地下と”傭兵”
「……何か、必要な情報が不足しているのか。それとも前提が間違っているのか……?」
ケルシア地方の地図を囲んでウーゴ隊長と参謀役の部下2人は頭を抱えていた。
めぼしい敵の拠点はすべて制圧した。多くの捕虜を捕らえて情報を根こそぎ吐き出させた。しかしどこにも首謀者のガッドは居らず、誰も居場所を知らないという。
「領内にはいないのでしょうか……?」
「すでに失敗したと判断して逃亡済み、という可能性も……」
最初から最後まで尻尾を掴めず、あまりにもスッキリしない結末に、3人が唸り声をあげる。
「……いつまでもこうしていても仕方あるまい。捕虜の処理も急務だ」
「隊長、やはりある程度はその場で処分してしまうべきだったのでは?」
扇動者たちの拠点への攻撃は、アルドの圧倒的な力で、敵にほとんど反抗を許さない極めて一方的な制圧となった。
そして最初の街同様、アルドは敵を殺さず、大量の捕虜を部隊に生け捕りさせていた。
それは各地の牢で大きな管理コストを生じさせていた。
臨時の攻撃部隊は少しずつ分散することを余儀なくされ、今は元の半数以下だ。
「……今更だ。人死には少ないほうが市民感情の平穏もとりやすい」
”あの子どもの青い理想に影響されすぎでは?”という部下の白い目にウーゴが言い返そうとしたそのとき、テントの外からアルドの声が響いた。
***
「そうか。ようやく足取りが掴めたか」
「はい!すぐに探しに行きたいと思います!」
向かう先々でエレナの情報を集めていたアルドとロイは、ついに夜間の内にひとりで部隊を抜け出し、去っていくのを目撃したという終端の目撃情報を手にしたのだった。
「俺たちの知るエレナは、意味もなく戦地に飛び込んで、訳もなくひとり姿を消す人間じゃありません。何か、この内乱に関係している、もしくは何かを知っている可能性が高いです」
「首謀者側の可能性があるということか?」
すぐにでも出発したくて落ち着きのないアルドとは対照的に、ロイは背筋を伸ばして毅然とウーゴの問いに答える。
「わかりません。だからこそ追うべきです」
ウーゴは苦笑しながらも満足気に頷いてみせる。
「もっともらしい理由を用意したつもりか?何の根拠にもなっていないが……いいだろう。今我々は捕虜の対応で小回りが利かん。別働隊として2人でそのエレナという冒険者を追え。必ず成果を持って帰ってこい」
「ありがとうございます!」
アルドはすぐに振り返り走り出す。
黙って聞いていた参謀が呆れるように笑う。
「……隊長。流石に甘いといいますか……」
「わかっている。言うな。ロイ!……十分に警戒しろ!」
呼び止められたロイは、振り返ると笑みを浮かべながら敬礼して、再びアルドを追って走り出す。
***
どうやらエレナは完全な隠密行動を取るつもりはなかったようだ。
歩き去った方角だけを頼りに始めた捜索は、道中の集落で度々得られた、顔を隠した余所者の目撃情報を追うことになり、思いのほか順調にケルシア地方の端にある、とある村に辿り着いた。
「お婆さん、こんにちは。おれたち人を探しているんだ。最近顔を隠した他所から来た人とか、女性の旅人を見なかった?」
聞き込みを始めたアルドとロイは、何人目かの村人である、老婆へ声をかけた。
老婆は畑仕事の手を止めず、穏やかな調子で返答する。
「……さてねぇ。あまり旅の人が立ち寄るような村ではないけれどねぇ」
「村の外の道を歩いていった人とか、見なかった?赤い髪で、背が高い美人なんだけど……」
「どうだったかねぇ……」
老婆はようやく顔を上げてアルドを見ると、少し驚くような表情をした。
「……あんたは?」
「え、あぁ。おれはアルドといいます。冒険者で、仲間を探してるんだ」
「―!……じゃあ、そっちがロイさんかい?」
「そうです。……どこかでお会いしましたか?」
「……エレノアちゃんから、聞いたのさ。泣き虫の坊っちゃんと、キザな男前。まさか会えるとは思わなかったよ」
「な、泣き虫?」
老婆、もといジルは、軽く周囲を見渡す。
「あの子を助けに来てくれたんだね……?」
「どこにいるか知ってるの!?」
「えぇ、知っていますとも。ただ……少し遅かったね。エレノアちゃんは今、地下にいる。この地を治めていた旧貴族の隠し墓所さ。」
エレノアというのは、訛りか、愛称だろうか?
何にせよ自分とロイの共通の知り合いにエレナに似た人物など他にいないはず。
「そこはどこから入れる?いや、遅かったってどういうこと?」
ジルは震える手で顔を覆いうなだれてしまった。
「墓所の入口は創造の力で固く封印されているんだよ。ケルシア家の血がないと、入れない。……あぁ、やはりもう少しだけ引き留めておけば……」
「そんな……。ケルシア家?ってほかには、いないの!?」
ジルは黙って首をふり、ため息をつく。
様々疑問を残しつつも、アルドらは地下通路への入口だという礼拝堂へジルの案内で訪れていた。
「この下が入口だよ。……でも」
アルドは石畳を掴み動かそうと試みるも、微動だにせず、開くイメージを全く抱けない。
「だめか……。壊すのも、難しいか……」
外部の者の侵入を拒むための封印は非常に強力であるようで、外からの力に強い耐性を持っていることがひしひしと創造物特有の気配として発せられていた。
礼拝堂の中をひと通り見渡したロイは得心顔だ。
「礼拝堂全体が、信仰が元の想像力で守られてる感じだな。ここから地下へ潜るのは無理だな」
アルドはすでに何か別のアプローチを考えているからこその確認であることをすぐに理解して、次の言葉を待つ。
「ジルさん、地下の道はどの方角に向かって伸びている?」
「……南東だね。墓所に向けて水路が伸びてるんだ」
「アルド。俺が音を拾う創造で何とか地下の空間を見つける。できるだけ天井の高い空間、つまり地面が薄くなっているところを」
「そこでお前が地下まで届く穴を開ける創造をするんだ」
「……ロイらしくない、力ずくって感じのアイデアだね」
金髪をかきあげて、ロイは笑う。
「スマートで理知的と思いきや、いざという時に男らしい力強さを見せる俺も好評なんだな、これが」
軽口をアルドは肩を小突いて返す。
「でも、地下までってそんなに浅くないよな?何メートルくらい?そんな地割れみたいな創造……」
腕を組み唸るアルドにロイはピッと指を指す。
「地割れ、想像できてるじゃないか」
いや、それは、と困難さをアルドが述べようとするが、ロイが続けて遮る。
「俺にも想像ができるんだよ。お前が滅茶苦茶な想像力で目の前の世界をガラッと変えてしまう様がさ」
***
礼拝堂から馬で数十分。その時は思いの外早く訪れた。
街道から外れた何もない丘の麓でロイは地面に手を当ててじっと目を瞑っている。
「……ここだ。10……12メートル下、空間がある。広いぞ」
もはや無茶でも無理でもやるしかない。よぉしと鼻息荒く意気込むアルドをロイが制止した。
「待て。誰か、いるぞ……。複数人、女の声も」
「エレナ?!」
「いや、流石にわからないが……崩落させてしまってはマズイってことだ」
「……無茶言うなよ!」
抗議の声を物ともせずロイは読み取った情報をアルドに伝える。
「空間は長方形で、東西に5メートル、南北に…7メートル。天井の端の方は丸く曲線を描いている。4方向すべての壁に通路の入口が……」
ロイの説明を聞きながら、足元の目に見えない部屋の形を想像する。
薄暗い中に厳かな貴族の墓。その天井を破るのだ。
この国では地震もめったに起きない。地割れなんて見たこともない。
それでも今ここで、やるしかない。
ジルが言うには、エレナはこの内乱を収めるために争いを扇動している者の所へ単身乗り込んだのだという。
そして決裂は即ち危機であると。
雑草が根を張り小石の転がる地面は湿り気を帯びている。
叩き割るイメージ……!
全霊をもって地面を殴りつける。
凄まじい衝撃音と共に土砂が舞い上がり、思わず目を瞑り顔を背ける。
アルドに叩かれた場所は確かに強い力を加えられ、激しく陥没してはいたが、到底10メートルも地下に届くようなものではなかった。
これではスコップで掘り返しているのとそうは変わらない。
焦燥感が額の汗となりこぼれ落ちた。
もし下にいるのがエレナならば、すでに内乱の首謀者と顔を合わせているということだろうか。
ジルはすでに最悪の結果をも想定していた。
その話を聞いたロイは、エレナの行動は極めて無謀であると断じた。
アルドもまた、説得で止まる規模の戦いではないことを感じている。
ロイの忠告、バート補佐官の言葉の真意、シャルルに突きつけられた理想の矛盾、振り切ってきた暗闇の気配が背中に迫る。
考えるな……!今はただ目の前に、道を開く……!ただそれだけだ!
陥没してヒビ割れた地面に指をねじ込み、全力で亀裂をこじ開けるように広げる。
岩盤を砕く力ではなく、その結果を想像する。
――亀裂が地を這う蛇の様に走り、崩れながら片側が沈み込む。裂け目が広がるにつれて周囲は激しく揺れて立つこともままならない。
「ひ、らけえ……!」
アルドの想像に現実が追従し始め、亀裂が亀裂を、揺れが揺れを引き起こす。
「うわっ!」
亀裂の直上にいるアルドは必然、地割れに飲み込まれて一瞬で遥か地下へ滑り落ちる。
「死ぬかと、思った……」
「アルド!」
ロイが地表で這いつくばりながら声を張り上げる。
「そのすぐ下だ!やれ!」
もはや細かい想像は不要。力の限り地下へ向けて拳を叩きつける。
突き抜けるような手応えと共に暗闇への入口が開くと徐々に揺れが収まっていく。
慎重に覗き込んだ先、松明でわずかに照らされた空間についに見知った赤髪の姿を捉えた。
「見つけた!エレナ!」
薄暗い地下にいる彼女との距離は遠く、状況はまだ分からない。
アルドは手を筒のようにして右目にあてがい、力を込める。望遠のイメージは瞬時に負傷しているエレナにピントを合わせた。
やはり……。いや、間に合った!
「ロイ!」
振り返り叫ぶとロイはすでに地割れの底へ滑り降りて来ていた。
「ダメだったみたいだ!行こう!」
しっかりと浮遊する創造に集中してゆっくりと地下空間へ降下するロイを尻目に、アルドはほとんど飛び降りる速度のままにエレナの元に滑空する。
「エレナ!」
周りの兵士たちはあわや生き埋めになるかという大きな揺れと天井の崩壊に未だ慄いているのか、アルドを止めることもせず、へたり込み呆然としている。
未だ彼女の事情ついて詳細なことは分からない。かける言葉に迷っていると、エレナはよろめきながらも立ち上がる。
「……なんで来たの?」
咄嗟に手を貸しながらアルドが答える。
「エレナが心配で」
「私は……!っロイ!あんた、ちゃんと止めなさいよ!」
歩み寄りながら、のんびりした様子でロイは手を広げ首を振る。
「言い出したら聞かない奴だってわかってるから、お前も何も伝えなかったんだろ?それにその様子じゃあ、余計な御世話ってことはなかったろう?」
存外元気そうなエレナが言い返そうとしたとき、正面から男の声が響く。
「おい。今の揺れはどっちの創造だ?」
不敵な笑みを浮かべながら近寄ってくる男に武具を持っている様子はない。
しかし対人戦の経験のほとんどないアルドでさえ、言語化できない強者のオーラと敵対者であることを強く感じさせられていた。
「アルド、ロイ。勝てないよ、こいつには。まともにやり合わないで」
エレナが腹部を押さえながら憎々しげに忠告する。
「逃げるよ。話はそれから」
グロムドの向こうからは、一目で上流階級の人間であることがわかる身なりの男が、跪いたときに付いた衣服の汚れを払いながらこちらを睨みつけていた。
どうやら彼がこの内乱の首謀者ガッドで間違いないだろう。
「逃げられると思うか?」
しかし、ガッドは強大な戦力を未だ手元に残していたようだ。屈強な肉体の迫力は動物の毛皮でできた衣服の下からでも周囲にプレッシャーを放っている。
「グロムドか……確かに、ちょっとまずいか」
「知ってるの?」
「名のしれた傭兵だ、手強いぞ」
改めて男に注意を向けた次の瞬間、視界いっぱいに閃光が瞬く。
まばたきの間にグロムドはロイの至近に迫り、唸りを上げながらしなる右脚を振り上げた。
エレナが円盾を創造しながら間に割り込むが、炸裂音と共に2人は吹き飛ばされて地面を転がる。
2人の名前を叫ぶアルドへ、グロムドがぬるりと向き直る。
「まさか、お前か?」
べたりと突きつけられた圧倒的暴力性を振り払うように突風を創造する。
反射的に振るった右腕は、ここまでの戦場を完膚なきまでに制圧してきたそれと同等以上の暴風を巻き起こした。
周囲の他の兵士たちは叫び声を上げながら身を屈め、耐えかねた数名は地面を転がっていく。
しかし、眼前の男はわずかによろめくのみで、ついには高笑いを始めた。
その両足は深くまで根を下ろした大木のように地面をがっしりと捕らえている。
「やはり、お前か!良い馬力だ!」
周囲に濃い霧が突如立ち込める。
再び瞬く閃光。
グロムドは瞬時に距離を取り、ロイの振った短剣が空を切る。
「雷獣グロムド、か。雷のイメージによる高速移動、思っていたよりも速いな……」
珍しく舌打ちをしたロイが声をかけるが、アルドは呆然としてグロムドから目が離せないでいた。
ファーストコンタクトで直感する。殺さないように意識した創造はこの男には通じない。反面、笑いながらこちらに向けられた目線には強い殺意が確かにこめられている。
初めて触れる狂気が己の想像を侵食していく。
「アルド!」
肩を揺さぶられ思考を引き戻される。
「しっかりしろ。……いいか?おそらく、選択肢は三つ、いや、二つか」
「一つは、ガッドを捕まえることは諦めて、とにかく逃げる。3人バラバラに逃げれば、1人か2人は助かるかもしれない。もう一つは__」
薄暗い地下で3人で共闘していると、初めて訪れた遺跡でのゴーレムとの戦いを思い出す。
あの時もロイの無茶振りに必死でついていったんだった。
そしてあの時もこうして……。
アルドの手元に小さな炎が渦巻く。
それはあっという間に背丈よりも大きく膨らんでいった。
チラリとグロムドへ視線を移すと、彼は何故かとても嬉しそうに笑いながら炎の玉を見上げていた。
「風に、炎か!いいぞ!さぁ、来い!」
声を張り上げはしゃぐグロムドに眉をひそめながら、アルドはくるりと身体の向きを変える。
その先には、兵士たちに守られながらこの場を離れようとするガッドがいた。
はじめましてだけど、信じるぞおっさん……!
巨大な炎が放たれた。
激しい燃焼音を上げながら進むそれは、ガッドを守ろうとする兵士に届く直前、破裂するようにしてかき消された。
散っていく炎の先には、いつの間にか割り込んだグロムドが不満気に立ち塞がっている。
間髪入れずエレナの放った矢が飛び、ひとりの兵士の肩を貫いた。
さらにガッドと兵士たちの周りに霧が立ち込めると、その中から突如ロイの剣が飛び出して兵士を襲う。
天井スレスレへ飛び上がりアルドが叫ぶ。
「お前に勝てなくても、その貴族様さえ倒せば、内乱は終わる!それでおれたちの勝ちだ!」
またしても地下に閃光が走り、アルドの目の前、天井にグロムドが着地した。
そこからさらに天井を蹴り、突っ込んでくるのをアルドはすんでのところで回避する。
あ、危ない……!でも空中戦ならなんとか……!
冷や汗を拭いながら再び暴風を創造する。
たった今砕かれた岩盤を巻き上げて、ガッドのいる方向、広範囲に叩き付ける。
「……つまらんなぁ」
轟音と土煙の中では、再度ガッドの前に戻ったグロムドが、迫る岩を全て拳で砕いていた。
ここまでは完全にアルドとロイの目論見通りである。
いや、天井を走るとは思わなかったけど……。
無論アルドは本当の意味ではガッドを攻撃していない。致命的に見える派手な創造は、全てグロムドが身を挺して雇用主を守るはずだ、というある種、人任せな想像による作戦だ。
ガッドの戦いの目的地は当然こんな地下ではない。ここで命を懸けてまで粘り、大怪我を負うわけにはいかないはずだ。
「グロムド!退くぞ!」
そうさ!早くそいつを連れて逃げてくれ!
自分を守る兵士に囲まれながら叫ぶガッドを一瞥したグロムドの視線は、鋭い殺意と共にエレナへ移る。
「させるか!」
稲妻が走るよりもわずかに早くアルドの創る風がエレナを宙へ巻き上げる。
即座に飛び上がるグロムドの追撃も、さらにアルドの側まで引き寄せて回避する。
「ロイ!」
霧の中からロイを空中に引き上げる。
誰かひとりでもやられれば、逃げる必要はないと判断されてしまうだろう。それにエレナとロイは敵兵を殺すことも厭わないはずだ。
多様な創造を絶え間なく発揮し続けて、アルドはすでに限界が近い。
全身を駆け巡る強い痛みは想像の阻害以上に、今直ぐに決着をつけなくてはならない危機感を顕にして、定めた結末へ猛進させる。
暴れ狂う風が地下空間をかき回す。
岩や兵士の落とした装備が宙を舞い、壁や地面へ叩き付けられ、ヒビ割れた壁がさらに風に巻かれて吹き飛ぶ。
右手で風を、左手で大地を掴む。
四方にある部屋の出口の一つを握りつぶすように崩落させる。
退路を断つ、つもりのように、見えるか?
もう一つの出口が崩れたとき、ガッドと兵士が背後の出口へ走り出した。アルドはグロムドを見ながらガッドへ向かい岩を乱れ放つ。
岩を砕きながらグロムドは何かを叫んでいる。
流石に気が付いたか。
しかし歴戦の傭兵である彼がいかにアルドには殺意がないことを叫ぼうとも、目の前では恐ろしい速度で岩が縦横無尽に飛び回っているのだ。
万が一その気がなくても、当たれば死んでしまうではないか。
脱出しなくては。
その決断を後押しするようにとびきりの追い風を叩き込む。
全員が通路へ入ったところへワンテンポ遅れて岩石群が飛来して、出口を崩落させた。
風が止み、地下霊廟に静寂が訪れる。
呼吸をするのを思い出した身体が大きく息を吐く。
「……上手くいったな。だが、あの傭兵は明らかに戦いたがりだ。1人だけ戻ってくるなんてことになる前に離れるぞ」
ロイの言葉にも、エレナの複雑な感情を吐き出したため息にも反応できないまま、集中の糸がぷつりと切れたアルドは空中からそのまま落下する。
落下の衝撃よりも強く響く創造の反動による脈打つ全身の痛みは、遠ざかる意識の中で己を責め立てているように感じられた。
エレナは助けられた。
しかし彼女の目的は果たせていないのだろう。
それを叶えることは意図的に選ばなかった。
それは身勝手なこだわりで。
それが叶わないとなれば、矛盾する創造を振りかざした。
チグハグなこの理想は誰のために?何のために?
問いに耳を塞ぐようにして意識は暗闇へ沈む。




