AI・半導体編 第一話・中編 **『AI狂騒曲(ラプソディ)』 ――世界を変えるのは、"賢いAI"ではなく"働く半導体"――
カレン「"だから上がった"じゃない。
**"みんなが上がると思ったから上がった"**の」
森本「そ、それってどういう…」
喋ろうとする森本をカレンは手で静止した。
カレン「その前に半導体に関係する会社について、もっと詳しく説明するわ。どんな会社について知りたい?」
森本は腕組みをして少し考えた。
半導体の会社で…
森本「じゃあNVIDIAってさ。半導体を作ってる会社?」
カレンは首を横に振った。
カレン「そこが初心者が一番勘違いするところね」
森本「えっ、違うの!?」
カレン「さっき説明したけど、NVIDIAは"設計"が本業」
森本は固まった。
森本「え?」
カレン「また料理で例えるわ」
森本「きた!! 食べ物シリーズ!!」
森本の声には反応せずカレンは進めた。
カレン「世界一美味しいラーメンを考える料理研究家。それがNVIDIA」
森本「なるほど!」
カレン「でも、料理研究家は大量生産できないのよ」
森本「あっ!」
カレン「だから超一流の工場へお願いするってわけ」
紙に大きく書く。
『TSMC』
カレン「ここが世界最大級の半導体受託製造会社。NVIDIAなどが設計した最先端チップを、高い歩留まりで量産できる技術を持っているのよ。だから世界中から注文が集まる」
森本「つまり…漫画家と印刷会社みたいな?」
カレンは目を開いて驚いた。
カレン「………」
森本「え?」
カレン「今の例え、100点」
森本は立ち上がった。
森本「初めて褒められたぁぁぁぁ!!」
店内全員が拍手した。
…
…
…
もちろん嘘である。
森本の妄想だった。
現実では、店員が氷を落として「カラン」と音がしただけだった。
カレン「座って」
森本「はい……」
カレンはナプキンの上に、一本の線を書いた。
設計
↓
製造
↓
組立
↓
検査
↓
世界へ
カレン「でも、これでもまだ終わりじゃないわ」
森本「え?」
カレン「AI用のGPUには、とてつもない量のデータを一瞬でやり取りする能力が必要ね。そのために欠かせないのが、**HBM(High Bandwidth Memory)**なの」
森本
「HBM………ホームベーカリーマシン?」
…
…
…
カレンは静かにスマホを取り出した。
森本「何してるの?」
カレン「現実逃避」
森本は頭を抱えた。
森本「ホーム・ビール・メーカー?」
カレン「違う」
森本「ハンバーグ・メガ盛り?」
…
…
…
カレンはコーヒーカップを置いた。
カレン「今、本気?」
森本「100%。」
森本は親指を突きだした。
カレン「帰ろうかしら」
森本「ホントごめん!!」
店員が肩を震わせて笑っている。
どうやら常連たちは二人の漫才を楽しみにしているらしい。
小さくため息をついたカレンは紙ナプキンを一枚取った。
そして、今度は大きな冷蔵庫の絵を描く。
森本「お、今回は分かりやすそう」
カレン「料理するときの例えね。冷蔵庫が一階。キッチンが二階。あなた毎回材料を取りに行く?」
森本「超面倒。無理、絶対」
カレン「AIも同じ」
森本は首を傾げた。
カレン「GPUは料理人。データは食材。普通のメモリだと、毎回遠くの冷蔵庫まで走る」
カレンは紙に料理人が階段を全力疾走する絵を書いた。
森本「かわいそう」
カレン「HBMは冷蔵庫を料理人の真横に置く。」
森本「お!!」
カレン「しかも巨大。出し入れしやすい。氷もスグ作れる。そして沢山置ける」
森本「だからGPUが待たなくていいんだ」
カレン「その通り」
森本は思わず立ち上がる。
森本「俺、今初めてHBM理解した!!」
カレン「だからAIサーバーにはHBMが必要なの」
カレンはタブレットを取り出した。
そこには半導体メーカーの記事。
カレン「SK hynix知ってる?」
森本「韓国の会社」
カレン「そう」
森本「サムスンの親戚?」
カレン「違う」
森本「いとこ?」
カレン「違う」
森本「犬猿の仲?」
カレン「それ以上言うと怒られる」
森本「誰に?」
カレン「どっかの偉い人とSNS」
店員がまた笑う。
カレン「SK hynixは世界有数のメモリメーカー。特にHBMではAIブームで非常に大きな存在感を示したの。NVIDIA向けのHBM需要が急増したことで、業績への期待が一気に高まり、株価も大きく評価されたわ」
森本「つまり、冷蔵庫屋さんが世界一忙しくなった」
カレン「その例え90点」
森本「あと10点!」
カレン「騒がない」
森本はスマホを取り出した。
森本「そういえば、キオクシアって最近ニュースで見た」
カレン「そうね」
森本「AIで爆上がりした会社?」
カレン「半分正解」
カレンは再び図を書く。
GPU
↓
HBM
↓
保存する場所
カレン「HBMは作業机」
森本「うん」
カレン「キオクシアが得意なのはNANDフラッシュメモリ」
森本「………?」
カレン「例えるなら巨大な倉庫」
森本「おぉ」
カレン「AIは学習する大量のデータを保存するその保存場所が必要よね?」
森本「あっ。だから倉庫も必要になる」
カレン「そう、AI革命はGPUだけじゃ完成しないのよ」
カレンは一本の線を書いた。
NVIDIA
↓
TSMC
↓
SK hynix
↓
キオクシア
↓
東京エレクトロン
↓
ディスコ
↓
アドバンテスト
森本「すげぇ…」
カレン「これはリレー」
森本「リレー?」
カレン「一人でも転ぶと全部止まる」
森本「運動会か」
カレン「そうね。だから投資家は"NVIDIAだけ"じゃなくサプライチェーン全体を見るの」
森本はスマホを見た。
そこには、株価が並んでいる。
今まで見えていた景色が、
少し違って見えた。
〜森本の妄想劇場〜
森本の頭の中。
巨大な運動会。
第一走者。
NVIDIA
バトンを渡す。
TSMC!!
全力疾走!!
そこへ、
SK hynixがHBMを背負って走る!!
キオクシアは巨大な倉庫を押しながら走る!!
東京エレクトロンは工場ごと担いで走る!!
ディスコは巨大なダイヤモンドの刃を振り回しながら走る!!
アドバンテストはゴール直前で「品質検査です!」
と止める。
森本「わぁぁぁぁ!!」
現実。
カレン「どうしたの?」
森本「アドバンテストが止めた…」
カレン「何を言ってるの?」
そして、森本は勘違いを始める
森本は静かにスマホを見る。
そして、ニヤリと笑った。
森本「なるほど」
カレン「何?そのニヤけ顔気持ち悪いんだけど」
森本「分かった」
カレン「何が?」
森本「AI関連なら全部買えばいいんだ」
…
…
…
カレンは珍しく少しだけ眉をひそめた。
カレン「…その考え方が、一番危ない」
森本は気付かなかった。
その一言の重さを。
彼の頭の中では、もう未来が決まっていた。
AIは伸びる。だからAI株は全部上がる。
そんな単純な世界だと、本気で信じ始めていた。
しかし市場は――
「正しいテーマ」と「正しい投資先」は、まったく別の話だ。
そのことを森本は、まだ知らない。
森本の反省ノート②
HBMは「ホームベーカリーマシン」ではない。
GPUだけではAIは動かない。
AI産業は多くの企業が役割分担する巨大なサプライチェーン。
「AIが伸びる」と「AI関連企業なら何でも儲かる」は同じではない。
今日の投資格言
「優れた企業を見つけることと、適正な価格で買うことは別問題である。」
――ベンジャミン・グレアム
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