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渋い紅茶

諦めきれないエレノアは何度も自分で特訓していた。

相変わらず、紅茶を飲んだ相手からは美味しくないと不評だったが少し薄めに淹れる技を覚えた。


「もう諦めろよ、試験がそれとは限らないだろ?」

「試験に関係なく、私は美味しい紅茶を淹れたいの!」


エルに突っ込まれながらも黙々と渋い紅茶が量産されていく。茶葉は安いものを厨房から譲ってもらったり、自分で持ってきたものなど様々だった。


「こっちとこっちの紅茶は色は違うのに味が同じなのはなんでだ?もはや才能だろ。ん?こっちの茶はちょっと違うな。なんていうか、旨いな…?」


怪訝な顔で紅茶を見つめるエルにふふっと笑った。


「隠し味に獣人が好むような花を入れてるの」


以前、東の魔術師の住処で教えてもらった獣人が夢中になる花だ。あまりに使うと酔ったような状態になるのでほんの少しだけだが、獣人にはとても魅力的な香りになる。


「これは獣人限定だから人間には効果ないんだけどね」

「へえ、じゃあせいぜい募集貴族の好みの茶を用意するくらいだろうな」


好みのお茶かあ…アレンのくらいしか知らないわ。テオは特に好き嫌いないようだし




そして侍女募集の前に昇給する召使たちが決まった。

一年の働きをみてなので、まだ初心者のエレノアには関係ない話だ。


「アリスは王子の婚約者の侍女を希望しないの?」

「私は専属ではなく、侍女長みたいに城の管理を統括するような仕事をしたいの」


なるほど


アリスは真面目で順調に仕事も増えていっているが、役職にあまり変化はないようだ。だからこそ、下っ端のエレノアと出会えたともいえる。


「本当に挑戦するの?」

「もちろん」


今回の第三王子の婚約者の侍女募集には新人からベテランまでかなり多くの召使が希望を出した。条件に特に禁止事項がなかったからだ。ただ獣人で名乗りをあげたのはエレノアだけだったが。


でも何をするのかしら?内容は知らされていないわよね?


突発的な対処ができるかも試験の内なのかもしれない。どうか茶を淹れる試験じゃありませんように心の中で祈った。



試験当日、その祈りは届かなかった。


“第一次審査、茶葉の組み合わせ”


エレノアの手には共通で配られた茶葉がある。ひとつはこれを使って淹れるが、もうひとつで自分で選定した複数の茶葉で淹れるという難易度の高いものだった。


やばぁい


「私は自分の実家から持ってきたものを使うわ。特産品なの」

「私もとっておきを開けるわ」


自分で持っている茶葉はエレノアにもある。それこそ薬草と共にたんまり持ってきたので様々な効能のあるものが出来るだろう。ただし、美味しいかは別である。


どうしよう…


手の中の茶葉を見つめていると、馴染みのある銘柄だと気付いた。


これアレンが好んでいたものだわ


それなりに珍しい異国の茶葉で少し癖があるが香りがいい。何故これを選んだのかわからないが、第三王子の婚約者だからかなと思った。


結局自分で急遽作るよりも決まった茶葉の方が美味しいに決まっている。エルに飲ませてみた獣人の専用茶にした。獣人が感じるような高揚感はないが、花の香りはするはずだ。多分?


気持ち薄めに淹れよう


毒見された沢山の紅茶が並べられたが、不正を防ぐために誰が入れたかはわからないようになっている。本人たちはカップの柄や色でわかるようになっているが。


そして第三王子の婚約者がいる部屋に通されたと思ったら、何故かいるはずのない人物がいる。


アレン…?


婚約者と一緒に椅子に座っているのは第三王子だった。後ろに水の眷属であるリハルもいる。

懐かしい風貌に少し顔が緩みながらじっと見つめる。こちらは知っていても、アレンはエレノアだと気付かないはずだ。


元気そうね


テオは警戒するような事を言っていたが、エレノアはアレンが決して嫌いではない。もうひとりの弟のようにも思っている。


そして審査が始まると次々と紅茶が運ばれていく。なぜ二杯ずつ入れるのか不思議だったが、アレンの分だったのかと思った。飲む前にエレノアの姿をした婚約者が召使たちに説明する。


「ふふ、驚かれたでしょう。王子も一緒に皆の淹れてくれた紅茶を楽しみたいそうです」

「いつも淹れてた人がいなくなってしまったからな」


…あれ?


何か引っかかった。けれど二人が紅茶を飲み始めたので、意識はそちらに持っていかれた。


「これは高い茶葉かしら」

「まあまあね」


ちょっとした言葉を挟むが美味しいと言う言葉は引き出せない。次に手に取ったのは自分のカップだった。そして飲んだ途端、噴き出したのでみんな目を丸くする。


「ちょっと!これはいくらなんでも失敗でしょう」


あ!あああ…


いつもアレンに淹れていたのだったから、つい癖で渋く入れてしまったらしい。しかし、アレンは文句言わず飲んでいる。じっと紅茶をみながら何も言わない。


もしかしてアレンも味音痴だったのかしら


そんな事を思っていると、女性は次に獣人用のお茶に口を付けた。こちらは気持ち薄めにいれたのでそこまで渋くはないはずだ。


「あら、初めての香りね。少しリキュールでも入っているのかしら」


おお、反応は悪くない


けれどお酒はいれてないはずだが、もしかして獣人特有の感覚を言っているのだろうか?でもあの花は人間には効果はないはずだけれど?


エレノアはよくわからずに首を傾げた。



全員の審査が終わって、案の定エレノアは選ばれる事はなかった。最初のお茶ですでに落ちていたようなものだが、二杯目の反応が良かったので少しだけ期待していた。

第二審査に進む者以外は退場となるので、そのまま扉に向かう。


廊下にでてひとりで黙々と考えていると、アレンのある言葉を思い出した。


“いつも淹れてた人がいなくなってしまったからな”


そういえばさっき、何か引っかかったのよね


しばらく無言で歩き続けると、はたと気付いた。いつも茶を淹れていたのはエレノアだ。しかもエレノアの姿をした婚約者は目の前にいるのに、彼はどうしてそんな事を言ったのだろう?


アレン…?




第三王子は、婚約者の部屋でひとつのカップを見つめていた。

苦くて、渋くて、懐かしい味。


「リハル、この茶を淹れた者を連れてこい」

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