仕返し
男性に導かれて付いていくと、エレノアが連れ去れた場所に出た。
食糧庫からあまり離れていないらしくすぐに戻って来れたのでほっとする。
「お迎えだよ」
「え?」
そう言われて前方を見ると、薄暗い中に立っている人影が見えた。よく目を凝らしてみるとそれはよく見知った人物で…。
「エル…っ」
「このバカ!!」
いきなり怒られた。
「あんな頭の悪い呼び出しに応じる置手紙初めて見たわ!もう少し考えてから動け!」
まるでテオに怒られているようだ。この事を報告すれば同じように言われるのは想像に難くないので黙っていようと思った。うん。
「心配してきてくれる友達がいたんだ。良かったね」
傍観してた礼服の男性が唐突に口を挟んできた為、思わず二人は黙ってそちらに視線を移した。エルの方は顔に思いっきり、誰?と書いている。
「う、うん。どうもありがとう、助かったわ」
「じゃあ、僕はこれで。またね」
男性はほとんど足音もなく去って行った。しばらくしてエルが声を発した。
「えっと、誰?」
「私も知らないけど助けてくれて…あっエルはあの人見えたよね?人間だったよね?」
テオが幽霊なんじゃないか何て言うから、実はビクビクしていた
「獣人には見えなかったな。それにかなり位の高い貴族なんじゃないか?」
「エルも知らないの?勤めて長いんだよね?」
「さあ?無暗に貴族の事を聞けるような身分ではないからな。ただ、見かけたことはある気がする」
あら?
確か自分の事を誰も知らないと言っていた。それはどういう意味なんだろうか?正体を知らないと言う意味だろうか?
詮索するなと言われたけど気になるわ…
その後はエルが人を集めて食糧庫に閉じ込められてた人を助け出した。
べスの姿はどこにもなかったので逃げたのだろうか?
部屋に帰ると改めて説教が待っていた。
「新人は狙われやすいんだ。初めに注意しろと言っていただろ」
「あのお酒の誘いを断れってやつ?まさか命に関わるなんて思ってなかったもの。王城は怖い所なのね」
「おい、今回のは流石に特殊な事件だよ。人攫いがそうそういてたまるか。俺が言ったのは、その…」
何をごにょごにょ言っているんだろう?何か言いにくい事?
「貴族に利用されるって言ってんの。若い女、しかも獣人なんていくらでも替えが聞くから、融通して昇格を狙う召使いなんかもいるんだよ」
ここでエレノアはエルが困っていた理由がやっとわかった。見た目から自分を子ども扱いしてるので、生々しい内容を言いたくなかったのだろう。危険な事は詳しく教えとくべきだと思うが、彼は色んな意味で過保護なんだなと思った。
弟や妹がいるのかしら?
そんな事を思っていたら扉を叩く音が聞こえ、エルが対応する。
「事件の通報者はお前か」
「はい」
あれ?この人確か試験の時いた…書記官だったよね?
相手もこちらに気付いたのか、なぜいる?という怪訝な顔をされた。いや、私ももう会いたくなかったですけれど。
「こいつも被害者の一人です」
「ではこのまま話を進める、被害者たちに話を聞いてベスという召使いを連行したのだが…」
え?まだべスがいるの?とっくに逃げたと思ったのに
続きを聞くと、どうやら先ほど釈放されたと言う事だった。エレノアは信じられない思いで問い詰めると書記官は被りを振った。
「証拠不十分でこれ以上の拘束は無理だった。だから通報者が何か知らないか聞きに来たのだが」
「いえ、自分は犯人に会ってもいないので…」
「そうか、結局物証は落ちていたこれくらいしかなくてな」
それはべスが持っていた睡眠薬の小瓶だった。中にはまだ液状のものが入っている。多分、あのまま自分が逃げたことがわかって、食糧庫には戻って来なかったのだろう。
「…証拠って例えばどんなものがあればいいの?」
「手っ取り早いのは自白させる事だ。後はこの薬に関わりがあるなら取り調べは出来る、危険なものだとわかっているからな」
それなら出来るかもしれない、エレノアは二人にある作戦を持ち掛けた。
次の日、食堂には何も知らないという顔でにこりと挨拶をするべスがいた。ものすごい鉄面皮だ。
昨日の被害者たちは寝込んで誰も出てきていないというのに。
エレノアは少し離れた所でベスの様子を伺いながら、朝食の準備をした。
「あら、今日のお茶とても香りがいいのね」
「おはよ、アリス。今日は珍しいお茶を持ってきたからみんなに飲んでもらおうと思って」
実際今日のお茶はそれなりに有名な高級品だ。市場にあまり出回ってない為手に入りにくいものだが、東の魔術師の庭に沢山生えていたので乾燥させて持ってきたのだ。了解は得ていない。
べスも香りをかいで珍しそうに飲んでいる。
うん、薬草に詳しい人なら知ってるわよね
「香りがいいでしょ?これも入れたんだけど美容にいいんだって」
周りの女性たちに聞こえるように出来るだけ大きな声で言う。よく知らない平民の少女たちは美容と聞いてちょっと嬉しそうな顔をしている。
ふと、べスと目があうとエレノアは持っていた小瓶を見せつけた。そして、エレノアが茶を飲んでいない事に気付いたのか驚愕の表情をした。
そして当然知ってるわよね。その薬草にこの薬を混ぜたらどうなるか
ひとつひとつは薬であっても、混ぜ合わせると劇薬になったりする。それは薬草に知識のある者にしかわからない恐怖だった。
べスはいきなりたちあがったと思ったら口に手を突っ込んで胃の中のものを吐く。周りにが突然の事に唖然としていると、エレノアの方にやってきて小瓶を奪い取った。
「あんた、殺す気!?」
「解毒剤の材料は隣の部屋にあるわよ」
そのまま食堂の扉を開けて外に出ようとしたべスを、扉の前で全てを聞いていた書記官たちが現行犯で捕まえる。この薬の小瓶に反応できるのは当事者以外にいない。エレノアは大人しくなったべスに駆け寄って耳元で話す。
「小瓶の中のものは入れてないから大丈夫よ」
ものすごい目で睨まれた。怖い。
けれど、これ以上城で犠牲者を出さない為にも誘拐犯をそのままにしてはおけない。
ただ相手が貧しい平民だから、商団はお金でうまく解決するのかもしれない。どっちにしろ自分が出来るのはここまでだ。
「あんたなんて誘わなければ良かったわ」
その言葉で思い出した。そういえば、べスに聞きたいことがあって誘いに乗ったんだった。
「ねえ、第二王子の宮で見た貴族って誰だったの?」
「はあ?ああ…、そんな事言ったわね。第二王子の宮で見たのは貴族じゃないわ、外部の獣人よ」
え?
そのまま連れていかれるべスの後姿を見ながら、また不可解な謎が増えたと思った。どうして不在中の宮に獣人がいるのだろう?直接自分に関係のない事かもしれないが、なんだか気になったがその思考はエルによって遮られた。
「どうした?」
「いや、なんでもない。そういえば、エルは私の作戦を聞いても反対しなかったわね。何か言われても無言を貫いて大人しくしろって言ってたのに」
「時と場所とやり方を選べってだけで、やり返すなとは言ってないだろ?」
なるほど
仕事が終わって部屋に帰る前にテオに呼び出された。
嫌な予感がする。
待ち合わせ場所にいくと、テオが笑顔で待っていた。いや、付き合いの長いエレノアにはその笑顔の裏の意味がわかる。普段あまり笑わないテオが笑顔で待っている、それだけで異常事態だ。
あれは、ものすごく怒っている時の顔ね
何故か知らないが全てばれてて、今から説教第三弾が始まるんだろうなと思った。




