17
アルカディア
行政区・宴会場
ヘル視点
僕はランニングキャットの外骨格ドールスーツを着ている。スーツモードだ。
黒い送迎車から降りると、振り返って紳士の真似をし、片手を思いきり高く掲げてソフィアの手を取り、車から降りるのを手伝った。
車から降りたソフィアは、僕のスマホに入っていた服装を参考にして仕立てたドレスを着ていた。
光沢のある素材とマットな素材を組み合わせ、かなり優雅なファッションに仕上がっている。
ちなみに、アルカディアの服装のスタイルは急速に変化している。従来の装甲風から、布地を使ったスタイルへと変わりつつある。
どうやら、以前セフィがデートのときに着ていた服装がネット上で大きな話題になり、それまで停滞していたデザインの美意識に大きな刺激を与えたらしい。
そのため、布製の衣服も珍しいものではなくなり、むしろ新世代の象徴になっていた。
ソフィアは僕の高く掲げた手を握り、微笑みながら立ち上がった。
ところが、そのまま僕を引き上げ、堂々と胸の前に抱きかかえた。
僕は言った。
「これでいいの? 君の家族の集まりなんだろ……」
ソフィアは笑って言った。
「だからこそ、最初から堂々と男連れだと示しておくのよ。面倒なことを言われないようにね」
ずいぶんと直接的だ……。
でも、正直なところ、男伴というより、今の僕はペットに近い気がする……。
会場に着くと、さまざまな重姫たちが華やかに着飾っていた。
そして確かに、ソフィアと似た髪色の重姫も少なくなかった。
顔立ちはどうだろう?
地球人の目から見れば、どの人もかなり整った容姿をしている。
ソフィアによく似た、年上版や幼い頃の姿を思わせる人も何人かいた。
顔立ちはほとんど同じで、髪型だけが違う人までいる。
大半の人たちは、僕たちが入ってきたことで視線を移し、僕とソフィアを見つめていた。
僕を見たとき、彼女たちの顔には、だいたいこんな言葉が書いてあるようだった。
本当なの?
どこから来たペット?
どこから来た子供?
どう見ても男伴には見えないんだけど?
ソフィアって、そんなに見る目がなかったの?
家族から離れたソフィアも、ずいぶん落ちぶれたものね……。
ああはならないように気をつけなくちゃ……。
君たち、表情に出しすぎだろ!
僕の知る限り、こういう場にいる人たちは、考えていることを隠すのが得意なはずなんだけどな。
先生と一緒に参加した宴会では、笑顔の裏に冷徹な思惑を隠した人たちがいた。あの腹黒さは恐ろしいほどだった。
それとも、僕が観察しすぎて、考えすぎているだけなのだろうか?
ソフィアは僕を見下ろして言った。
「ヘル、そんなに真剣にならなくていいわ。何か食べに行きましょう。いろいろな種族の料理があるのよ。あんなことを気にしていたら、もったいないわ」
それもそうだ。
実は僕、今日はかなりの出費になると覚悟していた。
ところが、ソフィアのデートは家族の集まりへの参加だった。
文句を言いたいわけじゃない。ただ、完全に予想外だった。
てっきり、いきなりご両親に会うことになると思っていたから、その心の準備までしていたのに。
まさか、こんな家庭らしさのない家族の集まりだったとは。
別の意味で、息が詰まりそうだ。
ここは美味しいものでも食べて、雰囲気を変えるとしよう。
ソフィアは美味しいものを食べようと言ったけれど……。
僕はソフィアに尋ねた。
「セフィの真似をしてるの?」
彼女の胸の前に抱かれた僕は、ソフィアに食べさせてもらっていた。
僕の自尊心なんて完全にお構いなしだ。
まあ、もうとっくに諦めているし、大勢の人の前でも気にしないけど。
ソフィアは笑って言った。
「そうよ。実はちょっと羨ましかったの。機会があれば試してみたいと思っていたのよ。セフィがどうしてあんなに夢中になっていたのか、よくわかったわ。確かに、心が温かくなるわね」
僕には、心が温かくなるような要素はないんだけどな……。
まあ、言わないでおこう。
僕とソフィアの雰囲気はかなり良かった。
良すぎるくらいで、近くにいる招待客の重姫たちも、給仕をしている重姫たちも、みんな慈しむような眼差しを向けてくる……。
ソフィア、象徴的な男伴がペットになってるんだけど?
まあいいか……料理が美味しいのは確かだし。
突然、ソフィアの視線が一人の女性の重姫に向いた。
確かにソフィアによく似ている。ただし、短髪で、鋭い目つきをしていた。
ソフィアは僕に小声で言った。
「彼女はミア。私の妹の一人よ。少し衝動的で率直な性格なの。努力家ではあるんだけど、いつも肝心なところを間違えてしまうのよ……」
ものすごく素早い人物紹介だ。
どうやらソフィアは彼女を嫌っているわけではなさそうだ。
むしろ、残念に思っているのだろうか?
ミアは僕を見てから、ソフィアに言った。
「ソフィア、いつから獣族の子供を世話する任務を始めたの? 軍はようやく、あなたを前線に放置するのを諦めたのかしら?」
ソフィアは答えた。
「私は今も現役よ。自分の小隊も持っているわ。この方は超小型の獣族で、すでに成人しているの。それに、私の小隊の隊員でもあるわ。今はお互いの雰囲気を楽しんでいるところなの。まあ、他人から見ればペッ……コホン。実際、私たちは男女の関係よ~」
ミアは驚いた表情を浮かべ、僕をじっくりと見て言った。
「超小型の獣族が現れたという話は聞いていたけれど、実際に見るのは初めてだわ」
僕はこのとき、久しく使っていなかったお決まりの挨拶を披露した。
(・ω<)☆ きらり(キラリ)。(002を参照)
ミアはまるで一撃を受けたかのように、顔を赤くした。
それを見たソフィアが、強すぎず弱すぎずといった力加減で僕の頭を叩いた。
「何? あなたも欲しいの?」
僕は振り返り、ソフィアにも一発お見舞いした。
(・ω<)☆ きらり(キラリ)
パシッ!
今度は額を叩かれた。
……やる価値はあった。
ミアは僕たちのやり取りを見て、自ら横へ移動した。
そして、後ろに立っていた男伴を紹介しようとした。
しかし、僕とソフィアはそろって言葉を失った。
どうして彼が……ファーン?
ソフィア視点
ファーン?!
よりによって、ミアが連れてきた相手がファーンだなんて?!
我慢しなきゃ。ツッコミを入れちゃ駄目!
私はヘルを見た。
ランニングキャットの頭部マスク越しでも、彼が「ツッコまずにいられるのか?」と言いたげな表情をしているのがわかった。
私の立場としても、何か言うわけにはいかない。
ヘルのためではない。
私自身のためだ。
私は、この家族から最も遠いところにいると言ってもいい。
忠告するべきか。
しなければ、良心が咎める。
しかし、ミアは自慢げに胸を張って言った。
「ファーンのことは、みんな知っているでしょう? 名門の出身で、そのうえ軍隊の隊長なのよ。どこの誰かもわからない、血統不明の奇妙な種族なんかより、ずっといいわ~。すごいでしょう~?」
決めた。私には関係ない。
理想を抱いて溺死しろ。
これはヘルから教わった台詞だ。
私は口を開いた。
「確かに、とても有名で、広く知られている名門ね。ミア、おめでとう。それと、私の男伴は小さいけれど、もう成人しているのよ。あのような名声はないけれど……無理に長所を挙げるなら、私をとても大切にしてくれるし、私のためなら命を懸けてくれる。金銭感覚も私とよく合うわ。最近はネットでもかなり有名になっているの。ランニングキャットっていうのよ~」
ヘルはミアとファーンに挨拶した。
「皆さん、こんにちは。僕はランニングキャットです。ニャー」
ぷっ!
危うく笑い出すところだった!
我慢、我慢!
この設定を作ったのは私なのだから。
こういう口調なら、ヘルと結びつけられにくい。
これは冗談ではない。情報戦なのだ。
ヘルも諦めたように受け入れていた。
いや、さすがヘルと言うべきか、すぐに慣れた……いや、諦めたのだろう。ふふ。
ファーンは頷いて言った。
「覚えている。以前、活動センターで会ったな。何しろ、名前があまりにもおかしかったからな。あの獣族との対戦を最後まで見たわけではないが、どうやらソフィアの顔に泥を塗ることはなかったようだ。まあ、ぎりぎり合格といったところか」
やはり、あの上から目線の態度には不快感を覚える。
それが彼の立場にふさわしい態度であり、家族企業のやり方にもよく合っているというのが、余計に苛立たしい。
ヘルが言った。
「あなたのおかげで、あの日の争いも穏便に解決できました。さすがはファーン様、先見の明がおありですね」
ヘルが社交モードに入った。
こういうときのヘルには、ほとんど地雷も社交上の弱点もない。
ただ、時間が経つとへたり込んでしまうのだけど。ふふ。
そのときは私に任せて。
背負うのも、抱っこするのも、好きにさせてもらうわ。
それなのに、ファーンは空気を読まないし、場の雰囲気も理解できない。
ファーンはこのとき、ミアに言った。
「ミアさん、飲み物と軽食をいくつか持ってきてくれ。ソフィアと個人的な話がしたい。すぐに済む」
ミアは何の疑いも持たず、彼の言うとおりにその場を離れた。
私の妹、ミア……。
あなた、少し考えが足りないんじゃない?
それとも、少しくらい不思議に思わないの?
ファーンはミアが遠ざかったのを確認すると、真剣な表情で私を見た。
どうやら本題に入るらしい。
軍事関係の話なら、この場所でするのは不適切だ。重要なところで話を止めなければ……。
ファーンが口を開いた。
「ソフィア、すまない。ミアが君の妹だとは知らなかった。もう少し注意を払うべきだったな」
どうやら真面目な話らしい。
確かに、ファーンは名門の一員であり、一応は職業軍人でもある。交際相手について最低限の調査くらいはしておくべきだった。
それができていなかったのは、彼の落ち度だ。
ファーンは続けた。
「まさか、こんな状況になるとは思わなかった。しかし、君の妹はかなり有能だ。さすがはこの家族の一員だな。君も誇りに思うべきだろう。だから、私はミアを大切にするつもりだ……」
「私たちの間に可能性がないわけではない。だから安心してくれ。君の気持ちなら、私はいつでも受け入れる。姉妹が同じ男性の重姫に付き添われるという前例も、ないわけではないからな。あまり考えすぎなくていい。私の心の中には、いつでも君のための場所を残してある」
そう言い終えると、ファーンは颯爽と背を向け、ミアのいる方向へ歩いていった……。
……
……この男……
……今、何と言った……?
……私の頭がおかしくなったのかしら……。
……何か奇妙で不気味な妨害信号でも受信した?!
……
……殴.っ.て.や.り.た.い!
ヘル視点
僕は、ランニングキャットのスーツの外骨格が、ものすごい圧迫を受けている音を聞いた。
まるで、潜水艦が水圧に押し潰され、変形していくときの音と変わらない。
問題は……
僕を圧迫しているのが水圧でも大気圧でもなく、胸の前に僕を抱えているソフィアだということだ。
このままじゃ、僕はミンチになってしまう!
主な原因はファーン、加害者はソフィアだ!
僕は慌てて、ソフィアが僕を抱えている両手を軽く叩いた。
もう少しで自首するところだった……。
いや、自首したくても、何を言えばいいのかわからないけどさ~。
ようやくソフィアは、自分が危うく僕を押し潰すところだったと気づき、慌てて謝った。
ソフィアは小隊の中で最も力が弱いとはいえ、僕を高圧縮するには十分な力がある……。
残念ながら、ランニングキャットの外骨格スーツを、もっと優れた耐圧支柱に交換したくても、それは不可能だ。
すでに現時点での最適構成なのだから。
もしかすると、これを機会に、同じ構成をベースにした別の型について考えてみてもいいかもしれない。
例えば、高耐圧型やステルス型の構成とか。ふふ。
僕は振り返った。
相変わらず抱きしめられた状態だが、別に変なことを考えているわけじゃない。
何しろ体格差がある。
肌しか見えず、輪郭すら見えないような距離で欲情するなんて、あまりにも人間離れしているだろう。
周囲の目なんて気にせず、僕はそのままソフィアを正面から抱きしめ、慰めた。
正直なところ、ファーンは悪意がなかったとしても、その行動自体が悪い意味での天災のようなものだ。
僕はソフィアに言った。
「怒るなとは言わないよ。まあ、僕がいるんだから、あいつを殴る機会がないわけじゃない」
「そのときは、思う存分殴らせてあげるよ」
「本当?」
ソフィアがこんな反応をするのは珍しい。
僕はソフィアの背中を叩いた。
(ぎりぎり届く距離で。)
「僕の本当の正体って、あいつが嫌っている相手だろ? 機会ならいくらでもあるよ。それに、あいつのほうから自分でやって来るだろうし~」
ソフィア視点
ヘルのおかげで、そうでなければ私は本当に怒りで我を忘れていたところだった。
ふう……もう考えるのはやめよう。
ヘルが自分から振り返って抱きしめてくれるなんて、珍しいことなのだから。
楽しまなければ損だ。
ごめんね、セフィ。
ヘルが初めて自分から抱きしめた相手は私になったわ。
家族の集まりという、こんな場面ではあるけれど、そんなことは気にしない!
ちょうどいい機会だし、婚約を持ち出して私に面倒をかけるなと、周囲にも示しておける。
私がその時間を楽しんでいると、
交誼ホールの大扉の向こうから、ざわめきが聞こえてきた。
どうやら到着したようね。
出迎えの重姫たちが、両側から大扉を開いた。
先頭を歩いているのは、三人の男性重姫だった。
この配置は護衛ね。それも、数の少ない男性重姫を揃えている。ずいぶんと大層な演出だわ。
その中央を囲まれているのは、家族の長女――ピスティス。
私より年上に見える。身長はベローナと同じくらいで、目つきは鋭い。
冷ややかな威圧感があり、その場にいた重姫たちは皆、静まり返った。
ピスティスは口を開かなくても、すぐにその場の空気を支配できる。
さすがは家族のリーダーね。両親でさえ、彼女には敵わない。
その証拠に、両親はずっと後方に立っていて、まるで存在しないかのようだった。
再び胸の前に抱かれたヘルが、小声で言った。
「貴婦人って感じだね。ところで、あの髪型って、大きくて長いドリルが何本も並んでいるみたいだけど、セットするのは大変じゃないのかな?」
「それとも、頭を振ったときに、周りの人にぶつかったりしないのかな?」
ぷっ……もう。
こんな厳粛な場をまるで気にしないヘルは、ときどき驚くようなことを言う。
ピスティスは周囲を見渡し、その場にいる人々を順番に見ていった。
ミアと私にも視線を向けたあと、口を開いた。
「本日は、家長である私、ピスティスを代表として、オノミア家より皆様にご挨拶申し上げます。今回の家族の集まりにお越しいただき、歓迎いたします」
「オノミア家は、アルカディアの宇宙外交という重大な責務を担っていることを、常に誇りに思っております。しかし、今日の地位に立てたのは、決して私たちだけの力ではありません。これまで歩んでこられたのも、各家族が互いに支え合い、協力してきたおかげです」
「現在のアルカディアの繁栄と発展も、オノミア家が担う使命と切り離すことはできません。この場を借りて、皆様に心より感謝申し上げます」
「それでは、この一杯の酒をもって、皆様に敬意を表したいと思います」
「皆様に。乾杯」
彼女はグラスを掲げ、それから手を下ろして続けた。
「それでは、どうぞご遠慮なく、今夜の集まりを存分にお楽しみください」
交誼ホールでは、正式な交流が始まった。
私はランニングキャットのスーツを着たヘルを抱えたまま、自分から話しかけてくる相手と交流し、ついでに最低限の情報共有と情報収集も行った。
ヘルは大いに役立ってくれた。
おそらく、先ほどの私とヘルのやり取りが、確かに効果を生んだのだろう。
彼は以前ほど子供やペット扱いされなくなっていた。
あるいは、ネット上でのランニングキャットの印象が大きいのかもしれない。
彼の印象は、努力しているのにどこか間の抜けた笑いを誘うものが多く、好意的に受け止められている。
彼を見下しているのは、優越感を持った重姫たちが大半だった。
そんな中、私の交流相手が姉さんの前にやって来た。
ピスティスは本当に底が知れない。
対外的な社交では、さまざまな手法を使い分ける。
まるで事前に相手のすべてを把握しているかのように振る舞い、相手自身の要求や目的が順調に進んでいると思わせる。
その一方で、相手の目が届かないところでは、こちらに有利な手配を進め、外交上の成果を得ていく。
しかも、これは相手がこちらの提供した翻訳機に隠されている嘘発見機能を使っていない場合にさえ、実現できる。
どれほど恐ろしいことか、よくわかるだろう。
ピスティスは私と、私に抱かれているランニングキャットのスーツ姿のヘルを見て言った。
「久しぶりね、ソフィア。ずいぶんと特別な男伴を連れてきたのね。最近、エンターテインメント界に現れた新星――ランニングキャットでもあるのでしょう? ソフィアがお世話になっているようね。ここで心から感謝申し上げます」
ピスティスが頭を下げて挨拶すると、ヘルは両手を上げて言った。
「いえいえ、僕のほうこそソフィアにお世話になっています。ソフィアのおかげで、アルカディアで快適に暮らせています。というより、彼女がいなければ僕は駄目ですね。ソフィアは本当に優秀ですから」
うわわ……ヘル、あまりにもストレートすぎるわ!
今、あなたを抱きかかえているのよ?
私が嬉しくなりすぎて、あなたを潰してしまうとは思わないの?
ピスティスは、先ほどの率直な発言をしたヘルを注意深く観察した。
これは、彼女が真剣に対応しているということなのだろうか?
少し緊張してきた私は、口を開いた。
「それで……」
私が言い終える前に、ピスティスが続けた。
「わかったわ。私に縁談を持ちかけてくる相手は、全員断っておく。それに、部下にも情報を流すよう指示しておくわ。これで面倒も最小限に抑えられるでしょう」
さすがはピスティス。私が伝えたいことを理解している。
それでも、私は尋ねた。
「今までは自分から断ったりしなかったのに、今回はどうしてそんなに積極的なの?」
ピスティスは微笑んで言った。
「外交の立場から言えば、可能性があるのに自ら機会を捨てるようなことはしないわ。まだ誰とも出会っていないうちから、先に線を引いてしまえば、情報収集や人脈作りの機会を失うことになるもの。今のあなたには相手がいるのだから、話は別よ」
やはり、ピスティスと思考の出発点が私とは大きく違う。
間違ってはいない。ただ、少し余地がなくなるだけだ。
私は例を挙げて尋ねた。
「それなら、今日ミアが連れてきたファーンについては、どう判断するの?」
ピスティスの笑みがさらに明るくなった。
「いいじゃない。ファーンの地位は、部外者でも知っているほどだもの。ミアが成長すれば、逆に相手を支配する機会もあるでしょう。というより、ファーンはかなり支配しやすい相手よ。彼の愚かさや無知を無視して、檻の中で飼ってあげれば、可愛らしくなるわ」
うわぁ……。
ピスティスは、身内に対してもこんな恐ろしいことを簡単に言えてしまう。
これも、私を信頼している証拠なのだろうけれど……。
それでも、私は彼女のやり方を参考にすることができない。
おそらく、これが情報分野の違いなのだろう。
悔しいけれど、私にはあそこまでできないと思う。
突然、ピスティスは私の頭を撫でて言った。
「あなたは今、名目上は軍隊の小隊長だけれど、実際にはすでに重姫女王の直属部隊、あるいは私兵に近い領域にいるわ。表向きには誰も異議を唱えていなくても、裏では身内にも気をつけなさい。近親者であっても疑うこと。何事にも十分注意するのよ」
「ピスティス……」
「あなたのように優秀で、重姫女王へとつながる窓口になれる情報提供者を失いたくないもの」
ピスティス、その最後の一言は余計よ……。
ピスティスは私の頭を撫で終えると、ランニングキャットのスーツを着たヘルに目を向けて言った。
「ソフィアのことをよろしくね。あまり心配させないであげて」
それから、ピスティスは私とランニングキャットの間に身を寄せ、小声で言った。
「どれほど優れた外見でも、所詮は偽物よ。やるなら徹底的にやりなさい。軍の資源を使うとしても、特注品を注文するときの供給元には、必ず追跡を断つための経路を設けること。受け取り場所を固定せず、使い捨ての受け取り場所を使いなさい。二重暗号化も忘れないように。こちらで痕跡は先に消しておいたから、今後はあなたたちで対処しなさい」
そう言い終えると、ピスティスは次の来賓のもとへ向かい、挨拶を続けた。
ヘルは呆然としている私の頬を軽く叩き、言った。
「まさか、面倒だったからやらなかったなんて言えないよね?」
「しーっ……私もそう思うわ」
もし怠けていたことが知られたら、間違いなくこっぴどく叱られる。
仕方ないわね。
バレてしまった以上、ちゃんと対処するしかない。
はぁ~。
ピスティス視点
一か月前、私は定期報告を受け、ソフィアが事故に遭いかけたことを知った。
あのときは本当に肝を冷やした。
多くの妹たちの中で、ソフィアは軍に入隊した数少ない一人であり、重姫女王とも良好な関係を築いている家族の一員でもある。
もちろん、家族としても気にかけている存在だ。
何しろ、彼女は特に努力家で、とても可愛らしい。それに、妙なところで手を抜いたり、ずる賢く立ち回ったりするところは、無能な両親によく似ている。
ソフィアは事故で負傷することはなかった。
表向きには、実験用の自律型戦闘機が機能を発揮し、常識を超える性能を見せ、奇跡のような戦果を挙げたことになっている。
私は独自のルートを通じて、当時の映像記録をすべて入手した。そして、関連する経験を持つ軍事部門の重姫たちに、秘密裏に調査と分析を依頼した。
その結果、これは決して高位クラスの自律機が実現できるものではないとわかった。
それは新型戦闘機の性能を最高効率で柔軟に引き出せる存在であり、しかも明確な意思を持ってソフィアを救出し、反撃まで行っていた。
私がさらに詳しく調べようとしていたとき、机の上に一通の手紙が届いた。
そこには、こう書かれていた。
「ほどほどにしておきなさい。あなたの偉大で敬愛する重姫女王より」
署名はなかったが、本気の警告だとわかった。
つまり、この件についてこれ以上追及することはできないということだ。
それなら、別の方向から調べることにしよう。
そこで私は、ソフィアが軍の機関から購入した奇妙な品目の一覧をもとに、ある人物が身分を隠すために、その一覧にある装備を必要としているのだろうと、おおよその推測を立てた。
軍を通じて注文すれば、ある程度の秘密は守れる。
それでも、私に調べられてしまうようでは、あまりにも不用心だ。
もしかすると……。
いや、ソフィアが気づいていないはずはない。
罠なのだろうか?
それとも、わざと手を抜いているのか?
まあいい……。
どちらであっても、今回の家族の集まりを利用して接触してみよう。
ついでに、問題点も伝えておけばいい。
今、私が見つけた痕跡については、とりあえずこちらで処理しておこう。
もし意図的に仕掛けた罠なら、彼女は後から補ってくるだろう。
もし単に手を抜いていただけなら、少し注意すれば自分で気をつけるはずだ。
しかし、まさかソフィアが今回の家族の集まりに相手を連れてくるとは思わなかった。
おそらく、いろいろな意味があるのだろう。
もちろん、「自分には相手がいるのだから、もう縁談を勧めたり、相手を紹介したりしないでほしい」という意味も含まれているはずだ。
だが、注文品の一覧を見た私には、彼女が隠している相手が誰なのか、当然わかった。
すべての情報がつながった。
それにしても、大胆すぎる。
重姫にも敵にも、身分を隠す必要がある人物が、まさか別の種族に扮して、ネット上で堂々と活動しているとは気づかれないだろう。
ソフィアの大胆な手配を褒めるべきか、それとも不用心さを叱るべきか……。
ランニングキャットとある程度接触したことで、間違いないと判断できた。
彼こそが、実験戦闘機を操縦し、ソフィアを救助したパイロットだ。
表向きには超小型の獣人の姿を使っているが、実際の本体は私たちに近い形態なのだろう。
私の経験から判断すると、彼は職人気質で、少し求道者のような雰囲気を持った人物だ。
信頼できるし、冗談も通じる。
なぜあれほど小柄なのかは気になるが、これ以上踏み込むのはよくないだろう。
重姫女王がおっしゃったとおり、ほどほどにしておくべきだ。
ヘル視点
まあ、どうにか家族の集まりと言えるものだったかな。
ピスティスとソフィアの関係は、互いに考えすぎている不器用な関係という感じがする。
少し強引なところはあるけれど、その中にわずかな愛情も感じられた。
一方、ソフィアの両親は、本当に徹底して存在感がなかった。
というより、社交の場で失敗しないよう、できるだけ目立たないようにしている新人みたいなものだろうか?
僕とソフィアに対しても、余計な詮索はせず、ささやかな祝福をくれただけだった。
これはアメリカ風の家族のやり方に近いのだろうか?
それとも、アルカディアという惑星だけに見られる状況なのだろうか?
交誼ホールを出ると、ソフィアは堂々と両手を高く上げ、後ろに伸びをした。
ようやく解放されたようだ。
ソフィアが言った。
「ありがと~。これでしばらくは静かに過ごせそうね」
「またあるの?」
ソフィアは困ったように言った。
「もちろん。でも、あなたが私のそばにいる間は、もうないと思うわ。それだけ長い時間があれば十分でしょう?」
「うん。僕が天寿を全うするまでの時間として考えれば、確かに十分長いね」
僕がそう言うと、ソフィアは微笑んだ。
しかし、その表情には少し困ったような色もあった。
「天寿を全うするくらいの時間なのね? あなたがそれほど長く私と一緒にいてくれる自信があるのは嬉しいわ。でも、それは私にとっては、あくまでその期間だけということでもあるのよね。だから、少し複雑な気分だわ。できることなら、あなたに一通りの遺伝子改良を受けることを勧めたいところなのだけど。残念ながら、あなたのような種族の前例がないから、確信が持てないのよね」
うわっ。
ソフィアはずいぶん先のことまで考えているな。
僕よりもずっと先だ。
確かに、以前ソフィアと姉のピスティスの出生年齢の差について尋ねたことを思い出した。
僕の寿命なら、彼女たちの三、四世代分に相当する時間を生きられる。
その事実だけで、僕の頭の中にあった兄弟姉妹の出生年齢差という概念は、あっという間に破壊されてしまった。
僕は笑って言った。
「確信が持てないなら仕方ないよ。せいぜい、そのときになって寿命が尽きそうになったら、本当に必要に応じてもう一度賭けてみるくらいかな」
僕は今の状態をかなり楽しんでいる。
そう、楽しむと言えば……。
僕はスマホを取り出し、今日の予算を表示して、その画面をソフィアに見せながら言った。
「家族の集まりをデートに含めないなら、今のところデートの予算にはまだ手をつけていないよ。まだ体力はある? 少し楽しんでいかない?」
ソフィアは、僕が話題をそらそうとしていることに気づいたようだ。
スマホに視線を移してから言った。
「弾薬は十分ね。それにしても、ずいぶんたくさん持ってきたわね」
「君が前に予算は無制限って言ったから、これだけ持ってきたんだよ。それなのに、まさか家族の集まりに参加することになるとはね? たまには楽しんだっていいじゃないか~」
ソフィアは笑って言った。
「娯楽一、美食二、買い物七。どう?」
僕は言った。
「せめて娯楽三、美食三、買い物四くらいにしてよ……」
「交渉成立~。行きましょう!」
上機嫌になったソフィアは、また僕を抱き上げ、浮遊式地下鉄へ向かった。
そして、次の目的地へと向かう。
僕に言えることは、ただ一つ……。
さすがはソフィア……。
予算は端数まで残らなかった……。




