晩餐会
エルナト星は閑散としていた。
ひたひたと忍び寄る争乱に、多くの住人がアリオトの移動惑星へと避難していた。
地球とそっくりの惑星エルナト。憧れの大都会を見てユアとサラが目を輝かせる。
ユウマが物珍しく見回していると、二体の巨大な像が目に入った。その一体は見慣れた人物、ケンジだった。
「お父さんの言っていたことは本当だったんだ」
なんだか照れくさかった。
「ケンジさんは分かる、ユウマの親父さんだろう。もう一体は誰だ?」
マイクが聞くと、ビレイが答えた。
「プレイスト、この星の礎を作った英雄よ」
「英雄かぁ、俺も早く、そう呼ばれるようになりたいな」
二体の像を見詰めながら、マイクはそう強く思った。
チーム・オメガは公賓として、迎賓館に迎え入れられた。
そこでビレイの父、ウィリスに会った。髭を蓄え威厳がある。
銀河連合の復興を機に引退していたウィリスだったが、同盟軍との戦争が始まり再び表舞台に立たされることになった。そんな銀河連合の指導者的立場のウィリスに、ビレイとの交際を断られるのではないかと、マイクはそのことばかり考えていた。
ウィリスに握手を求められたマイクが、緊張で汗ばんでいる手を二度三度と自身の服で拭いた。
握手を交わしたウィリスの手から力強いエネルギーが伝わってくる。自分もこんな凄い人になりたいと思った。
「せっかく創ったエルナト星も、まもなく放棄しなければならない。出来れば、戦火を逃れてくれればいいんだが……。焦土と化す前に、君達に一度見てもらいたかったんだよ」
と言ったウィリスがマイクを見詰め、「似ているな」と呟いた。
「俺が、ケンジさんに似ているんですか?」
「いや違う、もう一人の英雄、我が師・プレイストさんにだよ。今でこそ英雄扱いだが、若い頃は悪かったんだ。確か、クルーザーを盗んだこともあったな」
ゲッ、俺と同じ、プレイストさんて、どんな人なんだろう……。
「でも、この人に付いて行けばなんとかなる、きっと良いことがあるんだと思わせてくれるんだ……。君には期待しているよ」
「お父さん! そんなこと言ったら彼、無茶しちゃうじゃない」
急にビレイが声を上げた。
「おっと、すまない。つい、ヒーローには期待してしまう。そうだな、ビレイのためにも生きて、生き残って欲しい。生き抜くことが最優先だ」
ビレイを悲しませない。ウィリスにそう言われ心に誓ったマイク。
「あのぉ、ビレイさんは一人っ子だって聞いたんですけど、文明の遅れた地球ならいざ知らず……すいません、つい失礼なこと言って」
「何故、一人しか生れないのか? そう思っているんだね。これだけ技術が進んでいても、人類には犯してはならないものがあるんだよ。神の領域には手を出さない。それがこの星の、いや、この世界の掟でもあるんだ。その中でビレイは生まれた。だから、私にとっては大事な一人娘。言い忘れていたが、私の妻はプレイストさんの妹、是非とも君に会いたいと言っていたんだが、避難する住人を勇気付けるために、一足先に人工遊星・アリオトに向かったよ。ビレイの中にはプレイストさんも生きている。だからこそ大事に思う、掛け替えのない娘だと。今後ともビレイのことを宜しく頼むよ」
じゃ、ビレイさんはサラブレッド。だから、『青を継ぐ者』としてみんなから期待されていたんだ。そんな血統の良い彼女と俺とはつり合わないんじゃ……。
尻込みしたマイクが、チラッとビレイを見た。
だが、次に発した彼女の言葉で、その不安は消し飛んだ。
「お父さん、お願いがあるんだけど。司令官の任を解いて欲しいの。上官じゃなく、マイクと同じ目線でいたいの、お願い。私の最後のわがままを聞いて欲しい」
「男を寄せ付けなかったビレイにそんなことを言わせるとは、よほど君は好かれているんだな。分ったよ、上層部に伝えておこう」
ウィリスが交際を認めてくれて、ホッとしたマイクだった。
チーム・オメガ一行の、歓迎の晩餐会が盛大に行われた。
まさに夢のような宴。和やかな雰囲気で晩餐会は進む。
豪勢な料理は外交儀礼時の正餐として、厳格な作法にのっとったコース料理。健康に配慮した栄養バランスの取れた食事で、全て薄味で柔らかいものばかり。だから味は地球の方が断然美味しかった。
その後に続いた雑談で、要塞基地での奮闘、オメガの戦いぶりが話題になり、話は尽きることがなく、気が付くと、予定の時間があっという間に過ぎていた。
「いゃあ、今日は楽しい時間を過ごさせてもらった。ありがとう」
そうウィリスが言って晩餐会を締めくくった。
オメガ一行は宿泊施設に移動。そこは迎賓館とは棟続きのウィリスの住まう公邸。
公邸の中のリラクゼージョンラウンジには、各銀河の首脳をもてなすスパ施設がある。
一行は戦闘の疲れを癒すために大浴場に入った。
「ずっとシャワーばかりだったから、体の芯まで温まって疲れがとれるわね」
ビレイが言うと、
「チェッ、ビレイさんと一緒に入りたかったんだけどなぁ」
マイクが風呂上りの色っぽくなったビレイを見詰めながら残念そうに言った。
「ここからは、みんなとは別行動。私のマンションにも豪華な浴室があるから、後で楽しめば良いじゃない」
「そうなのか? でも、温泉は貸し切りだったから、三人でハシャいで楽しかったんだ。童心に帰って騒げたよ。あいつら日本人はシャイなのか、男同士なのに最初はタオルで隠していたんだぜ。異性に興味が無いのかと心配していたユウマも、女の露天風呂をのぞこうと誘ったら、乗り気なそぶりを見せたんだ。あいつ、きっとムッツリスケベだぞ。ユアちゃんも、男らしいユウマで安心するんじゃないのか」
「露天風呂をのぞく? じゃ、私達をのぞこうとしていたのね、呆れた。あなたはともかく、ヒロト君はそんなことしないわよね」
「あいつは真面目だからな、赤い顔して拒んでいたよ。全く、固い奴だ。まあユウマはともかく、ヒロトの奴……」
「ヒロト君が何? そんなに凄いの、気になるなぁ」
イケメンのヒロトがどんなのか気になるところ。ビレイが好奇の眼差しを向け、話の続きを聞きたがったが、
「あいつ、絶対、未経験だぞ。しかも、相手がサラちゃんだから、この先も何も出来ずに苦労が続くだろうな~」
完璧なヒロトに劣等感を抱いていたマイクにとって唯一の自慢であったが、同類だったビレイには笑えない。
「もう、なんで人の嫌がることを平気で言うのよ、あなたの悪い癖よ。そもそも、早いから良いってもんじゃないでしょう。私もこの年まで経験が無かったんだから、誰にも知られたくない二人だけの秘密よ」
秘密って、確かヒロトに言ったような……。急にマイクが黙り込む。
マイクを諭したビレイだったが、彼につられて言った。
「ユアちゃんに聞いた話なんだけれど、サラちゃんて、キスの時に気絶したそうよ。可笑しいでしょう」
「本当か、どんだけ貧血なんだよ。それ、マンガに出てくるオチだぞ、笑っちゃうよな~」
人の不幸は蜜の味とばかりに、似た者同士の二人は笑った。
外に出ると、ビレイ愛用の真っ赤な車が止まっていた。
意思を持った車は主人を見付けると、勝手に二人に近付き、スポーツカーのシザードアのように、前方真上にドアを上げて車内に招き入れた。
「運転してみる? オート走行(自動運転)ならハンドルを握っているだけでいいから簡単よ」
「俺が運転? 高級車なのに構わないのかい」
「もちろんよ。私を好きでいてくれる間は、あなたのものだから」
ビレイの愛車はタイヤの無い浮遊車。コルベットよりもカッコ良くて遥かに進んでいる。
ビレイの車に乗って、彼女のマンションに向かった。
「ビレイさんのお陰で、憧れていた車に乗れて嬉しいよ。今度は捕まることがなしな」
上機嫌のマイク。
「ずっと一人だったから、こうして助手席に乗るのは初めて。景色が違って見えるものなのね」
「あのな、運転席と助手席とは僅かな距離、違って見える筈ないだろう」
視覚ではなく気持ちの問題なのに、鈍いマイクには女心が分からなかった。
二人の乗る車は大都市圏内を取り囲むように一周する環状線、都心環状高速道路に入った。
そこはアウトバーンに似た速度無制限道路。アクセルを思いっ切り踏み込むと一気に最高速へ。体がシートに沈み込むGがたまらない。
「無制限とは言っても、この車にはリミッターが効いているからあまりスピードが出ないの。地上は空中とは違って何かと規制が厳しいから、あまりの遅さにガッカリしたでしょう」
「遅いと言っても、軽く三百キロは超えているぞ。まるでF‐Ⅰのレース、市街地を走るモナコグランプリをしているみたいだ。この言葉に出来ない感動、ありがとうな、ビレイさん」
気を良くしたマイクが車と一体になりたくて、オート走行からマニュアル走行モードに切り替えた。
「凄いわね。私、こんなにスピード出したことないし、マニュアル走行なんて、慣れるのに時間が掛ったんだけど……なんでも簡単に乗りこなせるのね……」
ウットリした眼差しでマイクを見詰める。
ビレイにとって、喜んでいるマイクの姿を見るのがこの上なく嬉しいことだった。
多くの住民が避難しているため、高速道路は独り占め。タイヤの無い浮いた車はアクセル全開で氷の上を滑るように爆走する。
「まるでニューヨークだな」
環状線から見える景色を見てマイクが言った。
「そう、この星は地球をお手本にしているからね」
納得の走りが出来るまで、環状線を何周もした。
最高タイムをたたき出し、満足したマイクが高速を降りてビレイの自宅へと向かう。
超高層ビル群が立ち並ぶ中心市街地を一直線に進んで行くと、見上げるほどのタワーマンションが立ち塞がる。この街で一番高いビルが、ビレイの住むマンションだった。
車をガレージに入れると、そのままビレイの住む最上階に昇った。
「お帰りなさいませ、お嬢様。お務め御苦労様です」
二人を出迎えた老人の男性が言った。
「執事の爺や、父の代から務めているの。アリオトの生き字引よ」
使用人がいるのか? まるでお姫様じゃないか。驚いた様子のマイクがチラリと執事を見た。
「こちらの方が……ま、まあ、気が優しそうで、お嬢様と実にお似合いですね」
とっさに出た当たり障りのない言葉が気になったが、喜んでくれているのは確かだ。
「おっと、私奴は邪魔なようですね。お嬢様、お父上を喜ばすためにも、今宵は是非とも頑張って下さい」
と執事が言うと、
「父を喜ばす?」「頑張って?」
ビレイとマイクがそれぞれささやき、思わず視線を逸らした。
執事に見透かされていることに恥ずかしくなり、彼が出て行くまでの間、一言も声を掛けられなかった。
やっと二人きりになれた。マイクが部屋の隅々を見渡し、息をのむ。
部屋の広さや家具、豪華な作りの内装など、そこはまさに超豪華なスイートルームだった。
「こんな豪邸に一人で住んでいるのか? 俺ん家は貧乏だから、広い部屋は落ち着かないんだ」
見渡すほどの広い部屋はマイクにとって居心地が悪い。
「言われてみれば、そうよね。要塞基地の質素な部屋に比べたら、かなり贅沢な作りだものね。私は普通の生活がしたかったんだけれど、この星の代表ということで、それをさせてはくれないの。でも、この星の住人はみんな裕福なのよ。父が小さかった頃、すごく貧乏だったから、みんなにはそんな苦しい思いをさせたくはないと常に気を遣っているの」
争いごとが絶えない地球と違って、住人の幸せを第一に考えるウィリスのエルナト星を、マイクは羨ましく思った。
「私、こっちで泊まるからって、お父さんに連絡してくるから、そこでゆっくりしていて」
吹き抜けの広いリビングのソファーに腰を下ろしたマイクだったが、ジッとしていられない。マイクは、ビレイがどんな生活をここでしていたのか知りたくて各部屋を見て回った。
プール付きのトレーニングルームにホームシアター、会議室など様々な部屋があり、迷いそうなくらい広くて、思わずマイクが溜息を付いた。
また、冷蔵庫大の物質転送機がある一方で、アンティーク風の古めかしいエアシューターが張り巡らされている。転送装置はネットショップのように注文出来、しかもファクシミリ感覚で瞬時に品物が届く優れ物。自宅にいながらなんでも手に入る便利な物だった。
女の一人暮らしのマンション、男としては当然、バスルームがどんなのか気になる。心ときめかしてバスルームのドアを開けると、奥まった一段高い所に、透明のバスタブが置かれているだけの意外とシンプルなものだった。
だがマイクがバスタブに触ってみると、プラスチックやガラスではなくクリスタル製。地球では考えられない贅沢な作りだった。
マイクが湯の入っていないバスタブに入ると、センサーが感知して集中照明が青く光った。幻想的な光浴を楽しみながらビレイと二人で入っている姿を想像するだけで興奮してくる。
正面を見るとそこはトイレ。だが、トイレであることを感じさせないオシャレな空間。便器は抗菌性のある銀製で、白い光沢を放っている。
あそこで、ビレイさんが……。彼女の禁断の私生活を垣間見た気がし、気まずくなったマイクが慌ててバスルームを出た。
マイクが吸い寄せられるように、今度はクロゼット部屋へ。興味本意でクロゼットを開くと、そこにはビレイが着ていたと思われる制服が大事に仕舞ってあり、学生時代の彼女を想像し思わずニヤ付いた。
その時、背後からビレイが声を掛けた。
「駄目よ、勝手に見ちゃ、恥ずかしいじゃない……はぁ~、そういうこと。言ったでしょう、こそこそするのは嫌いだって。欲しいなら欲しいって素直に言えばいいじゃない」
「欲しいって? 何がだよ」
マイクにはなんのことだか分らない。
「あなた、下着集めが趣味だったわね。気に入ったのがあればあげるけど、全部地味な物ばかりなのよ」
「だから、違うって。前にも言ったけど俺、そんな趣味無いって」
「好きなんでしょ、女性の下着が。でもお願い、他の人のは見ないで私ので我慢して。でないと、あなたが下着を盗むところを誰かに見られたら、いくら私でもがばいきれないから……」
何故かビレイが申し訳なさそうに言った。
「俺が下着泥棒? 犯罪だろ、それ。第一、そんな情けないヒーローがいるか? 信じてくれよぉ」
何を言っても信じてはくれず、一向に誤解が解けずに焦るマイク。
「照れなくてもいいじゃない。せっかく二人きりになれたんだし、暗い顔しないで楽しみましょう。取って置きの場所があるのよ」
マイクの手を引っ張りリビングに戻ると、吹き抜けに沿って伸びる階段を上って二階の寝室へ。そこは執事以外、誰にも入れたことが無い自慢のプライベートルーム。マイクは特別な存在だと、ビレイは伝えたかった。
寝室は壁や柱、天井などの遮る物が無く、全てがガラス張りで解放感が抜群。綺麗な夜景が遠くまで見えていて、ルーフバルコニー(天空庭)には円形のジャグジータイプの露天風呂があり、湯煙がマイクを誘っているように見えた。
寝室の中は、赤や紫といった照明が交互に照らし、まるでラブホテルのような遊び心のある配色に否応なく興奮度が増す。
「いつもはこんな派手じゃないのに、爺やが気を遣ってくれたのね」
赤色は男性を、紫色は女性を興奮させる色だと知られている。それを意識した配色で、二人がロマンチックな夜を過ごせるようにと執事が気を利かせたらしい。
広い寝室の中心にはキングサイズの、雲のようなベッドがある。それはウォーターベッドならぬクラウド(雲)ベッド。無重力睡眠が味わえる寝具だった。
「ご免、マイク、男性用のパジャマ持ってないの。すぐに取り寄せてもらうから、って、今のあなたには必要無いわね」
「失礼しまーす」
と言いながら、下着姿になったマイクが遠慮がちにベッドに入り横になった。雲に包まれ、フワフワと浮いたような感覚、今まで味わったことの無い寝心地の良さだった。
ふと見上げたヘッドボードには、ホログラムのような立体写真が輝いていた。幼い頃のビレイの写真。スライドしていく度に彼女が成長していく。
「あ、これは士官学校に入学した時の写真、高校を卒業して長い髪をバッサリ切った時ね。こんな男みたいな姿、マイクに見られたくない一枚ね」
そう言いながら服を脱いだビレイもベッドに入り、マイクと一緒に過去の写真を見た。
どの写真も両親に囲まれて楽しそうに笑っている。何故かマイクは違和感を覚えた。
突然、ビレイが部屋の明かりを消した。
視界が開け夜景の眩しい光が差し込む。まさにニューヨークの摩天楼のような夜景、否応にもムードが高まったのだが、
「それにしても周囲から丸見え。誰かに見られているようで、こんなオープンな空間に二人でいたら、パパラッチの格好の的だろ。あの光の一つ一つが俺達を見ているんだぞ、ビレイさん警戒心が無さ過ぎ。よく呑気でいられるな、どんな神経してるんだよ」
呆れ顔のマイクが言った。
「本来なら、あの夜景も眩しいくらい明るいんだけれど、多くの住人は避難しているから僅かな輝き。だから、覗かれていても平気よ。そもそも私達、悪いことなんてしていないでしょう」
「へぇ~、ビレイさんて、そっち系? 以外だなぁ、見られると興奮するタイプなんだ。でも、こういう時だからこそパパラッチに狙われるぞ。二人の淫らな姿が、スクープ映像として世間に流出するんだ。俺は何を言われても構わない。でも、ビレイさんの輝かしい功績に傷が付くのは辛いよ。俺、我慢するからさぁ、今日は大人しく寝ようぜ」
「私に気を遣ってくれるんだ。むふっ、嘘よ。あれ、向こう側からは見えないの。地球で言うテレビ画面と同じで、スィッチ一つで外の景色が変わるのよ。でもこの場合、開放感があると一層マイクが燃えてくれるんじゃないかと思って意地悪して言ったの」
「マジックミラーのような原理か、じゃ、我慢しなくてガンガンいってもいいんだな」
鼻息を荒くしながらマイクが言うと、
「うん、メチャクチャにしてくれても構わないわよ」
マイクの期待に応えるようにビレイが言って、更に続けた。
「でもその前に、私はお父さんと会えて満足、今度はマイクの番よ。地球に行きましょう、あなたの故郷に。そしてあなたのお父さんに私を紹介してよ。お父さんが認めてくれないと、堂々と付き合えないでしょう。私、アメリカのファッションを知らないから、着て行く服とか選んでくれる? 至急、送ってもらうから」
「……やめといた方がいい、こっちと違ってなんにも無い不便な所だぞ、地球は。だいたい、あんな奴の許可を取らなくっていいからさ。会いたくないんだよ、ほんと、勘弁してくれよ……。行きたいんなら一人で行きなよ。俺、絶対に行かないからな」
急にマイクが不機嫌になる。
「何ムキになってるのよ、気を遣って言っているのに。第一、一人で行っても意味ないじゃない。帰りたくないのなら、もう、いいわ」
マイクの態度に、つい、ビレイがキツく言った。
「ムキになってないだろう……。もういいや、今日は緊張しっぱなしで疲れたから、寝る」
いじけたマイクがソッポを向く。
これから盛り上がると喜んでいたのに、一気に冷めてしまい、不快感を覚えたビレイも背中を向けて寝た。
意地になって寝ようとしたビレイだが、マイクの過去が気になって寝付きが悪い。
「ねえ、起きてる? 男なのに、こんな環境で何もしない訳……。根比べは私の負け。だから、何が気に入らなかったのか言ってよ。ねえ、私を力強く抱き締めてよ、なんでもするから……」
ビレイが謝るもマイクからの返事は無い。
「本当に眠ったのね、こんな燃える環境で……」
大きく溜息を付いたビレイが起き上った。
地球に帰還するのを頑なに拒み続けるマイクの過去が知りたくなり、書斎兼、通信室に入ったビレイが、ホットを飲みながら心を落ち着かせた。そして、要塞基地に情報を求めた。
「そう、地球人のマイク・ライアン。至急、頼むわ」
『宴会の席で、彼が何かやらかしたんですか? そうなんですね。少し腕が良いからって、すっかりヒーロー気取り。それに、見るからに女たらしというか、目付きがイヤラシそうで見るのも嫌。絶対、変な趣味が、のぞきとか下着集めとかやってそう。だいたい、あんな男を好きになる人なんているのかしら。体目当てで言い寄って来ているのに、引っ掛かる人なんて。いるとしたら、よっぽどの尻軽、性欲の強い女ですよね。私も早く、彼を追放すればいいと思っていたんですよ』
「言ってることは、合っているんだけど……そこまで言わなくても……私が傷付くじゃない……」
マイクと付き合っているとは言いだせず、更に彼女の愚痴は続く。
『ヒーローは断然、ヒロト君。全てが完璧で超カッコ良いし、まさに理想の男性ですよね。伝説のヒーローの御子息・ユウマ君も愛嬌があって可愛い。でも二人、付き合っている彼女がいるんですよね。諦めるしかないのかなぁ。それに引き替え、なんであんな変な奴が来たんですか? 勝手に怪我して、ほとんど寝ていただけじゃないですか。ほんと、何しに来たんですかね、期待外れも甚だしいわ』
「マイクは私の命の恩人、それ以上、悪口は言わないで。そんなことより、早く送って!」
『…………』
ビレイが突然キレた理由が彼女には分からなかった。
悪いとは思いつつ、要塞基地からマイクの個人情報を含んだ兵籍簿を取り寄せ、彼の生い立ち、どのような環境で育ち育てられたかという成長の過程を調べた。
過去のマイクを調べると父親の存在が、障害者の父親との確執がマイクを荒れさせたのだと知った。
「可哀想なマイク。それなのに、私……」
そう呟いたビレイは、マイクと一緒に地球に行くと覚悟を決めた。
翌朝、目覚めたマイクが驚いた。
目の前で深刻そうなビレイが見詰めていたからである。
「まさか! 戦闘が再開したんじゃ」
と声を発したマイクが慌てて起き上がった。
「そうじゃないの。あの後、悪いと思ったたんだけど調べさせてもらったわ、あなたの過去を。ご免なさいね、マイクの気持ちも知らないで家族の自慢ばかり……。私、マイクのことが大好きなのに、なんにも知らなかった。何故、故郷を避け帰りたがらないのかを。お父さんと仲直りするためにも、是非、地球に行きましょう。行くべきなのよ。この機会に親子の関係を修復したいの、マイクにも幸せになってもらいたいから……お願い、お願いマイク、一緒に地球に帰りましょう」
女の涙は武器であるとばかりに、涙ながらに訴えた。
さすがのマイクもビレイに大泣きされて心が変わる。
「分かったよ、地球に行くから泣かないでくれよ。意地を張った俺が悪かった、ご免よ、ビレイさん。だからもう、悲しまないでくれよぉ」
マイクが言いながらビレイを抱き締め、心から詫びた。途端、
「そう、じゃ、直ぐに支度するから。お父さんに喜んでもらうための手土産も用意してあるの。もちろん、ヒロト君やユウマ君も一緒にね」
ケロッとした顔でビレイが言う。
まさに名演技? 一瞬、ビレイが大女優に見え、マイクが思わず「えぇー」と溜息交じりの声を出した。




