13-01.調査の継続
『トモダチと一緒にファンタジーかつゲームっぽいわかりやすさのある異世界に転生でチートでスローなライフをしたい』
ヨッシーの願いはまぁまぁかなえられ、ラッド、セバスを道連れに転生した。
しかし、諸々の対価の関係で、レベル100を達成できないとペナルティが確約されている。
今世を精一杯楽しむマインドをセットした転生三人組は、ダンジョンに潜って魔物を倒しまくリングな探索者ライフを選択。
仲間と共に探索者クラン『アスタリスク』も設立し、ついに、アクヤ・ダンジョンの最下層まで到達した。
☆
転生発覚から15回目の秋分祭週中の夜、ラッドの執務室にヨッシー、セバスが集った。
10歳からの15年という歳月は、決して短くない。
祭週明けからは、マリエルの第一子が学院幼年科に通う。クリス・ウィスタリア夫妻の第一子に続く、クランの子として2人目だ。
お父さんのセバスも、なんだかそわそわしている。
「てーかまあ、夏はなんでかんで絞られたな」
「栄養ドリンクと、亜鉛サプリも欠かせないです」
野郎三人そろえば、シモい話にも流れよう。
「複数を相手って、意外にシンドイもんなあ」
「自分、プリムだけで十分だ」
「裏切者ぉ……」
ヨッシーもオルレアとジャルマリスの二人を嫁にしているので、セバスに同情的。
ラッドは特に一穴主義者というわけではないのだけれど、事実として嫁は一人で十分、火遊びするつもりもない。
それはともかく、と。ラッドは手にしていたカップをテーブルに置いた。
「1年間でレベル76から77に。下準備ばかりでまともな狩りになっていないから、しゃーないといえばしゃーない」
「とにかく広すぎるんだよ」
以前にも、第八層へのショートカット整備中も1年近く停滞した。
準備に手間を取られれば、どうしたって狩りの稼ぎは悪くなる。だが、その準備が、以後の躍進にもつながる。
「一戦闘あたりの霊格量は大きいみたいです」
「俺たちがデバフきついのは今更だし、レベル70台後半でも上がっちゃいるんだよな」
まともに狩りになっていないにもかかわらず、緩やかとはいえ出撃メンバーのレベルも上がっている。
「効率については、これからのチューニング次第ですし」
「体感だが、現時点でも第九層より稼いでいるような気はする」
獲得霊格量について、あくまで体感との注釈付きながら、ラッドが締める。
「第十層、アクヤ・ダンジョンの最下層でレベル100にするしかないし、なれるはずだと信じよう」
「「あいあい~」」
それはそれとして、『成長のオーブ』による霊格取得も、レベル90以上で一度試すことを再確認。
スキルオーブに混じって地味に手に入っているが、使い物になるかならないかで、最後の追い込みへの方針が変わる。
「第十層よりも第八層でオーブ狙いの方がよかった、なんてこともありうるのがなあ」
「狙って出せない以上は、どこまでいってもギャンブルですけどね」
数をこなせば期待値に収束するはずとはいえ、運、あるいは物欲センサーの実在は否定できない。
上振れ下振れの可能性を愛するギャンブル教団ではなく、安寧を求める固定値教団に属する転生三人組は、同時に、運否天賦を語る前に、まず人事を尽くすべきという自力救済派でもある。
☆
年度開始の秋季、クラン会議の議題は昨年度の総括と今年度の展望が主となる。
「まず、土地関連からな」
クラン『アスタリスク』は、アクヤの街の南地区の西より、住宅街として整備された区域に拠点を置いている。
ひとまとまりの街区の北側を商業組合が、南側を探索者組合が管轄。
間口の大きさで税を決めていたころの名残で、間口が狭く奥行きが深いという使い勝手の悪さから人気がなく、それゆえに斡旋されたという経緯がある。
しかし昨年、商業組合側で大胆な区画整理を行い、まとまった大きさのアパルトメントを建てたところ、順調に入居が進んだ。
これを横目に見ていた探索者組合も、自身の管理区画を整理して集合住宅化、中級以下の職員向け宿舎化こそ正義なのではと思案。
で、持て余し気味の深さ部分。どうでしょうという話なので、買った。
東側の通り沿いからの部分はジュスティーヌが押さえ、自身の邸宅のプライベートな庭にする予定。
クランハウス側というか家族寮の前と横の部分はお馬さん広場とし、厩舎と車庫も移設・増築の予定。
これにより、公的な庭である前庭部分がシンプルになるので、なんかこう、庭園風に整備する予定。
ちなみに以前、商業組合から追加で買った北側の土地は、畑になっている。
キッチンガーデンというには風情が足りないが、スローライフを夢見る男たちが休日に土いじりを楽しみ、ご婦人がたは日々の食卓に彩を添えている。
「お馬さんは12頭体制を維持します。寂しい話ですが、寿命もあって年度開始で12頭です」
「生まれた仔のうち、牡馬側に引き取られたのとあわせて、増減一致ね」
相変わらずクラン厩舎の厩務員は牧場からの出向(?)で、常駐する馬ごとに入れ替わる。
「最後は、使用人についてなんだが」
「……代官様がチクチクと」
クラン『アスタリスク』は外向きにアピールしていない、実質は家族の集合体な、世間的には無名のクランだ。
探索者家業ということもあって公な事業展開にも縁がなく、日常家事はメンバーと家族使用人だけで回している。
というか、内向き家事周りはむしろ他人を入れたくないし、人手が欲しい外の庭仕事まわりも、親方たちに投げておけばすむっちゃすむ。
とはいえ一代爵位持ちが相応の使用人をそろえることも、富貴者が稼ぎを社会還元するのも、世間から求められる義務のうちではある。
ご縁あるアクヤの街の代官様からの『ご助言』を無下にするわけにもいかない。
「……騎士爵家としてならどうだ?」
「ああ、私の館は別建てですし、こちらの領分に限定すれば、クランとの関わりはおさえられますね」
一代騎士爵持ちのジュスティーヌは、クランハウスの東隣に別館風の邸宅を構えている。
騎士家の使用人として雇い、仕事内容を自己の館およびプライベート・ガーデン(予定)の維持管理に割り振れば、クランとの関わりは薄いままにできる。
一代従士爵持ちの転生三人組は、各自の邸宅を構えていないので、どうしてもクランとの関わりを排除できない。
まあこちらは、所詮従士爵、という言い訳はできる。
「統括者としての家令か執事に、ハウスキーパー向けのメイドを1~3人てところかしらね」
「侍女は足りているでありますから」
お給金をいただいていない侍女枠のヴィオラと、一応のお給金をいただいている侍女ウィスタリアも承認したので、ジュスティーヌのボーヴァルディ騎士爵家はその邸宅に使用人を迎えることになった。
財産管理を行わせないので、家令ではなく執事として、アクヤの街の代官様の下僕から転職扱いでご紹介。
メイドは、学院の斡旋窓口経由で家政科卒より採用。
これに伴い、ジュスティーヌ邸では一部改装を行い、1階部分を使用人向けに、ジュスティーヌは2階に私室を移すことになる。
☆
ダンジョン活動方針は、マップを北と南でわけて、発見済みの島それぞれに上陸調査を行う。
見た目、ぐるりの周囲が数百メートル程度の小島、キロあるかなの中島、中島よりはでかいなの大島の3区分。
それぞれ6島、4島、2島で全12島が存在する。
第十層の活動16日間のうち、調査対象の6島それぞれに1日をあて、残り10日が海上移動および予備日。
「海の湧きポイントの確認かねたルートを組んでみた」
「固定湧きだと、巡回路に組み込みやすいんですが」
☆
上陸してわかったことは、島の大きさで出現する魔物が決まっているぽいこと。
海の湧きポイントというかエリアもほぼ固定と見てよさそうだけど、クラゲはプロット済みの遭遇点とずれることが多く、海流の影響かと推測。
転生三人組とマリエルは横ばいだが、クリス、アドルフ、フィアフはレベル79に、ジャルマリスは78、ユイ、オルレア、プリムローズ、ジュズティーヌ、ヴィオラが77に、それぞれレベルが上がっている。
第十層に入ってからの足踏み停滞感には、クラン『アスタリスク』のメンバーもある種の諦念めいた気配がある。
理解はできるのだ。
とにかく広大なマップ、下準備も相応に手間暇かけるしかないと。
ぶっちゃけ収入的なメインは第八層のレアもんだし、さらに言えば、これ以上のカネがあってもなあという庶民感覚も抜けていない。
転生三人組への恩や義理、『神託めいたもの』への畏れ、そして代えるもののないラッドの【通信販売】からの恩恵によって、メンバーたちも超高レベル帯へのお付き合いが続いている。
オークションには12点出品、総額で金貨610枚の収入。
特記事項は、容量8倍の魔法鞄と成長のオーブ2個の入手。
なお、弾代等の消耗品コストがガンガン膨らんでいる。1発120ポイントのライフル弾でも、同じく10万ポイントのお安いロケット弾でも、パスパス撃っていればそうもなる。
ポイント収支・貯えとのバランスはまだ大丈夫だが、この先も消費は増えこそすれ減る見込みはない。
「弾なんて、バラまいてなんぼなところはありますし」
「戦争はカネだよ、兄貴」
否定できないなあ。




