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ロッカー開け閉め問題の殺意

【問題】


 ある部屋に左から順に1から30までの番号が振られたロッカーが、最初はすべて閉じた状態で、横並びに並んでいます。

 この部屋に同じように1から30までの番号が振られた生徒が、順番に、自分が振られた番号の倍数のロッカーを、そのロッカーが閉まっていたら開け、開いていたら閉めます。

 つまり、1番目の生徒は、1の倍数、すなわち1から30のすべての番号のロッカーを開けます。その後に2番目の生徒が、2の倍数、すなわち偶数番号のロッカーを閉めます。その後に3番目の生徒が、3の倍数のロッカーについて、開いているものは閉め、閉まっているものは開けます。これを30番目の生徒まで同様に続けます。


《このようにして30番目の生徒までがロッカーの開け閉めを行った場合、開いているロッカーはいくつあるでしょうか。》

挿絵(By みてみん)




《はじめに》


 この物語は、いわゆる探偵小説です。事件パートと解決パートに分かれていますので、解決パートを読む前に犯人が誰かを推理してみてください。









《事件パート》


 事前予約もなければ、ノックもなく探偵事務所のドアを開けた客は、ここまで走ってきたのであろう、膝に手をつきながら、息も切れ切れに言った。


「探偵さん、僕を助けてください」



 以下では、その客(20代前半、身長170cm、大学生、男)を「生徒13」と呼ぶ。今回の事件においては、その客を本名で呼ぶよりも、そう呼んだ方が明らかに便利だからだ。




 生徒13が探偵に話した内容は次のとおりである。



 生徒13が通うT大学で、生徒13を含む30人の生徒が集められ、とある実験が行われた。この30人の生徒は、学年も学部もバラバラであり、互いに面識のある者もいれば、面識のないものもいた。

 彼らの唯一の共通点は、T大学の掲示板に貼られたチラシを見て、実験協力のバイトに申し込んだ者たちということだった。わずか数分から数十分の協力で、1万円という破格の報酬だったのである。生徒13の友人も複数同じバイトに申し込んだのだが、採用されたのは生徒13だけだった。かなりの高倍率だったと思われる。


 30人の生徒たちは、いずれもメールで応募し、そのメールの返信メールを受け取ることによって、自分たちがバイトに採用されたことと、集合の日時場所を伝えられた。チラシにおいても返信メールにおいても、実験の主催者が一体誰で、実験の目的は何かということは一切明かされていなかった。


 集合場所の空き教室にも、主催者ないし主催者側の人間はおらず、ホワイトボードに実験のルールが書き残されていただけだった。


 ホワイトボードに書かれていた実験のルールは、【問題】(ただし、《》内を除く。)のとおり。さらにこれに加え、ロッカーはこの教室とドア越しに直接繋がっている隣の教室にあること、その教室に、生徒は3分おきに一人ずつ入ること、教室に入った後にはドアを閉めること、生徒は担当するロッカーの開け閉めが終わったら直帰することがホワイトボードに書かれていた。


 なお、生徒の番号は、それぞれ返信メールに書かれていた。生徒13に付された番号は、13番だった(以下、n番目の番号を付された生徒を「生徒n」と呼ぶ。)。


 ホワイトボードの指示に従い、まずは生徒1がロッカーのある隣教室に入った。


 それから3分後に生徒2、さらにその3分後に生徒3、という風に、生徒たちが順に隣の教室に入っていった。


 生徒たちは教室に入ったときにドアを閉めることを命じられていたため、生徒13は隣の教室の様子を見ることはできなかった。


 また、生徒たちが集められた「控え室」の教室ではスピーカーから大音量の音楽が流れていたから、隣の教室の音を聞くこともできなかった。


 隣の教室に入った生徒はそのまま直帰を命じられてたため、生徒13がいる「控え室」の教室に戻ってくることはなかった。



 「控え室」の教室で待ちながら、生徒13は、自分が運が良いのやら悪いのやらよく分からないな、などと考えていた。自分は13番目の生徒だから、隣の教室に行けるのは実験開始から33分後である。拘束時間40分弱で1万円がもらえるのはありがたいが、どうせなら1番か2番が良かった。


 しかし、そんなことを言ってられないくらいの不運が生徒13に訪れた。それは、12人の生徒がロッカーの開け閉めを終え、自分の番が来てからであった。



 「控え室」の教室の丸時計で時間を計り、生徒12が隣の教室に入ってからちょうど3分後に、生徒13は隣の教室のドアを開けた。




 椅子も机もない質素な部屋に、横並びになった30台のロッカーが置かれていた。



 ただし、そこにあったのはロッカーだけではなかった。




 ロッカーの前に、絞殺体が横たわっていたのである。




 生徒13は思わず悲鳴を上げたが、その声は、大音量の音楽にかき消され、生徒14以降の耳には届かなかった。



 その死体は、生徒13の知り合いのものではなかったが、生徒13はそれが誰のものだか分かった。


 生徒12である。


 自分がロッカーのある教室に入るタイミングを計るため、生徒13は生徒12の様子をずっと観察していたため、ハッキリと覚えていたのである。




 生徒12の死体を目の当たりにした生徒13は、どうしてよいかが分からなかった。



 突然の出来事に混乱した生徒13は、今から考えるととんでもなく突飛な行動をとってしまった。



 実験を止めないために、生徒12の死体を隠蔽することにしたのである。



 生徒13は、自分の担当する13番目のロッカーを閉じる際に、生徒12の死体をそのロッカーの中に入れたのである。



 そして、生徒13は、ルールどおりに26番目のロッカーを開けた後、そのまま教室を去り、走って大学を離れた。




 後から考えると、この生徒13のとっさの行動は最悪だった。



 生徒13は、生徒12に対する殺人の容疑者となってしまったのである。






「君が教室を離れた後のできごとについて、君は聞いているかい?」


 探偵は、生徒13に質問をする。



「はい。任意同行を求められた際、警察から聞きました。僕がいなくなった後も、実験は最後まで滞りなく続けられたらしいです。13番目のロッカーは、僕が閉めた後には、どの生徒も指を触れなかったようなので」


「なるほど……。では、誰が生徒12の死体を発見したのですか?」


「翌朝教室の掃除に来た清掃業者の人が、横並びのロッカーを不審に思い、大学当局に問い合わせたところ、大学当局も心当たりはないとのことだったので、そのままの状態で110番通報したそうです。駆けつけた警官がロッカーを開け、死体を発見したそうです」


 ホワイトボードに書かれていたルールによれば、ロッカーの開け閉めが終わった生徒は直帰するものとされていた。とすると、生徒30が帰った後、ロッカーは実験が終わった状態でそのまま朝まで放置されていたことになる。



「警官は、通報を受けて教室に入ったときのロッカーの開け閉めの状況については把握していましたか?」


「はい。警官が教室に入った段階では、ロッカーが5つ開いていたそうです。具体的にどのロッカーが開いていたかどうかは分からないとのことでした」


「なるほど。すべての生徒がちゃんと【問題】のルールを守ったかはどうかは分かりますか?」


「おそらくそうですね。警官の話によればロッカーについている指紋とその付着状況を照合したところ、全生徒が【問題】のルールを最後まで守った場合につく指紋の状況だったようです」


「教室にはロッカーの他には物は何もなかったんですね?」


「そうですね。何もありませんでした」


「実験の最中、教室に出入りしたのは30人の生徒だけですか?」


「そうです。まず『控え室』の教室ですが、全体の出入り口のドアは内側から鍵を閉めていました。そして、ロッカーのある教室ですが、全体の出入り口のドアはオートロックとなっており、内側からは開けられますが、外側からは開けられないのです。すなわち、一度教室を出たものが教室に引き返すことはできませんでした」


「事件の後、実験の主催者からは連絡がありましたか?」


「一切ありません。約束の1万円も誰にも振り込まれていないようです。僕らは全員主催者に騙されたんです」


「そうでしょうね。……では、最後に一番大事な質問をさせてください」


「どうぞ」


「私はあなたの発言を信じてもよいですか?」


「もちろんです!! 私が生徒12をロッカーに隠してしまったのは、私が実験を中断することによって、他の28人に迷惑を掛けてしまうかもしれないと思ったからであって、疚しい気持ちは一切ありませんでした!! 私は断じて生徒12を殺していません!!」


 探偵は、自慢の推理力を使い、今までの生徒13の話から真犯人を断定した。



「分かりました。真犯人は……」








《出題》


 生徒13の発言には嘘や誤解はなく、警官が生徒13にした話にも嘘や誤解はないとします。


 ズバリこの事件の犯人は一体誰でしょうか。





















《解決パート》



「分かりました。真犯人は、生徒8です」


 探偵は断言すると、生徒13は目を見開いた。



「本当ですか!!? どうして分かったのですか!!?」


「推理、すなわち、論理的に考えた結果です」


 探偵は自分の思考過程を披瀝する。



「まず、このロッカーの開け閉めの実験ですが、正しく行うと、生徒30が開け閉めを終えた段階で、1番目、4番目、9番目、16番目、25番目のロッカーのみが開き、それ以外のロッカーはすべて閉じることになるのです」


「1、4、9、16、25……どこかで見たことがあるような数字の並びですね……」


「そうです。これはいわゆる平方数です。なぜ平方数のロッカーのみが開けっ放しになるのかというと、平方数のみが奇数個の約数を持つからなのです。たとえば、16という数字の約数は、1、2、4、8、16と5つ、すなわち、奇数個存在します。他方で、平方数ではない数字、たとえば24という数字の約数を見てみると、1、2、3、4、6、8、12、24と8つ、すなわち、偶数個存在します」


「たしかに……でもなぜですか?」


「通常、約数にはお互いに掛け合わせることによって元の数となるペアがあるのです。たとえば24でしたら、〔1と24〕、〔2と12〕、〔3と8〕、〔4と6〕という具合に。すべての数にペアがあるので、約数は偶数個存在することになるのです。他方で、平方数については、たとえば16でしたら、〔1と16〕〔2と8〕がペアになりますが、4にはペアがいません。4は自分自身を掛け合わせることによって16になるからです。ですので、自分自身を掛け合わせることによって元の数になる整数平方根を持つ数、すなわち、平方数のみが奇数個の約数を持つのです」


「なるほど……。僕は文系ですが、なんとなく理解できました」


「そして、あるロッカーについてそれを開け閉めをするのは、そのロッカーの約数番目の生徒です。たとえば、24のロッカーを開け閉めするのは、1、2、3、4、6、8、12、24番目の生徒ですよね。そして、この実験では、偶数回開け閉めされたロッカーは閉じた状態となり、奇数回開け閉めされたロッカーは開いた状態となります。最初(0回目)の段階では全部閉じた状態のわけですから」


「だから、最終的には平方数の1、4、9、16、25のロッカーのみが開いた状態になるんですね」



挿絵(By みてみん)



「そうです。ですから、警察が確認した段階で5個のロッカーが開いていたというのは、まさしく正常に実験が行われたということなのです。換言すれば、誰かが不必要にロッカーを開け閉めしたこともなければ、誰かが必要なロッカーの開け閉めをサボったということもないのです。このことが推理の最大の鍵になります」


「どうしてですか?」


「被害者である生徒12について考えてみてください。もし、生徒12が、ロッカーの開け閉めを完全に終えていない段階で犯人と遭遇したらどうなりますか?」


「うーん、逃げるかファイティングポーズをとるかですかね?」


「いずれにせよ、ロッカーの開け閉めの作業はそこで中断するんじゃないですか?」


「そうですね。しかも殺された後は作業できないですしね」


「そうなんです。ですから、生徒12が犯人に出会ったのは、すべての作業が終わってからなんです。ですので、たとえば、生徒11が作業が終わった後もそのまま教室に居残り、待ち伏せをし、生徒12を殺したということはありえません」


「ん? でも、僕が早めに教室に入って作業が終わった生徒12を殺したということもないですし、教室にはオートロックが掛かってますから、作業が終わった生徒12を殺すために、一度教室を出た生徒が戻って来ることもできないはずですよ?」


「そのとおりです。ですので、犯人は、生徒12の作業が終わると同時に、生徒12の目の前にポンと現れてきたのです。そうとしか考えられません」


「探偵さん、何言ってるんですか? そんな忍術のようなことできる人は誰もいませんよ?」


「いいえ。忍術ではありません。犯人は、自分の順番が終わった後に、教室から出ずに、生徒12が最後の作業として開けたロッカーの中に隠れていたのです。24番のロッカーの中にね」


 生徒13は、「ええっ!!??」と大声を上げ、椅子からずり落ちた。

 ナイスリアクションである。



「先ほども説明したとおり、24の約数は、1、2、3、4、6、8、12、24です。ロッカーは、開ける、閉めるの動きを繰り返すので、24番目のロッカーに関しては、生徒1…開、生徒2…閉、生徒3…開、生徒4…閉、生徒6…開、生徒8…閉、生徒12…開、生徒24…閉という動作となります。生徒8が開け閉めするロッカーの番号、すなわち8の倍数番目のロッカーは、8、16、24ですので、24番目のロッカーは、生徒8が最後の作業として閉じるロッカーなのです。生徒8は、ロッカーを閉じると同時にロッカーの中に入り、ロッカーの中に隠れました」



 そして、と探偵は続ける。



「生徒12が開け閉めするロッカー、すなわち12の倍数番目のロッカーは、12と24ですので、24番目のロッカーは、生徒12が最後の作業として開けるロッカーになります。ここで生徒12がロッカーを開けたところで、生徒8がロッカーの中から出てきて、生徒12の首を絞め、殺害したのです。その後、生徒8はそのまま教室から逃走し、その後に、あなたが教室に入ってきたわけです」



挿絵(By みてみん)



「それで、僕がテンパって、自分の担当する13のロッカーに生徒12の死体を入れてしまったんですね…」


「そうです。これが事件の真相です。生徒8はこの実験の主催者で、生徒12を殺すためだけにこの実験を企画したのでしょう。生徒12の直前直後の順番である生徒11もしくは生徒13に罪をなすりつけ、自分が罪を逃れるために!」


「そうだったんですね!! 探偵さん、ありがとうございます!! 危うく僕が無実の罪で刑務所に行くところでした!! 本当にありがとうございます!!」



 生徒13が何度も繰り返し深々と探偵に頭を下げる様子を見て、探偵はまんざらでもない顔をした。

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[一言] 勉強になりますな! 平方根の約数は奇数……
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