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第10話「カリス王暗殺」

挿絵(By みてみん)


戦艦アイアースの式典会場に集まった人々の間で、騒然とした空気が波打っていた。あまりにも唐突な電撃発表の前に、誰もが戸惑いを隠せない。

壇上から降りてきたフェニスに対し、ロイドが厳しい表情で詰め寄った。

 

「中尉……いや、少佐。これは一体どういうことですか。なぜいきなり貴方と私がこれほどの電撃昇進になるのです」

「ふふふ。何、そう堅くなる必要はないでしょう、ロイド大尉。これまでの私たちの功績が、君と同じようにシーレス殿下に認められた、ただそれだけのことですよ」

 

フェニスは傲慢な満面の笑みを浮かべ、ロイドの肩を叩いた。だが、ロイドの目をごごまかすことはできなかった。熱に浮かされたように虚ろな黄金の瞳のまま、フェニスの趣味全開の過激なマイクロミニ軍服をまとい、言われるがままに任命状を読み上げていた王女の姿。どう見ても、フェニスがシーレスを手籠めにし、その絶対的な権力を自身の出世のために利用しているのは見え見えだった。激しい怒りと不穏な疑念がロイドの胸を衝くが、フェニスはまあまあ君も昇進したんだから、とそれ以上の追及を煙に巻くのだった。


「シーレス……。」

「いったい……、どうしちゃったのよ?」 

 

その一部始終を、ユルグとサイルも居住区の艦内放送のモニターで見つめていた。

フェニスの好みの妖艶な化粧に染まり、別の生き物のように成熟した大人の気配を漂わせる幼馴染の姿に、二人は言葉を失い、ただ重苦しい沈黙に沈むしかなかった。

一方、同じモニターを見ていたユイシス王子とセリム第二王女の兄妹もまた、複雑な表情を浮かべていた。


「お兄様……。」

「そうか……彼女は……」

「では、やはり……。」

「ああ、間違いない。私達をカリス軍の追手から守り、この艦に匿うための交渉材料として、彼女は自らを……」


自分たちのために純粋な王女が受け入れたであろう残酷な犠牲を察し、ユイシスは痛ましげに目を伏せるのだった。

カリス軍前線旗艦『イグジス』の執務室。

先ほどまでトリスに詰め寄られていたチャーム特佐だったが、割り込んできた通信士の報告によっていったん話を止めていた。モニターに映し出されたのは、本国のコーウェン将軍からの緊急指示だった。かつて惑星ハルス本星の近くに存在した、今すぐやる必要などない商業コロニーの制圧に今すぐ向かえ、という不可解な命令。

 

「何だと……? そろそろ父王陛下の生誕祭へ向けて、カリス本星へ臨むべき時期のハズなのに……」

 

チャームが不審の眉をひそめる横で、銀髪のトリスはただ無言でモニターの数値を睨みつけている。

 

「おかしい。コーウェン将軍は、私をわざわざ私達をカリス本星から最も遠く離れた、この辺境宙域へと縛り付けようとしている……?」

 

チャームの呟きを聞きながら、トリスの脳裏には、内心で一つの冷徹な確信がよぎっていた。

 

(まさか……本国で、何かが動くのか……?)

 

数日後。

懸念を他所に、カリス本星では盛大にカリス王生誕祭が開幕していた。

きらびやかな式典の場において、ユイシス王子やセリム第二王女がサレス軍の襲撃によって行方不明になっている事実や、第一王女であるチャーム特佐が緊急の軍務で遠方へ派遣されたという不都合な情報は、全て完璧に伏せられていた。

 

「ユイシスはどうした。チャームやセリムの姿も見えぬようだが……」

 

玉座の上で、カリス王は三人の子供たちのことを案じて言葉を漏らすが、側に控える側近から、まあまあ王族の皆様はみんな国家のために日夜公務に励まれておいでなのですから、となだめられる。

会場には、行方不明の三人を除く主要な王族関係者たちがほぼ全員集められていた。だが、なぜか例年のように一般国民の王宮内への立ち入り参加は一切認められておらず、周囲は妙に張り詰めた異様な雰囲に包まれている。

王宮の周囲を警備しているのは、カリス軍のなかでも国王直属とされる親衛隊の兵士たちだった。宮廷の各所には、すでに型落ちとなっているものの、美しい装飾が施された王宮宮廷仕様の量産型機動兵器『カーコス』が複数配備され、厳重な警戒線を敷いていた。

やがて、宴もたけなわとなったその時。

華やかな喧騒に沸く王宮の静寂を引き裂くように、冷酷な裏切りの銃声がけたたましく鳴り響いた。

 

「お飾りのお国王の時代は終わりだ。これより、カリスは我ら軍人の元で新たな時代に入る」

 

暗闇の中で冷酷に笑うコーウェン将軍の手の者たちが、一斉に牙を剥いたのだ。

王宮の周囲を警備する兵士たちの元へ、かつて首都セイレスでお忍び巡礼中だったユイシスとセリムを襲った暗殺部隊と同じ、顔を隠した不気味な連中が音もなく現れる。ここでは一般の目がないことをいいことに、彼らは手慣れた手つきで親衛隊の兵士たちを容赦なく暗殺し、血の海を広げていく。

特殊部隊は確実に、王宮内の中枢へと向かって侵攻を開始していた。

 

「うん? 何だ、あれは……?」

 

カリス王が怪訝に窓の外を見上げた瞬間、宮殿を覆う青空から、カリス軍の最新鋭機動兵器『レドルス』を中心とした謎の機甲部隊が、猛烈な勢いで降下してくるのが見えた。それはまるで、天界が人類を殲滅するために、無慈悲な天使の軍勢を下界へと降臨させていくような、圧倒的で絶望的な光景だった。

この凄絶なクーデターの様子は、コーウェン将軍の手によってカリス星全土へとリアルタイムで強制配信されており、モニターを見つめる国民たちは先ほどから何が起きているのか理解できず、パニックに陥っていた。

王宮を守るために起動した宮廷仕様の量産型『カーコス』だったが、最新鋭の機動性能を誇る『レドルス』の敵ではなかった。数十体配置されていたカーコスはあっけなく一瞬で蹂躙され、そのほとんどが鉄屑へと変えられていく。

 

「反逆者どもめ……! 国王陛下を何としてもお守りするのだ!」

 

辛うじて生き残った精鋭の親衛隊隊長機は、わずかな部下を引き連れて、防衛線を維持しながら王宮の本体へと必死に機体を移動させる。王族を護衛する名目の親衛隊には、最初から戦力とならない旧型しか与えられていなかったという過酷な事実が、今この瞬間に証明されていた。

王宮の内部にもクーデターの特殊部隊がなだれ込み、逃げ惑う王族関係者たちは抵抗の術もなく、次々と無残に惨殺されていった。


「あなた!」


カリス王の前で自分以外の王族や王妃が無残にも惨殺された。 


「おお、なんということだ…………」 


動揺するカリス王を 

   

「陛下、こちらへ!」

 

カリス王とわずかに生き残った家族は、親衛隊に警護されながら必死に地下回廊へと避難しようとする。

駆けつけた隊長機たちが身を挺して敵の侵攻を一瞬防ぐものの、それも長くは続かなかった。次々と部下たちが倒されていくなか、宮殿の回廊を破壊しながら、コーウェン将軍の懐刀とも呼ばれるカリス軍特殊部隊少佐、カイリスがその姿を現した。

カイリスの駆る専用機動兵器『レクイエム』は、最新鋭のレドルスすらも遥かに凌駕する圧倒的な漆黒の銀の化け物だった。

 

「ふはははは! 滅べ、滅べ! お飾りの王族どもよ!」

 

カイリスのあざ笑う声と共に、凄絶な高周波ブレードが空間を薙いだ。隊長機以外の護衛は一瞬にして跡形もなく破壊される。

 

「この反逆者がぁぁぁぁぁ!!! 国王陛下に手をかけさせはせん!」

「うるさい、旧時代の遺物が」

 

隊長機が必死の覚悟で突撃するが、レクイエムの一撃の前に一刀両断され、大爆発を起こした。

カイリスは冷酷に部下へ指示を出すと、数機のレドルスを引き連れて、カリス王の逃げ込んだ王宮内中枢へと強引に突入していった。

カイリスのあまりの圧倒的な手際の良さの前に、カリス王は完全に退路を断たれ、行き止まりの玉座の間へと追い詰められていた。覚悟を決めた国王は、まだ辛うじて繋がっていた全星配信のカメラに向かって、最後の国民へのメッセージを叫ぶ。

 

「カリスの民よ、聞くが良い! 誰か、この卑劣な裏切り者を――」

 

ガチリ、とそこで非情にも通信回線が遮断された。

代わりにカリス王の前に投影されたのは、すべての黒幕であるコーウェン将軍の冷笑だった。

 

「き、貴様……コーウェン将軍……っ!」

「ふふふ。ご安心なされ。今すぐ、あの行方不明になったユイシス王子とセリム王女の後へ行かせて差し上げますよ」

「貴様……まさか、あの子たちをも、お前が仕組んだというのか……っ!」

「――もうこの国に、お飾りの国王はいらないのですよ」

 

コーウェン将軍が画面の向こうから、冷酷にカイリスへ暗黙の殺害指令を下す。

頷いたカイリスは、レクイエムの機内から、眼下で震えるカリス王に向けて冷たく一言を放った。

 

「死ね!」

 

レクイエムに搭載された対機動兵器用の大口径キャノンが、間至近距離から一斉に解き放たれた。凄絶な熱線が王の肉体を文字通り一瞬で蒸発させ、カリス王は跡形もなく消滅した。

 

「ふははははは! 新しい時代の始まりだ!」

 

カイリスの狂った笑い声が響く。炎に包まれ、真っ赤に染まる王宮の中で、レクイエムの姿はまるで地獄の悪魔のように不気味に浮かび上がっていた。モニター越しにその光景を見ていたコーウェン将軍も、満足そうに深く頷く。

コーウェンはすぐさま電波をジャックし、全星の国民に向けて傲慢に宣言した。

 

「聞け、カリス国民よ。もはや旧体制は終わった。これよりカリスは、私コーウェン将軍の元で新たな時代に入るのだ。新しい国王陛下は、近々諸君の前に堂々と現れるだろう」

 

コーウェン将軍の部隊はそのままカリス星の首都全域の完全制圧を進めようとした。しかし、さすがにこのクーデターの話を事前に聞いていなかった他の地方の将軍たちの部隊が猛然と反発し、激しい抵抗に遭ったため、首都の完全掌握までには至らなかった。

 

「ぐう、時代の変革についてこられぬ愚か者どもめが……」

 

コーウェンはモニターを睨みつけ、忌々しげに奥歯を噛み締めるのだった。

 

カリス軍前線旗艦『イグジス』の執室。

本星からの強制配信を信じられない表情で見つめていたチャーム特佐は、必死に情報収集を行っていた。

 

「何……? 父上が……暗殺されただと……っ!?」

 

あまりの衝撃に足元をふらつかせるチャームの背後に、銀髪の死神トリスが再び妖しく滑り込んできた。

 

「チャーム様。――軍人として、本物の女になる覚悟は、できましたか?」

 

父王の暗殺という最悪の絶望を突きつけられた王女の前に、トリスは静かに、男を迎え入れる性の自立を促すように微笑む。

チャームは激しく葛藤し、呼吸を荒くしながらも、自らの血統を繋ぎ、軍を完全に掌握するための唯一の道を決断した。彼女が自らの「初めての相手」、そしてのちの恋人兼愛人、そして都合の良い性欲処理相手として選んだのは、側近の一人であり、どこか嫌いではないタイプだったアークレイ(アーク)だった。アークレイの持つ、女たちを狂わせ、その心身を影から意のままにたらし込む絶対的な支配の腕に、自ら進んで身を委ねる道を選んだのだ。

防音の施された特佐個室のベッド。

チャームは自らの肉体の成長と感度を強制的に高めるため、軍の機密である成長促進薬剤を自ら煽るように飲用してから、行為の場へと臨んだ。

 

「それではチャーム様、いきますよ」

 

アークレイが冷徹な軍人の目のまま、不敵な笑みを浮かべてゆっくりと覆いかぶさってくる。その端正な顔立ちに宿る、全てを見透かしたような圧倒的な男の圧に、チャームは息を呑んだ。

 

「うるさい、はやくしろ……っ!」

「それでは、お望み通りに」

 

アークレイの冷酷で容赦のない手ほどきが始まった。王女としてのプライドと生娘としての凄まじい羞恥心から、チャームは最初こそ彼の逞しい胸を押し返し、激しく身体をよじって抵抗していた。しかし、先ほど自ら煽った特殊薬剤の不穏な熱が、瞬く間に血管を通じて下腹部へと駆け巡り、肉体を強制的に開かせ、男を温かく迎え入れるための準備を完璧に整えてしまう。

 

「あ……っ、うそ、身体が……熱い……っ!」

「口元ほどには、身体は逆らえないようですね」

 

衣服が容赦なく剥ぎ取られ、白日の下に晒された未成熟な肢体。だが、アークレイの手のひらが肌を這うたびに、チャームの脳髄は初めて訪れる狂おしい衝動の奔流に激しく揺さぶられ、理性が粉々に砕け散っていく。激しい拒絶はいつしか熱い吐息へと変わり、彼女はアークレイのすべてを貪るように受け入れるしかなかった。

夜が明けるまで、アークレイの冷徹で執拗なまでの甘い支配は何度も何度も繰り返された。薬の暴走による異常な感度のなかで、チャームは五回以上も烈しい快感の頂点へと突き落とされ、そのたびに声を枯らして涙を流し、ベッドの上で狂ったように身をよじり続けた。

すべてが終わった時、アークレイは何事もなかったかのように涼しい顔で軍服を整えていたが、ベッドの上のチャームは、はあっ、はあっ、はあっ、はぁっ……と激しく乱れた息を切らすことしかできなかった。

特殊薬剤の劇的な影響もあり、夜通しの行為を終えたチャームの輪郭は、以前の子供っぽさの残る骨格から、豊満な胸元と妖艶なくびれを持つ、誰の目にも明らかな大人の女の肉体へと急速に変貌を遂げていた。皮肉にも、男に文字通り蹂躙され尽くしたことで、彼女の隠されていた王族としての美しさが一気に開花してしまったのだ。

全ての契りが終わったあとのチャームの佇まいは、もはや生娘の面影など1ミリもない、底知れぬ凄みと妖艶さを湛えた「大人の女」そのものであった。

個室から戻ってきたチャームの姿を見て、外で待機していたトリスは、完璧に仕上がったその果実を見て満足そうに目を細めた。

 

「実に見事です、チャーム様。……それでは、これにお着換えください」

 

トリスが恭しく差し出したのは、かつての身体のラインを隠すような堅苦しい服装ではなく、新国王としての威厳を放ちながらも、大人の女性の肉体美をこれでもかと露骨に強調した、カリス王族の特注軍服だった。

チャームはその妖艶な軍服に身を包むと、鋭い大人の女の眼光を宿し、トリスを引き連れて次なる戦いの場——地方将軍たちとの会見の場へと向かって、堂々と歩き出すのだった。

 

(第10話「カリス王暗殺」おわり / 第11話へ続く)

次回予告


第11話「宴の始まり」


父王の崩御による大混乱のなか、己の肉体と引き換えに軍の主導権を握ったチャーム。

彼女は意を決して、カリス軍の命運を握る地方の三将軍との緊迫した交渉の場へと臨む。

男を知り、新国王候補筆頭としての圧倒的な「女の顔」に変貌した王女の佇まいに、歴戦の将軍たちは息を呑む。

 

チャーム「逆族コーウェンを倒すために、貴公らの力をこの私に貸してほしい」

マーダイル将軍「ほう……チャーム王女、しばらくお会いしないうちに、随分と良い『女の顔』になりましたな」

コーウェン将軍「なぜだ?! なぜ誰も私についてこない?! まさか、実の弟であるオーウェンまでが私を裏切るというのか……っ!」

マーダイル将軍「わかりました。我ら三将軍の全兵力、新国王『チャーム陛下』のためにお貸しいたしましょう」


コーウェン将軍はチャームをお飾りの新国王に据えようとしていたが思惑は大きく外れてしまう

またたくまにチャーム新国王が自らのカリスマによってカリス軍内で絶大な実力を持つようになる

   

コーウェン将軍の思い描いたクーデターとは全く異なる、冷酷な世界の逆転。

三将軍に忠誠を誓わせ、新国王へと推戴されたチャームは、自らの戴冠式に臨む。その身にまとうのは、かつての身体を隠した服装ではなく、大人の女性の魅力を完全に剥き出しにした、妖艶なカリス王族の正装だった。

そのあまりの変貌ぶりに、騒然となるカリス軍の全乗組員。

新国王となったチャームは、マーダイルを新たなカリス軍総帥へと任命し、全軍へ向けてコーウェン軍への総攻撃を指示する。カリス軍最大兵力を持っていたコーウェン軍の陣営と、チャームの率いる三将軍の連合陣営による、星系を揺るがす大決戦が幕を開ける。

 

チャーム「さあ――宴の始まりよ」

 

大人の女の余裕に満ちた妖しい笑みを浮かべ、新国王は冷酷に開戦のタクトを振る。

 

次回、第11話「宴の始まり」。

血塗られた宇宙の戦場で、新たな女王の宴が幕を開ける。

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