1章-6:都行きと大人たちの話 (前編)
マズルさんと親交もってから数日経った。今は水汲みの時の挨拶だけでなく、ちょっとした話をするのが当たり前になった。
そんな僕らの様子を見て、両親は安心して預けられると思ったらしく、父さんは泊り込みで開拓中の集落に仕事に向った。母さんは僕が都に行く日まで、普段の仕事に加えて、聖殿に縁者を見立ててもらうことへのお礼の用意で忙しくしていた。
母さんが用意したのは、都でも高く評価される薬草と無地の布のようだ。布は綿織りのもので、母さんが作った薬を他所の集落で交換して来たものだ。
都に行く日になった。朝食後に出発することになっていて、母さんと一緒に広場に向った。集落の長、マズルさん、もう1人別の管理人さんが来ていた。今回は僕を加えて4人が都に行く。
ここ数日は、僕が都に行くという話が子供たちの間で広まっていて、まだ都に行ったことがない子たちには羨ましがられた。長の家族のまだ小さい子が、自分もついて行きたいと騒いでいる。家族が行けないことをこんこんと言い聞かせているけども、納得できないみたい。僕も以前はあんな感じで、親の行き先に付いて行きたいとわめいてたなぁ。
近くの河岸に舟が着いたみたいで、大人の人が呼びに来た。僕は母さんに持たされた荷物を抱えて舟に乗る。舟は縦長で10人が乗れるものだ。僕たち4人はまとまって座った。
「それでは行ってくるよ。」
「父さん、留守中は任せて。」
長と、その息子さんが出発前のやりとりをしている。この息子さんは5年ほど前から長の仕事を手伝っていた。僕が5歳くらいの時までは、子供たちの面倒を見てくれるお兄さんの印象があったけども、成人してからは集落の若手として色々している。ちなみに今回、2人の管理人さんが都に行って不在の間、水汲み場の管理を任されている。
「皆さん、カイムをどうかよろしくお願いします。」
「メディ、任しておいてくれて良い。」
「カイム、都では、いつもみたいに気の引かれるものに、集中しすぎないように。良いわね?」
出際に、見送りに来ていた母さんは、長とマズルさんに僕のことをお願いして、僕には2人に迷惑をかけないようにと言い聞かせた。舟は河岸を離れて、見送りに来ていた母さんたちは、あっという間に見えなくなった。これから僕は、初めて両親がどちらもいない数日を過ごすことになる。急に両親がいない実感が湧いて、僕は何とも言えない寂しい感じになった。
しばらく川を下って行くと河岸に人が立っていた。この河岸からすぐ近くに集落があり、そこの長と管理人さんが舟に乗った。僕らの長とこの長は馴染みがあるみたいで色々な話をしている。
長たちの話を聞いていると、今回は都に各集落の長が集められ、集落ごとに、これから一年の収穫予定量を報告して都に納める税を決めたり、集落の構成員の変化の有無、集落の営みで問題になっていることを報告するみたいだ。
さっき乗ってきた人達の集落は、先日、僕たちの集落が穀物とお肉を交換したところだったみたい。先日のお肉がすごく美味しかったこと、みんな喜んでいたことをみんなでお礼を伝えた。凄く喜んでくれた。
一方で、ここの集落は今、農場の家畜を襲う大きい獣に手を焼いているらしい。獣があの美味しいお肉を狙うのはよく分かる。でも、僕らにも大切なものなので、独り占めは許せないね。
そんな食い意地の張ったことを考えていると、農場の柵を新調するので援助して欲しいと、僕らの長に相談してきた。けれども、僕らの長は、ぼちぼち収穫できる農作物があって人手がいるので、2週間ほど待ってもらう必要があると言う。
このことに関して、都がどちらかの集落に人手を援助して欲しいという要望を出すことにすることになった。
こうやって都での話し合いまでに、交流のある集落は互いの問題を共有して、援助が必要な場合、都が援助しやすいように準備するのが長の仕事なんだそうだ。
正直、小さい子供の僕からすると、集落の長が普段、若い男の人よりも仕事の量が少ないのに、頼られているのが不思議だった。
けれど、今回の都行きで一緒にいることで、長の仕事がどういったことなのか分かった気がする。まあ、それも、柵の新調ができたら新鮮なお肉というお礼がもらえるのが分かったからなんだけれど。僕らみたいな子供は美味しいお肉は嬉しいし、喜んでしまうのだから仕方ない。
「しかし、職業登録前のこの子が都に行くなんて、どうしたんだい?」
あちらの集落の管理人さんが、今回、僕が都に行くことについて質問してきた。
僕らの長はマズルさんと目を合わせた。そして、マズルさんが答えた。
「この子は先日、縁者と結びつきを自覚しまして。早いうちに聖殿で見立てと、より良い結びつきの指南を受けさせたいと両親が希望いたしました。この度の会議は舟が使えますので、子連れでも日を要さずに都に着けますので、同行することとなりました。両親は集落を離れられない事情がありまして、聖殿出身の私が預かることとなりました。」
「そんな早いうちに縁者との結びつきを感じとることがあるとは知りませんでした。早くとも、職業登録時くらいだと思っておりましたが。」
あちらの管理人さんだけでなく、あちらの長も僕くらいの子供が縁者を感じ取る様になることは知らなかったみたい。
「たしか、そちらの集落では聖殿出身の管理人は着任しておりませんでしたね。」
「そうです。ですので儀式や祈りの必要になる集落の集いではマズルさんにお越しいただくことになります。」
「では、そのつもりで私も集落に滞在することにいたします。」
今回、都行きの舟旅は、僕が今まで立ち入ることができなかった大人の人達の世界で、そこでの考え方や言葉遣いに触れ、貴重な経験になった。
ご拝読いただきましてありがとうございます。
今回は解説回ですね。
都と集落の関係に始まって、大人の役割などについて、カイム視点で表現しました。
書いているうちに、この話の世界観が広がるのが自分でも分かり、思ったよりも文字数を費やしてしまいました。(汗)
書いていて、これはパートを分けざるを得なくなったので、今回は前編とさせて頂きました。
親と一時的に離れることで、子供は否が応でも社会と接点を持つことになります。
そういった中で、カイムと一緒に、この物語の世界観の一旦を楽しんでもらえればと思います。




