11-07.加速するレベリング
転生発覚から10年。
三人組だけの振り返りを、秋分祭週の始まりに行った。
「1年間でレベル50から58に。躍進と言っていいな」
「まだ油断はできないぞ」
「データ的には頭打ちというか、停滞予想でてます」
他メンバーのデータより、レベルアップの頭打ちあるいは停滞感が生じたのが、第六層でレベル40前後だった。
第七層が同じく55~56見当。
そして第八層では、狩り時間に対してレベルの上がり方が緩い。
「接敵数が減って、時間効率が悪化している?」
「一体当たりにかかる時間も増えてるしなあ」
体感の頭打ちを基準に考えるならば、第四層のレベル15から第五層が25でプラス10。
第六層・第七層がプラス15ずつでレベル40と55となり、伸びがいい。
では第八層は?
場合によっては早々に第九層進出も考えなければならない。
ただし、客観視したクラン『アスタリスク』メンバーの成長曲線自体は異常に順調と言える。
各階層で頭打ちレベルまで上げてからの次階層であり、第八層のセミファイナル被弾が最大の危機なくらい危なげなく過ごしてきた。
しかし、第五層の幽霊を倒せない一般探索者は、ピンポンダッシュ第六層という無理を通すことになる。
いうまでもなく危険な背伸びだし、第四層でブイブイ言わせられるメンツが、第六層でまともに戦えるようになるまで数年がかりもありうる。
ゆえに、攻略クランに所属し、魔法の武具の貸出などのサポートを受けた者を、広義の養殖モンとして毛嫌いする者もいる。
むろん、ツテがない者の僻みと言ってしまえばそれまでだ。
☆
秋季は新年度のはじまりなので、全体会議では前年度の会計報告もされた。
まあ、クランの会計はクリスとセバスが見ているのでそんなもんでしょですむし、個々人に関しても稼ぎの大半は貯蓄に回っている。
例えばアドルフやフィアフだと、昨年度の1年間で金貨38枚弱を稼いだ。
盾や防具の一部が全損したり靴を履きつぶしたり、装備の買い替えやメンテナンスなど少なくない額が飛んでいるのだが、目立つ出費はその程度とも。
「今年は何つくる?」
「カネ使わないと、『貯めこんでる』とかケチだとか噂されちゃうかんなぁ」
「で、使えば使ったで、あそこは『羽振りがよさそうだ』ってな」
どちらにせよ、裏木戸あたりに怪しい人影がうろついたり居座ったり、自称血縁者のアポなし突撃には衛視隊に出張ってもらったり。
「衛視隊、次の似顔絵はいつですかって」
もはや不審者ホイホイ扱いである。
なお、偵察に出した者や勝手働きを目論んだ者が結構な割合でしょっ引かれることには、いわゆる裏ギルドたちも頭を抱えている。
数年前の内紛にはじまる下剋上に群雄割拠、表社会からの締め付け強化と、アクヤの街の裏社会は試練にさらされているのかもしれない。
「家族寮の隣の区画、買わないかって組合が」
「「「買い」」」
隣の土地は借金してでも買えとばかり、売ってるなら買うのが転生三人組。
メンバーの子どもたちも、先発組はもう3歳4歳。
屋外で元気に走り回り自然に触れあってほしいが、前庭は少々不用心だし訓練場は危ないし、裏庭にして子どもたちの遊び場にちょうどいい。
年度の公共事業として、人足入れて隣接地との盛り土塀も作らせることにする。
「この際です、乗馬もできる荷駄馬、買っちゃいましょう」
「軍馬は、ダメじゃないけどダメだって」
まあ軍馬は、一見さんには売れないよね。見栄以外の用途もないので、ジュスティーヌも無理押しはしない。
なお、お馬さんを買っても、普段はクランの厩舎ではなく、郊外の牧場に預けておく。
荷駄馬一頭でも、維持費だけで下級使用人の5~10人雇えるだけのおカネが飛んでいく。
「留守番組も、たまに牧場訪問みたいなイベントもいいかもな」
「牧場ですか。冬前に、みんなで行きたいですねえ」
「「ねー」」
お馬さん次第で追加徴収あり、かつ、来年度からはクラン費改定を要検討となった。
☆
この秋の前半でジュスティーヌとヴィオラ、後半にマリエルが出産の予定。
付き添いもあり、夏季の無理と引き換えで、ダン活はほぼ休みのつもりでいた。
だが、第八層で上方向への大断崖を見付けてしまった。
もし、第四層の下方向への大断崖とつながっているのなら、ショートカットの見込みが立つ。
そこで出産と経過を確認後、転生三人組とクリス、ウィスタリアとオルレアの6人が調査に向かった。
ユイは母子の万が一のための保険としてお留守番。
アドルフとフィアフはしっかりと休養および家族サービス、そして武術のおさらいを志願で居残りだ。
☆
まずは、第一層からの大断崖につくった秘密基地に寄ってざっくり掃除。
しばらく使っていなかったため、空気がよどんでカビ臭かった。
第四層から下方向への大断崖は、第一層につながる大断崖からおおよそ2kmほどのところにある。
「効果時間15分。行きます」
ロイヤルサルーン(命名:ヨッシー)に6人が乗り込み、セバスの【念動手】で降下開始。
手さぐり的にゆっくり降下し、5分ほどで底に到着。
推定高度差400mくらい。
そのまま効果時間一杯、地面すれすれに飛び回り、目印にと、ヨッシーが【個人倉庫】から出して置いていった岩を発見。
「あったぞ」
「第八層確定か!」
一度、秘密基地拠点に戻る。
「ねー、なんでもっとはやく確認しなかったの?」
「そりゃ、降りました、死にましたは勘弁だろ」
第四層より深層で洞窟のあるマップが、第七層、第八層。
仮にいずれかに通じていたとして、確認に降りて初見で死にましたはイヤだったのだ。
「これで未発見の階層ですとなったら、どうしたもんだったか」
「いやほんと、置き岩あってほっとしたわ」
2つ目の大断崖も、ショートカットに使えることはわかった。
「どうせ第八層内では、あちこちで寝泊まりすることになるんだが」
「初日は慣らしもあるし、安心できる拠点がほしいわな」
初代秘密基地にならい大断崖を掘りぬくとして、どこにするか。
初代の作成時、ケイブバットがいたのは最初だけ。
掃除して以降は、湧いていない。
また、両階層間での魔物の移動は原則としてないとする。
だって第四層でレッドケイブバットを見たことがない。
「飛べないってこともないだろうし」
「階層を分ける、『ガラスの天井』でもあるのかもな?」
偽の空がある30mあたりを境界と推定した。
「下から40m、結果的に正解だったのかもな」
そうと決まれば、あとは母子の様子を見ながら、時に初代秘密基地に泊まり込んでの穴掘り工事である。
☆
土魔法のMP消費が抑えられる指輪の存在や、二度目ということもあって作業は順調。
内部的な整備や仕上げはともかく、延べ16日ほどで秘密基地拠点ツヴァイはカタチになった。
暫定運用できるようになったので、第六層の集積拠点について事実上破棄を決定。
マックスたちはじめ、他の探索者も使っている物置き小屋はそのまま、クラン『アスタリスク』の看板と鍵付き木箱を回収。
ただし【通信販売】由来ではない保存食なんかは、「期限近し、ご自由に」と残してきた。
自分たちで食べる気がしなかったともいう。
2週間ほど後、マックスたちがクランハウスに駆けこんで来た。
「看板がなかったのでビックリしてしまったよ」
「次の定例会で話すつもりだったんだが、誤解させてすまなかった」
お互いダン活のタイミングも違うので、ほかの連絡なんかとまとめて定例会ですればいいやと思っていたのだが、マックスは急ぎ状況を把握すべき事態と判断したようだ。
報連相の不徹底はコッチの落ち度なので、謝るしかない。
「俺たち、新しい魔法鞄も手に入れたんで」
「おっ、マジかよ!」
「物資積むのも最前線にシフトですし、看板残しておいて悪戯されると困るんです」
事実も交えたカバーストーリーです。
仮に、クランの看板に落書きでもされたら、報復しないことにはメンツが立たなくなるのだ。
「犯人探しから面倒だし、もう外しちゃえと」
「監視のためにダンジョンに常駐ってワケにもいかねぇしなあ」
整備したワイらに優先権を認めろや。くらいは言ってもいいが、原則としてダンジョンの占有は認められない。
「最近は、拠点にパーティを待機させる大手もいるけどね」
それは第六層内、道を広げ荷車を通せるようになって、サポート隊の人的余裕が生じているから。周辺整備とレベリング目的ですね。
☆
秋季はまともに狩りをしなかったので、全員、レベルは微動だにせず。
ただし、ラッドの【通信販売】は累計が1億ポイントを突破し、Rank:6となった。
途中で追加コマンドはあったが、実に6年ぶりのランクアップとなる。
「乗り物系、具体的にはバイク、自動車、重機……モーターボートの類がカタログに載ってる」
「どこで使うのかって話だよなあ」
例えばパワーショベルを魔道具ですと言い張るのは、無理かなと感じる。
使うならダンジョンの中、それも人気のない所限定になってしまう。
「逆に言えば、第九層以降で使い放題だな」
「「なるほど」」
にたりと、三人組は笑った。




