9-07.ポリシープランニング第六層
夏季の中間にあたる第六週、2度の第六層チャレンジの反省および今後の方針相談会議を開催した。
「霊格量はウマウマね」
「第五層で止まったレベルがスポーンと上がっちゃいました」
現時点では一番レベルに飢えているジュスティーヌがスプーンをふりふり強調する。
本日のお茶うけはプリン。
しかも、生クリームと果物でたっぷりのデコレーションを施した、ア・ラ・モードである。
それはともかく、いわゆる経験値こと、魔物を倒して得られる霊格量はドッカンドッカンだった。
キラービーやジャイアントキャタピラー程度ならともかく、ウツボカズラなど確かにボーナス。
倒した際に、体が熱くなるくらいの霊格量が一気に流れ込むのを感じた。
移動しない魔物はただの的、遠隔攻撃の練習台だが、それも情報あればこそ。
霊格量が示すのは、本来であれば格上の魔物であり、現段階では背伸び狩場であるという事実だ。
手立てを間違うと一気に戦列崩壊の危機を孕む巨大毒蛾や、嫌らしい行動で嫌われ者な射撃蜘蛛、そして、第六層に慣れたパーティでも死を覚悟する大毒蛇。
このあたりからは、一瞬めまいがするくらいの霊格量が得られた。
しかも、旧14号パーティは第五層できちんとレベルを上げてきたうえでコレなのだ。
ゲート際に休憩拠点がないのも、ピンポンダッシュ組にしてみれば、下手に長居すると霊格酔いを起こすからかもしれない。
「気を抜ける拠点はほしいんだがなあ」
「造ってる余裕がないんだろうね」
大きな失敗一つ、あるいはちょっとした運の悪さで命の危険に晒される稼業ゆえ、戦う相手を選ぶのも、撤退を見極めるのも探索者パーティの必須技能。
旧14号パーティは、安全重視の方針を徹底し、事前に集められるデータも読み込んでいる。
そのうえで、遭遇しちゃったら逃げるよりも戦うほうが勝算高いかなという程度の計算はしている。
実際、マップ最強と思われる大毒蛇にも、第三層の森林大蛇から推測していた通り【発勁】が効いた。
効いていなければ、かなり危ない相手だ。
無属性魔力による【身体強化】で脳筋ファイトに持ち込めるヨッシーなどはまだいいが、後衛組は巻きつかれれば数カ所の骨折で済めば恩の字。
でなくとも、あいさつ代わりの毒牙ラッシュを食らえば、持ち込んだ解毒剤のストックが枯渇する。
キラービーも毒蛾も毒蛇も、【毒】という状態異常を付与っすね、とはゲーマーの感覚。
元来毒とは、種類が豊富すぎて対処が個々別々になるものだ。
「ひっくるめて解毒できるから魔法の解毒剤なんだよ?」
「あ、はい。そうっすね」
増産を引き受けてくれた専門家のマリエルがそう言うのだから、『そういうもの』なのだ。
☆
『トレント材』は長さ3mの丸太、高級材にふさわしくご立派である。
「出ちゃいましたね」
「マルク親方も欲しがってるんだよ」
渡すだけなら簡単で、ヨッシーの【個人倉庫】で運んで、親方の工房でそっとお出しすればいい。
でも、横流しがバレるとマズい。
組合の利権的な意味でも、どうやって持ち運んだ的な意味でも。
「とりあえず【個人倉庫】につっこんどくけど、これ、偽装魔法鞄には入らないサイズだよなあ」
ヨッシーの【個人倉庫】を偽装するためのただの革の鞄。
便利な言い訳にしているが、さすがに丸太をまるまる納められるほどの容量設定ではない。
仕方ないので、丸太を担いで地上に帰還という荒業を披露する羽目になった。
ワッショイワッショイの掛け声とともに、二人一組で1本から4本を担ぐ益荒男や乙女のエントリーに、組合の中庭にたむろする連中も釣られて歓声を上げる。
「獲ったどー!」
「「「ウォー!!」」」
騒ぎに飛び出してきた受付のお姉さん、すごく喜んでいた。
「自分、出身が木工のマルク親方のとこなのよ。で、親方も欲しがってるんだけど」
「はいはい~。1本はマルク工房に回します。ただ、そのぉ、また持ち帰って下さるとお姉さん嬉しいなぁって」
組合で、大量のバックオーダーを抱えているんだろうなあ。
☆
ウマウマな経験値こと霊格量とは異なり、金銭的な実入りは第四層以下となった。
「第四層なら、1回潜れば金貨1枚くらいにはなったんですよねえ」
ユイちゃんの金銭感覚も相当にこわれてしまった。
大断崖ショートカットを使えず移動時間のかかる一般的な探索者だと、同じ日数で第四層潜っても旧14号パーティの半分くらいになれば上等です。
具体的にはマックスやオルガたち。
探索者界隈の一般常識だと、それで十分以上に稼げている。
だいたい、第四層か第六層で2~4週間稼働できれば、庶民年収くらいを手にできます。
「まだ様子見だけど、慣れたからって倍増するとも思えませんしね」
「なんというか、普通なのよ」
毒蜂だから蜂蜜と毒針、芋虫からは芋虫肉、毒蛾から鱗粉みたいな、まあそうよねという感じの品々。
珍味や薬剤や香水の原料など、買取値も特に悪くはないのだが、とびぬけた良さもない。
大銅貨2枚の『トレント材』は運搬に難ありだし。
階層最高値の正銀貨1枚、『トレントの実』は確保しても丸太は放置も気持ちはわかる。
「霊格量はおいしいけど、金銭はウマくないか」
「むしろ第四層、そして第五層が金銭的にウマすぎるとみるべきだろうな」
☆
総じて、メインメンバーの7人ないし8人体制であれば魔物は何とかなる。
遭遇率も第五層並みか、そこまでの圧を感じない。
「マップの広さに散ってしまい、密度が下がっている感じ」
おカネの問題も、普通に生活する分には十分すぎるし、たくわえもある。
つまるところはトロフィーとしての数字でしかない。
最大の問題として浮上したのが環境だった。
ジャングルが面倒。
密林の字面は伊達じゃない。
獣道以外は、実質壁に囲まれているようなものだ。
コチラからの行動や視線・射線は邪魔するクセに、魔物からの索敵や射線は通る、実に嫌らしい壁。
洞窟、薄暗い遺跡と、肌寒いところから一転、むしばむ暑さという温度変化も地味に厄介だ。
「迂遠に思えるかもしれんが、自分は拠点構築、ゲート周辺を切り開くところから始めたい」
「腰を据えてかかるということですか?」
ジュスティーヌの問いに頷くラッド。
「見通しを確保できれば、簡単な堀と土塁だけでもかなり安全になるはずだ」
第三層までのような一大キャンプ場めいた広さは必要ない。
ゲート廃屋周辺にちょっとした空地をつくり、陽射しを遮る屋根だけの東屋めいたものをやっつけることを目指す。
第六層の全域地図は作られていない。
そりゃ、ろくな目印のない半径30kmのジャングルを縦横に踏破して地図つくるより、さっさと第七層を目指しますよねと、実際に現地に行って納得した。
だが、仮に第七層ゲートまで道のりが30kmだとして、丸一日歩き通しでたどりつけるだろうか。
普通に考えればジャングル内で野営を行うことになる。
最初にゲートを探し出した者はもちろんのこと、その後に続いた、踏破して行った諸先輩はすごい。
もちろん、ツテやコネでルートや野営手段などの情報を手に入れる努力はする。
しかし、転生三人組は楽に、より楽に、さらに楽にと流れる生き物である。
「チェーンソーを導入すべきだと思うんです」
「使うのか、神殺しを、第六層で!」
「ああ! 勝負は今! ここで決める!!」
セバスの提案に乗ったヨッシーとラッドの掛け合い芸はともかく、『神殺し』という単語にあちこちでピクリと反応があった。
心ざわめくキーワードだ、仕方ない。
ご当地の英雄譚にも、『チェートインソゥ』なる武器が神殺しに使われたというエピソードがあるそうな。
だがその実態は謎に包まれており、かろうじて両手持ちの武器であり、轟音とともに覚醒することが知られている。
絶対に、転生方面の諸先輩案件だと転生三人組は確信している。
「ゲート周辺の伐採に、第七層までのルートも」
「チェーンソーがあれば!?」
「やれる、やってやるぞ!」
拠点構築にしろルート開闢にしろ、他のパーティや、後世の探索者たちの助けにもなる、誇れる事業です。
ま、自分たちのためが第一なんだけど。
結果として誰かの助けになるなら気分もいいってもんで。
☆
夏季の第十週までに、第五層での後輩フォローアップの続きと第六層へのチャレンジ、各4回ずつの出撃を行った。
転生三人組がレベル30に到達。
ジュスティーヌとヴィオラが32、他のメインメンバーが31とレベル30の壁越え。
ヨッシーの【個人倉庫】、レベル29も容量拡張で、1辺100mと巨大ビル並みになった。
アドルフたちのレベルは22になり、第五層実績により銀級へ昇格した。
そして、第十週の末には学院から新たな巣立ちが行われる。
後輩第二陣、養護院出身のジョゼフとカールに、マルク工房コミュニティから探索科に行ったプリムローズが、晴れて卒院の日を迎える。




