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顔を見て話せないから

テオが目の前のエレノアを睨みつける中、アレンは困惑の表情をしていた。


「テオ…?エレノアじゃないなら誰なんだ?」


ちょうど書記官たちも目を覚まして、この状況を不思議そうに見つめていた。何故その三人で対峙しているのかよくわからないのだろう。


アレンの質問にテオは答えなかったので、代わりにアレンが質問を続けた。


「まさか、夢の…?」


誰もが恐れた結果になったのか、アレンが青ざめて言いかけて口を閉じた。けれどそれにもテオは答えない。


「テオ?どう…」


不思議に思ったアレンがエレノアからテオに視線を移すと、なんともよくわからない表情をしていた。明確な敵意とは違うが警戒していないわけでもない。例えるならば、初めて出会った者を凝視しているような。


理解出来なくて今度はエレノアに目線を向ける。


「エレノアじゃないのか…?」

「アンタ達がエレノアだというのならそうなんでしょう。だって私には元々名前がないからね」


今度こそテオが怪訝そうに問いかける。


「質問を変える。お前はエレノアとどういう関係だ?」

「うーん、そうね。運命共同体かな?私の身体であって、もうエレノアのものでもあるからね」


ふとテオの眉間に入れていた力が抜ける。今度はその存在を確かめるように、エレノアの姿をまじまじと見つめた。


「獣人…か?死んだと聞いていたが」

「きっと死んだのでしょう、魂は身体を離れたけど記憶は身体に残る物だからね。今は二人の人格が争っているからか一時的に活性化してるけど、どちらかに決まれば消えるんじゃないかしら」


魂は無垢であり、記憶や人格は身体に宿る。いつか聞いたような記憶がテオの頭の中を駆け巡った。それをあまりいい記憶として残していないのは、自分の大事な人を失った時のものだからだろうか。


「ちょっとまって、争っているってエレノアと誰が…?」


口を挟んできたアレンが焦っているように問いただす。


「エレノアと精霊のおばさん」


精霊と聞いてこの場の人間で誰かわからない者はいない。


「夢の精霊がエレノアの中に…!?」

「ノアは大丈夫なのか?」


アレンとテオの声が同時に重なって、うるさいと言うように獣人の少女は耳を塞いだ。


「今はまだ膠着状態。だから私が出てきたの、エレノアからの伝言を伝えにね」

「どう言う事だ?」


二人は嫌な予感がした。何故エレノアでなく、獣人の人格がそれを伝えに出てくるのか。


「簡潔に言うと、今なら夢の精霊を殺せるって事」


場の空気が凍った。アレンもテオも次につなげる言葉が出てこなかった。


「……は?」


テオがやっと発した言葉は一言。アレンは呟くように、何を言っているんだと口を動かした。


「獣人の身体は魔力が通じないと同時に魔力が使えないの。だから今なら無力な人間と一緒なんだって」

「だから?エレノアを犠牲にして倒せって?どうせもう死んでるから?そんな事了承するはずないだろう!何故俺がそんな精霊を相手にエレノアを失わなければいけないんだ?だから…!だからこんな場所さっさと出て行けばよかったんだ!」


テオがこの場にいないエレノアに怒るように声を荒げた。


「騙して勝手にこの世に留まらせた俺を恨んでるのは当然だろうさ。そしてエレノアが俺の為に生きてくれないのもわかってる。だからって…」


じっと見ていた獣人の少女はふうとため息を吐いた。


「アンタはエレノアの事何もわかってないのね」

「どういう…?」


それを聞いたのはアレンだった。テオの悲痛な言葉を顔を歪めながら、自分が傷ついたような顔をしていた。


「エレノアはアンタを恨んでもいないし、もう一度機会をくれた事に感謝してた。大事な人に会いたいのは自分だけじゃないって事。それにその気持ちを好意を受け取れない子なの?エレノアは?」


ぽかんとしたテオがエレノアから地面に顔を伏せる。

今度は無言のまま俯くテオの横にいるアレンに向かって話す。


「エレノアはアンタの事も気にしてた。立場?的に自分よりもずっと大変なアンタが、誰よりも幸せにはなれなくても不幸にはなってほしくないって」

「エレノア…」


もしこれがエレノアじゃなければ、二人とももっと冷静に考えたかもしれない。誰から見ても、もう二度とないような千載一遇の好機であるのはわかっていた。水の精霊も夢の精霊も決してこの国に必要なものではない。なくせるならばそんな未来を見てみたい。けれど理解は出来ても納得は出来ない。


「そんな事をすれば身体を失ったノアは…」

「そうだ。それに、君はそれでいいのか?その、身体の本当の持ち主なんだろ?」


アレンとテオの言葉に獣人の少女は笑った。


「心配しないでって言ってたよ。一度同じ事をしてまた会えたでしょって。それに、私はどっちにしてももう長く存在できないから。おばさんよりエレノアの方が好きだしね」


それでも前回とは違う。今回は抑え込む方法をとっているのに無事でいられるはずはない。精霊がそんな甘いはずはないから。


ノアがわからないはずがない


けれど今度こそ彼女の意思で決めたことを俺が強制して、それでいいのだろうか?

彼女の心が蝕まれてから、ただ生きる事と自分らしく生きる事は違うのだと感じた。

誰もが自分の為に生きて自分の為に死ぬのは当然の権利なのだから。


彼女が他人の為に自分の生を諦めるなら何をしても生かせてみせるけれど、自分の意志で自分の運命を決めるのならば俺もそれに従うだろう。どこまでも。


だって君は俺の最初で最後の人だから


獣人の少女は今度はテオにだけ聞こえるように耳元で囁いた。


「本当はね、顔を見て言えなかったんだって」

「何を…」

「たくさん。謝りたい事も伝えたい大事な事も。でも、私が伝えるのは違うと思うからやめとくね」


テオが待てと言いかけた時には、すでに獣人の少女は背を向けていた。

そして向かった場所は書記官であるミハエルがいる所だった。


彼にも何か伝言があるのだろうか?


こちらからでは会話はよく聞こえないが、何か話しているのはわかる。

側に行くべきだと思うが、自分にしては珍しく頭が働かない。どうしたらいいのか、どうすれば最善なのか、いつもすぐに決めてた事がエレノアが絡むと何も考えられなくなる。


「ノア…」


そう呟いた時、途端にミハエルが何か光るものを取り出した。

不穏な気配に考える間もなく手足が動いてエレノアに近寄るが、無情な距離に絶望した。


ミハエルは鋭い刃を携え、それをエレノアの胸に突き刺した。

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