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春の宴

あれからアレンはたまに第一王子に会いに行っているようだ。

第一王子に接触している相手を見極める為と、もう半分は弟して兄を心配しているのだろうと思う。

長い間の確執は確かにあって、二人ともまだうまく話せないようだが良い方には進んでいるのかもしれない。


本当は止めたいんだろうけど


アレンもエレノアと同じ師匠から教えてもらったので、かなり薬の調合に詳しい。香炉の事を少し話しただけでどんなものか思い当たったようで難しい顔をしていた。


そして後々、東の魔術師もひっそりと手助けしていた事を知った。魔術師の渡している茶葉は鎮痛作用の他に、過剰摂取の抑制と症状進行の緩和を促すらしい。


師匠も表向き異を唱える事は出来ないけれど、ちゃんと考えてくれてるのよね


皆の活躍を聞いているとまた自分だけ役立たずのような気がしてきた。結局その通りなのだが、以前自分も何かしようとしてアレンとテオに止められたのを思い出す。一番役に立たない自分がやらかすとその後始末は有能な二人がするはめになるからだ。


はあ


落ち込むエレノアの横で呑気に頭を撫でてくるテオの横腹を小突く。完全に八つ当たりだが、テオは特に気にした様子もなく頭を撫で続けた。


そんな日々が過ぎていく中、エレノアが唐突に言い出した。


「仕事がしたい」


アレンには何言ってるんだこの子…みたいな顔をされた。


「エレノアは仕事してるよ?毎日部屋の掃除もお茶も淹れてくれてるじゃないか」


実際、掃除などはしているが他の仕事などは出来ていない。少しある書類仕事もアレンが一人で処理するか行政官に渡している。王子の侍女としてあまり仕事をしているとは言えない。以前からの役に立ちたい欲がむくむくと湧き上がってくる。


「元々僕に任せてもらえている仕事が少ないから、気にする事はないよ。エレノアは側にいてくれるだけで…」

「暇があると余計な事ばかり考えちゃうんだもの。身体を動かしてる方が気が楽なのよ」


アレンのフォローはエレノアの決意の言葉にむなしく打ち切られた。


「それに何だか他の侍従たちも忙しそうじゃない?私だけのんびりしてていいのかしら」

「忙しそう…?ああ、そうか。なら、エレノアも手伝いに行ってもいいよ」


あっさり許可がでて少し拍子抜けする。たまに知り合いに会うのも気分転換になるだろうとの事だった。エレノアの城での知り合いは皆、侍従や召使いなので仕事で会うのが一番早い。


足取り軽く、元職場に戻るとアリスに驚かれた。


「アリス!」

「え…!?とうとうクビになったの?」


なんで!?


必死に否定していると、今度は通りがかったエルから不憫な目で見られた。


「やっぱり何かやらかしてクビになったか。そうじゃないかと思ったが」

「ねえ、二人共どうして同じ事いうの。そんなわけないでしょ」


掻い摘んで説明しつつ手伝いにきたと言ったら、二人は納得がいったように頷いた。


「まあ、忙しい時期だし手伝いは助かるわね。どこも人手は欲しいでしょうし」

「……?何かあるの?」

「知ってて来たんじゃないの?春の宴。貴族の令息令嬢が社交界デビューしたり、新しい事業の開拓の場よ」


ああ、だからアレンが手伝ってきていいと言ってたのかな


第三王子はあらゆる社交の場に出ないので、何の準備も必要ない侍従に連絡事項は回って来ない。何らかの形で王子には知らせているだろうから知ってはいたのだろう。


「そういえば、臨時とはいえ私が手伝っても大丈夫かしら?移動する前に妬まれてるとか言ってたじゃない?」

「ああ、当時は騒いでたけど今は大丈夫よ。第三王子だったからなのもあるんじゃない?」


単純に昇進が妬まれると言うよりも位の高い貴族の側近になれる事に意味があるのだという。なぜなら女性は特に家督を継げない、安定した仕事につけない人が多いので生活の為に結婚をする。そして出来るだけ好条件の相手を見つけるには、貴族の側近になった方が機会が多いからだ。


アレンは社交をしないからね


誠心誠意仕えなければいけないというわけでもないし、野心があって侍従に志願するのも否定はできない。皆、自分の人生を懸命に生きているから。それでもアレンみたいな良い子をそういう理由で避けるのは勿体ないなとも思う。少し家族贔屓も入ってるけれども。


結局大方の仕事は終わっていたので、当日の配膳を手伝う事になった。

アレンからは自分の分まで色々見てきてと言われ、感情が揺さぶられて思わず抱きしめたらテオからチョップされた。




「うわっ人がすごいわね。新年の宴を思い出すわ」

「そういえば、あの時は一緒にいたわね」


当日、エレノアはあちこちに配膳をしつつ王や王子たちが入場するのを見ていた。第一王子は相変わらず体調が悪そうだが、あまり顔に出さないで貴族たちに挨拶している。


大丈夫かしら


そして王の近くには見知った顔があった。綺麗に着飾った偽物のエレノアにテオがかなり離れた距離から付いて行っている。テオは普段はエレノアと一緒に第三王子の部屋にいるが、公の場では第三王子の婚約者の侍従という立場を守っている様だ。


それにしても、どうして私が宴にいるのよ


第三王子が出席しないのに、その婚約者が出てくるのはおかしいだろう。雰囲気的にそう思っている貴族がこそこそ話しているのも聞こえてくる。


けれどその声は最初だけで何故か偽物のエレノアの周りに人が集まってくる。不思議に思い仕事をしてるふりをして近づき、会話を盗み聞きする。


「その支援は仲介業者を通した取引の方が上手くいくと思います。この国の文化をあまり好まない国ですから直接は断られる可能性が高いです」

「北部は今の時期はまだ雪が残ってますので西からの通路をおすすめしますわ。四十年前も事故があって…」

「治水工事は…」


……は?


人間ではないだろう者が行政官ばりの仕事の助言をしている。意味がわからない。

エレノアは宮に閉じこもりまともな教育を受けていないので、地理はわかるが国の情勢はわからない。確か、ディザリアもエレノアよりは学はあったが王妃教育を優先していたのであまり仕事に携わっていなかった。


私の中にいるのは何者なの?


少なくてもエレノアよりは有能な人間の真似ができるのは確かだった。自分なのに、自分ではない姿のエレノアにお前はもう必要ないと言われているような気分だった。


たまらずその場からバルコニーに逃げだして外の空気を吸って落ち着く。


「……仕事に戻らなくちゃいけないのに」


なのに、今はあれだけ戻りたい自分の姿を見たくなかった。しかも何だかお腹も空いてきた。いつもの時間なら第三王宮で夕飯は食べている頃だからだろう。何かないかとポケットを漁ると手にごつごつしたものが当たった。


「何だっけこれ?」


それは透き通った石だった。確か王都に来て初めて会った獣人の子供にもらったものだ。月の光に照らすとキラキラした色合いを放ちながら色が変わる。


そしてふっと手の力が抜けた瞬間石がすり抜けて足元に転がった。


「あ…」


ころころと転がってようやく止まったと思ったら、誰かの足元が見えた。


「どうしてそれをあなたが持っているの?」


上から降ってきた声にびくっと身体が縮こまる。

聞き覚えがある声に、そろりと目線をあげるとそこには偽物のエレノアがいた。

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