久しぶりに
カラン。
「いらっしゃいませ~! あら、ルビー! どうしたの?」
にこやかにあいさつをしていたリリィが、ルビーを見て一転、きれいな顔を曇らせて、ルビーたちに駆け寄ってきた。
「ルビー、さっき突然泣き出しちゃったんですよ。だからちょっとカフェで落ち着こうっていうことにしたんです」
カーネリアンがルビーを見遣りながら説明する。
ルビーはジェダイトに肩を抱かれて後ろに佇んでいる。今は泣き止んでいるが、目の周りは赤く腫れぼったい。
「わかったわ。お店の奥のテーブルなら目立たなくていいと思うから。ちょうどさっき空いたところだし」
そう言ってリリィは、店の奥まったところの席を整えに行ってくれる。
そしてそう待たずに、
「いいわよ。どうぞ」
と、案内してくれた。
席に落ち着いたものの、なんだかぼんやりしたままのルビー。
温かな湯気の立ち上るミルクティーの入ったカップを両手で包み込み、その水面を凝視したまま。
「ルビー。なにがあったんだよ?」
優しく問いかけるジェダイト。
「突然泣き出しちゃうんだから……。ねえ、ルビー、どうしたの?」
こちらも心配そうなカーネリアン。
二人とも、伏せられたルビーの瞳を覗き込んでいる。
「なんでかな……。ジェダが寄宿舎に入ってしまったら……なかなか……会えなくなるんだなぁって思ったら……、胸と鼻の奥がぎゅっと痛くなって、涙が出てきたの」
途切れ途切れに話し出したルビー。
視線は誰も捉えず、伏せられたまま。
しかしそこで、
「はあ?」
呆れたような声を上げたのはカーネリアン。
「え?」
そんなカーネリアンの声に驚いて、顔を上げたルビー。すると声同様、呆れた表情にぶつかった。
「ルビー……。なんで涙が出てきたのか、本当に気付いてないの?」
じと目で見据えてくる友達に、後ずさりしそうになるルビーは、
「う、うん。え? 私おかしなこと言った??」
おかしなことを言った覚えはなかったので、自信なさげな声になる。じと目のカーネリアンの勢いに押されて、目もきょろきょろと泳いでしまう。
「言ったつーか、なんつーか、白状したも同然じゃない。あ~、心配して損したわ」
ぷっ、と吹きだしてしまったカーネリアン。
なぜに呆れられたのか、笑われたのかが理解できていないルビーは、困ってジェダイトを見たのだが、こちらはなぜか顔を赤くしている。
「ジェダ?」
「ルビー……」
助けを求めてジェダイトを見たのに、逆に、真っ直ぐに目を見返されて困ってしまった。
そんな二人の様子に中てられたように、
「あーもう、見てらんないわ~。後は二人で解決して。私は帰るから。じゃね~、また明日! リリィさーん、お勘定です~」
「はーい! ありがとうございました! また来てね」
カーネリアンはさっさと席を立って、リリィの元へ行き、自分の分の支払いを済ませ、
「じゃ、後はよろしくお願いします」
「了解。気を付けてね」
そそくさと挨拶を済ませると、クスクス笑いながらカフェを出て行ってしまった。
「私、なんかおかしなこと言ったっけ……?」
友達の突然の退場に、呆気にとられるルビー。頬に手を当て、小首を傾げて考える。
そんな様子を見守っていたジェダイトが、
「いや。なあ、ルビー。お前はオレがいなくなることに寂しくなったのか?」
真面目な顔で聞いてきた。
「うん、多分、そんな感じ……。今までもそんなにしょっちゅう一緒にいたわけでもないのにね。急におかしいね、ごめん。空気がなくなる感じ? う~ん、なんだろ?」
自分の中のもやもやとした、形のない気持ちを言葉にしようと苦闘するルビーに、
「オレは空気か」
苦笑するジェダイト。
「あって当たり前みたいな意味だよ? 一緒に居なくても、そこにいるのが普通というか。悪い意味じゃないよ?」
慌てて両手を前でぶんぶん振って否定する。
「まあいいけど。……ジル兄がいなくなった時みたいな感じか?」
「それとは違うなぁ……。ジル兄ちゃんの時は、こんなにキュンてしなかったから……」
あの時は、慕っている兄がいなくなる、喪失感のようなものだったが、今回はもっと切ない何か。
ルビーがそれに思い当たりかけた時。
「そうか……。なあ、ルビー。騎士学校に入ったら、もう近くでお前を守ってやれないんだから、オレの居ないところで泣くな」
ジェダイトが、ぶんぶん振っていたルビーの手を、優しく包み込んだ。
「え?」
「大きくなってから、お前はあんまりオレんとこに寄ってこなくなっただろ? まあ、お前の考えもあるし、そっとしてたんだけどな。それでも守ることはできたから。でもこれからはそんなこともできない。泣いてたり、困ってたりしても守ってやれない」
切ない瞳が揺れる。
こんなにジェダを近くで見つめるのなんて、何年振りだろう?
揺れる瞳に吸い込まれそうになりながら思う。包まれた手が、温かい。
「でもオレは、離れてても守っていきたいと思ってる」
「そんなの、無理だよ?」
苦笑したルビーだったけれど、
「無理じゃない。……オレは、ルビーが何よりも大事だから」
ルビーの手を包み込む掌に力がこもった。
「え? ウソ」
予想外の言葉に、キョトンとなる。
「なんでここでウソなんて言うよ?」
そんなルビーの言葉に憮然となるジェダイト。
「だって、彼女……」
ジェダイトの家とは反対方向に、二人で仲良く消えて行ったあの日。いつもよりも柔らかく笑うジェダイトに、胸が苦しくなった。
「それ、こないだも言ってたよな? 彼女って誰だよ? そんなのいねーし」
ムッとしたままルビーを睨む。
「だってほら、一緒に帰ってたじゃない? 噴水大広場で出会ったあの子……」
名前も知らない彼女だけど、今思い出しても胸が痛む。
あの時もこんな風に切なくなったけど、違う風に解釈していた。
でも本当は……
「あ、ああ。あいつか。一度だけ一緒に帰ってほしいってお願いされて止む無く、だ」
「とっても雰囲気がよかったから……」
「んなわけねーだろ。仏頂面するのも悪いから愛想笑いはしてたけどな。お前には見られるし、いいことなしだ」
「そんな風には見えなかったけど……」
上目づかいにじと目で睨んでみるが。
「どっちにしても、だ、オレにはルビーしかいないの。わかる?」
仏頂面だったのを、ふっと緩めて笑顔を見せる。
「急に言われても……」
ゆるゆると視線を落とす。
告白されているのを見ても何とも思わなかったのは、ジェダイトのことを何とも思っていなかったからではなくて、彼の表情から、断るのが判っていたから。
いつもより柔らかな雰囲気で女の子と一緒にいるのを見て切なくなったのは、彼がルビーから離れて行ってしまうと感じたから。
当たり前のようにルビーの世界にいたジェダイトが、当たり前の存在ではなくなるという喪失感。
家族愛ではなく……
今日もありがとうございました(^^)




