13-04.投資案件の打診
秋分祭週で、クリスとウィスタリア夫妻の第一子が【祝福の儀】に臨み、【斬鉄剣術】の加護を授かった。
夏生まれのため、最短で祝福の儀を受けられるのがここになり、加護次第で進む科を決める関係で、学院本科への進学は来年度に持ち越し。
ただし探索科は、定員の空き次第で冬季からでも入れるので、幼年科に滞留する意味はないしそれでもいいかという当人。
「本気で探索者を目指すなら、戦闘スキルを得たのだから騎士科も視野であります」
「3年卒は仲間が重要ですから、おすすめはしにくいですが、兵卒と指揮官の違いですからねえ」
むしろ、じっくり予習と身体を作れることをアドバンテージにすべきではないか。
ほぼ1歳の差は、特に体格面で大きな違いになる。
ウィスタリアとジュスティーヌのほうが、挟まれて居心地悪そうな当人よりも真剣に考え込んでいるように見えるのは気のせいではない。
教育ママではないけれど、わが子やほぼわが子の進路に真剣なママたちなのだ。
「加護次第だけど、うちの子はまず薬剤科だから、騎士科だとちょっとねえ」
来年度の本科進学になるマリエルの第一子もまた、ママたちの間で窮屈そう。
このほか、この秋から4人の子が幼年科に進む。
自身に幼年科の経験がないユイ、オルレア、リーリアも、情報収集のためのママ会参加中。
子どもたちは目くばせしあい、逃げ出すタイミングを図っている。
☆
日中はどこまでも蒼い空が広がる快晴で、日がかげるとともに急激に冷え込んだ秋分祭週の夜。
転生三人組はラッドの執務室でホットワインを手にした。
転生発覚から16回目を迎える秋、三人での振り返りである。
「グラムが逝くとはなあ」
「鉄火場稼業15年。むしろこれまでが運がよかったんだろ」
「いつか誰かは、ありうる話でした」
三人は、グラムたちをこの道に引き込んだ責任は感じるものの、時間をおいて気持ちの整理はついている。
グラムにしたって、イヤイヤ進んだ道ではないのだ。
「この1年でレベル77から82。まともに狩りだしたら、ちゃんと上がった」
「効率チューニングをどこまで極められるか」
次のレベルにあがるのに必要な霊格量も、低レベル時のような極端な増加率ではないので、じわじわとでも進展の見込みはある。
「上がりが鈍るのは見えてるからなあ。30歳前にレベル100は厳しいか」
「『成長のオーブ』に期待するけど、ともかくまずはレベル90」
「いのちだいじにしつつ、ガンガンいこうぜ」
コストはかけていい。でも無理は厳禁。
転生三人組は基本方針を確認しあった。
☆
さて、クラン『アスタリスク』メンバーのうちの13人は、手元現金とは別に、探索者組合の口座に金貨1000枚近い残高がある。
これは、現金として全額をすぐに引き出せるというものではない。
組合金庫に納められている現金には限りがあり、権利上のカネの多くは貸し付けや投資、横領などに使われているからだ。
組合としては、所有者のいなくなった口座を接収することによる収入もバカにできないのだが、まあこれは闇深案件。
そこそこの規模の商家や貴族的には、金貨の1000枚や2000枚は少なくはないが多くもない程度の額だが、13人が死蔵しているとなると話が違う。
ありていに、男爵家ないし子爵家の年間予算くらいにはなる。
ちなみにマリエルは、カネ余り対策として、実家・工房周辺の土地を買収し、ポーションの製造卸だけでなく、調剤薬局、薬草園、医療院および療養棟併設と、経営の多角化に乗り出している実業家でもある。
いったい何セバスの囁き入れ知恵なんだろうか。
現状ではトータルで赤字な慈善事業ではあるが、だからこそ儲けの社会還元として文句をつけようもない。
彼女は、押しも押されぬアクヤの街の名士様なのだ。
☆
アクヤの街の代官様は、クラン『アスタリスク』がおカネの使い道に苦慮しているという事情を知っている。
かねてより縁のあるジュスティーヌを通じて儲けの社会還元を指導し、何に使えばいいのかと相談を受けてきた。
クランの年度会議において、代官様からの提案が議題にのぼった。
新規開墾・開拓をして、一代から永代騎士家および従士家への昇格を狙ってはどうかと。
新たな土地開発には、さまざまな分野から大人数を動員し、機材なども必要になる。
財貨の放出先が特定の人物や組合に偏らない、つまり文句の出にくい事業ということだった。
ついでに街の余剰人口に行き先ができれば、街を統治する代官様が日々心を砕く治安にも良い影響が出るだろう。
「それ、4家それぞれが田舎領主な貴族様になるっていうこと?」
「正確には、騎士家も従士家も準貴族でありますし、領地持ちになれるかどうかも別の話であります」
町娘ユイの疑問に、田舎領主な騎士家の娘のウィスタリアが答える。
「最悪は、開発ご苦労でぺろりんちょってわけだな」
ラッドの言にみなして顔をしかめるが、詐欺めいた投資案件や強権的な成果接収は、実にありがちな話ではある。
「私たちは一応は王様の直臣ですし、代官様としては封じる方向で、というお話でした」
「よかったなヨッシー。これが成れば念願の『スローライフ』三昧だぞ」
「その前に、レベル100達成しないとあかんのや」
問題は場所。
実際には無主の地、管理の行き届かない地であっても、名目上はどこかの誰かの所領だったりする。
アクヤの街は、現王国につながる小国時代の本拠という経緯から周辺一帯が王家の領地。
その王家領から一部を切り取って封じることで、封建領主の誕生となる。
名目上は封土でも、一度与えたものを取り上げるのは困難で、土着して代を重ねれば実質は割譲。
もちろん王家側にもメリットはある。
どうせ使っていない未開の土地、他人のカネでモノになるならいいじゃない。
直臣として支配・命令系統に組み込んで、上納・賦役を課す。実入りは些少であっても、ゼロよりはマシ。
当人ないし後世代がヘマしたら所領没収でウマウマ。といった塩梅。
「段取りや選定は代官様に一任というか、お任せするしかないというか」
「そりゃまあ、どんな辺鄙なところだろうが断れるわけもないってか」
話を持ってきたのは代官様であっても、口利きのお手数をおかけする御礼をお渡しせねばならぬ。
立場のある人とちょっとお会いするにも、事務手続き一つにも、なにかと『心付け』が必要な社会だから、必要経費でもある。
とりあえず爵位持ちの4人で金貨25枚ずつを出しあった。
「話が進めば進んだで、またぞろ『謝礼』だの『対価』だのを出さなきゃならんのか」
「ま、適度な金蔓扱いならマシじゃね?」
突如浮かび上がる脱税疑惑、捕縛・収監・口封じで資産没収。政治的闘争の手段としては陳腐ですらある。
そこまでいけば武力闘争も視野だが、豪勢なお歳暮程度ならば、それこそ必要経費だと考える。
☆
それはそれとして、今年度の目玉事業はジュスティーヌ邸の増改築となった。
具体的なところは、マルク親方の子で跡を継いだマクダネル親方ほかの親方衆に投げればいい。
「仮に領主化が進展した場合、領地から出てきた場合の滞在先になるだろ?」
「クランとは、なるべく切り分けておきたいです」
騎士ジュスティーヌ様にお仕える三従士としては、そこらへんの区分けは明確にしておきたいのだ。
「仕えるって、主導権はそっちで持つくせにぃ」
「どうせ嫡男だってセバスの子じゃん。ずぶずぶってことだ」
「それは……そうねえ」
ヴィオラお姉ちゃん、反論しかけて納得してしまう。
「どうなるにせよ、いずれは俺たちも引退。クランの今後にも関わる話だ」
「探索者クランを残して関わり続けるにしても、一事業分野として切り分けないと」
打診があった程度の雲をつかむ話、かき消えてなくなることも珍しくはない。
対して、メンバーの引退は確実に起こるので、クランの今後は考えておかないといけない。
「僕はクランの執事だから、クランは存続させてほしいな」
「わたくしはジュスティーヌ様の侍女でありますが、そちらを辞して夫に添うべきでありましょうな」
クリスやウィスタリアの立場としてはそうなる。
「子どもたちのこともあるしなあ」
アドルフ君、クリス同様の腕組みしぐさでうなった。
☆
ダン活では、マップを南北に分けて、くまなく魔物と戦うという従来方針から転換し、全域を対象に効率化を模索する。
2つの地竜島の片方は往復で、1ダイブ中にのべ3回襲撃を骨子とし、遠いクラゲは捨てる、旨味がイマイチと思われる大海蛇は通り道そばのみに限定といった巡回路を設定してみた。
結果、海洋部の遭遇はおおむね予定通りの22回に減少したが、地竜島3回の襲撃が成立した。
体感でわかる経験値の増加はなかったが、同時に減った感じもないのでヨシとする。
転生三人組およびアドルフとフィアフがレベル84、2回参加のクリスとウィスタリア夫妻がそれぞれ87と86まで上がっている。
また、ヨッシーの【個人倉庫】はレベル83で『同期調整v2』のコマンド追加。
指定の倉庫区画内での時間経過を、1/4から4倍速の範囲で調整できるようになった。
オークションには23点出品、金貨1475枚。
代官様の打診に応じて資金を確保しているフリをよそおい、値崩れしない程度に在庫処分を進めた。




