表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/106

94.想う

 夜の空は、雲ひとつなく澄んでいた。月は高く、柔らかな光で城を照らしている。


 王都に漂う空気には、どこか張りつめたものがあった。まだ何も起きていないのに、まるで空が呼吸を潜めているかのような夜。嵐の前――誰もが言葉にしないまま、それを感じ取っていた。


 ルカは神殿裏の小さな石畳の広場に立っていた。戦の前夜にも似たこの静けさの中、彼は一人、星の瞬きを見上げている。

 風が、頬を優しく撫でる。冷たいはずなのに、不思議と心が落ち着いていた。


 「……こんな夜に思い出すなんてな」


 ルカは小さく笑った。

 あの時。陛下に、マナの父親の真実を告げるつもりはないと泣いた彼女に、言葉をぶつけた。


 ――お前が、陛下のそばでつらい想いをし続けるくらいなら―― 俺が、さらっていくと…… 

 彼女は驚いたように目を見開いて、それから静かにほほ笑んで――


 『ありがとう、ルカ。でも……ごめんなさい』


 そう言って、ユナは彼の思いを、やわらかく断った。

 わかっていた。彼女が選ぶ未来に、自分はきっと必要ないと。


 それでも。


 「……思いは通じなくても、心は、今でもあんたを想ってる」


 言葉が空へ溶けていく。誰にも届かない祈りのように、静かで、真っ直ぐな響きだった。


 「戦いが来るなら、俺も剣を取る。誰のためでもなく……あんたが守りたかったもののために」


 そう呟いて、ルカはゆっくりと膝をついた。地面に手を置き、目を閉じる。

 祈りの言葉は、決して声には出さなかった。けれどその心には、ただひとつの願いがあった。


 (ユナ……あんたが、無事でいてくれますように。この先、選んだ道の先で……幸せそうに笑っていてくれますように)


 それだけでいい、とルカは思った。

 彼女の隣に立てなくても。手を取ることはできなくても。 この想いがある限り、どこまでも見守っていられる気がした。


 やがて、静かに立ち上がる。


 「さ、そろそろ戻るか……長居すると、未練が顔に出ちまいそうだ」

 

 笑いながら呟いた声は、どこか切なく、けれど凛としていた。

 その背に、星の光が静かに降り注いでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ