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波乱の幕開け

 宇宙が舞台なのですが、あまり宇宙に詳しくはないので、ところどころおかしい場面が出てくると思いますが、物語が進まないので大目に見てくれると有り難いです。また、この連載小説は毎週土曜日、仕事終わりの更新となります。三人称多元視型? つたない文章で読みずらいとは思いますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。


 この目で見える宇宙は謎に満ちている。広大な宇宙の中、二十三パーセントが暗黒物質ダークマスターで、七十三パーセントは暗黒エネルギーが占める。我々が今まで見ていた宇宙は、たった四パーセントに過ぎないのである。 

 人類が宇宙に目を向けてから百年、謎多き未知なる宇宙に争いが起きいていることなど露ほども知らないでいた。

 


 大阪のとある高校に、一人の留学生が体験入学した。

「ヨーロッパから来たアカリさんは、日本の生活・文化を学ぶため、我が高校で短期留学することになった。彼女は語学堪能だから何ヵ国語も話すことが出来、もちろん、日本語も違和感なく話せるそうだ。僅かな期間だが、みんなと一緒に勉強する彼女を、宜しく頼んだぞ」

 先生の話もそっちのけで、一人の生徒が携帯の対戦ゲームに夢中になっていた。彼の名は北山ケンジ。自称ゲームの達人、誰にも負けたことが無いと自負している。

 

 そんな彼の横で足音が止まった。そして声がした。

「北山、ケンジ君、よね。宜しく頼むわね」

 突然、留学生がケンジに声を掛けた。

 なんで俺の名前を? ケンジが振り向いて『ハッ』とした。銀色の髪、透き通った青い瞳、美人でスタイル抜群、メガネの似合う北欧の外国人? だった。ただ、と心の中で思った。コンタクトにすれば、きっと可愛いのに、と。

「これ掛けていないと、この世界にいられないの」

 まるでケンジの心を見透かしたように彼女が言った。

 この世界にいられない? 何を言っているんだ、俺をからかっているのか? 

「からかってなんかいない。ご免ね、驚かして」

 ――まただ、この子は俺の思ったことが分かるのか……。

 ケンジが不思議に思っていると、

「北山君、ゲームが得意なのよね」

 疑問を払拭ふっしょくする言葉を投げ掛けた。

「そう、俺は今まで誰にも負けたことがないんだ」

 自慢するようにケンジが言った。

 しまった! いつもこのパターンで引かれてしまうんだよな~。

 でも、アカリはケンジを見詰め、

「帰りに、北山君がゲームをする所を見てみたいわ」

 と彼女は言ってくれた。

 日本のゲームに関心があるアカリに、思わずケンジが笑みを浮かべる。

 ――「あ痛っ!」

 後ろから消しゴムが飛んで来た。

 振り返ると、加藤サヤカが口を尖らせていた。キリッとした目付きでボーイッシュな雰囲気のあるサヤカは、ケンジの近所に住む幼なじみで、学級委員長の彼女は、小柄ではあるが頭が良く気が強い。ケンジの唯一頭が上がらない、そんなサヤカは後方にいて監視役をしていた。



 下校のチャイムが鳴り、アカリがケンジにゲームセンターに連れて行って欲しいと頼んだ。

 ケンジの足取りは軽く、意気揚々とゲームセンターにアカリを案内した。

 ゲームだけが唯一自慢出来るものであり、自分の腕をアカリに見せたくてウズウズしていた。


 ゲーセンに入ると、ケンジの周りに人が集まって来た。ケンジはこの街では有名なゲーマーだった。

「どんなゲームが好きなんだい」

 ケンジが聞くと、

「撃ち合うやつ」

 そうアカリが返事した。

「シューティングか、ならフライトシューテーングだな。戦闘機の空中戦でもするか」

 ケンジがコックピットに座りコインを入れると、それまでの目付きが変った。

 後ろから「凄い」とアカリの声が聞こえ、ケンジは有頂天になってゲームに集中した。

 ――ゲームを終え、ハイスコアーを叩き出したケンジがドヤ顔でアカリを見た。

「私も、やるね」

 やる気になったアカリに、

「ここは俺のおごりだ」

 と言って、ケンジが気前良くコインを入れた。

 

 アカリも強く、余裕だったケンジの顔に焦りの色が出始めた。女に負けるのか?と。

 終わってみると、ケンジが勝ったのだが、僅かの差だった。

 ゲーマーな女子はちょっと引くが、ゲームで語れる女子は珍しく、親近感が湧いてきて仲良くなりたいと思った。

「上手いね、君、驚いたよ」

 ケンジが声を掛けると、

「実戦で経験しているから」

 思い掛けない言葉でアカリが返した。

 実戦? よく意味の分からないことを言うな。でも、外国だから、イベントとかで戦闘機に乗せてもらったのかも。実にううらやましい、本物の戦闘機に乗れるなんて……。

「北山君、この後、暇? よかったら、私と付き合ってくれる」

 男として、美人に誘われるとトキメくのだが、ケンジは恋愛にうとい。ただ、ゲームの強いアカリが、どうやって上手くなったのか知りたかった。きっと彼女の部屋にはゲームソフトが一杯あるのだろうと、勝手に想像を膨らませた。それに、『実戦』の言葉も気になる。付いて行けば、行き着く場所にはその答えがあるのではないのか、という思いで……。



 アカリは人気の無い道を歩いた。普段、歩き慣れた道だったが、何故か不思議な感覚に陥り、どこに向かっているのか分からない。ここはどこだ? こんな道、あったか……。


「さあ、着いたわよ」

「着いたって? 家なんてどこにも無いけど……」

 見渡すと、緑に覆われた広場に出ていた。目の前には太陽の塔がそびえている。そこは何度も来たことのある見知った場所、万博記念公園だった。

 ゲーセンから万博公園までは、かなりの道のり。それが僅か十分程度で来ていた。

 不思議がっているケンジに、

「このメガネを掛けて」

 アカリに言われるまま、何気なくメガネを掛けた。

「何! これ?」

 体の一部のような掛け心地で、メガネを掛けているという違和感が全く無い。だが、メガネの先に見える光景は世界を一変させた。

「うぁーー、ロボットだぁ!」

 と叫びながらケンジが尻餅を付いた。

 圧倒的な迫力、威圧感。ケンジの目の前には、高さ二十メートルはあるだろう、テレビアニメで見る巨大なロボットが立っていた。

 腰を抜かして驚くケンジに、アカリがロボットの説明をした。 

「あれは単なる偵察機、北山君を迎えるための二人乗りよ。飛び立つと飛行機の形に変形する『アームズ(兵器・腕)キャリー(運搬)』(人型有人機動兵器)。この世界で言うロボットね。商船をベースに、戦闘用に特化した性能を求め生れた兵器で、幾度となく改良を加え、今見えるのは最新の第三世代のものなの。元々は商船だから、その名残で今でもキャリーと呼んでいるわ。でも、単なる『アームキャリー』じゃなくて、細胞をまとい機械と合体した、いわば半生命体。人工知能を搭載しているから考えることが出来るの。だから、私達人間と同じように考え生きているのよ。そしてアームキャリーは操縦士に共鳴し、その力量に合わせて戦闘力が増大するの。あれに乗って、私達の世界に行けるわ」

 巨大ロボット、それもケンジが憧れていた、主人公が乗って操る搭乗型二足歩行ロボットだった。

 半生命体として、物を立体的に捉えるためだろう、その目は二つあり、手足は人間と同じ位置に、バランス良く配置されている。

「私達の世界って? この地球じゃないの」

 と、当然の疑問。

「いいえ、別な世界。私はこの世界の住人ではないの。異世界の、オムニバース(大宇宙)から遣って来たのよ。このユニバース世界じゃ、人の心が読めるみたい」

「そうか、それであの時、思ったことを見抜いていたのか……でも、そんなの嫌だな、心をのぞかれるなんて」

「ご免なさい、もうしない。心をのぞいたりしないから安心して。そして私を信じて欲しい。私達の宇宙は、国という概念ではとらわれず、銀河連合を形成していて平和で豊かな世界だった。この世界で言うインターネットね。国境を越えて、世界が一つに繋がっているでしょう。そんな宇宙に、『デッド』と呼ぶ軍隊が突如、襲い掛かって来たの。デッドは、瞬く間に宇宙を支配し、私達の自由を奪ってしまった……。行く、行かないは北山君の自由だけれど、私達を救って欲しい。ただ、これだけは言える。異世界を救えるのは北山君しかいない。あなたは私達にとって、たった一人の救世主なのよ」

 アカリの言葉にケンジの胸は熱くなった。彼は舞い上がった。ゲームの中でしかヒーローになれなかったケンジにとって、憧れの、本物のヒーローになれるのである。

「私達の世界は、満ち溢れたダーク(暗黒)エネルギーによって、光を越えるスピードを手に入れることが出来た。だから、銀河間を短時間で行き来出来るの。様々な文明と交わることによって驚異的な発展を遂げることが出来たのよ。あなた達の世界は光を越えることが出来ないでしょう。だから、この世界を小宇宙と呼んでいるわ」

「広い広いと思っていた宇宙が、小さい宇宙だなんて……。そんな発展した進んだ世界に、原始人のような俺が行っても、なんの力になれないんじゃ……そもそも、俺に救う力があると? 救世主になれるのか? それはゲームの二次元の世界であって、実際に戦うとなると……」

「何千年も戦いを繰り返している地球人は、戦いに優れた戦闘民族なのよ」

 ――シミュレーション、戦争もののゲームのことを言っているのか? そういえば子供の頃から人殺しのゲームをやっている。異次元の世界から遣って来たアカリにとって、異常に見えるのも無理はないか……。


 アームキャリー(ロボット)の前に立つと、自動的に腰を下ろし大きい手を差し伸べた。

 ケンジは自然とワクワクしてきた。テレビでしか見たことのない二次元のロボットが、立体の、形ある姿として目の前に存在しているということに。

 アカリの『アームキャリーは生きている』の言葉通り、差し出された大きな手は、金属特有の硬い冷たさは感じられず、まるでグラスファイバーのように軽い素材のように見えた。実際に触ってみると水中生物のようなヌメリがある。そのヌメリは魚の鱗の役割をしているのだろう。

「この表面の膜が、超光速走行時の摩擦を防いでいるの」

 明らかに地球の金属とは違う異質の物質、性質も違う合金だった。

 ケンジとアカリを乗せたロボットの手が胸部の辺りで止まると、目の前のハッチらしき扉が開き、二人はロボット内に入った。そこは、このロボットを操作する操縦席だった。

 コックピットの座席に座って周りを見回すと、当然古めかしいアナログ計器は見られず,正面の大きなモニターに、羅針盤のような物があるだけだった。いわゆるグラスコックピットと呼ばれるシンプルなもので、特に視界は百八十度見渡せて、まるでオープンカーに乗っているような開放的な空間。不思議なことに、そのコックピットは振動や揺れが全く感じられず、浮いているみたいだった。

 敵の位置など、レーダーや戦況などの様々な周囲の情報は、直接操縦士の脳に伝えられる。戦場は光速を越えるエネルギー体が飛び交う危険な状況、一瞬の判断の遅れが命取りになるから、操縦士の思考に直接働くシステムは、異世界では一般的な操作方法だそうだ。また、二本の操作レバーの動きは直接アームキャリーの両腕に伝わり、触覚センサーによって、触った物の温度や手触りまでが操縦者の手に伝わる優れものだった。

 

 アームキャリーが重力に逆らって浮き上がると、人型から戦闘機の形に変った。アカリの言った通り、アームキャリーは変形ロボットだった。

 二本の操作レバーが合体して一本の操縦桿へと変わり、室内も航空機仕様に様変わりした。無音の航空機、推進力は騒音の大きいジェットエンジンでないのは確かだ。

 アカリが操縦桿を引くと、猛スピードで宇宙に出た。夜になったのかと勘違いするほどの闇の世界。さすがは進んだ文明、大気圏越えのGが感じられない。地球の技術ではとうてい造れない代物だと身を持って実感した。


 アカリがメガネを外した。

 やっぱりメガネの無い方が断然、綺麗だな~、とケンジがアカリに見とれていると、辺りが変っていた。彼女の言っていた別世界に来ていたのだ。

 この世界は、まるで海水のように高エネルギーが宇宙空間に浸されている。そのお陰で銀河間を自由に航行出来るらしい。未知なるエネルギーが体の隅々に伝わって来る。そんな異質な世界だった。

「この宇宙には、目には見えないエアーライン(航空路)やエアーレーン(空中輸送路)などのワームホールが網の目のように張り巡らされているの。だから、安全で正確に目的地に行け、自由な交易を行ってきたんだけど……今じゃメシエ銀河に押し込められ、援軍を呼ぶことも逃げることも出来ない……。さあ、着いたわ。あれが私達の住むアリオト星よ」

「着いたって、あれが星? 地球と違って大気も無いし、人工の明かりが一つも無いから真っ暗で何も見えないよ。どう見たって、人が住んでいるようには思えないんだけど……」

 ケンジが不思議がるのも無理はない。人工遊星・アリオトは、その存在をあえて隠すために創られた要塞である。自由に移動出来る首都星アリオトは、対デッド戦の前線を支える巨大な基地として、迎撃用の軍需物資供給の拠点になっていた。ここにメシエ銀河奪還の司令部を置く。


 アリオト星を覆っている分厚いゲートが開き、偵察機は首都星の中へと入って行った。

 発展しているだろうと想像していた世界は違っていた。物資の補給もままならず、度重なるデッドの侵攻に困窮を極め星は荒廃していたのだった。

 緒戦の戦いで多くのベテランパイロットを失い、残った者は戦争経験の無い若者達だった。それらは年齢別に組織され、彼らを率いているリーダーが、総司令官のウィリスである。

 アリオト軍は鉄のオキテで統制された、まるで新撰組のような組織。上官の命令は絶対で統制がとれた故、デッド軍との戦いに持ちこたえていた。

 アカリは第三航空戦隊の雷撃隊に属し、いわば実戦部隊、彼女の上官が部隊長のリックである。リックは撃墜王の異名を持つ腕利きのパイロットで、長身の彼はアカリに似て色白で銀髪が似合う、俳優と見間違えるほどのイケメン。ケンジが思わず見入るほどだった。そんなリックがケンジに説明した。

「敵さんの残骸を詳しく調べたところ、年代測定の結果、一億年という過去の文明の軍隊であることが分かった」

「一億年前の軍隊? まるで恐竜の時代と同じじゃ……」

 驚いたようにケンジが呟く。

「それも、我々の文明に匹敵する高度の文明、戦いに優れた軍隊を持っていたのだろう。高性能の兵器に加え、突出した戦略に戦術、全てにおいて我等を圧倒している。争いが無く平和に育った銀河連合は、奴らに対抗する力は持ち得なかった」

 

 突然のデッド軍の侵攻によって大宇宙は瞬く間に席巻された。降り立ったヒューマロイドは武器を取り上げ、何故か人間を殺すことはなく植民惑星に強制移住させる。それは、人類を発展させた文明からの隔離? のように思われた。人類はデッド軍の監視下に置かれ自由を奪われたのだった。

「銀河連合は事実上解体され、抵抗するのは我が銀河を含め少数となった。各惑星に軍事拠点を置き、僅かながらの抵抗を試みてはいるが、我らだけでは全く歯が立たない……。デッド軍は銀河間を唯一横断出来る大型航空母艦を真っ先に攻撃すると共に、生産拠点である工場地帯を空爆によって一気に殲滅、我らは一瞬にして対抗する手段を奪われた。奴らは銀河連合を分断し孤立させるのが狙いだった。デッド軍は各銀河の団結力を恐れたんだ。大型艦が主力のデッド軍に対して、我が方は小型軽量の戦闘機のみ。だが、名機と呼ばれる第三世代のアームキャリーの活躍で、デッド軍をかく乱し巻き返しを図ったんだが、デッド軍も高性能のファントム(戦闘機)を投入し、その優位性は崩れた。我が軍はメシエ銀河の三分の二を失い、辺境の地へと追い遣られてしまった……」

 リックは唇を噛み締めながら、更に話を続けた。

「仲間が次々に命を落とし絶体絶命の窮地に陥った。だが、荒廃したメシエ銀河に、デッド軍に対抗出来る唯一の英雄が現れたんだ」

「英雄、か、その響き、なんかカッコ良いな~」

 再びケンジが呟く。

「英雄・プレイストが言った。いつか救世主が現れ、窮地を救ってくれると。その救世主は、異次元の住人であるとそう伝えたそうだ。そう、その救世主とはつまり、君のことなんだ。本来なら、異次元の住人である君に頼むのは筋違いなんだろうが、もう打つ手が無い。頼むよ、救世主くん」

 リックの言葉が、ケンジの心に響いた。

 多くの若者が入隊し、次々に死んで行く。その悲劇を止められるのは自分なんだと、ケンジはそう自分に言い聞かせ運命を背負うと誓った。



 アリオト星には、メシエ銀河連邦の諸惑星から逃れて来た様々な人種がいて、それら多くの難民を抱えていた。彼らの多くは親を失った孤児である。地球より遥かに進んだ文明といえども、一度歯車が狂うと、こうまでも疲弊するのかと、悲惨な光景にケンジは息を呑んだ。

 

 アカリに街を案内され歩いていると、子供達がケンジの所に近寄って来た。

「わ~、アカリお姉ちゃんの恋人だ~」

 恋人だと勘違いされ、二人は困惑し顔を見合わせた。

「ち、違うわよ、そんな関係じゃ。彼は伝説の救世主なのよ」

「このお兄ちゃんが……そんなに強そうには見えないんだけど……」

 子供は素直、思ったことをなんでも言う。皆が頼りなさそうなケンジに幻滅していた。

 その中にあって、一人の少女がケンジに向かって言った。

「お兄ちゃん、仇を取ってね。約束だよ。悪い奴らをコテンパンにやっつけてね」

「そうだ、悪いデッドをやっつけろ!」「デッドをこの銀河から追い出して」

 少女につられ皆が口々に言い合った。

 子供達の積年の恨みが言葉となって放たれた。そして、救世主であるケンジに期待した。それはまるで磁石。そうケンジは思った。何も染まっていない砂鉄が、磁石と交わることで同じ磁石に変わる。子供達の恨みが、果てしない憎悪の連鎖を繰り返すのだと。

 この不幸の連鎖を断ち切らなくてはならないんだ、とケンジは強く思った


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