第1話:地味な男の捨てられ方と、隠された真実の幕開け
どうも、作者です。
徹底的に理不尽な絶望から、最高にスカッとする極上のざまぁをお届けします。お楽しみください。
「……で、結論から言うとさ。私たち、もう無理だと思うんだよね」
放課後の教室。西日がやけに目に痛い黒板の前で、綾瀬結衣は言った。
クラスの女子グループのリーダー格であり、今や学年全体の中心にいるカースト上位の美少女。そして――つい先週まで、俺の「彼女」を自称していた女だ。
教室には、結衣のほかにも数人の男女が残っていた。
その中心で、肩を組むようにしてヘラヘラと笑っている男がいる。サッカー部のエースであり、長身でスポーツマンの桐生蓮。俺を値踏みするような、あからさまに軽侮を含んだ視線を向けてくる。
「……急だな、結衣」
俺――一条蓮司は、自分の机に置いたままの鞄を握り締めながら呟いた。
声のトーンはできるだけ平坦を保ったつもりだったが、心臓の奥が冷たくしぼむような感覚は隠せなかった。
もっとも、理由は薄々感づいていた。
ここ最近、結衣の態度はあからさまに冷たかった。LINEの返信は翌日まで放置され、学校で目が合ってもそらされる。そして極めつきは、今日の放課後、この教室に呼び出されたことだ。
「急じゃないし。むしろ、よく今まで我慢してたなって感じだし」
結衣は爪をいじりながら、面倒くさそうに息を吐いた。
「正直言ってさ、蓮司って地味じゃん? バイトもしてないし、将来性あるわけでもない。休日もゲームか図書館ばっか。一緒に歩いてても、全然ステータスにならないんだよね。こっちはさ、高校生活もっと充実させたいわけ。桐生くんみたいに、みんなからチヤホヤされる人と一緒にいたいの。わかる?」
「おいおい、結衣。そんなストレートに言ってやるなよ。こいつだって一応、今までお前の『彼氏』面してたんだからさ」
桐生がわざとらしくフッっと鼻で笑い、傍らにいた取り巻きの男子たちもそれに同調してクスクスと下品な笑い声を漏らす。
「別に、彼氏面してたわけじゃない。ただ、俺は――」
「はいはい、言い訳はいいって。もう決めたことだから。ねえ、桐生くん、行こ? あそこの新しいパンケーキ屋、今日まで限定なんだから」
「お、いいねえ。行こっか」
結衣は捨てられた子犬を見るような冷ややかな一瞥を俺に残すと、桐生の腕に自分の腕を絡ませ、キャッキャと軽薄な笑い声を上げながら教室から去っていこうとした。
教室の出口付近で、桐生がわざわざ振り返り、俺の耳に届くように言い放つ。
「あ、そうだ。結衣の荷物とか、あとで俺のロッカーに入れといてよ。あ、いや、汚いから全部捨ててくれてもいいか。じゃあな、その他大勢くん」
ガラリ、と教室の扉が閉まる。
残されたのは、夕日に染まるがらんとした教室と、俺一人だけだった。
――静寂。
俺は自分の席にゆっくりと座り直し、フッと小さく息を吐いた。
怒りや絶望、あるいは悲しみ。そういう感情は、不思議と湧いてこなかった。ただ心の底から、「やれやれ、ようやく終わったか」という冷めた徒労感だけが広がる。
「……庶民のふりをして、普通の高校生を3年間エンジョイするって約束だったけどさ」
俺はポケットからスマホを取り出し、画面に映る自分の顔をぼんやりと眺めた。
ボサボサの黒髪、伊達眼鏡、少し猫背気味の姿勢。クラスの人間たちは誰も気づいていないが、この眼鏡を外し、前髪を上げれば、SNSや雑誌の表紙を飾る財閥の御曹司としての顔が顔を出す。
すべては、父親との約束だった。
『お前は将来、うちのグループの全権を握る人間だ。その前に、世間の底辺からトップまでの空気を知れ。高校の3年間は、権力も財力もすべて隠し、一人の凡人として生きろ』
そう言われて、この地方都市の普通の高校に放り込まれ、名前も少しだけ変えて生活していた。
クラスの人間たちは、俺がバイトすらしていない地味な庶民だと信じ込み、カーストの下層に位置づけて陰で笑っていた。結衣もその一人だ。最初は向こうから寄ってきたくせに、カーストの上位にいるうちに俺をアクセサリーのように消費し、飽きたら別の強い権力――サッカー部のエース・桐生に乗り換えた。
「浮気ねえ……しかも、よりによってあのバカグループか」
スマホの通知画面には、桐生のインスタのストーリーが表示されていた。
そこには、結衣と桐生が仲良く高級そうなカフェでパンケーキを食べている写真と、《最高の彼女ゲット!》というおそろしく軽薄なキャプションが添えられている。クラスのグループLINEでは、すでにそれを称賛するクラスメートたちのスタンプが乱れ飛んでいた。
『すげえ! お似合いじゃん!』
『前の地味男とは大違いだなwww』
『結衣ちゃん勝ち組すぎ!』
画面をスクロールしながら、俺は冷ややかに鼻で笑った。
いいだろう。
あと半年で、この高校生活も終わる。
卒業と同時に、俺は『一条グループ』の次期最高経営責任者として、正式に表舞台の階段を駆け上がることになっている。その時にはすでに、テレビや経済誌の独占取材が入ることも決まっていた。
「せいぜい今のうちに、その薄っぺらい頂点を楽しんでおけよ。……最後に地獄を見るのは、お前らなんだからさ」
俺はスマホをポケットにしまい、重い鞄を肩に掛けて教室を後にした。
この時はまだ、数ヶ月後に訪れる『最高のざまぁ』の舞台が、想像以上に盛大なものになることを、俺自身も楽しみにしていたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
第1話は導入として、主人公の置かれた理不尽な状況と、彼の隠された本当のスペックを提示しました。ここからどうやって社会的な立場を利用して復讐していくか、次回以降の展開にご期待ください。




