9-05.プリペアード完了
探索者組合は利益を好む。
利益をもたらす存在を好む。
銀級相応にという但し書きはつくものの、旧14号パーティもその対象だ。
ゆえに、彼らの住居近隣での不審者潜伏事案は組合にとっても不都合だった。
彼らは大切なダンジョン鉱山採掘者……もとい組合員である。
なんらかの人物・組織に狙われているのなら対抗措置を取り、あるいは見捨て・売り飛ばすことも考えないといけない。
改めて調査した結果、まだクランじゃないクランハウス周辺で、奇妙な痕跡がいくつも発見された。
それなりのグレードの住宅街なのに、連日、乞食がふらふら歩いていたとの目撃証言。
しばらく空き家のはずなのに、つい最近、人のいた痕跡がある。
借家はあるかと聞きに来た男の顔がどうしても思い出せない。
などなど。
それらが今回の事案や旧14号パーティに関わるものかは断定できない。
しかし、おそらく隠密・隠蔽の魔道具まで用いた手口・手際からしてプロの仕業なのは間違いない。
不審者の捕縛に失敗し、アクヤの治安維持部隊のメンツ丸つぶれになった衛視隊。
不審者の潜伏に利用され、行政指導でメンツを失った商業組合。
断定はできないが、貴重な金蔓に害が及びメンツに泥を塗られるかもしれない探索者組合。
3者のハイレベル協議で情報交換が行われ、さらなる合同調査も確約。
みな「ウチのシマぁ荒らしてクレやがってよぉ、どこのどいつがぁ」という熱い気持ちで固く結ばれている。
反応は連鎖し拡大し。
アクヤの裏社会にうごめく組織同士の活発な駆け引き・つばぜり合いが勃発した。
☆
春季の第五週。
アクヤの街の陰に蠢く諸事情など知りようもない転生三人組およびメンバーたちは、家族寮の落成式を無事に終え、ほっと一息。
1階・2階あわせて最大6家族分で、トイレ、風呂、洗い場および炊事場といった水と火まわりが共用なのはご当地基準。
排水経路や煙道の確保、防水・耐水加工に難燃剤の設置など、設計・施工に手間暇・資金のかかる部分だからね。
第一号入居者はクリスとウィスタリア。
1階東側、クランハウスに近い側に移り住んだ。
また、落成を機に、部屋・食事等の徴収額の改定や、新規にクリスの母を女中枠で採用。
学院家政科卒で、セバスの母とは下級官吏宿舎での婦人会仲間であり、年次の離れた後輩にあたる。
クリスの母は家族寮に同居。
クリスの父は、まだ職を退く気はなく、官舎で長男夫妻とともに暮らす。
セバスの父は肩身が狭そうに男手が欲しいと嘆いているが、それ、パーティ側も同じ悩みを抱えているんですよ。
☆
第六週、夜中にクランハウスに侵入者があり、転生三人組はサイレント警報で叩き起こされた。
寝起きの悪いセバスがヨッシーの言うがままに、【空間把握改】で位置を特定し、手加減抜きの【念動手】で叩きこみからの取り押さえ。
自分の執務室設置の監視モニタで事態把握を急いでいたラッドが駆けつけ、スタンガンで意識を刈り取る。
拘束の後、ラッドとヨッシーが使いたくなかった方の地下室へ運搬。
目の覚めたセバスが各員を起こしてまわり、ダイニングで待機してもらう。
「夜這いは嬉しいですけど、日が昇ってからにしてくださいよぉ」
「冗談じゃないんだ、ヴィオラを貸して」
寝ぼけたジュスティーヌの世迷い言は流してあげよう。
☆
「だめね。多分、何もしゃべらないわよ」
闇魔術【精神安定】は、心を落ち着かせ、洗脳・誘惑等で歪んだ思考を清浄化させる効果があるとされる。
施術後の問いかけにも一言も発さず、無関心無表情を維持する姿は天晴れというしかない。
身元を確認できるようなものも何一つ持っていない。
「拷問も無意味か」
「多分ね」
そも、強要した自白の信憑性はいまいちだと、転生三人組は前世知識で知っている。
情報を引き出す有効なアプローチとして、「一貫した嘘をつくことは難しい」ことを利用した判別法があるが、相手がしゃべらないことには話にならない。
解放は論外、飼育する趣味も設備もないので人体実験に供した。
高等魔術階梯の闇魔術【精神破壊】は、【精神衝撃】の強化版。
射爆場で試せる類の魔術ではないし、かといって実践しないと身につかない。
何度か発動に成功した結果、廃人を通り越し事切れてしまった。
そりゃ普通の人間は、霊体を壊されたら肉体的にも死ぬ。
「俺たちの手は汚れちまったな」
「直接手を下したのはあたしなんだけど」
いわゆる暗部系の家の出であるヴィオラだから、殺人へのハードルが低いというわけではない。
当然の理として、不法侵入してくるような敵は処すしかない。
処し方にも段階はあるが、何もしゃべらないのでは選択肢など無いに等しい。
死体をヨッシーの【個人倉庫】経由でダンジョン奥に捨てれば終了。
「むしろ、ダンジョン初期に対人戦を経験しなくて済んだのがラッキー過ぎたんだろ」
「第一層の主敵って、絶対に人ですよねえ」
でないと、毎季誕生するニュービーがごそっと減る理由に説明がつかない。
コウモリもキノコも、棍棒一本でなんとかなる相手なのだ。
「……ここまでのガンギマリって、王家の影っぽいのよ」
ヴィオラ的にはジュスティーヌ案件だと、半ば確信しているようだが、証拠はないという。
「俺たちにちょっかい出してくるところってもなあ?」
「そして、どこまでも推測でしかない」
防犯・防諜体制を考えるにあたっては、当人よりも身内の安全確保がネックになる。
唐辛子スプレーなどの防犯グッズは持たせたが、荒事の本職相手に効果のあるものか。
「なんていうか、本当に、ごめんなさいね」
「気にせずに。覚悟はとうに決めています」
どのみち、レベル100を目指すことを決めた時点で、探索者を選んだ時点で、殺し殺されの覚悟は決めたはずなのだ。
自身の栄達に伴い、否応なしに家族親族が巻き込まれる、巻き込まざるを得ないことも想定のうちにある。
なるべく敵を作らないように心掛けてはいるが、それだって相手次第の面がある。
嫉妬の波動にさらされた学院時代のように、どうしたって敵は生じるのだ。
じゃあ、前世に目覚めることなく生きていた方がマシだったかというと、それもない。
力なき者は理不尽に踏みにじられる。
反撃の芽がある今の方がいい。
転生三人組はそう考えるに至っている。
☆
さて、裏側の事情だが、ヴィオラの推測は当たっていた。
王家の影こと暗部的な組織は、ジュスティーヌと周辺の情報が欲しいという王弟殿下の依頼を受けていた。
しかし、潜入初手で工作員が通報されるというまさかの失敗。
続いてアクヤの街の衛視隊、およびどこぞの組合の紐付きからの執拗な追跡。
さらに、手荒に引っ掻き回されたアクヤ裏社会で、仁義なき抗争勃発。
乱世めいた全面紛争アトモスフィアの中、工作員や地元協力者の死亡や行方不明が重なってリソースが枯渇。
暗部さんの上層部も頭を抱えた。
王家の影は、王弟殿下のコマではない。
それがなんで旧王都で意味不明の抗争に巻き込まれているのか。
打ち出した解決の一手は、衛視隊の上、つまりアクヤの街を統治する代官への事情説明と手打である。
代官様以下アクヤの街の衛視隊も、探索者組合や商業組合も、ついでに裏社会の面々も面白いはずはない。
娘の動向を知りたいだけなら悪事でも何でもない。
代官様、こそこそと引っかきまわす意味がわからないと、身内だけの席で吐き捨てたそうだ。
「なんで身内情報が伝わってくるんだ」
「そういうパフォーマンスでしょ。代官様たちは無関係、悪いのはぜーんぶ王弟殿下ってね」
探索者組合からも非公式なリークがあり、2系統で裏付けの取れたことになる。
ジュスティーヌは激怒した。
必ず、かの邪知暴虐の血縁上の父と縁を切らねばならぬと決意した。
というわけで、王都在住の王弟殿下に絶縁状を叩きつけるまで僅かに数日。
この際、代官様も添え状と特別仕立ての早馬使用許可を出している。
「これもパフォーマンスなんですけどね。怒っている姿を、わざわざ他者に見せるのって」
「立ち位置をはっきりさせて、味方を増やしておかないといけないのよねえ」
「貴族仕種というのも面倒ですね」
ただし、背景がはっきりしたのでその点は気楽。
「ちょっかい出して来たら潰す。それでいいな?」
「はい。ご迷惑をおかけしていますが、よろしくお願いします」
関わってこないなら放置でいい。
表向きに筋を通してくるなら対応せざるを得ないだろう。
だが、裏向きで迷惑になるなら、処す。
転生三人組はそういうスタンスだと、改めて自分たちに向けても明確化した。
☆
裏面の騒動はあれど、探索者としての活動は順調に推移した。
今季はアドルフたちを連れての第五層ツアー開催。
出ずっぱりの転生三人組とユイ以外は4回の参加で調整し、後輩たちのレベルは19まで急上昇。
「そうそう、行けば上がるって感じだったわねえ」
「かっこいいポーズ、俺たちも考えないとな」
「やめて!」
もうセバスのいろいろはボロボロよ!
転生三人組はレベル24に、旧来のメンバーは全員レベル25でそろった。




