泥臭い努力と派手な努力 語り手:美倉紅玉
天才は嫌いだ。正直に言って、目障りだ。なのに、俺達の支部には天才しかいない。
藤樹瑠衣は言うまでもなく。
石谷空音は騙りの天才だ。
蛇崎白は白蛇の所持者だ。
陸奥守駿は霊力の干渉を一切受けない祝福の持ち主だ。
鷹清は誰にも見えない未来が見える。
野田優愛は、潜在的に天才だ。
井宗さんは、最高の霊能力者だ。
石谷鈴音は、まだよくわからないが――きっと。
天才だらけの空間で、天才たちと一緒にいると、自分を見失いそうになる。俺の天才なのだと思い込んでしまいたくなる。その度に、俺は俺を殺して、正気に立ち返る。俺は天才じゃない。努力で補うしかできない。
でも――。
もう間に合わないかもしれない。泥臭いだけの努力では……。のろまな亀の歩みでは、また――。美倉槿花のように、大切な人を奪われてしまうかもしれない。今度は、その場に居ないかもしれない。藤樹瑠衣にならなくては。
「どうしたの?怖い顔して。いつもだけどね」
この任務の最終目的地である群馬県中部の山の神社本殿前。俺と野田優愛は寂れた神社の前に座り込んでいた。その隣りに座る高校生が、俺の顔を覗き込んだ。槿花のことは――なぜかは知らないが――もうバレてしまっているようだから、俺は槿花をしまっている。おかげで、槿花の怯える様子は見なくて済んだが、その覗き込む様は、あの日の悪魔そのものだった。
「別に……何もありません」
「そう?」
白さんに勧められて切った黒髪のボブは、あの時の面影こそない。しかし、それでも本人である以上はどことなく香るものがある。
「紅玉くんは――鬼を倒す気はないんだよね」
「昨日、そう言ったはずだが?」
2度も同じ話題で話したくないのだが。ただでさえ忌々しい相手だと言うのに。
俺の冷たい対応に――自分でも自覚はしている――、野田優愛は顔を背けた。
「……うん。わかった」
わかった?なにが?
俺の疑問をよそに、野田優愛は立ちあがると上着を脱いでキャミソール姿になった。
「お……おい!俺だって男だぞ!」
「大丈夫だよ。空音ちゃんから聞いたんだけど、私、天然の霊能力者だから性行為とかできないらしいし」
それは知っているけれど。
「それに、紅玉くんは、復讐したい相手に欲情しないでしょう?」
そう言いながら、緑のスーツケースから迷彩の防弾衣を取り出した。ごとり、と音を発てて地面に置かれた防弾衣に、俺は驚きを隠せないでいた。
「それ、どこで手に入れた?」
「ん?研究所の倉庫にあったから持ってきた」
持ってきた、じゃねぇよ。よく空港の検査通ったな。どうってことないよという風な野田優愛の様子にも驚かされる。ていうか、倉庫に防弾衣があるとか、研究所とは思えない備品だ。もともと、研究なんてしていないけれど。
「そんなことより、紅玉くんって、戦わないんだよね」
「うん」
防弾衣を身に着けた野田優愛が、俺の方を振り返った。
「じゃあさ、山、下りててよ」
「え?」
気軽に――友達をコンビニに誘うくらい軽く――放たれた言葉を、俺の耳は疑った。
「私の霊能は誰も感知できないから、戦う意志がない紅玉くんに居られても足を引っ張られるだけなんだよね」
戦わないなら要らない。そう告げられた俺は、意味もなく傷ついてしまった。
「私は紅玉くんが鬼に勝てないとは思わないけど、君にやる気がないなら、無理強いはできないし。君の霊能と私の霊能は相性悪いしね――」
鬼に対抗する手段がないわけではない。でも、俺の霊力量だとどう考えたって気休めレベルだ。これで戦うなんて正気じゃない。
「わかった――」
「うん。それでいいと思うよ」
山から下りて上を見上げると、いつの間にか山全体に7度の結界が張られていた。あの中で、俺達の悪魔は戦っているのだと思うと、なんだか情けなく思えて仕方がなかった。ぼうっとその結界を眺めていると、突然山全体が隠しようのないほどの大きな音と共に震えた。
俺の身体は、引き返していた。少し心拍数が上がっている気がした。今から戻っても、野田優愛は殺されているかもしれないとすら思った。
意味のないことはわかっていた。途中で、何度も自分を身体を止めようと思った。
止まらない身体に、非合理を感じた。
どう考えたって、俺は鬼に勝てない。毎日毎日、訓練が趣味と言われるほど努力しても、俺の霊力量は毛ほども増えなかった。だから、せめて操作力をあげて編み出した方法が――。
「霊力球――」
銃を形どった手の昇順は、壊された神社の中から出てきた黒い翼を持った赤鬼に合わせられた。鬼は、俺に気づくと高く飛んだが、俺の霊力球は音速で発射される。
「悪魔には、見せたことなかったかな」
音速の球は。
雷鳴とともに、鬼の翼が撃ち抜かれ成すすべもなく地面に落下し、本殿がさらに崩れる。
「これも、見たことないよね!」
どこからか、野田優愛の声が聞こえた。落下した鬼が立ち上がろうとすると、目で追えない速さでその場から消えていた。そのことを認識したと同時に、山の中腹で土煙があがった。
霊能物語本編第七章「鬼たち」第九節「泥臭い努力と派手な努力」でした。お楽しみいただけたでしょうか?お楽しみいただけた方は、評価とブックマークをお願いします!コメントまでしていただけると嬉しいです。誤字報告等は、小説家になろうのログインに関係なく、常時受け付けておりますので、作品の質の向上のため、報告していただけると助かります!それでは、次のお話でお会いしましょう!




