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20、ルカの暗躍1


十で一族が滅び、十一で魔導師になった。それから四年、青剣騎士団の第一騎士として、ファリーナ帝国に潜入している。



ルカは、ブリジッタ・ピオヴァーニ伯爵夫人のところに遊びに来ていた。もちろん、約束はしていない。だから、誰にも知られずにやってきたのだ。


変身魔法と幻影魔法の二種類の魔法を扱うルカにとって、どこかに入り込むことは造作もなかった。ブリジッタの私室に入り込むと、彼女は机に向かって書き物をしていた。


「やぁ、ブリジッタ」


ぽんと肩を叩くと、反射的にペン先が飛んでくる。ルカは慌てて上体をのけぞった。


「あら? ルカ、集中してたのに話しかけないでちょうだい」


すぐ目の前でペン先が止まっている。邪魔されたからといって、即座に攻撃に移るのはいかがなものだろうか。


ルカの先生たちは、みんな揃って自己中心的だと思っている。自身の好きな分野に対しては、非常に貪欲なのだ。


「切りがいいところまで待ってたら、日が暮れるし、夫が帰ってくるじゃん」


今日、第一皇子のエヴァリストが、遠征から帰ってきたとの報告があった。ブリジッタの夫は、白狼騎士団の第一騎士なので、帰ってくるのは時間次第だ。


「……まあいいわ」


ブリジッタは、先生たちの中でも温厚で、まだまともな倫理観がある方だ。ちなみに一番ぶっ飛んでるのは、リュシアーナの妹のミレーユである。


「それで、用とは何かしら?」


「俺がエルダーリッチを倒したことは知ってる? そいつの毒を持ってきたんだけど、いる?」


「知らなかったけど、おめでとう。すぐに欲しいわ」


おざなりに褒められた。ブリジッタの目は、ルカの持ち物に向いている。


「毒針だから気をつけて。ほんの少しの量で死ぬから」


小脇に抱えていた頑丈な小箱をブリジッタに渡す。ブリジッタは嬉しそうに頬を染めて、箱を机の上に置いた。


ブリジッタは、薬学に秀でている。薬草の類だけでなく、毒でも大歓迎だ。この館には、温室と偽って、研究室まで完備している。


「けっこう太い針ね。どれくらいで死ぬのかしら?」


箱を開けて、ブリジッタはにこにことそれを観察している。


「一本で死ぬ。痙攣して死ぬまで十秒とかからない」


「詳しいわね」


「邪魔者を処分するのに使った」


そう言うと、ブリジッタは小箱の蓋を閉めた。切り替えが早い。


「…………あなた、リュシアーナをどうするつもり?」


「どうするも何も見ての通り?」


責められているのだろうか。リュシアーナを皇帝にすると言った時は、薄い反応しか返さなかったが……。


ブリジッタの表情は、毒に浮かれていた顔からいつも通りの無表情に戻っている。


「何? リュシアーナが心配?」


「いいえ。遅かれ早かれ、リュシアーナは見切りをつけていたでしょう」


ブリジッタから見てもリュシアーナが妃の地位に甘んじるとは思えなかったようだ。


では、何が引っ掛かっているのだろうか。


「あなたが、強制的にリュシアーナを叩き起こしたことだけは腑に落ちないわ。あなた、この国に未練なんてないでしょう?」


ルカは、十歳の時にすべてを失った。一族が壊滅したのだ。だからもう、ルカを縛る者はない。


「えー? 生まれ育った国なんだから、戻ってきてもおかしくないだろう?」


ブリジッタに何を企んでいるのかと疑われて、ルカはへらりと軽薄な笑みを浮かべる。


「まあいいわ。あなたが、青薔薇会に参加していた私たちにだけは、優しいのも知っているから」


ブリジッタはそれ以上、追及してこなかった。ルカが答える気がないのがわかったのだろう。


ブリジッタは、机の抽斗を開けて、二つの包みを取り出した。


「これ、リュシアーナとシェリルに届けてちょうだい」


そして、遠慮なくこき使ってくる。近いうちに会いに行く予定だったから問題ないが……。


「なにこれ」


ルカはブリジッタから受け取った包みの匂いを嗅ぐ。薬の匂いだ。しかもこれは……。


「はははははっ!」


薬の正体に気づいたルカは笑い声を立てる。


「うるさいわ」


ブリジッタは、迷惑そうに言って、また書類に向かい始めた。ルカはそれを見て、姿を消す。


自身の姿を消したまま、ルカは外に出た。常人離れした身体能力で駆ければ、ピオヴァーニ伯爵家の館がすぐに見えなくなる。


大きく跳躍すると、茜色の空の向こうに日が沈んでいくのが見えた。 


自由自在に魔力を操り、ルカは音もなく着地する。第三皇子の皇子宮の屋根に降り立ったルカは、懐にある包みをもう一度取り出した。


――この中に入っている薬は、避妊薬だ。


つまり、リュシアーナは、最初から第一皇子との間に子どもを作るつもりなんてなかったのだ。


「ぶっ飛んでんじゃん」


第一皇子に子を産めない欠陥品と罵られ傷ついているかと思ったが、まったくもって響いていなかったようだ。


むしろ、第一皇子の反応を観察していたのだろう。子がいなければ、即座に第一皇子を切り捨てることもできる。


「俺が背中を押すまでもなかったな」


ルカは一人呟いて、目立たない裏口に降り立つ。


第一皇子には、リュシアーナがいる。そして、第二皇子には、シェリルがいて、第三皇子には、ルカがいる。


皇位継承者を躍らせる舞台は、整った。これで好きなように継承争いをコントロールできる。


騎士や貴族たちが継承争いに気取られている間、リュシアーナたちは動きやすくなるだろう。ルカは次に何をしようかと企む。


(――まぁ、最後はみんな俺のために踊ってもらうがな)


ルカは、へらりと軽薄な笑みを浮かべて、姿を見せた。


もし誰かが目撃していたなら、茶髪に透き通るような紫の瞳をした青年が何もないところから現れたように見えただろう。


ルカは、偽りの姿のまま、皇子宮へと足を踏み入れたのだった。







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