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双眸の精霊獣《アストラル》  作者: 果実夢想
Ⅰ 猫のグレムリン
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#1 白き猫は悲劇をもたらす【8th】

 長くも短くもなく、太くも細くもない適度な大きさの刀剣が、突如目の前に現れた。


「な、何だ?」


 困惑する俺をよそに、刀剣が言葉を紡ぐ。


「さぁ蓮さん! 早く柄を握ってください」


 いや、いきなりそんなことを言われても。……というかそもそも。


「お前、ミラか? 何でそんな姿になってんだよ」

「精霊獣は、三つの姿に変化することができます。一つ目は、人間の姿。二つ目は、動物の姿。最後に三つ目、戦闘時には武器の姿になってパートナーをサポートしながら、一緒に戦うわけです」


 この間言ってた、パートナーとなる存在がいてこそ真の力を発揮できる、とはそういうことか。


 一人で納得していると、ミラは更に続ける。


「これがわたし、ミラの武器――」


 そして一拍あけ、言い放つ。


「――猫の刀剣〈グレムリン〉です!」


 どうやらこの刀剣はグレムリンというらしい。初めて聞く名前だけど、かっこいいじゃないか。


 心の中で誰にともなく称賛を与えながら、俺はグレムリンの柄をそっと握り締めた。


 突如、俺の腕が淡く発光する。


 何が起きたのか分からず固まっている間、徐々に光は弱まっていき、一分ほどで完全に消沈した。


「ふぅ、これで契約は完了しました。……あのー、蓮さん? いつまで固まっているんですか? 終わりましたってば」


 おっと、いかんいかん。驚きのあまり硬直するのって本当にあるんだね。


 ともあれ、俺とミラは正式にパートナーになれたんだよな。早まったことをしてしまったと思わなくもないが、後悔はしていない。


「てめェは刀剣かよォ。はッ、面白ェじゃねぇかァ!」


 契約が終わるまでずっと黙っていた奴が、愉快そうにほざく。


「てめぇは……って、お前は違うのか?」

「あ、言うのを忘れてましたが、武器の種類は人によって異なります。わたしの武器は刀剣でも、あの人は違う武器のはずです」


 なるほど。やっと得心がいった。


 そういえば、どうして一人なんだろう。もしあいつがパートナー側なら、近くに精霊獣が。逆に精霊獣側なら、近くにパートナーがいるべきじゃないのか? 何故ならミラの話によると、お互い一人じゃ干戈(かんか)できないから。


 と、そこまで考えて俺は感づく。まさか、こいつの目的はミラを殺すことなんかじゃなく――。


「やめろ、レグルス」


 不意に、レグルスというらしい奴の後方から響いた、聞き覚えのある声。


 振り返ったレグルスは、忌々しげに舌鼓を打つ。


「ちッ、もう来やがったのかよォ」

「今のところ作戦は成功だ。帰るぞ」

「待てよッ!」


 そのまま立ち去ろうとする二人を慌てて呼び止める。


「作戦って何だよ!? ミラの命を狙ってるのはお前らか!」

「ああ。俺の目的はそこの猫――ミラ、だったか? も含め、全ての精霊獣とパートナーを殺すことだ」

「な……」


 男の告白に、開いた口が塞がらない。


 そんなことして、どうすんだよ。


 俺の胸中を表情で察したのか、補足してくれる。


「お前は知らないだろう。今まで精霊獣がどれだけの危害を及ぼしているのか。およそ二十年前だ。世界を支配するだの滅ぼすだのといった下らない理由で、無関係の人々を殺した。精霊獣の武器を利用すれば、それくらいは容易い。俺はまだ園児だったのに、家族や友を失った。そう、奴等の標的にされてしまったのだ。だから、俺は子供(なが)ら誓った。必ず復讐してやる、と」


 ……ちょっと、待てよ。


 今度は、その程度の言葉も出なかった。そんなの、おかしいって。


 こいつの言っていることが本当だとしたら、ミラは……そして俺は。


 ――悪だっていうのか?


「昔の話だ。今の精霊獣共はそんなこと思っていないのかもしれない。だが、よく考えてみろ。精霊獣の武器は絶大な威力を誇っているのだ。一人も悪用しないとは考えにくいだろう。俺はもう、あんな光景を目にするのは御免だ。不安の芽は先に摘んでおいたほうがいい」


 ……だから、待ってくれ。


 何のために、意を決してミラのパートナーになったと思ってる。


 もちろん俺は、悪くない。世界を滅ぼすどころか、ずっと平和でいたいんだ。


 だけど、こいつらも悪くない。やり方は違えど、同じく平和を願ってる。


 畜生、どうすりゃいいんだよ。


「計画を企てた原初に見つけたのが、偶然ミラだった。だがパートナーのいない精霊獣を殺しても意味がないのだ。俺が復讐すべきは、精霊獣だけではないのだからな。故にミラを脅し、命を狙われてると感じさせ、あとはレグルスに尾行を頼んだ。なのに肝心の五十嵐はミラを追い出してしまったというじゃないか。だから、レグルスにこう命令した。ミラを負傷させ、五十嵐が来るまで待っていろ、とな。学校で写真を見せたのはその為だ。まぁそれでも五十嵐の心が揺らがなかった場合は、ミラのみを殺すことになっていたわけだが」


 ……まさか、それって……。


 男の正体は、全く知らない赤の他人ならまだ良かった。


 でも。


「すまないが、俺の計画を中止するつもりはない。――五十嵐。明日、学校で会おう」


 言ってこちらを振り向いた男の、顔は。


「……鳥山、先生……?」


 そう。つい最近俺のクラスに、新副担任としてやってきた鳥山疾風先生だったのだ。


 俺は、昔ちょっとトラウマになる出来事があっただけの、普通の高校生なのに。


 何で、こんなことになったんだ。


 愕然とする俺を放置して、鳥山先生とレグルスは去っていった。


「ミラ。一つだけ、訊かせてくれ」


 脱力し、いつの間にか猫耳尻尾の人間の姿になっていたミラに問う。


「お前は……善か? それとも、悪か?」

「確かに、精霊獣やパートナーは善人ばかりでもなければ、みんながみんな平穏でいたいわけでもありません。ですが、少なくともわたしは……善、ですよ。できれば戦いたくなんてないです。平和が一番ですから」


 ミラは満面の笑みを浮かべて答えてくれた。


 本当によかったと思う。


 俺がパートナーになった相手が、ミラで。


「えと、すいません蓮さん。こんな意味の分からない、死んでしまうかもしれないことに巻き込んでしまって」


 ああ。こいつは、あの時俺が言った一言をずっと気にしてたのか。


 ますます、自分が未熟だと思い知らされる。


 意味の分からないことに巻き込まれる? 死んでしまうかもしれない? それがどうしたってんだ。


 むしろ、それくらいのリスクで人を――幼女を救うことができるなら上等だぜ。


「なぁ、ミラ。前にもちょっと言ったけどさ、俺は昔実の両親に捨てられたんだ。それ以来トラウマになっちまってさ、『捨てる』っていう言葉が世界で一番大嫌いなんだ。で、俺は猫の姿のお前を拾い、パートナーになった。たとえどんなに残酷な未来になったとしても、ミラ。お前を捨てたりしねぇよ」

「……! はいっ、ありがとうございます」


 俺の決意を聞いてミラは愕然とし、はにかみながら謝する。


 あー、可愛いな。これを天使と呼ばずして何を天使と呼ぶ。


「それにな、ミラ。あやめ以外の幼女と一緒に暮らすのが夢だったんだ」

「…………………………せっかくの感動を返してください」


 そうして俺達は笑い合う。


 が、危機から脱したプレッシャーの解放と、極度の疲労感により、気がつけば俺の肢体は地面に横たわっていた。


 くそ、体が動かねぇ……。


「ちょ、蓮さん!? 蓮さん!」


 というミラの叫びも空しく、ぷつん、と砕けたように意識が途切れた――……。

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