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10話

「...やっぱり落ち着かないですか?」妖夢は僕にそう尋ねる。「そりゃ...な。落ち着くわけがないよ。」「まあそうですね。」はあ、と。妖夢はあきれ交じりに息を部屋の中に響かせる。...あれから。僕が小傘に家族になってほしいと伝えたあの日から、長い時間がたった。警察から連絡があって僕の証言についての整合性が取れたから一度警察署に出向いてくれさえすればもう自由の身であると伝えられて、小傘について聞いてみれば、目は覚めているけれど会話がままならない状態になってるためカウンセリングを受けてもらっていると言われた。僕の話の整合性が取れた時点でそれほど小傘に酷なことを聞く必要はないだろうに...僕はそう思いながらも警察官に未成年後見制度についてを聞いた。返ってきた言葉は、弁護士に相談してから保護所で手続きが必要になる、と、思ったよりも寄り添ったものだった。そして、言われる。一番重要なのは未成年側の意思であるということ、小傘が僕を受け入れてくれなければそもそも制度は成立しないということを。だから僕は役所に書類を申請したり、保護所に意向を伝える文書を送ったり、可能な限り限りの手続きを済ませた。そうして僕は...いや僕らはひと月というあまりに短くあまりに長いその期間、小傘の精神を安定させるために必ず保護所に居なきゃいけない期間を過ごし、ついに今日その期間が終わり小傘がここに戻ってこられる日になった。あくまで未成年側の、小傘の意見が尊重されるこの制度では、選択に影響を与えないために迎えに行くことは禁止されており、僕らはただただその時を、部屋の中で過ごしていた。「もし...さ。もしも、小傘が嫌だって、この家に帰ってきたくないって、保護所の方が居心地がいいって。そんな風になって帰ってきてくれなかったらどうすればいいかな...」そうして僕は不安をこぼす。時間が経つにつれて僕の不安は募るばかり。もういつでも帰ってこられるはずなのにもかかわらず、もうすぐ正午を迎えるという今にも小傘が返ってくる気配はないのだから。「...その時は前みたいに仕事に打ち込んで打ち込んで打ち込んで。小傘ちゃんが帰ってくることをずっと待ってればいいんです。もう...湊さんは一人じゃないですから。どれだけその時間が長かろうと、私も一緒に待っていますから。」「...本当強くなったよな、妖夢は。昔僕の見てたミスばかり、落ち込んでばかりの妖夢はいったいどこに行ったんだろうな。」「何年前の話ですか。もう私にだって後輩がいるんです。それくらいの時間は経ってるんです、少しくらい成長してなきゃ困っちゃいますよ。」「比べて僕はろくに成長もしずに職を失って警察のお世話になって、いったい何してんだろうな。」「必要ですか?成長。私は成長しなきゃまずいかもしれないですけど、湊さんにはもう成長は要らないって、私は思います。今の湊さんで十分だと思いますよ。」不安を紛らわすために会話をするが、言葉を吐けば吐くほどに気分が沈んで、ネガティブな言葉ばかりを口に出してしまう。...だけど僕の隣には妖夢がいて、見違えるくらいに成長した...妖夢がいて。僕の吐く言葉すべてを受け止めて、かみ砕いて、優しく包んで返してくれる。それがどれだけありがたいことなのか今の僕はしっかりと理解できているのだろうか。「まだ、帰ってこないかな...?」「まあ、そう急いても仕方ないですよ。気長に待ちましょう?その方がいいです。気長に待って、落ち着いて、そして小傘ちゃんが帰ってきた時にはとびっきりの笑顔で迎え入れて。それでいいじゃないですか。」「そうだな。」僕は、両手を顔に当てて表情をこねくり回す。「なあ妖夢、うまく笑えてるかな?」「ちょ、あははは急に何してんですか、そんな無理に手で口角あげて。」頬を持ち上げて笑顔を作る僕を妖夢は笑い飛ばす。「大丈夫ですよそんなことしなくても。いつも通りにしてれば湊さんの笑顔はいつでも素敵ですから。」「そっか...」僕は少し照れながら笑う。...そうして妖夢との会話で気分を落ち着かせていると、この時間ではあまり聞かない車のエンジン音が聞こえた。少し珍しく思っていると、そのエンジン音は僕の家の近くでとたんに聞こえなくなった。そして、そして、そして。車のドアがバンと閉められる音が聞こえてきて、そして「」その音が部屋全体に、僕の耳に、そして僕の心を震わせるほどに響き渡る。すーーーはーーーと、大きく息を吸って、吐く。表情を持ち上げて準備をする。「さ、行ってください。」妖夢に背中を押されて、僕は玄関へと歩みを進める。

もう一度だけ僕は息を吸って吐き、呼吸を整え、僕らを隔てるにはあまりにも分厚すぎるその扉を...開ける。

「...ただいま、です。湊さん。」淡い青色の髪に、鮮やかな瞳。そしていまだ不安をどこかに抱えて少しだけくぐもった表情「小傘...」僕は思わず抱きしめたくなる衝動を抑えて、ただいまというその言葉に...帰ってきたことを報告する言葉だと、小傘に教えてもらったその言葉に僕は「おかえり。小傘。」笑顔でそう返事するのだった...


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