な会食を用意しているそうだ。
マックスが声をかけ、葬儀を執り行った司祭に、探索者組合の担当職員や取引先商会の人と思われる者も誘われていた。
『終末の角笛の護り手』とアライアンスを組んでいるベンジャミン兄さんたちのパーティは、立場上、義理で出席の兄さん以外はここで解散。
クラン『アスタリスク』にも挨拶にやってくる。
「本日は、来てくれてありがとう」
「この度は……」
マックスにしても、グラムとは学院時代からの付き合いだ。
そして、クランを率いるものとして、今後の戦力配分、パーティの補充を考えないといけない立場でもある。
やや青ざめたこめかみが心労をあらわしているのかもしれない。
「司祭様への謝礼、お渡ししてきました。団長は拠点の方へ」
「ああ、すまない。ジョゼフたちは別行動だったね」
マックスたち幹部の挨拶と案内を受け、参列者たちは三々五々と墓地を去っていく。
再度、謝意を述べてからマックスも去り、クラン『アスタリスク』のところにはジョゼフ、そしてオルガとアズクルがやってきた。
「てめぇらのおかげで、グラムにも箔がついた。礼を言う」
「こんだけの連中に送られる男だったってな」
クラン内でトップパーティに属してはいても、幹部ではなかったグラム。
それが礼服集団に墓前で剣を捧げられたのだ。
しかも、クラン『アスタリスク』の剣はその、取り置き品がね。業物というか。まあ、見る人が見ればわかるかなって感じの品なわけで。
冠婚葬祭は、当事者よりもむしろ周囲へのパフォーマンスの場と意地悪くとらえれば、いろいろな意味で効いたことだろう。
「ところでよ、俺らは団とは別口で送ってやろうかって話なんだが、おめーら都合どうよ」
オルガとアズクル、ジョゼフは、クランの会食ではなく身内として偲ぼうぜと誘ってきた。
腹黒双子の片割れのカールは、会場手配で先行中とのこと。
故人と関わりの深い養護院出身のヨッシーにフィアフ、この道に引き込んだ張本人でもあるセバス、そしてラッドが残る。
オルレアとジャルマリスも養護院出身だが、さすがに産後ということで辞退。
「そりゃあ無理はさせられねぇよ」
「「だよねー」」
アズクルはちょっと残念そうだったけど、オルガいわく、こーいうのは男の友情的なアレだしと。
マックスのおすすめだという隠れ家的なバーに案内され、特段の意味はない言葉を掛け合い、ただ、同じ時間を同じ場所で過ごし、故人の思い出やバカ話なんかをして過ごした。
☆
夏季も、女子はウィスタリアのみの7人体制。
効率化の模索として、地竜島への襲撃を最初と最後に配置、1ダイブで2回の戦闘が可能かを検証する。
海洋部は春季の結果も踏まえ、遭遇見積もりを24回に減らした。
漂うクラゲがワンダリング要素になっているが、海洋部、島しょ部ともにおおむね計画通りの結果となった。
春・夏を通して、転生三人組はレベル80、そして82にアップ。
クリスが85、アドルフ、フィアフ、ウィスタリアが83となっている。
レアもんおよびオークション関連では、収納の腕輪が一つ増え、出品総数23点で金貨1830枚の収入となった。




