第12話 酒場の決闘!(下)
エリサが両手を広げて、通せんぼをしているのを見て、ベルンハルトは、ぼりぼりと頭を搔く。
「なあ、俺のお姫様。先に手を出してきたのは、そっちのじゃじゃ馬なんだぜ。俺の方が被害者なんだけどよ」
「で、でも、ミーシャさんは、わたしを助けようとしてくれたんです! だから、今度はわたしがミーシャさんを守ります!」
「あー、うん、わかるかな? そのじゃじゃ馬は、俺がお姫様に、乱暴をしようと勝手に想像したんだぞ?」
エリサは、そんな説得に耳を貸さず、うー、と唸り声をあげてベルンハルトをにらみつける。
「……ああ、もう! わかったわかった。どうせ、命までは取らねえつもりだったんだ。興ざめだ、興ざめ。やめやめ、やめにします」
ベルンハルトは、やれやれといった顔つきで大きく嘆息し、大剣を納めた。
エリサはその様子を見て、うん、と大きくうなづき、ミーシャの方へ駆け寄る。
「大丈夫ですか! どこかお怪我はされてませんか?」
「ああー、エリサ。うん、だいじょぶ。……ちょっとぶつかっただけだから、平気平気」
「何が平気なんですか! あちこちぶつけたじゃないですか!」
「いや、大丈夫だから……」
あわてて手を振り、エリサをなだめようとミーシャはしたが、
「ほら、ここも切り傷。こっちも、ここも!」
みると、体のあちこちに薄皮を剥がれた程度の切り傷があい、うっすら血がにじんでいる。
「いまから治癒魔法を使います。じっとしててくださいね」
エリサはそういって、すぅ、と息を吸い、【治癒】の呪文を唱えると、両の掌に白い光がぽぅ、と灯る。
その掌を腹部や傷口にかざすと、
「……あったかい」
ミーシャが心地よさを感じるとすぐに、痛みが消え、傷がふさがった。
「そちらの方も」
ミーシャの傷が言えたと思ったエリサは、ついでベルンハルトの方へ歩み寄る。
(なんでよ)と一瞬ミーシャは思ったが、今は我慢した。
「ごめんなさい。わたしがしっかりしないから、ミーシャさんに誤解をさせてしまったようです」
エリサは愁眉を寄せて、ベルンハルトの脛や肩などに光を当てた。
ベルンハルトは無言でその手当てを受けている。「おいおい、あのベルンハルトがおとなしいぜ」と群衆の中からぽつりと聞こえた。
「他の皆さんも、お怪我をされた方はおられませんか?」
ベルンハルトの治療を終えると、エリサは群衆に向かって呼びかけた。
だれも無言でエリサの方をじっと見るが、ややあって「いや、こっちは大丈夫みたいだ」と誰かが言った。
それを聞いたエリサが再びすぅ、と息を吸うと、掌の光はぼんやりと消えた。その直後、
「大丈夫じゃないわい!」
と、階上から大音声が聞こえてきた。
「何があった!このありさまは!」
2階の廊下、手すりのところで、ゲイルが杖を振り振り、大声をあげている。
「何もねえよ、ちょっと悪ふざけがあったのさ」
群衆の中から誰かが言った。
「爺さんも見られればよかったな! すげえ戦いだったぜ!」
「そうそう。ベルンハルト相手に、ミーシャが激闘だ」
「いやぁ、俺ぁいいものを見せてもらったぜ」
「なんだと。ミーシャ、お前さんベルンハルト相手にケンカを売ったのか?」
老人にいきなり名指しされ、ミーシャはどきりとした。
「いや、だって爺さん。アイツがエリサのことを襲おうとしてたから」
「人聞きの悪いこと言うな! 俺がいつ襲おうとしたってんだ」
「だってさ、お前、エリサのこと獲って食いそうな顔してたじゃんか」
「いやいやいや! 俺はトロルか何かか! いいがかりだぜ」
「だってお前、悪評ばっかじゃんか」
ミーシャの言いっぷりに、群衆はどっと笑ってはやしたてた。
するとベルンハルトは、ドン、と力強く床を踏むと、
「くそっ! 俺を侮辱しやがったな! 今度こそケリをつけてやる! 表へ出ろ!」
そういうと、迅雷のごとく外へ飛び出した。
ミーシャが続いて外に出ようとすると、「待て!」とゲイルが叱責する。
「なんだよ爺さん、止めるのか?」
「止やせんよ。ただな、このありさまじゃ明日以降、食堂が開けない」
ミーシャが周囲を見ると。なるほど老人の言うとおり、惨憺たる有様だ。真っ二つになったテーブル、壊れた椅子の残骸、切られた衝立、割れた花瓶、床には無数の食器だったモノが飛び散っている。由緒あると聞いていた初代ギルド長の肖像画には、ミーシャの投げナイフが突き刺さっていた。
「まぁ、営業再開までの休業補償も含めて、ざっと金貨30枚だな」
老人のよく通る、しかし冷たい一言に、周囲は唖然とした。ミーシャはそれに加えて、胃の中に焼けた鉄串でも突っ込まれたような衝撃を受けた。
(……ヨツデグマの報酬と薬種代が金貨60枚。半分持ってかれる!)
「わ、わかった。だけどさ、ベルンハルトと折半だからな!」
そういうと、ミーシャはエリサに「これでひとまず払って!」と金貨の入った袋を預けると、表に飛び出す。
が、ギルドの外にベルンハルトの姿はなかった。
慌てたミーシャが、入り口のそばでボロボロになって座り込んでいる若者と中年の剣士に聞くと、
「ベルンハルトの奴、なんだか知らないが、すごい速さで街道の方へ走っていったぜ」
それを聞いて、ミーシャは顔面を真っ赤にして叫んだ。
「……逃げられたぁあっ!!」
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