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第11話「宴の始まり」

挿絵(By みてみん)


カリス軍内は、全軍の約4割という圧倒的な軍事力を掌握するコーウェン将軍の突然のクーデターにより、激しい動揺が広がっていた。


形骸化していた国王を力によって排除し、自らが擁立する都合の良い新王の元で、新しく国家を作り上げようという腹積もりである。


その圧倒的な実力を前に、恐怖して従おうとする者も少なくなかった。


しかし、カリスは建国以来、神事を司る国王の血統の元で続いてきた伝統ある国家である。


当然、専横を極めるコーウェン将軍のやり方を快く思わない者たちも軍内には多数存在していた。


彼らの多くは、まだ表立って兵を挙げていないとはいえ、暗殺された国王の第一王女であるチャーム特佐の元へ馳せ参じるようになっていった。


それは至極自然な成り行きであったと言える。


コーウェン将軍は、カリスにおける王家の血統というものの重みを完全に甘く見ていたのだ。


「チャーム様、周辺の諸侯や部隊が次々と我が陣営へと馳せ参じてきておりますが」


旗艦イグジスの執務室で、銀髪のトリスが淡々と報告を口にする。


「トリス、この時点で我らにいち早く馳せ参じて来た者たちの顔は、よく覚えておかなくてはな。真の忠義か、それとも勝ち馬に乗ろうとしているだけなのかをな」


「はっ」


「3将軍との会見のほうは?」


「トレイル、オーウェン、マーダイルの3将軍は、すでに指定の集結地点にてチャーム様をお待ちであります」


カリス軍には13のエリアに合わせてそれぞれ将軍が任命されていた。


しかし、長く続いた平和と内部の腐敗の中でそのパワーバランスは大きく揺らいでおり、決して均等なものではなくなっていた。


今回クーデターを起こしたコーウェンはその最たる権力者であり、もはや単独で彼に敵う者は他にいなくなっていた。


コーウェンはその圧倒的な力を背景に、比較的自分に近い立場にいる数名の将軍を誘って今回の反逆に及んだのである。


中にはもちろん、恐怖から嫌々従った者もいるが、チャームから見ればそれらは等しく裏切り者でしかなかった。


そんなコーウェン将軍と真っ向からエリアの利害で相対しているのが、これから見まえるトレイル、オーウェン、マーダイルの3人の将軍であった。


中でもマーダイルは、カリス軍内で代々軍の要職を務める高潔な軍人の家系であり、コーウェンに次ぐ強力な兵力の持ち主でもあった。


そんな彼の動向が、これからのカリスの行方を左右するといっても過言ではない。


「コーウェンに我らの動きは読まれていないか?」


「はっ、それでしたら、すでに各方面へダミーの艦隊を放っておりますので心配無用かと」


「ふっ、そうか……」


「コーウェンめ、どうもチャーム様を形ばかりのお飾りの国王に仕立て上げるつもりのようですな」


「それで、私のことをわざわざカリス本星から遠ざけた遠方へと派遣しておいたというわけか。ふっ、ご苦労なことだ」


「……! どうやら集結地点へ到着したようです」


トリスの言葉にチャームが視線を向けると、旗艦イグジスの前方に、3将軍の率いる大艦隊とそれぞれの将軍が集結している物々しい宙域がモニターへと映し出された。


「……いくぞ、トリス。ついてまいれ」


「ははっ」


父王が暗殺された大混乱のなか、自らの肉体と引き換えにして軍の主導権を握ったチャーム。


彼女は意を決して、カリス軍の命運を握る地方の三将軍との、一歩も引けない緊迫した交渉の場へと臨む。


男を知り、新国王候補筆頭としての圧倒的な「女の顔」に変貌した王女の佇まいに、歴戦の将軍たちは息を呑むことになる。


会見の席には、既に歴戦の各将軍が威圧感を放ちながら鎮座していた。


「しかしまあ、コーウェン将軍のクーデターには驚きましたが、それよりも……」


「あのチャーム王女が、こうも早く動かれるとはな。しかもコーウェンの実の弟であるわしのことも躊躇せずこの場へ参集されおった」


オーウェン将軍が複雑な表情で呟くなか、マーダイル将軍はただ無言で瞑目していた。


「まったくだ、私はてっきり王女殿下は誰かに担ぎ出される神輿だと思っていたが、まさかご自分からこれほどの規模で動かれるとは……」


「しかも誰よりも先に、我ら3将軍に向けて直接檄を飛ばされたのだぞ」


「……どうやらおいでになられたようだ」


マーダイル将軍が静かに目を開いた。二人の将軍が緊張に身を固める。


3人を代表するかのようなマーダイルの鋭い視線の先、自動扉が開いた。


そこに現れたのは、トリスを背後に従えたカリス第一王女チャームの姿だった。


だが、その姿は彼らの知るかつての王女ではなかった。


新国王としての絶対的な威厳を放ちながらも、大人の女性の肉体美をこれでもかと露骨に強調した、カリス王族の特注軍服を身に纏っていた。


アークレイとの濃厚な夜を経て、薬の熱で完全に大人の女へと仕立て上げられたその圧倒的な色気と凄みが、部屋の空気を一瞬で支配する。


「!」


「こっ、これは……」


「ほう……チャーム王女、しばらくお会いしないうちに、随分と良い『女の顔』になりましたな」


マーダイルの言葉に、チャームは不敵な、大人の余裕に満ちた笑みを返す。


「三人ともひさしぶりだな、今日はよく来てくれた。掛けてくれ」


「はっ……」


チャームに促されて、歴戦の将軍たちが気圧されるように席に着いた。


「さて、今日ここに来てもらった理由は分かっていると思うが、先日コーウェン将軍が反旗を翻し、父王陛下を手にかけ、さらには我が兄ユイシスと妹セリムまでもを手にかけたらしい」


「ユイシス王子とセリム王女までもですか!?」


「何ということだ……」


「したがって、王家で唯一生き残ったこの私が、あの逆族を討つべく兵を挙げることにした」


将軍たちに衝撃が走る。


「逆族コーウェンを倒すために、貴公らの力をこの私に貸してほしい」


チャームのまっすぐな要求に対し、マーダイル将軍が冷徹な目を向けた。


「仮に、我らの参戦がなければいかがなさるおつもりなのか?」


「むろん、私一人だけであっても奴に立ち向かうまでだ」


「おっ、おひとりでですか!?」


「そうだな。仮にここでお主らの力を得られなくても、私はこのまま手持ちの兵だけでコーウェンへ決戦を挑む」


「むっ、無茶です! 相手の兵力は我が軍の4割を占めているのですよ!」


「無茶だろうが何だろうがやらねばならぬ。王家の血を引く者が、裏切り者を前にして弱腰になるなど、断じて許されん」


「しかし……」


「それは、御父上やごきょうだいの敵討ちのためですか?」


マーダイルの重ねての問いに、チャームはふっと息を漏らした。


「ふっ、それがないと言えばうそになるが、無論それだけではない」


「それは?」


「カリスの平和と秩序、そして王家の正統を証明するためだ」


「なるほど」


「どちらにしろ、私はこれから一度、コーウェン将軍に会いに行かねばならぬのでな」


「「「!!! なにを言われているのですか!」」」


「どうやら奴は、この私を次のお飾りの国王に仕立て上げたいらしいのだ。好都合ではないか。従順なふりをして奴に近付き、油断して間近に寄ってきたところを、その首を撥ねて討つ」


チャームの口から語られる、冷酷で迷いのない暗殺の計略。


マーダイルは左右にいる二人の将軍の動揺と、目の前の王女が放つ本物の「覇王」の器を推し量り、深く頷いてこう答えた。


「わかりました。我ら三将軍の全兵力、新国王『チャーム陛下』のためにお貸しいたしましょう」


コーウェン将軍はチャームをお飾りの新国王に据えて傀儡にするつもりでいたが、その思惑は大きく外れることになる。


またたくまにチャーム新国王は、自らが手に入れた大人の女としてのカリスマと冷徹さによって、カリス軍内で絶大な実力と支持を獲得していく。


コーウェン将軍の思い描いたクーデターとは全く異なる、冷酷な世界の逆転。


三将軍に忠誠を誓わせ、新国王へと推戴されたチャームは、自らの戴冠式に臨んでいた。


その身にまとうのは、かつての身体のラインを隠した厳格な服装ではない。


大人の女性の魅力を完全に剥き出しにした、豊満な胸元とボディラインを強調する妖艶なカリス王族の正装であった。


戴冠式の会場となった巨大な大聖堂には、数万の将兵が整列していた。


鳴り響くファンファーレの中、壇上に進み出るチャーム。


そのあまりの変貌ぶりと、周囲を圧倒する女王の気迫に、チャームに付いたカリス軍全将兵が皆言葉を失い、会場は騒然となった。


だが、そのざわめきはすぐに、新たな支配者を迎える熱狂的な歓声へと変わっていく。


自らを完全な「女」へと変貌させたアークレイを、チャームは恋人兼愛人、そして自らの渇きを癒す都合の良い性欲処理の相手として、トリスと同じく常に側に置くようになっていた。激しい軍務のストレスがたまると、彼女は彼を自室に呼び、夜通し激しい一夜を過ごして身体の疼きを満たす日常が始まっていた。


戴冠式の直後、チャームは前線に並ぶ将軍たちの前へ臨んだ。


「オーウェン。私を信じて下さるのでございますか? 私は逆賊コーウェンの実の弟だというのに……」


オーウェン将軍の不安に満ちた問いかけに対し、チャームは冷酷な笑みを浮かべて首を振った。


「構わぬ。お前が真っ先にこちらへ馳せ参じた事実こそがすべてだ。新国王となった私の名において、マーダイルを新たなカリス軍総帥へと任命する。全軍、これよりコーウェン軍への総攻撃を開始せよ!」


カリス軍最大兵力を持っていたコーウェン軍の陣営と、チャームの率いる三将軍の連合陣営による、星系を揺るがす大決戦が幕を開ける。


やがて、このチャームの電撃的な王位継承と三将軍の掌握を知らされていない、コーウェン将軍の副官カセーヌが、チャームを自分たちの傀儡の王として本星へ迎え入れるための「使者」としてイグジスへやってきた。


謁見の間へと案内され、得意げな薄汚い笑みを浮かべてチャームの前に進み出るカセーヌ。


チャームはただ冷酷に微笑み、彼が完全に間近へと歩み寄ってきたその瞬間、背後に控えるトリスへ目配せをした。


次の瞬間、トリスの放った冷徹な一撃の前にカセーヌは息絶え、ドサッとその場に崩れ落ちるように倒れた。


「な……っ!?」


周囲にいたコーウェン側の同行者たちが硬直する。


「これで敵の副官を始末できたか……。これより我が軍の奇襲を開始する。マクドール、全軍の配置は?」


「……はっ。すべて完了しております。あとは、チャーム陛下のお言葉を待っているところです」


「全軍、一歩も引くな。作戦通りに進軍せよ!!」


チャーム率いる連合軍の全艦隊が、圧倒的な火力を以て、完全に油断しきっていたコーウェン軍の先陣へと一斉に奇襲攻撃を仕掛けた。


数においては勝っていたコーウェン軍だったが、この初期の戦闘における電撃的な大火力の前に、前線部隊は完全に消去され、壊滅していった。


本星の司令室で、あまりの事態に顔を青ざめさせるコーウェン将軍。


「なぜだ?! なぜ誰も私についてこない?! まさか、実の弟であるオーウェンまでが私を裏切るというのか……っ!」


イグジスのブリッジの指揮席で、チャームは深紅の指揮棒を力強く振り下ろした。


「さあ――宴の始まりよ」


大人の女の余裕に満ちた妖しい笑みを浮かべ、新国王は冷酷に開戦のタクトを振るのだった。


(第11話「宴の始まり」おわり / 第12話へ続く)

次回予告


第12話「深紅のタクト」


コーウェン軍の切り札であるカイリスが、新型機を駆り戦場を縦横無尽に駆ければ、チャームの懐刀たるトリスもまた、親愛なる主人のために粉骨砕身、命を賭して戦場を舞う。


カイリス「ふはははは! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね! 旧世代の遺物どもめが!」


トリス「カイリス、相変わらずだな」


カイリス「貴様は……トリス……っ!」


トリス「我が主のために、貴様にはここで生贄になってもらおう」


決して浅からぬ因縁のある二人の少女が、硝煙渦巻く戦場で見つめるものとは?


次回、第12話「深紅のタクト」。


引き裂かれた宇宙で、少女たちの宿命が激突する。

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