第70話 皇子の文通
夜の灯りの下、私は北方領の領主館で書物と帳簿を整理していた。
都市がここまで成長したのは、私自身の手腕と、町の人々の協力のおかげだ。
新しい市場、学校、鍛冶場、そして医師や商人たち――すべてが順調に機能している。
だが今日の視察を終えた皇子アルヴェルトの存在が、ふと頭をよぎる。
(文通だけで、あの子の目で見た街の印象はどんなだったのかしら)
その答えは、手紙となって届いた。
書簡を手に取り、封を切る。整った文字で、皇子の言葉が並んでいる。
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レスティーナ殿
今日の視察、大変感謝します。
私はこれまで文通でのみ、君の都市計画の話を聞いてきましたが、実際に目で見ると、その努力と成果に驚くばかりです。
荒れ地だった北方領が、ここまで整備され、市民たちが生き生きと暮らす様子を目にし、心から感動しました。
君の手腕により、市民は希望を取り戻し、街は活気に溢れています。
学校、商業施設、医療施設、すべてが計画通り整い、君が常に市民と向き合い、細やかな配慮をしていることが伝わってきました。
文通では分からなかった現場の生きた声。市民の笑顔。君の指示が確実に実を結んでいること。
私はこれらを、私自身の目で確認できたことを嬉しく思います。
今後も、君の都市運営を見守り、必要であれば助言をするつもりです。
君の能力は、私にとっても大いに頼もしいものです。
そして――個人的な話ですが、私は視察中、つい君の動きや指示に目を奪われてしまいました。
君が都市の隅々まで目を配る姿勢は、単なる領主としてだけでなく、優れた統治者としての資質を感じさせます。
次に訪れる日を楽しみにしています。その時は、さらに成長した都市と、君の活躍を拝見できることを願っています。
未来の皇帝
アルヴェルト
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私は手紙を読み終えると、軽くため息をついた。
皇子はまだ十三歳だ。だが、この手紙から、街や住民への真摯な関心と、自分の統治に対する責任感が伝わってくる。
(なるほど……良き主君だわ)
心の中でそう思いながらも、私は恋愛感情などは抱いていない。
皇子の感想や褒め言葉は、私にとって都市運営の励みであり、今後の仕事の確認である。
視察で見た彼の真剣な眼差しも、特別な感情ではなく、私の領地が王命で任されていることへの関心の表れだと理解している。
手紙を机の上に置き、私は帳簿を広げ直した。
次の課題は、北方都市の教育の充実、物資の物流改善、そして市民の生活向上。
文通での皇子の指示や助言は、これらの計画に活かせるだろう。
(よし、次の市場開設は週末までに間に合わせる)
そう心に決めると、私はふと窓の外を見た。
市場の通りには、人々が行き交い、子どもたちは学校に向かう。
鍛冶場では火花が散り、パン屋の窯からは香ばしい匂いが漂う。
(この街を、さらに住みやすくする――それが私の使命)
手紙には、皇子が次に訪れる時に確認したい点や、助言も書かれていた。
例えば商人たちの流通網の効率化、農地の作付計画、そして教育施設の増設。
すべて、私の都市計画と密接に関わる内容だ。
私はペンを取り、すぐに返事を書く。文面は簡潔だが、要点を押さえる。
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アルヴェルト殿
ご視察、誠にありがとうございました。
街や市民の様子を実際に見ていただき、率直な感想を伺えたことは、大変光栄です。
市民たちは日々の生活を楽しみながら働いており、その姿を皇子殿下に見てもらえたことは、私にとっても励みとなります。
ご指摘いただいた物流や教育、農地整備の件については、すでに改善計画を立てております。
次回お越しいただく時には、さらに進歩した状況をお見せできると思います。
今後とも、ご助言をいただければ幸いです。
敬具
レスティーナ・フォン・グランテ
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手紙を書き終え、私はそのまま机に置いた。
皇子の真剣な視察と率直な感想を受け止め、街づくりに役立てるだけ――。
恋愛感情など微塵もなく、ただ一人の領主として、王命を果たすために、明日の都市の発展を考える。
外では、商人たちが荷車を引き、子どもたちが学校に通う。
私の手で作り上げた都市は、今日も息づいている。
そして、この都市を見守る皇子の視線もまた、遠くから届いているのだろう――。
私にとってそれは、良き主君の存在感として、都市と共に成長の励みになるだけだった。




