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第12話:張り裂けるような

独立して三日目、事業は順調だった。

相変わらずローションは売れた。


立ちんぼ三人娘は毎日買ってくれたし、ナディアも追加で買った。

店の外にいる嬢たちにも少しずつ広がっていった。


「今日は何本売れましたか?」

「26本。一日で260万ポニカだ」

「すごい……」

「まだまだ欲しい人、いっぱいいるぞ!」

「私…頑張ります!」


張り切ったエリーゼは一日で40本分のローションを作った。

慣れてきたのもあるが、寝る間も惜しんで作ってくれたのが大きい。


だが、次の日。異変は起きた。

立ちんぼ三人娘の一人が、気まずそうな目を俺に向ける。


「あのさ、お兄さん」

「なんだ?」

「今日、一本だけでいい?」

「一本?」


いつもなら二本買う子だ。


「まあ、いいが」

「あのね……」


彼女は言いづらそうに視線を逸らす。

嫌な予感がした。


挿絵(By みてみん)


「他のやつ、出てたんだよね」


嫌な予感というものは、大抵当たる。


「他のやつ?」

「うん。似たようなの」


心臓がドクドクを脈を打ち、全身から血の気が急速に失せていく。

しかし、聞かねばならない。


「どこで」

「店の近く」

「誰が売ってた」

「知らない人。しかも安かった」

「……いくらだ」

「一本5万ポニカ」


俺たちの半分の値段。笑うしかなかった。


「そ…そりゃ…安いな」

「ごめんね。お兄さんのやつ方が使いやすいんだけど……」

「いや、いいよ」


よくない、全然よくない。

だが、ここで彼女を責めるのは筋違いだ。


彼女たちは商売で使っている。

価格が半分なら、そちらを選ぶのは当然だ。


当然。当然だからこそ、腹が立つ。

理不尽よりも、合理的な敗北の方がつらいことがある。


ーー


翌日には、さらに他社製品は広がっていた。

店の前、路地裏、立ちんぼの周辺。


俺たちの竹筒に似た容器が、当たり前のように売られている。

買って中身を確認したが、少し質が悪い。

匂いもあるし、持続も弱い。だが、安かった。


「店舗の嬢はみんな、親方から買うことになったらしいよ」


ナディアが教えてくれた。


「親方から?」

「そう。昨日から店に置かれるようになったんだ」

「……」

「アンタのやつの方がいいけどさ。店で使う分はあっちを使えって」


ナディアは肩をすくめる。


「上が決めたら、こっちにはどうにもできない」


その言葉は重かった。俺は理解した。

模倣されたのではなく、潰されたのだ。


俺たちの商品を見て、親方はすぐに動いた。

誰かに俺を尾行させ、製造方法を確認した。

そして、スライム娘を使えば作れると知った。


スライム娘はこの世界では避けられている。

価値が低い。仕事に困っている。だから、安く雇える。


俺だけが見つけた価値は、俺だけのものではなかった。


「ナディア」

「ん?」

「親方のところ、誰が作ってる?」

「さあね。でも、スライム娘が何人か連れてこられたって聞いたよ」


胸の奥が冷えた。

それが意味することは、馬鹿な俺でも分かった。


「……そうか」


俺はそれしか言えなかった。

ナディアは少しだけ俺を見て、優しく言った。


「そういうもんだよ」

「分かっている」


分かってる。俺は浅はかだった。

この世界は弱肉強食で、少しだって優しくない。


そんなこと、知っていたはずなのに…。


ーーー


俺は、売れ残った大量の竹筒を持って帰った。

エリーゼは俺の話を黙って聞いていた。

そして、たった一言だけ。


「仕方ない…ですね…」


挿絵(By みてみん)


今まで見たことのない表情だった。

顔だけは無理に笑っていが、それも直ぐに崩れていく。


『絶望には、希望を摘まれた時に出会う』


俺がエリーゼに、薄氷の希望を与えてしまった。

俺がエリーゼに、こんな顔をさせてしまったのだ。


その悲しそうな顔に、俺の胸は張り裂けそうだった。

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