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閑話 結婚式




 短編版を投稿したあと、後に加筆した部分を更に加筆修正したものです。

 読まなくても本編には影響はありません。






 


 本日は様々な困難を乗り越え、めでたく結婚式を迎えた新郎新婦の晴れの日。


 入籍はとうに済ませていたが、公の前でその晴れ姿を見せるのは初めてだった。


 国一番の大聖堂は、着飾った来賓客で溢れかえっていた。


 神話の世界を描いた巨大なステンドグラス。柱一本一本にまで施された金銀装飾。この日の為に国中から集められた多彩な花々。


 しかし、天上の楽園も斯くやと言う光景も、霞ませてしまう美しさを放つ者が。


 本日の主役の一人、花嫁である。









 リナは花嫁の控室で一人、手持ち無沙汰にしていた。


 会場の準備はその専門の人が滞りなく済ませた。衣装も化粧も完璧。来賓への挨拶は披露宴のあと。


 やる事がない。暇だ。


 花嫁の控室にまで花が所狭しと飾られ、室内はむっとする程、花の匂いで充満していた。


 換気しておいた方がいいかな…。


 本番前に気分が悪くなりそうだ。


 窓を開けようと近寄ると、扉がノックされ返事をする前に開かれ、女性がずかずかと入って来る。


「…何をしてらっしゃるのです?」


 その女性は眉根をぐっと寄せて、リナを睨みつける。


「換気をしようと思っただけよ。なに、逃げると思った?」

「ご自分の今までの行動を省みて、わたくし共がそう結論に至っても、仕方ないと思いませんか?」

「心外ねぇ」


 肩を竦めて言ってやると、女性はさらに顔を顰めた。コツと、床を踏む足音が妙に響く。


「今さら逃げないわよ。これで縁が切れると思うと清々するもの」

「っ…!貴様…!」


 その時、再び扉がノックされた。


 私でなく女性が返事をして、剣呑な雰囲気を完全に隠して扉を開け、その人物を恭しく招き入れた。


 純白のウエディングドレスだ。シルクタフタをたっぷり使い、真珠やスパンコールを散りばめ、さっくりと開いた胸元はフリルで飾られ、全長八メートルもあるベールは今は外されている。代々受け継がれてきたダイヤモンドのティアラは、伝統的に結い上げられた菫色の髪の上で輝いている。


 絵にも書けない美しさとはこの事か。


「まあ、素敵なお部屋ね。…ああ、今日は来てくれてありがとう。リナさん」

「━━━こちらこそ、またとない栄誉をお与え下さり恐悦至極に存じます。王太子妃殿下」


 入室して来た人物に、リナはさっと最上級の礼をする。


 本日の主役、元悪役令嬢アウリス・デ・ラマルティーヌ王太子妃に。


 


 


 

 本来ならフランク学園を光の速さで辞め、ジャックとイッチャイッチャな新婚生活を送る筈だったが、そうは問屋が卸さなかった。

 旦那が革卸なだけに。


 私の特殊な立場上、最低でも半年は在籍して貰わないと困る。たった五日で退学など前例がないと。


 んなもん知ったこっちゃねえと思ったが、フィリップ宰相の責任問題やら、政策に対する与野党の反発、国王の権威の失墜の可能性やら…。腹黒変態ロリコン宰相はどうでもよかった。最初に聞いた時は、お貴族様の勝手な事情に腹が立ち、おかわりが三回しか出来ず、夜しか眠れない日々が続いた。


 想像以上に、問題が国家間規模にまで及んでおり、まさか結婚しただけでこんな事になるなんてと、私もジャックも度肝を抜かれた。

 特にジャックは自分の行動がきっかけでと、かなり驚いて青褪めていた。


 まあそれも、アウリスが転生悪役令嬢チートで解決したらしいが。


 悪役令嬢。お前が世界治めろよ。


 私の愛しいジャックの血色を悪くするとは。腹黒変態ロリコン宰相め。許せん。禿げろ。ついでにトマスも禿げろ。

 この先ジャックとの幸せな結婚生活の為に協力する事にした。


 交換条件として、ガロリア王国と経済戦争真っ最中の長庚国(チャンガァングォン)と、規制なしの商売を許可させた。だからってやりたい放題するつもりはない。常識と倫理道徳の範囲内で行うつもりだ。

 私はどっかの、某腹黒変態ロリコン宰相とは違うのだ。


 在学中は地獄だった。

 悪役令嬢側の。


 アウリスは、私を見る度に罪悪感に心が痛むのか表情を歪ませ、それを見た攻略対象者達は、「お前のせいでアウリスが…!くっ、しかし、これ以上あいつに関わればもっとアウリスを苦しめる…!無念だ…!」的な顔で睨んで来るのだ。ウザかった。


 喜劇の追加公演なら、私のいない所でやってくれ。

 ファンクラブに入ってると、先行優先抽選販売されててくれ。


 そして晴れて学園を退学し、平穏な日々を過ごしていたら━━━。


「この度、無事学園をご卒業なさったエドワード王太子殿下と、ラマルティーヌ公爵令嬢様の結婚式が執り行われます。新王太子妃殿下におかれましては、元学友のリナ・キュリー様に付添人をして頂きたいとのご所望です。準備にかかる諸々は王家が負担致しますので、ご列席の程何卒宜しくお願い致します」


 と、愛の巣に突然押しかけられて言われた。

 それはお願いと言う名の命令だよね?


 頭の高い位置で括られた、毛先に行くにつれ紫色になる変わった白髪。小柄で整った可愛らしい顔立ちなのに、リナに向ける鋭利な刃物の様な表情のお陰で、親しみやすさは完全に皆無だ。


 何だろう。白に近い金の瞳。あれに睨まれる圧力に身に覚えがある。

 学園にいる間、常に感じていた射殺さんばかりの視線。

 生徒達からはいつも、敵意剥き出しの視線を受けていたが、その中でも抜きん出た、殺意たっぷりの視線が何処から向けられていた。それにそっくりだ。

 周囲に誰一人いない時でも感じてて、なに私暗殺されるの…?と背筋を凍らせていたあの。


 気にはなるが詳しく内容を確認する。


 結婚式は一か月後。近い。そして何で知らなかった、私。

 家族は私を慮って話題にしなかったとして、国の慶事なんて嫌でも耳にするでしょう。本能が拒否して見て抜ぬふりをしてたのか。


 フランク学園へ入学して退学となったリナの為、王太子妃殿下直々に名誉回復の機会を設けて下さった。との事。


 王太子妃殿下の付添人になれば、貴族達に一目置かれる様になり、今後の生活も安泰だろうと。


 いや、名誉もクソもないんだけど。恥かいたのあんたらでしょ?事実を歪曲すな。


 正直もう関わりたくない。


 多分アウリスが完全なる善意で提案して、エドワードが惚れた弱みで断れずに渋々承諾し、でも説得に時間がかかってこんなギリギリになって訪問して来たと。


 何も出来なかった。しかも前世の同郷に。

 負い目と罪悪感はずっと彼女の中にあり続ていた。


 罪悪感…。

 むこうが原因で、私は被害者だったけど、その後の政治の混乱原因のほんのちょびっと原因で、始末を完全にアウリスに押し付けてた。


 風の噂で、アケメケアのお偉いさんと新しく条約結んだとか、国会で「みんなで蹴落とし合うのでなくて、手を取り合って進まなければ、国の発展と未来は無いわ!」と、涙の演説をして分裂寸前だった政権を一つにしたとか。


 これって借りになるのかしら?

 もうこう思っている時点で気になってくる。

 今後ずっと、思考の端っこに住みつかられるのはイヤだ。


「分かりました。でも結婚式の付添人の一度きりで最後です。今後王太子妃殿下達には二度と関わらない様に厳命して下さい。あ、一筆書いて貰えます?」

「なっ…。お前の様な庶民がアウリスお嬢様と知己の仲と言うだけで烏滸がましいのに、その言いよう。何様のつもりだ!恥を知れ!


 きゅっと、瞳孔が縮まって、女性の瞳の色が淡い紫色に染まる。


 おっと、この感じ覚えがあるぞ。

 背後に薄っすら、某王子様のスタンド見えるぞ。


 何だお前、さては。

 悪役令嬢を幼い頃から一番側で見守り、病める時も健やかなる時も常に味方で相談役で、絶品な紅茶淹れから、スパイ活動まで何でも熟す側近中の側近メイドだな。

 悪役令嬢が断罪回避に勤しむ行動の中で出会い、命も心も救われ、身も心も魂も忠誠を誓ったタイプのメイドだな?

 場合によっては、主に仇なす敵を末代まで駆逐する、パーフェクトバトルメイドだな?

 


 今はシンプルなスーツ姿だけど、メイド服が死ぬほど似合いそうだし。多分そう。


「それを約束して貰えるのならやりますよ。どうします?」

「…良いだろう。あとでアウリスお嬢様の威光に縋ろうとも無駄だからな。その時は私みずからお前に引導を渡してやる!」


 やっぱりパーフェクトバトルメイドだった。


 パーフェクトバトルメイドは私に殺気を突き刺して、我が家から去って行った。

 当日も迎えに来るらしい。監視する気満々だ。


「あれ?お客さん帰った?」

「あらジャック。仕事の邪魔しちゃってた?」

「いや平気。配達も終わったし、発注も済んだし。お前はどうしたんだ?」


 リナは、全く手を付けられなかったお茶を片付けながらにっこり笑った。


「何でもないわ。女々しくて獰猛で高貴な人達に目を付けられてるだけだから」

「それ、だけって言わないよな?」

「と言う訳だから私、来月王子様とお姫様の結婚式に行くからお留守番宜しくね!何か準備は向うがするって言ってたけど、癪だから今から一張羅仕立てに行ってくるわね!あ、お父さんにそれに似合う靴作って貰お~と!靴屋に産まれて良かった!」

「……リナ。夫婦会議しよっか」


 イイ笑顔のリナの肩をぽんと叩き、くいっと親指を長椅子の方に向けて、ジャックは妻を連行した。







     ※※※※※







 そして今に至る。


 パーフェクトバトルメイドはアウリスをお迎えすると、私にだけ分かる殺気をバシバシ飛ばしながら、控室の隅で微動だにしていない。忍か。


 何かしたらヤる、と目がイっている。


「リナさん今日は来てくれてありがとう。殿下もあなたに会いたがっていたけど、どうしても時間が取れないらしくて」

「(来たくて来てないけど。あと王子のそれテイの良い断り文句な)勿体無いお言葉です。両殿下にお心を砕いて頂けたと思うだけで、この下賤な身には有り余る幸運です」

「そんなに畏まらなくいいのよ。わたくし達同級生じゃない。ほら、ちょっと特殊な…」

「(畏まらんとあんたのパーフェクトバトルメイドに処されるんだよ。あとその言い方だと、乙女の花が咲きそうだからヤメテ!)だからこそです。『親しき中にも礼儀あり』ですよね?」


 親しきと聞いて少し心が軽くなったのか、アウリスが微笑んだ。

 パーフェクトバトルメイドも少し肩から力を抜いた様子だ。


 それ程時間も無い。今日は秒単位で予定が詰まっている。


「妃殿下。そろそろお時間です」


 アウリスが世間話をしようとすると、さっとパーフェクトバトルメイドが割り込んで来た。

 お時間で~すと、剥がしか。

 推しじゃないから喜んで離れよう。


 しかしアウリスが待ってと、パーフェクトバトルメイドを制す。


「リナさん…。わたくしこれであなたとお別れしたくないの。同じ運命を辿った者同士仲良く…」


 自分は断罪を回避して、無事エドワードと結婚出来た。━━━ヒロインのリナを差し置いて。学園に居る間は、いやその前から、リナはアウリス達貴族に振り回されてばかりで、アウリスは何もしてあげる事が出来なかった。だから…。


 アウリスの切なく、渇望するような瞳の揺れから、その内心をリナは正確に読み取った。


(それって、私を軽く下に見てない?私はお姫様、あなたは庶民で革屋の若女将。女のテッペンに立てる筈だったのに、私が奪ってしまってごめんなさい。罪悪感を無くしたいから、何かさせてって?)


 いや、被害妄想が過ぎてるかな。でも無意識に、絶対含まれてる。


 最後まで言わせねえよと、ビシっと掌をアウリスに向けた。


「妃殿下。私を思うのならそれ以上は仰らないで下さい。私達は身分が違いすぎます。関わってよい者同士では無いのです」

「身分なんて…!そんなの関係無いわ…!」


 身分は関係無いか…。その身分を使って私に『親切』をしているつもりなのに?その無自覚の親切に今後も振り回されるのか?

 攻略対象者達のセ〇ム付きで?

 そんなのゴメンだ。


 じゃいいかと、私は開き直る事にした。


「こうしてお会いするのは今日で最後です。妃殿下達に関わらない事は既に書面で約束して、長庚国(チャンガァングォン)の行政文書庫に特別に保管して貰っています。だから無理ですね」


 国内なら権力でどうにかされそうだけど、他国はどうやったって無理だろう。

 しかも、経済戦争真っ最中の長庚国なら、なおさら。


 笑顔でそう言うと、綺麗にお化粧された顔でポカンとアウリスは言葉を失った。パーフェクトバトルメイドも呆気に取られている。


「確かに、そんな契約書に、サインした覚えが…。えっ、でも、長庚国?行政文書庫?なんて、一般人が、利用できる、所じゃ…ええ?」


 可哀そうに、混乱して言葉がたどたどしくなっている。ダレノセイダロウネ。


「うちの家業が革卸売業だって知ってます?昔、半年学園に籍を置く代わりに、長庚国と取り引き出来るようにして貰ったんですけど、その時のあれこれで実家の父が作る靴に、とある偉い人が惚れこみまして、その縁で」


 まさかそれが、長庚国の政府高官だとは思わなかった。

 だって革加工業者の所に仕入れに行ったら、熱心に作業を見学している人がいたんだよ。ただの拘りが強い人かと思ったたら、革になる前の動物の生育・交配まで熟知してないと気が済まない大の革好きなんだって。


 また変態か。

 何故こんなにも変態に縁があるのか。

 変態は変態を呼ぶのか。


 私の父親が靴職人と知ると、『ほう…腕前はいか程か見てやろう……バチクソ好みじゃ―――!パトロンになってやる―――!金を出させてくれ―――!出させて下さい―――!』と、歩く金庫になってしまった。


 そのツテと入れ知恵で、契約書を行政文書の書庫に保管して貰えたのだ。もしかしなくても、これ職権乱用だよね…?


 でも、『拙者の権力は推しの権力。その為に築き上げて来たもの。推しの発展の踏み台になれるのなら、権力だろうが圧力だろうが何でも大盤振る舞いする所存!推しの糧になれるのなら本望!則ち世界平和!』って喜んでたから、ダイジョウブダヨキット。


 そして腹黒変態ロリコン宰相が意趣返しとばかりに、実家の靴屋から顧客離れを促していたが、長庚国の太客を新たに獲得できた事で、その心配も無くなった。

 長庚国にもガロリア国内にもめっちゃ宣伝してくれる。

 布教は義務だって、めっちゃ伝道奉仕に勤しみまくっている。


 私の本気が伝わったのか、アウリスが青褪めている。動揺で瞳が忙しなく動き、口ははくはくと言葉を紡げない。


「お前…!長庚国だと⁈祖国を裏切るつもりか!」

「やだな、長庚国とうちは、商売の良きライバルで良き取り引き相手でしょ?表向きは。そんな事言っていると逆に怪しまれますよ。あなたも、私も、私の元学友も」


 パーフェクトバトルメイドもから表情が無くなった。

 きゅっと瞳孔が縮まって、瞳が毒々しい紫色に変わった。

 主を脅しの材料に使われて、感情が振り切ったのだろう。


 ごめんね私、今普通じゃないから。


「リっ、リナさん…?」


 贖罪の気持ちを受け入れて貰えていない。そう解釈したアウリスが震えながら己の体を抱きしめた。

 胸が相変わらず腕に乗っている。デカイ。

 つか、ボリュームアップしとる。エッッッロイ。


「ごめんなさい。でも別に怒ってないよ?」

「でっでも…。長庚国との関係を匂わせて…。わたくしは妃で、だから…だから…」


 可哀そうに、めっちゃ絶望してるじゃん。でも本当に怒ってないよ。だって。


「ほら、妊婦は感情が不安定になるって言いません?」


 …………………。


「妊婦?誰が?」

「私が。結婚して何年経ったと思ってるの?妊娠くらいするわよ」


 おほほほほほほ!と、まだ殆ど目立たないお腹を撫でた。

 待望の第一子である。


 結婚した時、リナ十五歳とジャック十六歳。お互いに年齢云々でなく『若い』と言う事は理解していた。まず自分達の生活がしっかりしないと。子供なんてとんでもない。

 夫婦のイッチャイッチャだって、結婚して随分経ってからだった。

 ジャックが、紳士で思慮深くて私を愛してくれていて真面目で一途で百人乗っても大丈夫そうで……とにかく愛おしい。


 そのジャックとの初めての子供。

 もう可愛い。愛おしい。愛のままに我儘にママは君を甘やかしたくてたまらないよ。


 アウリスはリナの顔とお腹を交互に見て目を白黒させた。

 リナが妻となり母となっている事に、今やっと現実味を持っていた。

 そうか、彼女は、乙女ゲームのヒロインの、その先を進んでいるのか、と…。


 いつの間にか暗器を取り出していた、パーフェクトバトルメイドことオルタンシアも戸惑っていた。さすがに妊婦を問答無用で処するのは躊躇うらしい。


「そっそれは、おめでとうございます…」


 花嫁からの祝福を快く受け入れ、リナは我が子が入っているお腹を、見せつけるように反って自慢する。


「ほらもう時間よ。えーとメイドさん?花嫁さんを連れて行きましょう」

「私は侍女だ。妃殿下、参りましょう」


 リナのペースに巻き込まれ気が抜けていたオルタンシアは、さっとアウリスとリナの間に割り込んで、きっとリナをねめつける。

 こいつに主導権を渡してなるものか。


 リナは気分を害した様子も無く、はいはいと距離を取る。さっさと終わらせてさっさと帰るのだ。


「あっそうだ。ひとつだけ聞きたい事があったんだ」


 アウリスは身構える。

 実は恨み言のひとつふたつ、百や二百あるのでは…。


 オルタンシアも主の緊張を感じ取って、強張った表情で様子を見守る。

 どんな責めも受け入れる覚悟を決めた主を…。


「前世、陸上部でした?もしくはバスケ部」

「……………………。いえ。小さい頃、器械体操を習っていました…」


 そっちかー!


 ガラーンゴローンと、大聖堂の鐘の音が響き渡った。








     ※※※※※※








「リナ、言われた通りに迎えに来たけど、まだ披露宴とかの時間じゃねえの?」

「ジャック!来てくれたのね!さすが王家が使う伝令、仕事が早いわ!」


 王家の結婚式で盛り上がる大聖堂を背中に、私はジャックに駆け寄った。

 子供がいるのだから程々に!と怒るジャックも愛おしい。


「披露宴はお城でやるんですって。あんな古狸達と某腹黒変態ロリコン宰相の巣窟に行くわけないじゃない。胎教に悪いわ!」

「某って、一人しかいねえじゃねえか。まあ、俺としてはそうして貰えると助かるけど」


 ジャックは今日の為に着飾った妻の姿を眺めた。

 もともと美少女であったが、正装姿はお姫様の隣に立っても見劣りしない、いやお姫様以上に美しい。


 昔、勢いのまま行った結婚式の時も綺麗だったが…。


「なあ、お前も、こう言う所でドレス着て結婚式…」

「している暇なんてないわよ。私は愛する旦那様と、愛する我が子を、愛して愛して愛するのに忙しいの!」

「愛が重い。産まれる前から母の愛のプレッシャーが強過ぎる」

「こう言うのはね、場所とかじゃないのよ。誰かとなのよ。綺麗な格好して、盛大に祝って貰っても、相手がジャックじゃなかったら、それは結婚式じゃなくて葬式よ。まさしく結婚は人生の墓場の体現よ!」

「それ、奔放な愛じゃなくて一人と深く愛し合って、身を清め、墓のある教会で結婚しろって意味じゃなかったっけ」


 おーと、拳を高く上げるリナを、ジャックは仕方ないなと肩を竦める。でもその口元は笑っている。


 リナはどんな時でもリナであった。そんな所にジャックは惚れたのだ。


 ジャックはふと思った。

 子供が産まれて、物心がついたら、またあの教会で結婚式を挙げるのだ。

 もっと稼いで、今のドレスよりももっと豪華なドレスを着せてやって、子供達も思いっ切り着飾ってやって。

 うん。そうしよう。神父のじいさんには、長生きしてもらわにゃ困るな。


 うんうんと、ジャックが一人頷いていると、愛の雄叫び上げに満足したのかリナが、あっそうだと振り返る。


「ジャック昔、子供は子孫を含めて百十八人て言ったじゃない。あれ訂正」

「そっそうだな、子供はひとりでも十分…」

「私が子供十人産んで、子供達が十人ずつ産んだらあっと言う間に達成できるわ。一桁…いえ、二桁は多く見積もらないと!」


 全然産むつもりだった。


「おい!自分にも子供にも負担かけ過ぎだ!子宝願い過ぎて神様も裸足で逃げ出すぞ!」

「やだ、神様って案外ヤワね。根性が足りないのよ根性が!」

「神様に根性論を説くんじゃなーい!」


 二人は盛大に鳴り響く鐘の音を背中に聞きながら、神も胸焼けする夫婦喧嘩を繰り広げた。

「子供はジャック似の男の子と女の子が五人ずつよ!」「はあ?リナに似れば顔面の勝利が約束されたも同然だろ。リナ似の子が元気に産まれればそれで十分だ!」「中身は⁈健気で清楚で淑やかで麗らかなリナちゃん成分は⁈」「それどこのリナちゃんだ。俺の知らないリナちゃんだな!」


 大聖堂の鐘は鳴り響く。

 新たな夫婦の門出を祝福する為。


 その鐘の音の合間に『アウリスやはりお前を諦められない!』『キュロス・アケメケア・ギョーム・ゾディアック、貴様が何故ここに!』『アウリスお前を愛している。帝王の妃の座はお前に捧げる。国の羽虫連中は片付けた、俺と結婚してくれ!』『戯言をほざくな!アウリスはとっくに王族籍に入った私の妻だ!部外者は立ち去れ!』『消えるのは貴様だ!庶民に扱き下ろされた小者で無能の癖に!』『なん、だと…?よし分かった戦争だ!』『やめて!わたくしの為に争わないで!』と、物騒な声が聞こえてくる気がしないでもないが、リナとジャックはそれ所でない。





 これから新しく始まる家族の、幸せな物語の語り合いに忙しいのだ。







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