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帰還

エレノアとテオが王城に戻ってくると、なぜか城の中が騒がしかった。


「な、何…?」


エレノアは第三王宮に戻る途中にすれ違った召使いを思わず呼び止める。


「どうしたの?何かあったの?」

「陛下が倒れられたの。原因がまだわからなくて、医師と神官を迎えるのに忙しいのよ」


え…!?


テオを見ると少し難しい顔をしながら、アレンの所へ急ごうと言ったのでエレノアも頷く。

急いでアレンの部屋に戻ると、見知らぬ先客がいた。


あの服装は神官かしら?


ちょうど用事は終わったらしく、エレノア達に軽く会釈してそのまま部屋から出て行った。


「二人ともおかえり」


普段と変わりなく挨拶をしてくるアレンに、ぎこちなくただいまと言う。


「それより、陛下が倒れたって聞いたけど」

「ああ、兄上が対応してくれている。けれど原因がよくわからないらしい。父は持病もなかったし…神官まで来ているから病気ならすぐにわかるはずなんだが」


アレンが厳しい表情で神官の出て行った扉の方を見る。その表情は何かを疑っているように思えた。


それって…策略的な意味合いもあるのかしら。


よくアレンとは精霊の加護者は毒など効かないと話したことがある。それは一度でも飲んだことがあるような言い草だと思った。


けれど王族を狙う者とは誰だろう?それで得をする者は?

第二王子も国にとっては良い王だと言っていたのを思い出す。


「王族には、派閥的なものはあるのかしら?」

「対立組織というものはない。表向きはね。あえて言うなら神殿だろうな、王族よりも精霊を敬っている者達だから」


そういえば、第一王子と話した時も同じような事を言っていた気がする。しかも下手すれば王族に害を及ぼすような香炉を預けて…。


確か、水の加護者を頂点につけたいとか言ってたわよね…?でもまさか神殿がそんな事しないわよね?


「ねえ、神殿の勢力ってそんなに大きいの?」

「初代王が聖人だというのもあるけれど、実際王家の血筋も何人かは神官になった歴史がある。反対に神殿の者が…兄上の妃のように娶られる事もあるから、結局高位聖職者は傍系みたいな扱いになっている」

「けれど神殿は王族を蔑ろには出来ないって言っていたし、その…彼らが王族を狙う理由はないわよね?」


嫌な予感が当たらないでほしい


そう思いながら聞くとアレンは少し言葉を詰まらせた。そしてふっと笑ってエレノアに優しく語り掛けるように続けた。


「精霊信仰の中には王族を嫌悪する者達もいる。精霊は畏怖の概念であり、自由な存在であるとね。だからそれを契約として閉じ込めている王族を嫌っているのさ。王族がいなくなれば、精霊は何も縛られない頂点に君臨するのだと」

「じゃあ…」


王を狙ったのは神殿の可能性もあるって事?


国の成り立ちを聞けば聞くほど、精霊とはとても危ういもののように感じる。横で聞いていたテオがぼそりと声を発した。


「まあ、今回の件は精霊絡みじゃないだろうな。第二王子が精霊は直接王族に手出しは出来ないような事を言ってただろ?それに憑依するとしたら精霊にとっても王族は生命線なんじゃないのか」


そうよね。だけど精霊の真実は一部の王族しか知らないから


「……けれどまだ本当にご病気の可能性もあるのよね」

「そうだね…」


少し弱々しい声でアレンが答えた時、突然城の灯りが消えた。


「え?」


驚いて顔をあげると何か奇妙な感覚に陥る。音は全く聞こえないのだが、体中が薄い布に覆われたような息苦しい気持ちの悪さを感じた。


何これ…?


横にいるテオが守るようにエレノアを抱き込む。


「ノア、大丈夫だから」


ぐっと目を閉じてテオに身体を預けていると、しばらくして気持ちの悪さが薄らいだ。灯りは以前として消えていて暗いが、月明かりでぼんやりとテオの横顔が見える。


「何だったの…?」

「魔力」


答えを放ったのはアレンの声だった。


魔力?


エレノアの身体は獣人のはずなので魔法、魔力などの類は効かないはずだ。それなのに気味の悪いくらいの感覚があった。他の人達は大丈夫なのだろうか?


「テオは平気?」

「俺は大丈夫、精霊の加護は相殺するから」

「と言う事は、これは精霊の力なの?」


何が起こっているのかわからず、とりあえず窓の外を見る。他の王宮も同じく暗闇に包まれているが一か所だけぼんやり光っている場所があった。


「あそこは…?」

「礼拝堂かな、呼ばれているんだろうね」


何に…?とは言わなくても分かった。ここにアレンがいると言う事は水の精霊ではない。ならば、王城にいる精霊は一人だけだった。


「何だかあの魔力、重くて息苦しかったけど怒りを感じたわ」

「きっとそうだろうね」


精霊の怒り……もしかして王族に手を出したから?


エレノア達はここにいても何もわからないので、とりあえずこの場所から出ようと決めた。アレンがリハルを呼んだ。動けないアレンが移動するには水の道を使うしかない。


「庭園にある泉に繋げるようにしてくれ」

「……あまり行くのはおすすめ出来ませんが」


珍しくリハルが拒否したが、アレンはそのまま強行した。リハルなら何が起こっているのかわかるのかもしれないが、教えてはくれないだろう。


「私達は少し王宮の様子を見てから行くわ。アリス達も気になるから」


エレノアとテオはゆっくりと王宮の廊下に出るとすぐに人が倒れているのがわかった。多分、清掃係の召使いだろう。


「大丈夫かしら」

「多分、死んではいない。気絶しているだけだろう」


それは大丈夫なの?


すぐに助けるような手段は持っていないので、そのまま進んでいくと召使いたちがバタバタと倒れている。エレノア達は精霊の加護者や眷属、もしくは獣人だった為か影響が少なかったのかもしれない。


「誰だ!?」


前方の人影にいきなり叫ばれて、エレノアは思わずテオにしがみつく。けれどその声に聞き覚えがあった。


「……エル?」


相手も気づいたのか、こちらに近づいてきて大きなため息を吐いた。


「おまえか。無事だったんだな?辺りが暗くなったと思ったらみんないきなり倒れるし…何が起こっているんだ?」

「私達もよくわかっていないんだけど、アリスは大丈夫かしら?全員気絶してるのよね?」

「いや、起き上がってたのもいたぞ。なんかフラフラしてバルコニーから落ちたりしてた。多分服装から神官たちだと思う」


神官が身投げ…?


何が起こっているかわからず、とりあえずアレンがいる場所に行く事にした。エルにはアリス達をお願いする。けれど何か寄って来ても決して近寄らないように言っておく。


そのまま庭園に出ると、今度は別の人物と遭遇した。


「書記官?」


エルに続き書記官も動いているのを見ると、やはりあの魔力は獣人には効かなかったのだろう。そして礼拝堂の光に導かれてきたのだという。


「お前たちもいたのか」


書記官と合流して三人はアレンの待つ湖に急いだ。

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