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n番煎じの脇役令嬢になった件について  作者: 此花サギリ


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第51話 帝都の視線

 帝都宮殿の庭園には、春の穏やかな陽光が降り注いでいた。


 白い石畳の広場の中央には大きな噴水があり、その水音が静かなリズムを刻んでいる。


 周囲には色とりどりの花壇。


 手入れの行き届いた芝生。


 そして優雅に並べられた白いテーブル。


 銀のポットからは香り高い紅茶が注がれ、焼き菓子や果物が皿に並んでいた。


 誰が見ても、上流貴族の華やかな社交の場。


 しかし、この茶会には別の意味があった。


 第一王子アルヴェルトの婚約者候補が集められた場。


 つまり未来の皇后候補の品定め。


 帝国中の貴族が注目する場でもある。


 レスティーナは椅子に座り、静かに紅茶を口に運んだ。


 香りは上質。


 おそらく南方の高級茶葉だ。


 だが、彼女の意識は紅茶の味ではなく、周囲の空気に向いていた。


 ――見られている。


 はっきりと感じる視線。


 令嬢たち。


 侍女。


 貴族の付き添い。


 近衛騎士。


 あらゆる視線がこちらに向いている。


 理由は簡単だ。


 先ほどの王子との会話。


 それが原因だった。


(ググル先生)


『はい』


(かなり目立ってる?)


『はい。庭園内で最も注目されています』


(やっぱりね)


 レスティーナは心の中で苦笑した。


 自分としては普通に話しただけだ。


 町づくりの話。


 人口の話。


 市場や学校の話。


 しかし帝都では意味が変わる。


 王子が興味を示した。


 それだけで評価が変わる。


 権力の中心とはそういう場所だった。


 その時だった。


 数人の令嬢が近づいてきた。


 侯爵家や伯爵家の令嬢たちだ。


「レスティーナ様」


「少しお話よろしいでしょうか?」


 礼儀正しく頭を下げる。


 レスティーナは微笑んだ。


「どうぞ」


 令嬢の一人が言う。


「北方領のお話、とても興味深かったです」


「逃亡農奴を受け入れていると聞きましたが、本当ですか?」


 レスティーナは頷いた。


「ええ」


「帝国内の各地から流れてきた人たちです」


 別の令嬢が不安そうな顔をする。


「危険ではないのですか?」


「犯罪者も多いと聞きます」


 レスティーナは落ち着いて答えた。


「最初は問題もありました」


「盗みや喧嘩も」


「ですが仕事と土地を与えれば落ち着きます」


 令嬢たちは少し驚いた顔をする。


 レスティーナは続けた。


「農地を区画して貸し出しました」


「共同井戸を作りました」


「街道を整備しました」


「市場も作りました」


 令嬢の一人が感心する。


「まるで都市計画ですね」


 レスティーナは少し笑った。


「まだ町の芽です」


「人口は六百ほどですから」


 だがその時、別の声が聞こえた。


「六百でも十分だ」


 振り向く。


 アルヴェルト王子だった。


 王子は興味深そうに言った。


「開拓地でそれだけ集まるのは珍しい」


 レスティーナは軽く礼をする。


「王命ですから」


 王子は少し笑った。


「そうだったな」


 周囲の令嬢たちは首を傾げる。


「王命?」


 レスティーナは説明した。


「北方領は元々未開拓地でした」


「帝国北部の荒地です」


「皇帝陛下の勅命で開拓を任されています」


 令嬢たちがざわめく。


 普通の貴族の領地とは違う。


 王命による統治。


 つまり半ば国家事業に近い。


 レスティーナは続けた。


「開拓と治安維持」


「人口誘導」


「農地開発」


「街道整備」


「それが私の任務です」


 王子は頷いた。


「だから逃亡農奴も受け入れているのか」


「人口が必要だから?」


 レスティーナは答える。


「はい」


「人がいないと土地は死にます」


 その言葉に王子は笑った。


「確かにな」


 そして続ける。


「前に言ったよな」


「発展したら視察に行くって」


 令嬢たちがまたざわめく。


 王子は真面目な顔で言った。


「王命で統治してるなら、なおさら見たい」


「開拓地の成功例は帝国にとって重要だ」


 レスティーナは軽く頭を下げた。


「その頃には、もう少しまともな都市になっていると思います」


 王子は満足そうに頷いた。


「楽しみにしてる」


 それだけ言って歩いていく。


 しかしその会話は庭園の空気を大きく変えていた。


 王命の開拓地。


 皇子の視察予定。


 それは政治的にも重要な意味を持つ。


 一方――


 少し離れた場所でメアリー・スーは震えていた。


(なんなのよ……)


(なんであの子ばっかり……!)


 皇子が話す。


 令嬢が集まる。


 そして皇帝の命の領地。


 それではまるで――


 主役のようだ。


 リリア・フェルミナは笑顔を保っていた。


 しかし目は冷たい。


(邪魔ね)


(あの子)


 本来この舞台の中心は自分。


 ヒロイン。


 物語の中心。


 なのに。


 王子の興味はレスティーナに向いている。


 それが気に入らない。


 とても。


 その時だった。


 庭園の入口でざわめきが起こった。


 近衛兵が整列する。


 貴族たちが頭を下げる。


 重い足音。


 レスティーナはそちらを見た。


 豪奢な衣装を纏った男が歩いてくる。


 帝国の頂点。


 皇帝。


 皇帝は庭園を見渡し、ゆっくり歩いた。


 そして視線が止まる。


 レスティーナの方だった。


 皇帝は静かに言った。


「お前が北方領のレスティーナか」


 庭園の空気が凍る。


 レスティーナは立ち上がり礼をする。


「はい」


 皇帝は興味深そうに言った。


「王命の開拓地」


「うまくやっていると報告を受けている」


 そして小さく笑った。


「なるほど」


「確かに面白い娘だ」


 帝都の貴族たち。


 王子。


 令嬢たち。


 そして皇帝。


 今、帝国の視線が――


 北方領の小さな領主に集まり始めていた。


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