9-12.モラトリアム終了
改めて、春の頭から。
まず、春分祭週のはじまりの決闘事件とその後始末に時間をくわれた。
ご近所への騒動のお詫びとか、代官様のところへの付け届けとか、泣きながら大量のお手紙を書く主従とか。
ただまあ、ジュスティーヌのリミットブレイクは確定でいいだろうと判断。
第三週には、お誕生日おめでとうの会の開催にこぎつけた。
「この年度で私たちは16歳、プリムも14歳を迎えます。無事に一年を乗り越えたことに感謝します」
「元気にやっていこー」
「「おー」」
世間一般の成人年齢がおおむね15歳。
ウィスタリアのように15歳で結婚、出産も珍しいものではない。
ユイとセバスの結婚はまだだけど、マリエル16歳、正妻ユイ様の許可もあり、愛人として寿引退となる。
「ごめんね、ユイちゃん」
「仕方ないなあ」
身長に代表される身体の成長も止まったし、家業がらみの圧もあり、頃合いではあるのだ。
ジュスティーヌ?
「結婚が嫌で父親と袂をわかったんだろ?」
「間違ってはいないけど……」
ヴィオラお姉ちゃん口ごもる。
「それに手間をかけさせられた代価はきっちり払ってもらわないと。そう、身体で」
「あの、て、て、貞操でぇ……」
もうすぐ16歳のジュスティーヌ。恥じらいに、上目遣いを添えて。
だが、相対しているのは転生三人組なのだ。
「そんなものより前線戦力だ!」
「俺たちは優秀な前衛を求めている!」
「あいをんちゅー!」
違う、そうじゃないとなぜか駄々っ子になるジュスティーヌをあやすのはヴィオラお姉ちゃんの仕事でしょ。
「ああもう……」
「ほぇ~」
ユイちゃんは、なんだか優しい目をしていた。
☆
転生三人組から見た後輩第三陣、養護院から探索科に2人とは知っている。
この2人、ジョゼフによれば、3年卒できそうにないという。
「あの時間割表さえあれば、履修計画など簡単に立てられるものを」
「僕たちと違って、パーティを主導できなかったみたいだし、易きに流れたのかもね」
ジョゼフとカールの腹黒双子は頭いいからなあ。
いや、第三陣の2人こそ、ご当地基準の標準的な姿なのかもしれない。
第四陣には養護院から1人、マルク親方を窓口に木工・大工系職人集団コミュニティから2人行っている。
それとは別口で、マリエル妹もこの年次。
今年度の第五陣は養護院からはなしで、工房コミュニティから1人。
さらに来年度となると、ジョゼフたちもわからない。
「直接関わるのはせいぜい下2年だものなあ」
「まあ、在学3年ですからね」
工房コミュニティ系はマルク親方に聞けばわかるが、転生三人組と養護院とはほぼ縁が切れている。
「選択肢ができたということが、私たちには何よりの恩恵でしたよ、先輩」
「これでも僕たち、感謝はしているんだよ、先輩」
「まったく、かわいい後輩たちだな」
取り込むメンバーを後輩から育成する線は、もはや期待できそうにない。
かといって、一般募集で集まる人に、どこまで秘密を明かせるか。
そもそも、レベル100まで付き合ってくれるような者はいるのか。
人材への悩みは尽きない。
☆
第四週からは狩りも再開した。
2週行って1週休みの、ちょっと詰めたペースで6回のアタック。
冬季のうちにプリムローズがレベル15に到達していたため、第五層へご案内。
2パーティ同時進行、今回からは第五層と第六層でとなる。
第五層にはアドルフ、フィアフ、オルレア、ジャルマリス、プリムローズ、そして総監督にユイが就任。
第六層に転生三人組、クリス、ジュスティーヌとヴィオラの6人。
ただし、第五層からひかり輝くセバスが抜け、補助枠で入るのもユイだけのため、無理は禁物だ。
でまあ、確かに稼ぎは落ちたのだが、オークションの配分含めて第五層組は金貨80枚以上を手にした。
第六層組の8枚弱の10倍以上の収入である。
「もう、数字の大小でしかないなって感じ……」
「あわわわわわ」
あわわわプリムを穏やかな目で見守るフィアフも可愛い。
そのプリムローズもすぐに慣れる。慣れてしまうものなのだ。
霊格量ドッカーンでプリムローズはレベル22まで駆け上がり、他のメンバーもユイ以外は1つか2つ上がった。
☆
夏至祭週には、セバスがマリエルと神殿で結婚の祝福を受けてきた。
お腹が目立つ前に滑り込めて、マリエルもほっとしている。
ダン活から引退したとはいえ、以前と同様にクランハウスにちょくちょくやって来るが、必ず下女も同行するようになった。
夏季の方針会議、最大の議案はずばり、クリスとウィスタリアの第一子のご生誕をいかに祝うかだ。
祝われる側のクリスとウィスタリアが口を出すのもどうかと黙っていたせいで喧々諤々の激論となった。
「ねえ、赤の他人の趣味嗜好って独善にならない?」
フィアフの一言で誰とは言わないが女子組が我に返る。
「うん、わたしの時に変な贈り物やられても迷惑だわ」
「独善は、いけませんね」
「「ねー」」
今更に改めて確認したクリスたちの要望は、モノよりかはコト。
すでに妊婦ウィスタリアの日常にも配慮はもらっているが、今後は子育てにもご協力をと。
「僕の母もついているし、近くにセバスの両親なんかもいるわけだけど」
「夜泣きなど、子育ての苦労を聞かされているであります」
核家族化の進んだ、前世日本とは違う。
水場やかまどを共用するように、子育ても、コミュニティとしてひっくるめて分担することになる。
彼らにとってのコミュニティとは、すなわちまだクランではないクランの関係者だ。
なんとなくの出産予定日にあわせて、ダンジョンアタックのスケジュールもゆるめの6回で決定。
「それじゃあ皆様、今季もご安全に」
「「ご安全に」」
よしっ。
☆
最近の第六層において、第五層とのゲート周辺は、探索者の皆様に愛される憩いの空間となっている。
廃屋というアクセントを添えたテニスコート3面分くらいの空間に、日除けの東屋を建て、くつろぎのデッキチェアなど持ち込んだ連中がいるという。
いちいち撤収も手間なので、ご自由にお使いくださいだ。
第五層組も休憩にやってくる。
引率者ユイいわく、蒸し暑さは嫌だが、偽物とはいえ明るい空がある解放感がいいのだとか。
拠点整備を行った旧14号パーティは、さらに先へと進まれる金級以上の諸先輩から、第六層分にとどまらず、第七層、果ては第八層の生情報もいただいてしまった。
ご支援ご鞭撻の御礼に、第七層までの道を拡張するのが現在の予定。
ていうか、根本的には自分たちのためだ。
第六層はジャングルで見通しが効かず、かつ、これという地形的な目印もない。
ゆえに、特殊な加護や才能を持たない者に取れる手段は限られる。
ジャングルを行き交う獣道の道順を覚えること、また、何かしらの特徴を目印にしてたどること。
そして、目印は作れる。
第一層と同様に標識を設置すればいい。
道の分岐にナンバリングした石柱を刺すだけでいいのだ。
「というわけで、標識設置の依頼なのです。はい」
旧14号パーティ担当職員の汗かきおじさん、歩合給のおかげか最近はツヤツヤの脂マシマシ感がある。
掲示板には出さない組合からの直接依頼。
内容は、組合の用意した石柱を設置し、地図に記載。
現時点で第七層以降に向かうパーティおよびそのサポート隊は、自分たちの消費物資の運搬に手を割いている。
ピンポンダッシュ組は第六層をうろつけない。
なお地上から第六層までの標識運搬は、ピンポン組に依頼済みだそうだ。
今回の設置数は12本。
第六層の廃屋拠点から持ち出して設置するだけなら、多分1日かからない。
曲がりなりにも道を拡張済みのところ、行って帰ってそれくらいの距離しか手を出せていないということでもある。
それで金貨1枚というのだから破格だろう。
「これまでの皆様の拠点整備、自発的行為のため無償でありました。組合としては今回の依頼で多少なりとも報いるべきと、かなり上乗せしております」
そして、継続的に請けてくれることも望む。
2回目以降は、そんなもんでしょのお値段で。
物理の効かない幽霊という、特殊要因の存在する第五層はしょうがない。
だが第六層は、順当に力をつければ到達可能な領域であり、狩場になるのだと、広く探索者に知らしめることができれば。
挑戦者の母数の増加は、達成者の増加に反映されるだろう。
そして組合は、より多くの、より貴重なダンジョン産品を買取、卸して利潤を得ることができるのだ。
☆
夏季の日常生活ではクリスとウィスタリア夫妻&お子様のドタバタがあったが、時間がたてば関係者一同のいい思い出になるだろう。
組合の標識設置依頼は片手間仕事だし、レベルも順当にあがり、第六層ではまだ頭打ち感がない。
ジュスティーヌ・ヴィオラ組がレベル38、転生三人組が36。
ユイを除く第五層組が24から26で、こちらは頭打ちだ。
プリムローズも銀級に昇格した。




