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ゴースト・バレンタイン  作者: サトウイツキ
最終章 12月の話
43/43

ゴースト・バレンタイン

 すべてが収束した後、2人はまた病院にいた。

 莉乃は勝手に病院を抜け出したということで大目玉を食らったが、本人はあまり気にしていなかった。なぜってそのとき身体の中にいたのは莉乃ではなかったからだ。抜け出そうと思って抜け出してなんかいない。


「先輩、もうすぐバレンタインですね」


 莉乃は包帯の巻かれた腕で、可愛らしいマグカップに注がれたココアを口に含んだ。


「もうすぐってお前、1ヶ月も先だろ」


「そうですけど、うーん。……あっ、テレビ付けて下さい。チャンネルはえっと……?」


 良平は売店で購入したカードをテレビの横の機械に差し込み、チャンネルを弄る。

 一瞬ニュース番組に切り替わったところで、莉乃があっと声を上げた。良平もつられて手を止めた。


『先日発生した爆発事故では、同高校の生徒が爆発に巻き込まれ……』


 正月の特番を除けば、ニュースではほとんど同じ内容が報道されていた。


 とある高校で起きた、謎の爆発事故。原因は全く不明で、目撃者もいない。被害に遭ったのは高校の生徒で、熱心な美化委員だった……


 ただの事故にしてはわけのわからない点が多すぎる事は、誰が見ても分かった。本当の事を知っているのは、良平と莉乃の2人だけ。木村や安達には、全てを話した訳ではなかった。

 トラック事故、渡辺という男性の不審死、そして学校の爆発事故。それらが関連づけられてテーブルに乗ることは無かった。まるでどれも、人間では及ばない力で何かが行われたかのように、良平たちの知る限りでの不都合な点は全て無かった事になっていた。


「葉山先輩……」


 まるで自分のせいだとばかりに顔に影を落とす莉乃。


「紗英は自分にしかできない事をしたんだ。それが彼女の選択なら、それは間違った事じゃないし、誇るべきことだ」


 良平は思うままを伝えた。

 嘘も、偽りも無く、それは本心だった。今こうして莉乃がベッドに縛り付けられているのは、紛れもなく彼女のせいだし、彼女が関わらなければ事態はもっと穏やかに収束したかもしれない。

 しかしそれでこそ叶った未来があるのは、確かだった。


 誰かがドアをノックした。もうすぐ検査の時間だ。


「失礼しまぁああっすううぅ!」


 テンション高めに飛び込んで来たのは木村だ。検査にきたであろうナースはどこにも見当たらない。

 続いて小瀧、郁美も病室にやってくる。もし個室じゃなかったら、大迷惑になるところだった。


 少し遅れて入ってきたのは、安達と、安達の押す車椅子に乗った少女。


「あの、えっと……」


 少女は言葉を探していた。


「元気? なんちって」


 しばしの静寂。

 どっと笑みが溢れたのは、莉乃がくすりろ笑顔をこぼしてからだ。

 車椅子の少女は、紗英だ。全身に火傷を負い、今は足がうまく機能しないらしい。もっとも、時間とともに癒えていく、そんな傷だったのだけれど。


「葉山先輩こそ、大丈夫ですか。車椅子でって、お互い様なのにっ」


 莉乃はまだ笑っている。


「お見舞い持ってきたんだよ。これ」


 ビニール袋から現れた果物やお菓子、清涼飲料水が、机の上に並べられていく。

 しかしお菓子には、どうもチョコレート菓子が多いようだった。


「……チョコ、多くないか?」


「いいだろだって、もうすぐバレンタインだし」


 木村は胸を張ってそう答えた。

 まだ1ヶ月も先じゃないかと言いそうになって、激しいデジャヴと共にそれを飲み込んだ。


「ってそういえば、去年のバレンタイン。お前いくつチョコ貰ったんだよ」


 また懐かしい話だ。


「量より質だろ」


 良平はアーモンドの包まれた丸いチョコレートに手を伸ばす。


「じゃあ俺の勝ちだな」


 木村は威張る。


「は?」


「うちのチョコは天下一品。どんなモノより愛情増し増しだ」


 隅で小瀧が顔を赤くして縮こまっている。

 なあるほど。そういうことか。


「それなら俺もだな。なんせ幽霊から貰ったチョコだからな」


 自分で作った、とは言わない。


「嫉妬しちゃいますね。莉乃ちゃん」


 郁美は笑顔のまま言った。


「幽霊ってあの、果穂さんですか」


 莉乃がどこまで知っているのかは分からない。紛いなりにも1つの体の中にいた2人だ。意識の疎通が行われていたとしても不思議ではない。


「聞きたいのか?少し、長くなるけど」


 良平は側に活けられた花瓶を見つめた。果穂の好きだった、黄色いフリージアだ。まだ蕾もあるが、咲いている花も、生花店でギリギリ手に入った。

 この話をしたら、果穂は恥ずかしがるだろうか。今となっては分からない。


 莉乃も花瓶に目をくれた。可愛らしい小さな花が、微笑むように咲いている。まるで、あのバレンタインの出来事を話すことを、許してくれたかのように。


「折角なので。聞かせてください。先輩の、ゴーストバレンタインを」

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!

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