ディザリアのこと
エレノアは第二王子の話を聞きながらやや前のめりになっていたのを、テオが押し留めてくれた手で気付いた。落ち着いて座りなおすとテオがゆっくりと話し出した。
「けれど、なぜ第二王妃が狙われたんだ?」
「ああ、標的になった理由がわからないよな?俺の母は三人の妃の中で一番身分も低いし大した権力もない」
と言う事は権力争いではないって事よね。そもそも精霊がそんなものに興味があるのが知らないけど
「変わらない日常の中で、唯一違ったのは母が侍女を逃がした事だけだ」
「それが精霊の怒りを買った……?なぜ?」
エレノアは不可解と言うような表情をしたが、テオは何か思い当たったように口を開いた。
「子供…か?精霊は王家の血を引く侍女の子供を必要としてたんじゃないか?」
「王家って、アレンを含めて三人も王子がいるじゃない?」
まって…もしかして
「もしかしてその子供が女の子だった、とか」
「その可能性はある」
エレノアとテオの会話についていけない第二王子は不思議そうな顔でそれが?と聞き返した。
「何から話せばいいのか…。王族はかなり昔から王女がいませんよね?そして居られた時代の王女は必ず水の加護者に選ばれていたみたいなんです」
これはまだ仮説だけれど、私やディザリア様を見ても多分女性を対象として憑依する夢の精霊がいる。水の精霊も同じように元々は女性を選んでいたのではないだろうか?何故か王女が生まれなくなって王子が選ばれるようになったようだけれど。
「侍女の子供が女で、それを逃がした母を恨んだ結果だと?じゃああれは水の精霊だったのか?精霊は姿を現さないと思っていたが」
そこがよくわからないのよね。自分の精霊も含めて姿どころか会話すら出来ないものだと思っていたし。例外はあの私の姿をした夢の精霊と名乗った彼女くらい…
「ただ王家に女性が生まれない理由はわかる」
「えっ!?」
エレノアは驚いて王子を見つめる。アレンでもわからなかった事をなぜ彼が知っているのだろうか?
「正確に言えば、生まれないわけじゃない。生まれてすぐに養女に出されているんだ。これは母が侍女を逃がした伝手を調べて分かった事だが、王家は何代も前から同じ事をしているらしい。皆、伯爵以上の位の貴族の養女になっている。けれど侍女は身分を持っていないので王妃が使える権限で預けたのが男爵家だがほぼ平民と変わらない男性だったらしい」
なんだろう、胸騒ぎがする
けれどテオが間髪入れずに話を続ける。
「なぜそんな事を?王女は婚姻による勢力拡大の有力な手段になるのに」
「俺も詳しくはわからなかったが、それこそ昔の王が取り決めたみたいだな。今もそのまま残っているのを見れば……自身の娘を捨てるのと同等だから公にされる事もなく改正もされにくかったのかもな。結局なぜそうしたのかはわからん」
王はそこまでして娘を手放した理由はなんだろう?ただ、娘が憎いだけ…では説明できない気がする。けれどエレノアはそれよりも気になっている事があった。
「先ほどの話に戻りますが、侍女と子供は今はどうしているかわかりますか?」
「いや…俺も気になってしらばく見てたんだが、どうやら男爵家の当主が事故で亡くなって足取りがつかめないんだ。子供が亡くなったとは聞いてないから生きているとは思うんだが」
嫌が予感がする。もし、彼女がそうだったとしたなら…
「その時の子供の年齢は…?」
「憶測だが、五~七歳くらいじゃないか?十歳には満たないと思うが」
“彼女は七歳の時に伯爵家の養女になりましたから”
テオも何か思い当たる節があったのか、少し怪訝な顔になる。けれどそんな事があるのだろうか?
もう少し詳しく聞きたいと男爵家のあった地方や少女の特徴などを照らし合わせる。出来れば別人であればよいと思っていた。
「……その子はもしかしたら、男爵家を経て他の貴族の養女になったかもしれません」
「どう言う事だ?」
王子の質問に今度はテオが口元に手を当てて答える。
「アレン王子の婚約者のひとりが男爵家から伯爵家の養女になっている、特徴を聞いても酷似している気がするな」
彼女はきっとディザリア様だ
せっかく第二王妃が逃がした子供は結局王城に戻って来たのだ。そして、何かしらを条件を満たして狙われた可能性が高い。けれど念願がかなって手に入れた身体をなぜ手放したのだろう?しかも今度はエレノアを狙う意味がわからない。
そう思ってちらりとテオを見ると、何も言うなというように首を振られた。
精霊の事はともかく、エレノアの身体が乗っ取られて獣人になった経緯まではまだ話す必要がないと判断されたようだ。
「けれどなぜそこまで王族の女性を必要とするんでしょうね?」
少なくても水の精霊はアレンを選んだのを見ても、女性を好んだとしても男性なければいけないというわけではないようだ。ならば、もうひとりの夢の精霊に関係しているのだろうか?王子が目を閉じ少し考えてから口を開いた。
「たぶん精霊と王家の間にも細かな制約があるのだろう。王族には手を出せない、のような。そうでなければ俺も殺されても仕方がない状況だったと思う」
「第二王子はその事を王に話さなかったのですか?」
「何度も話したに決まっているだろう。けれどこの国は精霊を何よりも尊ぶイカれた国だからな、むしろ俺を異端信者のような目で見られたよ。おかげで城を出る羽目になった」
その言葉にエレノアは少し驚いた。第二王子は放浪癖があって自ら城の外で暮らしているのだと思っていたからだ。
「望んで市井に出てたわけではないのですね」
「王子育ちの幼い俺が最初からそんな事思うはずないだろ?案の定、かなり苦労したしな。けれど今は城よりもこっちの方が暮らしやすいよ」
城外で暮らしながらも、城での情報を得ているのを見ると全く繋がりがないわけではないのはわかる。けれど彼は自分の力で居場所を見つけたのだろう。
表情をみてもその言葉は嘘ではなさそう
エレノアもほっと顔の力を抜くと、王子はにこりと笑った。そして信じられないことを言う。
「じゃあここからはお嬢ちゃんと話そうか。そっちの男は出てってくれ」
「は?」
「え?」
テオが何を言っているんだというようにエレノアの前に出るが、王子は引かない。
「さっきから何か他にも聞きたい事があるんだろうに、その男の顔色を窺って言えてないだろ?今ならなんでも答えてやるよ?」
先ほどのテオとのやり取りを見られていたようだ。
「目ざとい男だな」
あ 思っていた事をテオに言われた
「俺はどっちでもいいけどそれは必要な事なんじゃないのか?機会ってのはそうそう巡ってくるものじゃない」
エレノアは一度テオの顔を見て、真正面の王子を見据えて決断した。




