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人でないモノ

「テオ!?どうしたの?」


次の日テオに会うと、何故か右頬が腫れている。驚いて聞いてみると、昨日アレンと話していて…らしい。


どういう事?


少なくてもアレンは人を殴れるような動きは出来ないので、手を出したのはアレンではないだろうけれど何があったか気になる。内容については教えてもらえなかった。


「あの、テオ…昨日、アレンに私達の事話したの」

「ああ、うん。聞いた」


勝手に二人の秘密を話してしまったのだから怒るかなと思っていたのに、予想外のあっさりな反応で拍子抜けする。


「……それだけ?」

「アレンにノアだとバレてしまってから、遅かれ早かれ知られるだろうなと思ってたから。アレンならまあ…問題はないだろうし」

「どうして知られると思ってたの?」

「ノアは隠し事や嘘が下手だから」


ん?それは私が口が軽くてぽろっと言っちゃうって事?!


「そんな誰にでも言わないわよ!アレンだから…!それに元の私の身体の時だってこの王宮に来てからずっと口を噤んでたじゃない?けど、今思うと不思議よね。なんで私はアレンに何も相談しなかったのかしら?あの時は何というか、何を考えていたのか自分でも曖昧なのよね」

「……ノアは精霊の加護者になって少し塞ぎ込んでたから仕方ないよ。昔の事はいいじゃないか、今の事を考えよう」


二人でアレンの部屋に行くと、なぜか先客にミハエルがいた。何か話していたのか、入るとぴたりと会話が止まった気がする。


「書記官?」

「ああ、来たか。ミハエル、二人は私の侍従だから特に気にする事はない」


今日はミハエルがいるので外面用のアレンなのだなと思った。そして今度はエレノア達に紹介するようにアレンがこちらに向けて話す。


「ミハエルは私が東の魔術に従事していた時に出会った知り合いでもある。あの頃もディザリアと一緒だったな」


なるほど、そこら辺はみんな顔見知りなのね


「はい、獣人相手におかしな話かもしれませんが彼女に友だと言っていただきました」

「おかしくなんかないですよ…!」


思わず叫んでしまったエレノアに皆が注目する。精霊祭で人間と獣人の子供が仲良くしているのをみたばかりだ。誰もがわかりあえるわけではなくても、繋がった縁を否定するような事は言って欲しくなかった。それがわかったのか、ミハエルは何も言わないが少しだけ表情を柔らかくした。アレンもその事には触れずに、話を進める。


「自分の時は先代の水の加護者が比較的早くに亡くなられて、あまりお会いした事はなかったのだが…精霊についてもう少し話を聞いておきたかったと思う。だから亡くなられる前によく顔を合わせていたらしいミハエルを呼んで話を聞こうと思ったんだ」

「正確に言えば、私ではなく第三王子の婚約者ですが…」


ディザリア様?


「書記官はディザリア様の侍従で城に入ったのですか?」


エレノアが不思議そうに尋ねると、アレンから返答された。


「いや。ミハエルがディザリアに付いてきたのは明白だが、婚約前に異性の獣人を侍従にすれば周りに誤解される。まだ幼かったし気心の知れるものもおらず心細かったのだろう。正式な専属が決まるまでは、よく一緒にいたくらいのはずだ」


まるで私とテオみたい。そのまま侍従にして白い目で見られたからよくわかるわ


「あくまで話し相手としてです。今日あった事や出会った方々の事をよく話してくれました」


うーん。片想いか両想いかはわからないけど恋愛感情はあったんじゃないかな。獣人が城に入るってとても覚悟がいる事だと思う


「先代の精霊の加護者の方と気があったようでよく赴いていました」

「ああ、叔父上はとてもおっとりした方で誰かも好かれていたらしい。博識だったしな」

「けれど、精霊に関する事は重要事項でしたので、まだ親族になってもいない彼女には何もお話ししていないようでした」

「まあ、そうか。そうだろうな…。ディザリアの変わったと感じる前に会ってた人物について、他に心あたりはないか?」


ミハエルが少し考え込むように黙ると、ぱっと顔をあげた。


「彼女が別人のようになる数日前、身分の高そうな年配の女性と出会ったと言っていました」

「城で?珍しいな、祖母は亡くなっていたし…母達はまだ年配という程でもなかっただろう」

「わかりませんがお名前がヒルデベルタと」

「どこかで聞いたな…?」


アレンが手元の家系図に目を通すと、そこにはヒルデベルタの名前があった。ただし二百年前の精霊の加護者の名前だった。そして最後の女性の王族でもある。


「……偶然ですよね?」

「ディザリアが別人になる数日前と言ったな?……女性が精霊の加護者だった時代の交代時期なんだが」


時期?


エレノアもじっと見ているとある事に気付いた。名前の横に生誕と死亡の日、そして精霊の加護者の選ばれた日が記載されているのがわかる。家系図ひとつでこれだけの違和感を拾えるアレンがすごいとも言えるが。


「男性の加護者の交代は何年も空いたりしているのに、女性の加護者の交代はえらく早い…ですね。数日なんてのもある」


精霊の加護者の交代は、先代が亡くなってからの選定になる。つまり、亡くなってすぐに次が選ばれているわけだ。でもなんで女性だけ?


「ミハエル、ご苦労だった。仕事に戻っていい」


アレンがミハエルを下がらせると、途端に部屋の空気が緩んだ気がした。


「もう気楽に話してくれていいよ」

「あ、うん。ところでアレン、私気になってることがあるんだけど」

「何かな?」


そしてテオの顔を指さすと、理解したようにアレンが顔を背けた。


「テオも教えてくれないし、何があったの?」

「僕ではないよ。リハルが…」

「酷いです。私は眷属なので精霊の加護者には逆らえないのに」


壁飾りのように黙って見ていたリハルが目をうるうるさせながら弁解してくる。


つまりアレンの意志だったの?


それを受け入れたと言う事は、テオも何かしら罪悪感的なものがあったのだろうかと思った。一体何の話をしたのだろう?


「今はそんな話はいいだろう。それより、何がわかったんだ?あの書記官がいる前では出来ない話だったんだろ?」

「そう、テオの言う通りなんだ」


なんでこういう時は二人は息ぴったりなんだろ


「エレノアの中にいるものは人間ではない、と人外の可能性があると話をしたのを覚えている?もしかしたら人から人へ移り変わるようなものじゃないかと思う」

「私もそれ、考えたことあるわ。ディザリア様が別人になったと聞いて、もしかして私の身体を乗っ取った人物が同じなのではないかと」

「その可能性はあるね。そしてディザリアが身体を乗っ取られたのだとしたら誰と出会ったのか調べる必要があった」

「それがこのヒルデベルタという人物だと?これは二百年前に亡くなった王族だろう?」


テオの指摘にエレノアも頷いた。


「常識的に考えればそうだが人外だとしたら生きていても不思議はない。けれどなぜ二百年前の身体を捨ててディザリアに移ったのか、何か条件があるのかもしれないがそれはわからない。そしてそんなモノを何百年も匿うのに国が認識していないはずはないんだ。本当にそんなモノがいたのなら」


つまり国は意図的にそれを隠していた事になる。けれど第三王子であるアレンも知らないのならば、あとは王くらいしかいないのではないかと思った。


「もしかしたら次期王の兄上なら何か知っているかもしれないから、それとなく聞いてみるよ」

「大丈夫なの?」

「父上に聞くよりは望みがあると思う」


確か兄ともあまり仲良くなかったんじゃ…


「そういえば、私もディザリア様がよく話していたらしい人物を知っているわ。書記官から聞いたら別人になった後らしいけど。確かこの前も会ったわ」

「は?聞いてないけど」


テオの声が一層低くなってエレノアは怖くて振り向けない。

そういえば、後で報告しようと思って忘れていた事に気付いた。

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