【 中幕 】
室内は息苦しいほどに静かだった。何も聞こえず、何も見えない。
「……ねえ」
もぞもぞと身体を動かし、原田なつみはカプセルベッドから顔を出した。
「わたしも、そっちに行っていい?」
「な、なして!?」
驚いた声が床から聞こえる。
なつみはシーツを掴むと手探りで声の方へと向かった。
ぺたり。
しっとりした感触が伸ばした指先に当たった。
ホッとして、その冷たい肌を探る。
「――やめれ、目に入っただ」
「ごめんね。なんか安心しちゃって」
「こっちなんかより、カプセルの方が疲れ取れるべ?」
「うん……なんだか、寝付けなくって」
シーツをずるずるとたぐり寄せ、なつみは頭からそれを被った。
「ね。この星って、大さん以外には誰もいないんでしょ?」
「そうだ」
「でも、きっちり施錠はするのね」
「おめえがいるからな。万が一の事があったらニポンのおっとさんとおっかさんに申し訳ねえべ」
「誰も、いないのに?」
「人はいねえが動物はいる。外から侵入者がやって来ねえとも限らねえ」
「ふうん」
地球の両親は今頃どれほど心配していることだろう。
友人宅に泊まったり旅行で家を空けることは稀にあったが、無断外泊をしたのは初めてだ。
(警察に捜索届を出してないといいなあ……)
遠い実家に想いを馳せていると、
「眠れないなら茶を飲むべ」
と763が言った。
窓が開き、冷たい風が流れ込む。窓から見える満天の星は互いにぎっしりとひしめき合い、ちらちらと笑うように瞬いている。
見とれていると、湯気のたつ球状のカップが渡された。
「安眠効果のあるハーブ茶だべ」
二人で窓辺に並び、星を眺めながら冷めないお茶をちびちびと啜る。
「ねえ、この窓って網戸付けないの?」
「網戸ってなんだべ?」
「大さん網戸知らないの? 窓枠に網を張って、窓を開けていても虫や動物が部屋に入ってこないようにするものなんだけど」
「窓は計測計だけじゃなく、目と肌で実際に湿度や天気を確認するため付けただよ。虫が入ってくるまで開けっ放しになんてしないだ」
「開けていた方が気持ちいいのに~」
「そうだか? 外気をシャットダウンして空調設備をきちんとしていた方が体調管理しやすいべ?」
「でも、やっぱりこうしていつでも星を見れた方が楽しいもの。うちのホームセンターに網戸用の網もあるから、今度付けてみたらどう?」
「いや、別に……」
「絶 対 に 付けるべき! ですっ!」
「そ、そうだか……」
もごもごと気乗りしない調子で763は呟いた。
「――よし、茶は全部飲んだだか? これでぐっすり寝れるだよ」
二つのカップを洗浄マシンに入れ、763がシーツごとなつみの体を引っ張ってカプセルベッドへと連れていった。
「……ねえ」
大人しくベッドの上に横になりながら、なつみは窓を閉じる763を見て声を掛けた。
「……やっぱり、大さんも一緒にここで寝よ?」
「そりゃ駄目だ」
ぱたん、という音と共に、再び辺りが闇になる。
「どうして?」
「里のおっとさんとおっかさんが心配してる時に、雄と雌が同じ寝床なのは駄目だべよ」
そういった考えは日本と同じなのか、となつみは思った。
いや、もしかしたら彼が特殊な考えの持ち主なだけかもしれない。
『雄と雌』と言われたところで、なつみは元々宇宙人を異性としては見ていない。
人柄が分かった分、(可愛らしいなあ)と思い、慣れない心細さから傍にいて欲しかっただけなのだ。
「けちー」
「はよ寝ろ」
ぶー。頬を膨らませてうつ伏せになる。滑らかなシーツ地に顔を沈めているうちに、とろとろと眠気が襲ってきた。どうやらあのお茶は本当に効果があるらしい。
「大さぁん……おや……す……」
最後まで言い終わらないうちに、なつみは眠りについていた。




