初めての依頼
夕方、パーティの3人がどこへ行くともなくアラビアータの町中を歩いていく。
「そういえば今日どこ泊まる?」
シャロンの言葉にアスタとキャメリアが立ち止まる。
「あー、宿屋とかってこと?お金とか・・・いるんだよな?」
それはアスタにとって初めての経済との触れ合いだった。
「キャメリア、お金持ってる?」
「え?そんなに無いわよ?」
アスタの質問に怪訝な顔をして返す。
「シャロンは?」
「無いよ!!無一文!!」
シャロンの自信満々な答えに「そんなハキハキと答えられても・・・」とキャメリアが呆れる。
「教会とかは?」
「あの写真と共に眠るの?」
アスタの言葉にシャロンが真理を突いた。
「嫌だな。絶対嫌!」と表情を歪めてアスタが拒否する。
「・・・あ、そういえばシスターって次の町に出発したんじゃなかった?」
「あ・・・」と3人でしばらく無言になった。
キャメリアがアスタに提案する。
「さっきのカプレーゼの食堂に泊まらせてもらうのは?」
「却下!!絶っっっっ対に却下!!あんな裏切り者共と過ごせるか!!」
あまりにも強めの口調で食い気味に言われたのでキャメリアも流石にこれ以上は言わなかった。
「・・・じゃあどうする?どっかの宿屋に土下座しに行く?」
「最悪そうでもしないとな・・・」
シャロンの問いかけに腕を組んでアスタが答える。
『土下座の方がマシなのね・・・』
キャメリアが呆れていたら、シャロンが黙ってお腹を鳴らした。
「さっきたらふく食っただろ!!」とアスタに怒られ頬を膨らます。
そんな揉める3人に町の女性が話しかけてきた。
「そこの旅の方々、もしかして宿に困ってるの?」
「はい。ちょぉっとばかしお金が無くて・・・」
アスタが包み隠さず答えると、またシャロンが腹を鳴らした。
「私のとこの宿に泊めてあげてもいいわよ」
「え!?いいの?」
思わぬ申し出に目を輝かせて返事をするパーティ。
「ええ、しかも三食ベッド付き」
アスタは人の優しさに触れ安堵する。
「やっぱり女性って優しい生き物だよな!!」
偏見である。
「でも、ベッドがボロボロとか、ご飯もパンと残り物とかじゃないわよね?」
「え!そんなことあんの!?」
すぐにその偏見に満ちた安堵もキャメリアの疑問によって打ち砕かれた。
だが、女性もすぐ返答する。
「いいえ、最高級の食事と部屋を用意するわ。その代わり、この依頼を受けて欲しいの!」
その緊張感のある雰囲気に3人は黙って女性の手から差し出されたメモを受け取った。
陽が傾く中、パーティはメモを見ながら町を出た。
その背中を女性が黙って見ていると、後ろから男性が心配そうに声をかける。
「いくら何でもあんな子ども達には酷じゃないか?魔王軍の四天王が逃げた相手だぞ?」
「今はなり振り構ってられないわ!それに、もしかすると彼らが何とかしてくれるかもしれない・・・。根拠はないけどね」
パーティは陰が深まっていく林を歩いていた。
「魔女討伐の依頼ね・・・」
アスタが呟き、シャロンに尋ねる。
「魔女ってシャロンの魔導師とどう違うの?」
「さあ?」とシャロンは両手を上に向けて肩を竦める。
見かねたキャメリアが2人の前に出た。
「シャロンは魔導師!基本的に魔導師の血が入っていてアカデミーを卒業したら魔導師になれるの!魔女は突出して魔力が強くなった魔獣が突然変異か何かで知性を持ったもの!魔法局からウィッチコードを付けられて初めて魔女になれるの!!」
「へー、そうなんだ」
「知らなかった。じゃあ、めっちゃ強いんだ!」
感心するシャロンに腕を組んで呆れる。
「あのね、シャロンはアカデミーで習ってるはずでしょ?てかこの世界の共通認識よ!!」
「シャロン習った記憶無い!!」
それもそのはず。シャロンはアカデミーの授業のほとんどを寝ていたのだ。
「先生の声っていい子守唄・・・グゥ」と寝落ちの日々を過ごした後、試験時に苦労をしたのも仕方あるまい。
「絶対習ってるわよ!そもそも魔導師が主体の魔法局が絡んだあなた達の分野なんだから!」
シャロンが頬を膨らまして拗ねるがアスタが無視して続ける。
「その魔女ってのが別の土地を治めてたけど、魔王軍に襲われたとかでここらに来て大暴れしてると・・・。また魔王軍かよ!」
メモを見て呆れる。
「魔女の中には土地を治めてる人もいるらしいわね。一匹狼も多いけど。今回の魔女はウィッチコードシンデレラ、通称灰の魔女だって」
シャロンが顎に人差し指を当てる。
「灰被り姫?火を使うのかな?」
「多分な」
全員が立ち止まった。
『このパーティ、相性悪くない?』
みんながキャメリアを指す。
「草の妖精と」
次にシャロンを指し返す。
「氷の魔法と」
そしてアスタを指す。
「ただの有機物と」
キャメリアの言葉にアスタが怒った。
「おい!誰がただの有機物だ!!俺だっていざとなったら応用的な知恵と・・・刀があるさ!!」
2人が腕を組んで不満気にする。
「知恵って燃え盛る炎の前にはただ逃げるしかできないわよ!」
「刀だって熱で溶けるしね」
辛辣なコメントにアスタが口をへの字に曲げる。
「んなもん、その時にならなきゃわかんねーだろ!!行くぞ!!」
2人はため息を吐いてアスタについて行った。
アラビアータの町の外れには林に囲まれて、 隠れるように煉瓦造りの建物があった。
薄暗い建物には窓から射す夕陽に照らされた魔王が大きく、豪勢な椅子に座っている。
目の前には四天王のきしめんと葵がいた。
「あなた達に魔女の討伐をお願いするわ」




