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少年、罪過を喰む  作者: 藤崎湊
FILE3 死ノ一族
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まどろむ邂逅






 太陽が照りつける白昼。


 最先端技術のもので溢れるセントラルの街並みから、ふと流れるように外れ、賑わいと華やかさを失っていく路地道。

 遠ざかる音と佇む静寂が不気味さを助長する。


 ゼロ・トランスによる影響が最も大きいとされるこの地区では、APOCに保護されるのではなく、命からがらオリエンスから亡命する者もいる。

 得体のしれない雰囲気が他人を寄せつけないことをいいことに、今日食べる食料すら確保できない浮浪者の溜まり場となっている。


 そんな人気のない、不気味な廃墟が建ち並ぶ地帯に無残にも転がる――赤をべっとりとまとった無数の肉の塊。

 目の前には、身体を震わせ自分を庇うように背に隠す女の姿が見えた。

 彼女の肩越しに、逆光で顔が見えない長身の男が立っていた。


「は、話が違うじゃない!」


 女はヒステリックな声を上げて男を怒鳴りつけた。

 だが男のまとう圧倒的なオーラに委縮し、威力は半減されてしまっている。

 男は沈黙を続け、女は自分の背後を見ていると分かると自分の身を盾にするように背後を隠し、涙ながらに懇願した。


「お願い、この子だけは……この子だけは助けてあげて!」

「それは出来ない。いずれは彼女も君と同じになる」


 丸腰の男はやっと重い口を開いた。

 ぴしゃりと冷たくあしらう返答に、女は身体を小刻みに震わせ、男が革手袋を外すのを見て恐怖でおののく。

 太陽の下に晒された血色のない手は女の顔に伸びる。


「君たちがあの子に手を出そうとしなければ、こうなることはなかった」


 抑揚のない声と共に、男の手が女の頭の上に置かれた。

 閑散としたこの一帯に聞こえるのは、女の裏返った荒い呼吸だけ。


 ――女が胸を押さえたのはすぐのことだった。


 目を血走らせ、膝をつき前屈みに地面に倒れこむのを慌てて支えた時――その肉付きの良かった身体は枯れ木のように細く成り果てていた。

 この小さな手で握っても折れてしまいそうなくらいの脆さに肝を冷やした。


「に、げて……」


 縋るように差し出された女の手をそっと取る。

 その様子を、男は視界の端で革手袋をはめ直しながら他人事のように見下ろしていた。


 徐々に身体が傾き、支えきれなくなった。女は力なくその場に突っ伏し、動くことはなかった。

 朽ち果てた女を「おかあさん」と何度も呼びながら揺するが、その声に応えることない。


 母であった女が死んだ。

 それが分かると心臓が握り潰されるように苦しくなり、自然と両方の目から大粒の涙が溢れだした。


「君には申し訳ないことをしたね」


 一点の雲が晴天に浮遊する。それは次第に太陽を覆い始める。


「でも私には使命がある。彼ら……そして君を殺すことに躊躇している時間はない」


 男の長いコートがはためき、ホルスターに差さる改造銃を手に取り、こちらに向けた。


「大丈夫、彼女のように苦痛を与えて殺さない。君に罪はない――その存在は大罪だけれど」



 むせ返る死臭。

 たった一人残ってしまった自分は、無意識に腕に抱える柔らかい綿細工のようなものを抱き寄せた。頬が涙で濡れる。

 足元にまで距離が縮まると、男は狙いを定めて言った。



「私を探そうとするなよ――()()



 背後の太陽が雲で隠れた。

 その顔を記憶に瞬時に残すと――額に弾丸がめり込むのを感じた。






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