第二十二話「誘惑の街と、リバランスの鉄槌 — 森本、投資の“守り”を学ぶ」」
久しぶりの執筆です。
長いですが、よろしくお願いします。
雨上がりの夕方。街灯に反射する路面は、まるでチャートのローソク足のように光ったり暗くなったりしている。森本はスマホを握りしめ、画面のタイムラインをスクロールしていた。
――「#爆益」「#レバレッジで資産3倍」「今買わないやつは人生負け組」――
目に入る“爆益スクショ”の連打。どれも“見るだけで心がざわつく”魔法の画像だ。
「こんなの見たら『今すぐ全部引き上げてこっちに入れろ』ってなりそうだよ……」
森本の指がスマホの「売却」ボタンの近くで震えた。
そこへカレンが颯爽と現れる。手には折りたたみ傘と、いつもの黒いタンブラー。
「またスクショに踊らされてるの?」
彼女の目は真剣だ。今日の授業は“守り”について。
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1. リスク管理の第一歩は「想定」と「許容」
「まず言っておく。投資で一番危ないのは自分がどのくらいの損に耐えられるか知らずにベットすることよ」
カレンは黒板(正確にはタブレット)に太字で書いた。
・想定損失(Worst-case)
・日常生活に支障を与えない額(生活防衛資金)
・精神的に耐えられるドローダウン(許容ドローダウン)
「“想定”ってのは、歴史的な暴落とか、あなたのポートフォリオが半分になる可能性とかを検討すること。たとえば株式60%・債券40%のポートフォリオで、過去の大暴落時にどれだけ下がったかを調べれば、ある程度の見積りはできる」
森本:「ドローダウンって聞くと、心臓に来るなあ……」
カレン:「だから事前に“心の準備”をするの。『最大で◯%くらいまで下げることが普通にある』って知ってるだけで、パニックで売る確率は下がるわ」
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2. 実例で学ぶ「リバランス」 — 数字で行動を決める
カレンはメモ帳をめくり、ペンを走らせる。
「今日はリバランスの実例をやる。具体的にやってみると、感情でブレないルールが作れる」
ケース:目標配分60/40(株式60% / 債券40%)
初期投資合計:600,000円
株式:360,000円(60%)
債券:240,000円(40%)
数ヶ月後、市場が上昇しこうなる:
株式が+30% → 360,000 × 1.3 = 468,000円
債券が-5% → 240,000 × 0.95 = 228,000円
合計:696,000円
新しい比率:
株式比率 = 468,000 / 696,000 ≒ 67.2%
債券比率 = 32.8%
目標60%に戻すための売買量:
目標株式額 = 696,000 × 0.60 = 417,600円
現状株式額 = 468,000円 → 468,000 − 417,600 = 50,400円を売る
そのお金で債券へ買い直し(手数料を除く)→ 債券に50,400円を追加して合計≈278,400円
森本:「なるほど! 株が伸びた分を売って、債券に入れ直すんだ。『下がってるものを買う』ってやつ?」
カレン:「そう。売ることで利益確定、買うことで安く買い増す。感情が逆らう瞬間にルールで動くのよ」
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2-1. リバランス手法の種類
カレンダー方式:年1回|年2回など、定期的に実行(例:毎年1月)
長所:シンプル、手間少ない
短所:突発的な偏りを放置しやすい
閾値方式:±5%や±10%などの許容幅を超えたら実行
長所:実需に合わせて再配分、機会を逃しにくい
短所:頻繁に手数料がかかる可能性
ハイブリッド方式:年1回チェック、かつ閾値を超えたら早期実施
実務上おすすめのバランス
カレン:「手数料や税金を意識して、最小限の頻度で実行するのが大事。頻繁に売買してたら手数料で食われる」
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3. 出来高、流動性、スリッページ — 実務の落とし穴
「あと、現実は100円単位の完璧な世界じゃない。流動性とスリッページ、そして取引手数料を忘れないで」
**流動性(出来高)**が低い銘柄で大口売買すると、注文が市場価格を動かしてしまう。
スリッページ:発注価格と約定価格の差。成行で一気に売ると、約定が悪くなることがある。
手数料:ネット証券は安いが、ETFの売買手数料や為替コスト(海外ETF)も考慮。
森本:「じゃあ、リバランスのときに“まとまった金額を投じる銘柄”は、流動性の高いETFとかにした方がいいんだね」
カレン:「その通り。一般的に大型のETF(経費率が低い)を使う。あと、ドルコストの考えで分割して実行するのも手よ」
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4. リスク管理の応用:ポジションサイズと分散
「ここで重要なのがポジションサイズ。『一銘柄に人生をかけない』ことが肝要よ」
1銘柄に総資産の10%以上は危険(リスク耐性で変動)
分散:地域、セクター、資産クラス(株式・債券・不動産・コモディティ)でリスクを分散
相関:同じ動きをしやすい資産ばかり持っても分散にならない(例:世界の株式ETFと米国株ETFを両方多めに持ちすぎると意味が薄い)
カレン:「“分散”ってのは“持ってれば安心”じゃない。**持ち方(比率)**が重要なの」
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5. ドローダウン計画とストレステスト
「投資では“最大ドローダウン(過去最大下落率)”がメンタルを試す。だからシミュレーションをしておくの」
例:過去のリーマンショックでは株式が−50%近く下げた
自分のポートフォリオで同じ下落が来たら、資産・収支・生活にどう影響するか?
ストレステスト:年金や給与に頼れない場合、何年耐えられるかを試算する
森本:「あの時、俺はレバレッジで吹っ飛びそうになった……もしも本当に−50%来てたら死んでたかも」
カレン:「だから“レバレッジ商品=短期専用”は忘れないで。長期投資は“持ちこたえる余力”が命よ」
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6. メンタル管理――“誘惑”へのルールメイキング
話は人の心へ。
「テクニカルや数式は学べる。でも誘惑は法則化しておくしかない」
カレンが提案する具体策:
A. 自動化(最強)
自動積立設定(証券会社の自動購入)→ 感情に左右されず継続
B. ルール表を作る(コミットメント)
「一銘柄に投資する上限○%」
「暴落時でも売らない基準(例:含み損−30%までは放置)」
「リバランス閾値±5%」など明文化して冷静に
C. クールダウン期間(冷却装置)
SNSや速報で衝動売買したくなったら、24時間ルールを実装(即決を禁止)
D. 損失日記(学習ツール)
買った理由・売った理由・結果を記録 → 感情傾向を見える化
E. バディ制度(外部コミット)
カレンのような“相手”にルールのチェックをしてもらう。第三者の目は強力
森本:「俺、『24時間ルール』いいな……昨日の俺、30分で全資産移動しそうだったもん」
カレン:「それ、銀行に通報される前に止めればいいのよ」
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7. 実戦:森本のリバランス小事件(漫画みたいな実例)
ある日、株式が上がりすぎて株比率が70%を超えた。カレンは提案する。
「年内は手数料が安いから、分割売却で対応しましょう。3分割で50,400円ずつ売って債券に入れる」
森本は躊躇した。スクショの“爆益”が頭から離れない。
「売った瞬間にまだ上がる気がするんだよなあ……」
カレンは無言でスマホのタイマーをセットした(1分)。
「区切りなさい」とだけ言って。
1分後、森本は深呼吸して最初の売却を実行。売却後、株はその夜急落した。数日後反発したが、トータルではリスクが下がり、安定した。
森本:「あの1分が俺の命を救ったかも……!」
カレン:「あなたの1分、いつもは“何も生まない無駄な時間”でしょ。今日は有効活用したわね」
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8. 罠と注意点:過剰分散・過剰自信・バックテストの罠
過剰分散:あれもこれも持ちすぎると期待リターンが下がり、管理も煩雑に
過剰自信:一度勝てると“自分は天才”モードになりリスク管理を忘れやすい
バックテストの罠:過去のデータを都合よく選んで最適化すると未来で通用しない(過去は教科書、未来は試験)
カレン:「投資は科学と芸術のハーフね。理論を鵜呑みにせず、自分の生活と折り合わせるのがポイント」
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9. 最後に:具体的な“チェックリスト”を作ろう(実行のために)
カレンはタブレットに投資ルールチェックリストを書き出す。森本に渡す。
森本の投資チェックリスト(例)
1. 自動積立:オン(毎月5,000円)
2. 生活防衛資金:6ヶ月分(OK/NG)
3. 総資産に対する単一銘柄上限:10%
4. リバランス方式:閾値±5% or 年1回(選択)=【閾値5%】
5. クールダウン:衝動売買は24時間保留
6. 取引前に“流動性と手数料”を確認する(チェック)
7. 半年ごとにポートフォリオのストレステスト実施
森本、嬉しそうにチェックボックスにマークを付ける。
「これ、全部守ったら俺、投資の達人っぽく見えるかな?」
カレン:「“見える”だけじゃダメよ。続けて“できる”人になりなさい」
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エピローグ:街灯の下で
帰り道、街灯がチャートのキャンドルのように灯っていた。森本はスマホをしまい、深呼吸した。
「今日からは、1分で決めずに、24時間ルール。自動で積立。リバランス。チェックリスト。やってみるよ」
カレンは後ろから、小さく笑う。
「投資はマラソン。たまにダッシュするのは構わないけど、ゴールを見失わないようにね」
森本は空を見上げた。雲が切れて、月が顔を出す。
「お、月がリバランスしてるみたいだな」
「……それ、ちょっとロマンチックすぎない?」
二人は笑った。街の雑音が、いつの間にか遠いBGMに変わっていた。
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今日の格言(短く、実行的に)
> 「ルールは感情の保護具。守れば安心、破れば後悔。」
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