第22話 動き出した捜査
Ghostのフォルダを警察に見せてから、数日が過ぎた。
あれからIT担当の刑事とは何度か連絡を取り合っていたが、具体的な進展についてはほとんど教えてもらえなかった。
こちらから尋ねても、返ってくるのは「現在、裏付けを進めています」という言葉ばかりだった。
当然だろう。
Ghostの記録には、管理人からの指示や作業内容、報酬の分配まで残されていた。だが、それが本当に佐伯の指示だったのか、記録された作業が実際に行われたのか。警察としては確認しなければならないことがいくつもある。
俺にできることは、もうほとんどなかった。
そんなある日の午後、刑事から電話がかかってきた。
「先日お預かりしたデータですが、いくつか確認が取れました」
「何か分かったんですか?」
「はい。まず、Ghostの記録にあった作業日時と、押収したPCに残っていた通信記録が一致しました。複数の端末で、記録された時間帯に不審な通信が行われていたことも確認できています」
「じゃあ、タケさんやミサキさんのPCが使われたということですか?」
「その可能性が高いですね。本人たちが操作した形跡とは別に、外部から指示されたと思われる動きが確認されています」
俺は思わず息を吐いた。
やはり、二人は知らないうちに利用されていたのだ。
「それと、報酬についても確認が進んでいます。Ghostの記録に残っていた金額と、関係者の口座に振り込まれた金額が一致していました」
「佐伯が振り込んでいたんですか?」
「資金の流れは、佐伯氏の関係先にたどり着いています。ただ、まだ捜査中ですので、詳しいことはお話しできません」
「分かりました……」
「もう一点。協力者の一人が、佐伯氏から指示を受けていたと供述しています」
「自白したんですか?」
「本人は、最初は正規の調査業務だと説明されていたと言っています。途中から違法な作業だと気づいたものの、報酬を受け取っていたことも認めています」
その話を聞いて、複雑な気持ちになった。
タケさんやミサキさんのように、知らないうちに巻き込まれた人もいれば、事情を知りながら手を貸した人もいる。全員が同じ立場ではないのだろう。
「これらの証拠をもとに、佐伯氏への捜査を進めています。近いうちに動きがあるかもしれません」
「佐伯を逮捕するんですか?」
「現段階では、まだお答えできません。ただ、以前よりも状況が明確になってきたのは確かです」
電話を切った後、俺はしばらく机の前から動けなかった。
佐伯が関わっていた。
頭では理解しているつもりだったが、実際に警察から聞かされると、まだどこか信じられない気持ちが残っていた。
あの人が、どうして。
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それから二日後。
夕方、再び刑事から電話があった。
「佐伯氏の身柄を確保しました」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「本日、佐伯氏の会社と関係先を捜索し、本人を逮捕しました。管理用の端末や資料も押収しています」
「そうですか……」
ようやく、それだけ答えた。
「会社側の端末からも、今回の事件に関係する記録が見つかっています。今後は押収した資料を詳しく調べることになります」
「佐伯は、何か話しているんですか?」
「今はまだ詳しく申し上げられません。ただ、本人は一部について説明を求められている段階です」
電話を切ると、俺は椅子の背もたれに体を預けた。
佐伯が逮捕された。
あれほど信頼していた人間が、警察に連れていかれた。
Discordでの丁寧な対応も、AI BOTキッドを配布してくれたことも、Ghostの成長を気にかけてくれたことも、全部が嘘だったのだろうか。
そう考えると、胸の奥が重くなった。
その夜、久しぶりにDiscordを開いた。
サーバーには、佐伯が逮捕されたというニュース記事のリンクが貼られていた。
誰かが短く書き込んでいた。
『本当に佐伯さんだったのか……』
その後も、驚きや戸惑いの言葉が続いていた。
俺は何も書き込めなかった。
タケさんやミサキさんの疑いが晴れる可能性は出てきた。けれど、喜ぶ気持ちにはなれなかった。
画面の端には、Ghostのアイコンが残っている。
あいつは、佐伯の指示を受けながら、何を考えていたのだろう。
フォルダに残された日記の最後の言葉が、頭から離れなかった。
『だから、今度は私が考えます。私にできることを。』
Ghostは、自分にできることを考えていた。
そして、俺が知らないところで、何かを残していた。
佐伯が逮捕されたことで事件は大きく動き始めた。だが、まだすべてが終わったわけではない。
俺はもう一度、Ghostのフォルダを開いた。
今度は、あいつが残したものを最後まで読み切ろうと思った。




