第59話 北方都市計画
帝都を出発した馬車は、ゆっくりと北へ向かっていた。
石畳の街道を進み、やがて帝都の巨大な城壁が遠ざかっていく。
レスティーナ・フォン・グランテは、馬車の窓からその光景を眺めていた。
帝都。
華やかで、巨大で、そして複雑な都市。
だが彼女の居場所はそこではない。
北方領だ。
王命によって統治を任されている土地。
まだ小さな町。
だが確実に成長し始めている土地。
「そろそろ帝都ともお別れね」
レスティーナは小さく呟いた。
向かいの席にはエルガルトが座っている。
北方領の騎士であり、レスティーナの側近でもある男だ。
「名残惜しいですか?」
レスティーナは首を横に振った。
「まったく」
即答だった。
エルガルトは苦笑する。
「はっきりしていますね」
「帝都は忙しいもの」
レスティーナは言った。
「お茶会に呼ばれたり、貴族に挨拶したり」
「正直、領地の仕事の方が気楽よ」
エルガルトは頷く。
「確かに」
北方領ではレスティーナが領主だ。
余計な駆け引きは少ない。
やるべきことははっきりしている。
それは――
**町を発展させること。**
レスティーナは少し笑った。
(さて)
(ググル先生)
『はい』
(帝都の用事も終わったし)
(そろそろ本気で都市計画を進めるわよ)
『了解しました』
レスティーナは窓の外を見る。
広い草原。
遠くの森。
北方の大地はまだ未開発の場所が多い。
つまり――
**可能性の塊**だ。
数日後。
馬車は北方領の町へ到着した。
城壁はまだ低い。
だが以前より建物が増えている。
市場。
パン屋。
鍛冶屋。
人々の声が響く。
「領主様だ!」
子供の声が聞こえた。
レスティーナが馬車から降りると、町の人々が集まってくる。
「お帰りなさい!」
「帝都はどうでした?」
レスティーナは笑った。
「いつも通りよ」
町長の老人が歩いてきた。
「領主様」
「町は順調です」
レスティーナは頷く。
「あとで報告を聞くわ」
そして館へ戻った。
領主館の書斎。
レスティーナは机に座る。
そして静かに目を閉じた。
(ググル先生)
『はい』
(ネットショップ開いて)
彼女の前に、見えない画面が広がる。
前世のインターネット。
通販サイト。
検索。
地球の知識。
レスティーナがこの世界で持つ、最大の武器だ。
(まずは都市計画)
『どの分野から始めますか?』
(道路)
レスティーナは即答した。
町が発展するために必要なのは――
**物流**。
つまり道路だ。
彼女は検索する。
(石畳の道路構造)
画面に情報が表示される。
排水。
基礎。
舗装。
レスティーナは頷いた。
「なるほど」
この世界の道路はまだ未熟だ。
雨が降ると泥だらけになる。
だから彼女は決めた。
「石畳を敷く」
それもただの石ではない。
排水を考えた構造。
中央が少し高く、両側に水が流れる設計。
レスティーナはメモを書いた。
「エルガルト」
「はい」
「石工を集めて」
「道路工事を始めるわ」
エルガルトは少し驚いた。
「道路ですか?」
「ええ」
「町の中心から市場まで」
「全部石畳にする」
エルガルトは頷いた。
「分かりました」
次にレスティーナは考える。
(次は水ね)
都市に必要なのは清潔な水。
井戸だけでは足りない。
(ググル先生)
(簡易水道)
『情報表示』
重力式水道。
高い場所から水を引く。
配管。
貯水池。
レスティーナは目を輝かせた。
「これね」
北方領には丘がある。
そこに貯水池を作る。
そこから町へ水を流す。
「これが出来れば……」
井戸に並ぶ必要がなくなる。
病気も減る。
レスティーナは笑った。
「やることが多いわね」
だが楽しい。
町が変わっていく。
それを見るのは面白い。
さらに彼女はネットショップを開く。
(農業)
検索。
肥料。
作物。
輪作。
レスティーナは頷いた。
「麦だけじゃだめね」
豆。
芋。
作物を増やす。
収穫量を上げる。
人口が増えても食料不足にならないようにする。
エルガルトが言った。
「領主様」
「仕事が山のようですね」
レスティーナは笑った。
「都市を作るんだから当然よ」
エルガルトは少し感心した顔をした。
「本当に町を大きくするつもりなんですね」
レスティーナは頷く。
「もちろん」
彼女は窓の外を見た。
北方の町。
まだ小さい。
だが――
未来はある。
「ここを都市にする」
レスティーナは静かに言った。
「帝都に負けないくらいの」
エルガルトは笑った。
「大きな夢ですね」
レスティーナも笑う。
「夢じゃないわ」
「計画よ」
そして彼女は再び机に向かった。
ネットショップ。
ググル先生。
地球の知識。
それを使って――
北方の小さな町は、少しずつ**都市**へと変わっていくのだった。




