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第18話 冬支度の足音

無知な異邦人たちの騒動から数日が経過し、村を取り巻く空気は日に日に冷たさを増していた。


朝、ぼろ屋の木引き戸を開けると、足元の草むらには白い霜がびっしりと降りており、吐き出す息は瞬時に白い塊となって冬の訪れを告げていた。

村の周りに広がる針葉樹の森も、どこか深く寂しげな沈黙を湛えている。


この世界における「冬」は、単なる背景グラフィックの季節変化ではない。

十分な暖を取り、十分な蓄えを持たなければ、凍えと飢えによって肉体が容易に動かなくなり、生命そのものが脅かされる過酷な生存試練だった。


「ハル、今日の作業が終わったら、森の薪拾いと切り出しに付き合ってくれ」


朝の冷気が漂う広場で、バノックが大きな両刃の斧を肩に担ぎながら声をかけてきた。


彼の横には、背負い籠を抱えたレンの姿もある。


「はい、喜んで。ぼろ屋の暖炉にくべる薪も、もう少し蓄えを増やしておきたかったところです」


「この村の冬は甘くないぞ。積雪で森へ入れなくなる前に、乾燥させた薪と保存食を各家に溜め込んでおかなければ、一冬を越せなくなる」


バノックの重々しい言葉に、私は深く頷いた。


私はグラック老人から譲り受けた頑丈な備中クワと小ナイフ、そして麻袋を手に取り、彼らとともに村の北側の森へと歩みを進めた。


森の中は、落ち葉が冷たい霜で固まり、踏みしめるたびにザク、ザクと硬い音を立てた。


バノックは手慣れた足取りで倒木や立ち枯れた大木を見定めると、両刃斧を力強く振り下ろした。

カーン、と甲高い乾いた音が森の静寂に響き渡る。


斧の刃が入る角度、腰の回転を利用した無駄のない体の使い方。

一振りごとに深く木肌が削り出され、大きな幹が地響きを立てて倒れていく。


「ハル、お前はこの細枝と倒木の幹を扱いやすい長さに切り揃えてくれ。刃を入れるときは、節の箇所を避けるんだぞ」


「わかりました」


私はバノックの手本を観察しながら、ノコギリと小さな手斧を使って倒木を切り分けていった。


最初は刃が噛み込んでしまい、余計な腕力を使って肩を痛めそうになったが、木の年輪の傾きと自重の落ちる方向を意識することで、スムーズに鋸刃が滑るようになっていく。


丸太を三十センチほどの長さに切り揃え、さらに手斧で割っていく。


木目が素直に通った薪は、パカンと心地よい音を立てて綺麗な二つに割れた。


割ったばかりの薪からは、瑞々しい樹液と生木の匂いが漂う。

これをそのまま燃やせば大量の煙が出て不完全燃焼を起こすため、ぼろ屋の軒下に積み上げ、風に当てて乾燥させる必要があるのだ。


一斧、一斧。


額から汗が流れ落ち、冷たい風に触れて蒸気となって立ち上る。

腕の筋肉が心地よい熱を帯び、自分の手足が自然の木材と対話し、生活の糧へと変えていく手応えが手のひらに強く残った。


数時間かけて大量の薪を切り出し、背負い籠いっぱいに積み込んで村へ戻ると、広場では村の老女たちが大きな煮込み鍋を囲んでいた。


鍋の中では、村の畑で収穫されたばかりの根菜と、私やバノックが獲ってきた塩漬けの肉、干しキノコがグツグツと深みのある音を立てて煮込まれていた。


「ハル、ご苦労様。薪はあっちの共同乾燥場に積んでおくれ」


腰の曲がった村の老女・エリスが、湯気の立ち上る木樽から一杯の熱い白湯を差し出してくれた。


「ありがとうございます、エリスさん」


「あんたが水路を直してくれたおかげで、今年の根菜は例年よりずっと大きく育ったよ。冬の保存食(塩漬けと乾燥野菜)の仕込みも、これでなんとか間に合いそうだ」


エリスの皺の刻まれた顔に、穏やかな笑みが浮かんでいた。


以前なら、異邦人である私が近づくだけで小さく身を強張らせ、目を背けていた村人たち。

だが今では、こうして日常の挨拶を交わし、厳しい冬をともに乗り越えるための作業を分担し合っている。


私は差し出された白湯を一口飲み、じんわりと喉から胃袋へと広がる温もりに目を細めた。


「エリスさん、ぼろ屋の壁の防寒強化について少し相談があるのですが……」


「ああ、壁の隙間かい? それなら、川辺に生えているススキの穂と泥を混ぜて練った『泥漆喰』を上塗りするといい。乾くとカチコチに固まって、吹雪の風も通さなくなるよ」


昔からこの過疎村で厳しい冬を何度も越してきた、生活の知恵。

特別な魔法や便利道具がなくても、その土地にある素材と人間の知恵を組み合わされば、人はどんな環境でも生きていけるのだ。


夕刻、私は自分のぼろ屋へ戻り、教わった通りの泥漆喰を作って壁の隙間に塗り込んでいった。


冷たい泥を手で練り込み、補修した土壁の表面を平らにならしていく。

爪の中に泥が入り込み、指先の感覚が失われていくほどの冷たさだったが、作業を終える頃には、室内から漏れ出していた微かな隙間風が完全に途絶えていた。


部屋の中央の囲炉裏に、今日切り出してきた乾いた薪をくべる。


パチパチと火の粉が舞い上がり、オレンジ色の温かな光が土壁を柔らかく照らし出した。


鍋に仕込んでおいた肉と根菜のスープが、良い匂いを漂わせながら湯気を上げる。


出来上がったスープを匙ですくい、一口口に含む。


濃厚な肉の旨味と、土の恵みをたっぷり吸い上げた根菜の甘みが口いっぱいに広がった。

自分の手で薪を割り、自分の手で壁を塞ぎ、自分と村人たちの手仕事で作られた温かな食卓。


窓の外では、ヒュウと冷たい秋末の夜風が吹き抜けていた。


しかし、塞がれた頑丈な土壁と、パチパチと燃える暖炉の火が、過酷な外気を完全に遮断していた。


大都市で飢えや寒さに震え、あるいは無意味な争いに身を投じているであろう他のプレイヤーたち。

一方、この世界の片隅で、自分の手足を使って「生きる拠点」を確実に築き上げている私。


私は囲炉裏の火を見つめながら、自ら鍛え上げた硬い掌を握りしめた。


どれほど厳しい冬が訪れようとも、この手と知恵がある限り、私はこの過疎村でしっかりと自分の足で立ち、生きていくことができる。


茜色の残り火が静かに揺れる中、私は温もりに満ちた我が家で、深い休息の眠りへとついていった。

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