勇者の誕生
店の扉を開けて入ってきたのはへそ出しルックで胸が大きく健康的な日焼けした肌の色をしたスタイル抜群のギャル店員が遅番で出勤してきた。
「おはよーございまーす!!」
アスタが鼻の下を伸ばして釘付けになっていると、こちらに気づいて近寄ってきた。
「あ!もしかして、前にカプレーゼが言ってたはぐれた子?」
「はははは、はい!アスタと言います、はい!魔王を倒すために旅してます、はい!」
セクシーな女性に赤くなっていくアスタを目の前に、カプレーゼの肩を抱き寄せる。
「すごい!じゃあ旅の勇者してるんだ!!でも、ダメだよ!カプレーゼは返してあげないからね!!」
女性の大きな胸に頬が押しつけられて幸せそうに苦しむ元仲間を目をひん剥いて睨みつける。
「よく働くし、真面目だし、何よりかわいいのよ、こいつ〜!!」
カプレーゼの頬をムニムニと摘んでいる姿に嫉妬したアスタがチラシを見せた。
「こいつが島を出たの、これに参加する為ですよ」
「あ!やめてよ!てかアスタもだろ!!」
お姉さんがチラシを観察する。
「何これ?ピンクチラシ?しかもえらく古そうね・・・」
初めてそこでアスタがこそこそしていた理由を知ったキャメリアは軽蔑の眼差しを送り、シャロンは顔を赤くして指の間からチラシを見ていた。
「ネバーランドってこのお店の名前だったのね。それを間に受けて地図持ってくるなんて正真正銘のバカじゃない」
お姉さんが裏を見ると日付が書いてあった。
「あ、やっぱりこれ十何年も前のだ!」
「え!?うそ!?」
アスタも確認したら裏に小さく年月日が書いてあった。
見落としに気づき、魂が抜けたように椅子にもたれるアスタの前にマスター特製の大盛りのご飯が運ばれた。
「はいよ!かわいい息子と娘のために愛情込めて作ったから、たぁーんとお食べ!!」
「わぁ!」や「いただきまーす!」とマスターの言葉に嬉しそうにキャメリアとシャロンがご飯に食いついた。
「美味し〜い!」
シャロンが頬を押さえながら堪能していたが、アスタは廃人のように項垂れていた。
「まぁ、目的は一つ失ったけど、まだ別の目標があるじゃない!これ本当に美味しいから食べて元気出しなさいよ!」
キャメリアに渡されたフォークでやけ食いしていると、アスタの目にさらに衝撃の光景が飛び込んできた。
それはお姉さんと同じくらいスレンダーな美女友達の数人が食堂に食べに来ていたのだが、そこには運送屋で働いているというラペも混じっていた。
そして酒で酔い始めた女友達はラペやカプレーゼに抱きついたり、キスをしたりして可愛がっていた。
アスタはフォークを手から落とし、涙を溜めながら衝撃的な現場に失意の念を隠せなかった。
『俺って一体なんなん?こんなチンチクリン共と旅して、四天王や魔王軍との死戦を潜って、本来の目的も失って・・・でもその間にあいつらはあんなにいい思いして・・・』
視線を送っていたら従業員のお姉さんがアスタ達を紹介し始めた。
「みんな〜!あそこにいるのがカプレーゼとラペが探してた仲間のアスタよ!!」
ラペがアスタにやっと気づいて気まずそうな顔をした。
アスタはついに立ち上がった。
『言ってやる!俺もこの町で働きたいと!そしてこんな危ない旅生活をやめて、美女だらけの楽園に住むんだ!!今こそ言うんだ!ここで働かせてくださいと!!』
「ここで・・・」と言いかけた時にお姉さんがさらに続けて言った。
「ちなみに勇者やってて、旅してるんだって〜!!」
「何それ〜!かっこいーじゃーん!!」
「この町守ってね〜!」
酔ったお姉さん達の黄色い?声援にアスタは「はは・・・任せてください」と弱々しく涙目で言ってしまった。
「あーあ、言っちゃった」
「よかったわね。勇者の誕生じゃない」
シャロンとキャメリアが呆れながら言い捨て、またご飯を食べた。
パーティが満腹になり、少し店で休んでいると来客があった。
「いらっしゃい!あ!ファルシ!!」
「よお!アスタいる?」
カプレーゼに案内されたファルシが走って近寄った。
「アスタ!よかった!まだいた!!」
「けっ!なんだよ、また惨めな俺をバカにしに来たのか?」
完全に拗ねるアスタに謝る。
「悪いって!魔王軍がこんなに蔓延る中、がんばってここまで来てくれたのは本当にすごいと思ってるよ!だからほら!!」
そう言って革で作ったホルダーやベルトを出した。
「これ、アスタの旅に役立つようにって作ったんだ!明日の昼って言ってたけど、前から少しづつ作ってたのを急いで仕上げたから間に合ったよ!!」
「おお!」と驚きと喜びを同時に出す。
キャメリアもベルトを持ち上げて観察する。
「これ、良い革ね!」
「師匠にお願いして上物を貰ったんだ!・・・まあ、師匠の端切だけど」
最後に小声で照れ臭そうに言ったが、アスタは喜んで身に付けた。
そして手を握って上下に振った。
「ありがとう、ファルシ!!さっきまで本気でみんなのこと魔王軍に突き出してやろうかと思っていたけど、やっぱ仲間だな!!やめとくよ!!」
「お、おう・・・気が変わってくれてよかったよ」
ファルシが苦笑いする。
「アスタは俺らと違って何か宿命みたいなのがあるんだろ?魔王軍の尋ね人なんてアスタくらいだし、ここに留まるよりも旅を続けるべきなんだよ」
アスタの肩を組んで指差し、キャメリアとシャロンに自慢気にアスタを見せつける。
「こいつさ、こう見えて結構頭はキレるんだ!!俺らの誰よりも本を読んでたし、知恵を絞らせたら真っ先に良い案を出すのはアスタなんだ!!だからさ、みんなが仲間にした奴は大正解だよ!!」
それだけ言うと「じゃ!それだけだから!またな!!」と離れて店を出て行った。
アスタも外に出て見送る。
「気をつけて帰れよ!!」と叫ぶと、薄暗い道の建物の影からムスカリが出てきた。
ムスカリはファルシに抱きついて道の真ん中だというのにキスをし始め、その後イチャイチャしながら消えていった。
一気に無表情になるアスタ。
「やっぱり魔王軍に突き出すか」
2人は互いに見合わせて肩を竦めた。